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11話 魔呼びの術

 もしかしたら迷惑かもしれないが、封印の鍵として守られるだけなんて嫌だ。

 見ているだけじゃなくて自分も何かしたい。泉水は心からそう思っていた。


「気持ちは分かるよ、泉水くん。でもそれは難しいんだ」

「戦いは命懸けになります。私と遠野さんにお任せください」


 遠野も真央も優しく泉水を諫める。それには理由がある。

 どうあがいても素人では戦いの役に立てないのだ。


「……なぜですか? たしかに僕は臆病かもしれないですけれど……」

「いや……そういう問題じゃないんだ」


 遠野が泉水に説明をはじめる。


「退魔師は魔物を使役して戦う。そして対価に魔力を支払うのが決まりだ」

「それは……なんとなくですが知っています」

「そして、魔力を練れるようになるまで数年以上の特殊な修行が要るんだ」


 魔力。綾瀬も時折口にしていた言葉。

 召喚した魔物を戦わせるのに必要なエネルギーだと泉水は理解している。

 だが魔力を練るのに修行が必要で年単位もかかるのは知らなかった。


「先天的に魔力を練れる人もいますが、泉水くんは違います。魔物の召喚にも、魔導具にも魔力は必要なんです」


 遠野の説明を真央が補足する。

 残念だが彼女の言う通り、泉水にそんな力はない。


「そういうことなんだ。泉水くん、君の気持ちだけは受け取っておくぜ」

「……そうだったんですか……すみません。何も知りませんでした……」


 つまり魔力が練れない以上は何の役にも立てないということだ。

 なら金属バットでも持って生身で魔物に立ち向かうのか。さすがに馬鹿げてる。

 魔力を練れない以上邪魔なだけだ。無知な自分が恥ずかしくなった。


「……そのことと関係があるんだけどね。さつきから頼まれてるんだ」


 話の流れを変えたのは冥道だった。


「泉水くんに『自分の魔物を託す』と。そう言われているんだよ」


 遠野と真央が怪訝な顔をする。魔力を練れない人間に契約している魔物を託す。

 そんなケースは退魔師として戦う二人もはじめて聞いたことだ。


「それはつまり……魔力のない人間と契約するってことですか?」


 遠野は自分の解釈に誤りがないか確認した。冥道は肯定する。


「そういうことになるね。さつきとペイルライダー、二人の決断だよ」

「そりゃまぁ……契約は魔物側の合意も必要ですから、そうでしょうけど」

「遠野、契約を手伝ってあげなさい。泉水くんにも自衛の手段が必要だよ」


 思わぬ展開に遠野は頭を掻いたものの、断る理由もないので了承した。

 かご盛りのフルーツをベッド横に置いて部屋のドアノブに手をかける。


「師匠、空き部屋借りますよ。ついてきな、泉水くん。契約の準備を始めるぜ」


 泉水と真央は空き部屋で待たされた。遠野が次々と物を運んでくる。

 白地のシート、ペンキらしきものが入った塗料缶、ハケ、分厚い本をどっさり。


「遠野さん、どこからこんなもの持ってきたんですか?」


 遠野の手際が良すぎる姿に疑問を覚えたのか、真央が聞いた。


「勝手知ったる他人の家さ。弟子時代にはここで修行を受けたこともあるんだ」

「そうなんですか……私は独学で退魔師になったのでそういう経験が無くて」


 遠野はいつの間にかツナギに着替えていた。サングラスも外している。

 契約準備に必要な品物は揃った。


「契約の準備は単純だ。魔力を伝導する専用塗料で魔法陣を作って、そいつに魔力を流す。真央ちゃんも経験あるだろ?」

「そうですね。今回は直接、綾瀬さんの魔物を呼んで契約するわけですね」

「ああ。魔力を流して魔法陣を起動できたら契約交渉スタートってわけだな」


 そんなわけで床に白地のシートを敷いてその上に魔法陣を作成していく。

 遠野は慣れた手つきで見たことのない奇妙な紋様を描いていった。


「魔法陣は魔導語で書く必要がある。間違えたら起動しない。魔導書でチェックしながら作成していくのが基本だ」


 そうして魔法陣の作成が完了した。ハケを置いて遠野がふぅ、と一息つく。

 血のように真っ赤な塗料で描かれた魔法陣は怪しげな儀式そのものだった。


「遠野さん、準備するのが早いですね。魔法陣の作成は面倒なのに……」

「苦い思い出だよ。契約の折り合いがつかなくて色々な魔物と交渉したおかげだ……」


 泉水にはなんだか古傷を抉ったように見えたが、気のせいだろうか。

 そうして作成した魔法陣の真ん中に泉水と遠野が立った。


「契約に入る前に注意事項がある。魔物ってのはおおよそ猟奇的で狡猾で我儘だ。もっと魔力よこせとか、魔力以外にも対価を求めたりする」

「今回の契約では私と遠野さんがサポートします。ご安心ください」


 泉水は自分が臆病だと知っている。

 威圧的な態度で迫られたら不利な条件でも契約してしまいそうだと思った。

 もっとも綾瀬のペイルライダーはそういう性格に見えなかったが。


「あの……そもそも、なぜ魔物は対価に魔力を要求するんですか?」

「魔物にとっては飯や酸素みたいなものだ。多いほど強くなるし満たされる」

「退魔師との契約に乗り気なのは『もっと魔力が欲しい』と思っている魔物です。基本的には、ですが」


 遠野と真央の返答で、泉水はさっき二人が怪訝な顔をした理由が分かった。

 たしかに魔力なしで契約してくれるペイルライダーは不自然だ。

 何かメリットがあるのだろうか。それとも別の理由があるのだろうか。


「そして契約が完了したら、魔物を召喚する『魔呼びの術』が使えるようになる」


 綾瀬や黒ずくめの少年が使っていた魔物を呼びだす召喚術。

 それを使えるようになるには、これだけの手順を踏む必要があるのだ。


「さて……それじゃあ魔法陣を起動するぜ……!」


 遠野は魔法陣に手を添えると魔力を流し込む。

 すると魔力に反応して真っ赤だった塗料が青白く光った。

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