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15話 行方不明

 ミノタウロスとマナナンガルに襲われてから翌日の朝。

 泉水はいつものように通学路を歩いていた。


「よっ、泉水くん。よく眠れたかい?」


 その途中で遠野が待ち受けていた。隣には真央もいる。

 サングラスを掛けているのでわかりにくいが、疲れているように見える。


「おはようございます……遠野さん、大丈夫ですか?」

「ああ。眠ってるときに襲われるかもしれないからな。一応見張ってた」


 昨日の派手な戦いの後もずっと見守ってくれていたらしい。

 疲れが溜まるのも当然と言えるだろう。


「流石に昼間は寝かせてもらうよ。その間の護衛は真央ちゃんに任せる」

「分かりました。可能な限り首謀者の調査も進めておきます」

「気が利くねぇ、まー無理はしないでくれ」


 遠野はあくびをしながら去っていった。取り残された真央と学校へ向かう。

 真央はいつも無表情で大人しい。だが護衛だからなのか学校にいる間もべったり一緒だ。


「真央さん、そんな……ずっと一緒じゃなくても……」

「いえ。仕事ですから。昼間とはいえ何があるか分かりません」


 常に一歩後ろをついてくる真央を見て、理藤には女子に人気があるんだなだと冷やかされた。

 無表情だがとてつもない熱意だ。なにか理由があるのだろうか。

 昼休みになると当然のように弁当持参で泉水の隣に座る。


「そういえば真央さん、あの……犯人の退魔師はどう探すつもりなの?」


 あの日、綾瀬に怪我を負わせた黒ずくめの少年は顔を隠していた。

 おそらく同年代であるということ以外何も分からない。


「容疑者はもういます。未成年の退魔師は少ないですから」


 そんなことを理藤も言っていたような気がする。

 未成年の退魔師というだけで大分数が絞れるようだ。


「……行方不明のようですが、私たちは黒須という人物を疑っています」

「黒須って……ずっと学校を欠席してるっていうあの一組の……?」

「ええ。冥道さんも、遠野さんも、その可能性が高いと考えています」


 かつて理藤が語った話では、魔物退治に失敗して死んだといううわさだった。

 だが契約している魔物から照らし合わせれば、そう推理する他ないのだという。


 供給できる魔力量の関係で、退魔師は基本的に一体の魔物としか契約できない。

 大鳳市にいる未成年の退魔師でアークトロールと契約している者は存在しない。

 可能性があるのは現在何の魔物と契約しているか分からない、行方不明の黒須だけ。


「真央さん凄い。証拠がないだけでもう特定したようなものだよ……!」

「……いえ。私ではありません。これは綾瀬さんの推理です」


 真央の表情が途端に暗くなった。


「……私はいつもそうです。綾瀬さんの後塵を拝してばかり」


 ぎゅっと箸を握る力が強くなる。

 泉水は図らずも地雷を踏み抜いてしまったのだ。


「神薙家を再興させなければいけないのに……! なぜ……私はこうも……!」

「ま、真央さん落ち着いて……」


 噴火寸前の火山みたいに感情が昂っていく。

 すると急にふっと脱力して、真央はいつもの無表情に戻った。


「……放課後に黒須家へいきませんか? 何か手がかりがあるかもしれません」

「うん……もちろんいいよ。でも突然お邪魔して大丈夫かな……」

「没落した我が神薙家と違って名門ですからね。あしらわれる可能性はあります」


 なんだか自虐的なのが気になる。

 これ以上真央の地雷を踏まないよう泉水は話題を変えることにした。


「そ、そういえば真央さんは独学で退魔師になったんだよね! どうやって魔力を練れるようになったの?」

「魔力ですか。私は家にあった魔導書を参考に特訓を重ねて習得しました」


 そもそも魔力とは、魔物の生命活動や能力の発動に必要なエネルギーのことだ。

 本来人間の世界には存在しない力なので、特殊な修行を経て後天的に魔力を練れるようになる。

 ただ、中には生まれつき魔力を練れる人間も稀にいるらしい。


「私の場合は座禅に近かったです。人間が魔力を練れるのは、多くの魔力を欲した魔物が方法を伝授したのが始まりなんだそうですよ」

「そうなんだ……僕じゃあ座禅を組んでも覚えられる気がしないなぁ……」


 そんな簡単に覚えられるものでないのは分かっている。

 話題を変えたかっただけだが、真央は食べ終えた弁当を片付けてこう言った。


「他にも方法はありますよ。魔力を送り込むと感覚が掴みやすいと聞きますね」


 真央はすっと泉水の手を両手で握って、魔力を送り込んだ。

 手から何か塊のようなものが巡ってきて下腹部に貯まる感じがする。


「……なんだか今、塊みたいなのが手から流れてきたような……」

「いいですね。魔力を感じ取れている証拠です。泉水くんは適性がありますね」


 泉水はそこで手を握っているのが急に気恥ずかしくなって、慌てて離した。

 何をそんなに焦っているのか分からなくて、真央はきょとんとしている。

 食べ終わった弁当を片付けてさっきの出来事を誤魔化す。


「泉水くんなら特訓を重ねれば魔力を練れるようになると思いますよ」

「そ、そうなんだ。それは嬉しいな。あはは……」


 異性との距離感が分かってないのか、真央は構わず話を続けた。


「下腹部に魔力が貯まる感覚は? あればなおグッドです」

「うん……そんな感じもしたけれど」

「いいですね。興味があれば続けましょうか、魔力を練る特訓」

「そうだな……じゃあやってみようかな……」


 そこでちょうどチャイムが鳴り、昼休みは終わりを告げたのだった。

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