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14話 大いなる翼

 魔法陣から姿を現したのは、真紅の身体と翼を備えた人間型の魔物だ。

 顔は鳥のようでくちばしがついている。

 遠野の魔物はハイキックを繰り出してマナナンガルの蹴りを止めた。


「あらぁ……? あらあら……」


 後退してローキックを放てば、遠野の魔物も応えるように蹴りで防ぐ。

 面白いとマナナンガルは思った。両者とも戦い方が似ているのだ。


「あなた……お名前は? 人間に味方するなら名前はあるんでしょう?」


 マナナンガルは蹴りを放ちながら問いかけるが、相手は答えない。

 無言で蹴り返すだけだ。激しい蹴りの応酬が続く。


「そいつの名前はガルーダだ。寡黙な奴でね、話しかけても無駄だぜ」

「ちっ……うざいですわね、あなたには聞いてませんのよ!」


 マナナンガルが飛べばガルーダもまた翼を羽ばたかせて飛ぶ。

 蹴りを用いた熾烈な空中戦を繰り広げ、両者は一歩も譲らない。


「おーっほっほっほ! 面白い、面白いですわ! これほど燃え上がるのはいつぶりかしら!」


 真央は援護射撃のため構えようとしたが、ザミエルが告げる。


「今は無理だぜ真央。ガルーダに当たっちまうかもしれねー」


 空中で繰り広げられる高速戦闘に対応できないと、そう言うのだ。

 真央はトリガーから指を離して諦めた。ザミエルが笑いながらこうも話す。


「いやー、もっと魔力をくれたら大丈夫かもしれねぇなぁ」

「……その手には乗りませんよ、ザミエル」


 契約した魔物の中には必要以上の魔力を求めるタイプがいる。

 ザミエルは隙あらばそういうことをする油断ならない奴だった。

 無用に消耗して魔力切れになるのは避けたい。


「ガルーダと言いましたか。なかなかやりますわね……!」


 夕日が沈み夜を迎えようとしていた。

 マナナンガルとガルーダ、二人には決定的な違いがある。

 それは魔力を供給してくれる退魔師の有無だ。

 消耗する一方のマナナンガルに対してガルーダには持久力がある。


「くっ……このっ……!!」


 舌打ちをしながら空中戦が未だ続く。そして戦いの均衡は崩れた。 

 疲労で一瞬の隙を見せたマナナンガルに真央が容赦なく発砲する。

 魔力の弾丸がまっすぐに襲い掛かった。


「ちぃぃっ!!」


 硬質な足で弾丸を弾き返すが、ガルーダの攻撃を防御する暇がない。

 脇腹に強烈な回し蹴りを叩き込まれ、紙屑みたいに吹き飛んで道路へ墜落する。


「ナイスアシストだ、真央ちゃん!」

「いえ。あまりに隙だらけだったので……」


 ハイタッチでもしそうな勢いで遠野は真央に駆け寄った。

 真央は魔銃を構えたままマナナンガルを注視する。


「ああああああ!!!! いてぇ……! いてぇですわ……!!」


 絶叫を上げながら飛び上がり、どこかへ逃げ去っていく。

 遠野は慌ててガルーダに追跡を命じた。このまま逃がすのはまずい。


「しまった、あいつ……もしかしたら魔力を補給するかもしれねぇ!」

「そうですね。急いで追いかけましょう……!」

「ど、どういうことですか……!?」


 敵を追跡するガルーダを、更に走って追いかける遠野と真央。

 泉水は疑問符を浮かべたまま二人の後をついていく。


「魔物の中には人を食べることで魔力を補給できるタイプがいるんだよ……!」

「もしかしたら他の一般人が犠牲になるかもしれません……!」


 マナナンガルはすぐ見つかった。

 横転した自動車の隣で運転手らしき男性の血を啜っている。


「はぁ……足りない、まだ足りない……!」


 恍惚の表情で首筋に噛みついて血を貪りつくそうとしている。

 マナナンガルには吸った血を魔力に変換できる能力があるのだ。

 みるみる傷が癒えていく。最後の一滴が尽きるその時まで止まらないだろう。


「ガルーダぁぁぁぁ!! 『あれ』を使うぞ!」


 瞬間、遠野の身体から青白い光――大量の魔力が放出された。

 それは飛翔するガルーダの片足に集まっていく。


「……その人を離してくださいっ!」


 真央は魔銃を連射するが、ひょいと逆立ちした瞬間に弾丸を蹴り飛ばされる。

 空を飛んで半回転しつつ姿勢を元に戻すと、吐き捨てるようにこう言った。


「あぁ? たぶん死んでませんわよ。あなたが邪魔したおかげでね」


 全速力で向かってくるガルーダを見て口から血を垂らしながら不気味に笑った。

 もう少し魔力を補給したかったが十分回復した。先ほどの決着をつけるのも悪くない。


「いいですわぁ、これで終わりにしましょう! 勝つのは私でしょうけどねぇ!!」


 得意のハイキックを繰り出すと、ガルーダもハイキックで応じた。

 マナナンガルは痛みを覚えたかと思うと、自分の足が妙な方向へ曲がっているのに気づいた。


「あれ?」


 ガルーダは畳み掛けるように腹部へと蹴りを放つ。

 魔力を集中させて強化した攻撃は通常の何倍もの威力を秘めている。

 蹴り落されたマナナンガルは気づいたら陥没した道路の中で空を見上げていた。

 あまりの威力に上半身と下半身は寸断されている。身体がどんどん光の粒となって消滅していく。


「え……? 負けたんですの……私……?」


 ガルーダは何も言わずに敵の最期を見届けた。

 勝利の高揚もなければ敵への憐憫もない。無感情のままで。


「ああ、俺たちの勝ちだよ。お前は案外強かった……達者でな」


 到着した遠野は完全に消滅したマナナンガルを見てそう呟いた。

 真央が血を吸われた人の容態を確認する。幸運なことにまだ息がある。

 あまりに派手な立ち回りだったので、気づけば周囲は大騒ぎになっていた。

 救急車のサイレンがどこからともなく聞こえてくる。


「暴れすぎたな……めちゃくちゃじゃないか?」

「そうですね……反省するとしましょう」


 召喚を解除して遠野は頭を掻いた。真央が表情筋を動かすことなく返答する。

 魔物退治は静かに目立たずが基本だ。冥道にばれたら基本もなってないのかと叱られるだろう。主に遠野が。


「どうした……泉水?」


 ざわざわと集まる群衆を眺めながら泉水は遠い目をしていた。

 ペイルライダーが脳内で問いかけたが、返事もできないほど放心している。

 守られる身としては、今日のような一日が続かないことを祈るばかりだ。

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