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18話 道化の人形遣い

 住宅街の一角に建つとあるマンションの屋上。

 金髪で左耳にはピアスとイヤーカフ。見るからに不良の少女がいた。

 少女は望遠鏡型の魔導具で近づいてくる真央と泉水を見て、他人事のように感嘆を漏らす。


「あはは。へ~やるじゃん。屋根を跳んでくるなんて忍者みたいだな」


 少女の隣には肥満体のピエロの魔物。手からは無数の赤い糸が伸びている。

 その赤い糸を時に動かしながら呑気な少女につっこみを入れた。


「笑いごとじゃないヨ。このままだと居場所がバレちゃうジャン!」

「別にいいだろ……まだ時間はある。逃げちまえば問題ないっしょ」


 望遠鏡から顔を離して答えると、魔物は聞き返す。


「じゃあ『糸』は切っちゃうノ? 糸が無いと操れないケド……」

「分かってねーなぁ、パペットマスター! 糸は繋いだままでいいんだよ!」


 少女と契約する魔物、パペットマスターは首を傾げた。


「おびき寄せるんだよ。獲物を狩る側はあいつらじゃねぇ。常に私たちだ」


 パペットマスターは少女を抱えて、くひっ、と品のない笑みをこぼす。

 ――まったく気持ち悪い魔物だな。相棒ながら少女は常々そう思っていた。


「いいネ、ソレ。雷花(らいか)ちゃんのそういうトコが好きだヨ!」

「分かったからとっとと移動するぞ。早くしろ太っちょ」


 肘でつついて急かすとパペットマスターは屋上から飛び降りた。

 肥満体らしからぬ風船のような軽やかさで地面へと落ちていく。

 一方、家の屋根から屋根へ移動して糸を追いかける真央たちは敵の本体が移動していることに気づいていた。


「……おかしいですね。本体の魔物と接触する気配がない」

「敵も移動しているんだろう。おそらく有利な場所で待ち構えるつもりだ」


 真央とペイルライダーの会話から、泉水は敵の有利な場所を考えてみた。

 敵は人間を操る能力がある。何人操れるか知らないが、手駒は多いほどいい。

 できるだけ人が集まる場所。そんなところが理想的だ。


「……このままだと繁華街に着きます。こちらはより不利になりますね」


 もう一人では対処しきれないかもしれない。

 真央はスマートフォンを取り出すと電話を掛ける。

 相手は遠野だ。交代の時間には早いが彼にも連絡しておいた方がいい。


「もしもし、遠野さんですか? 今、厄介な魔物と戦っていまして……!」

「なんだい真央ちゃん。交代にはまだ早いぜ。もうちょっと寝かせてくれよぉ~」


 気の抜けた能天気な声が泉水にも聞こえた。

 真央は黒須家へ行ったこと、その最中に人間を操る魔物に襲われたことを話す。


「そいつぁ……大変じゃねーか。ダッシュで駆けつけるから待っててくれ!」


 繁華街を目前に真央たちは立ち止まった。

 しかし敵が待ってくれない。繁華街から凶器を手にした人間たちがうようよと現れたのだ。全員、身体に赤い糸をくっつけている。軽く五十人はいるだろう。


「真央さん、さっきと同じ移動方法で逃げよう!」

「そうですね。ペイルライダー、お願いします……!」


 ペイルライダーは地面を蹴って高く跳躍すると雑居ビルの屋上へと着地する。

 すると屋上に繋がる扉が開け放たれて、操られた大量の人間が殺到した。

 ビルの中にいた人たちだろう。赤い糸に操られるがまま大挙して攻めてくる。


「うわぁぁぁぁ!!!?」


 泉水がパニックを起こして叫ぶ。すでにこの繁華街すべてが敵。

 ペイルライダーは二人を抱えて包囲される前に他のビルへと跳躍して移動する。

 そうしてビルからビルへと飛び移りながら繁華街を見渡す。


「……糸の『先』が分かった。本体の魔物はあそこにいる」


 ペイルライダーが指を差した方角のビルに、赤い糸が集約している。

 姿を隠さないのはよほどの馬鹿なのか誘いなのか。おそらく後者だろう。

 真央は敵の策に乗ったうえで勝つしかない。


「……敵も自信があるようですね。ここで決着をつけましょう」


 本当なら敵は位置がバレても、糸を一度切り離して姿を隠せばいいだけなのだ。

 長期的に奇襲と撤退を繰り返すという単純な戦法を使われるだけで、こちらは勝手に消耗していくだろう。それを実行されたらまず人里にはいられなくなる。


「遠野さんを待つ時間はない……やるしかないんだ」

「ええ。ここで逃がして奇襲を繰り返される方が面倒です」

「……こういうタイプの魔物は戦闘能力が低い。勝算がないわけではない」


 泉水の不安を落ち着かせるようにペイルライダーが経験から分析する。

 誘いに乗らず遠野を待つ選択もある。ただそれだと敵が逃げるかもしれない。

 無関係な人間を巻き込む遠隔操作の能力。周囲の被害も考慮すれば今ここで倒しておきたい。


「……では行きましょう。泉水くんも心の準備をしておいてください」

「う、うん……! たぶん大丈夫……だと思う」


 パニックから落ち着きを取り戻した泉水は、何度も深呼吸をした。

 真央たちはペイルライダーに抱えられて糸が集約するビルの屋上へ。

 日が傾きつつあるビルで待っていたのは一人の少女と肥満体の魔物だった。

 当然ながら、赤い糸に操られた人間たちも待ち構えている。


「やぁやぁやぁ。私たちの人形劇は楽しんでくれたかな? 泉水くんだっけ? すっごいビビッてたねぇ。いやぁナイスリアクション!」


 ペイルライダーは二人を降ろすと臨戦態勢に入った。

 数は多いがしょせん人間だ。そう魔力も消耗しないだろう。

 むしろ、殺さないよう加減するほうが面倒だ。


「魔物だけじゃない……? しかも僕たちの行動もお見通しなんて……!」

「あぁ、やっぱそこ気にする? ただの魔物が相手だと思ってたんだ」


 まだあどけなさの残った少女は、望遠鏡のような道具を片手に笑っていた。

 年下だが見るからに不良で、泉水の苦手なタイプだ。カツアゲされたらたぶん黙って財布を渡す。


「こいつはパペットマスター。私と契約してる魔物だよ」

「よろしくネ。おっと……それともさよならの方がいいのカナ?」

「その望遠鏡みたいなので僕たちのことを把握してたのか……!?」


 少女は望遠鏡で何かを覗く仕草をして、笑いながら答える。


「あったり~。遠見の水晶の簡易版みたいなもんだよ。映像オンリーだけど好きな場所を覗けるんだよね」


 少女がそこまで解説したところで、泉水は真央の異変に気づいた。

 怒りで身体を震わせている。構えた魔銃は狙いを正確に定められていない。

 明らかに冷静さを欠いていた。


「なぜ……あなたがここにいるんです……雷花……!」


 真央はやっとのことで言葉を吐き出した。

 目の前の雷花という名の少女は白けた様子で答える。


「なんでって……そりゃ私が封印を解こうとしてるからだよ。姉貴」


 明かされた衝撃の事実に泉水は混乱を覚えた。

 封印を解こうとしているのは黒須零士だけではなかったのだ。

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