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10話 新たな味方

 病院に運びこまれた綾瀬はベッドの上で眠ったままだ。

 骨折した右腕には包帯が巻かれている。酷いのは肋骨で四本も折れているそうだ。命に別状はないものの、しばらく入院した方がいいと医者は言っていた。


「治癒石という魔導具があればすぐ治せるのだけどね。今は手元にないから取り寄せる必要がある。さつきはしばらく戦えないだろう」


 泉水を狙う謎の人物は、冥道との戦いを恐れて撤退した。だがいつまた襲ってくるか分からない。

 ウコバクが近所に出現したことを考慮すれば住所もほぼ特定されている。

 誰も守ってくれない状況下で泉水は漠然と不安を感じた。


「今日は家に帰りなさい。何かあれば私が空間転移ですぐ駆けつけるよ」

「わかりました……昼はともかく夜は出歩かない方がいいですよね」

「夜は魔物が活発になる、それがいい。君を守る退魔師もすぐ派遣しよう」


 不安を見抜かれたのか冥道は優しい声でそう話す。

 現状に対して泉水はどこまでも無力で、受け身になり続けるしかない。それが嫌で堪らなかった。


「すみません……ありがとうございます」

「礼には及ばないよ、こんなことしかできないからね。では移動しよう」


 青白い魔法陣が浮かびドレスを纏った魔物が現れる。

 そして景色が一瞬で変わる。気がついたら自宅であるマンションの前にいた。

 味わうのは二度目になるが不思議な感覚だ。なんというか浮遊感が伴う。


「泉水くん、心を強く持つんだよ。どんな暗い夜もいつかは明けるものだからね」


 そう言い残すと、冥道は空間転移でその場を去った。




 ◆




 綾瀬が戦いの怪我で学校を休んでから数日が経った。

 クラスのみんなはその違和感をすぐに受け入れて日常で押し流していく。

 退魔師という職業柄、そういうこともあるのだろう、大変だね、なんて言いながら。


 その数日間は魔物と一切縁のない状態だった。

 まるで台風の目に入ってしまったかのように魔物の襲撃はピタッと止んでいる。

 そんなある日、泉水のクラスに転校生がやってきた。


黒橡(くろつるばみ)女学院から転校してきました。神薙(かんなぎ)真央(まお)です。よろしくお願いします」


 透明感のある声だった。見るからに大人しい女の子。

 だが青と緑のオッドアイは全てを射抜くように鋭い冷たさを秘めている。

 放課後になって部活動の時間になると、教室を出る前に真央に呼び止められた。


「泉水くん、お時間よろしいですか。話したいことがあります」


 いったい何の用事があるのだろうか。

 人気のない校舎まで移動すると真央は話を切り出した。


「私は冥道さんに頼まれて派遣された退魔師です。一応、ご挨拶をと思いまして」

「神薙さんが……そうだったんだ。綾瀬さんの代わりに」

「真央でいいですよ。この事件を担当する退魔師がもう一人います。紹介します」


 学校の裏門まで行くと、外に黒塗りの車が停まっているのが見えた。

 開いていたのでそのまま学校の外へ出ると、車から一人の青年が降りてくる。

 黒スーツに真っ黒なサングラスをかけていて、毬栗みたいなつんつん頭をしたいかにも怪しい人物。

 泉水は本能的に不審者だと思って警戒する。


「待ってたよ真央ちゃん。そっちの彼が泉水くんかい? 俺は退魔師の遠野だ、よろしく!」


 遠野と名乗った青年は見た目とは裏腹に気さくな人物のようだった。

 手を差し出してきたので、泉水も応じると固い握手を交わす。

 自己紹介が終わって真央は遠野に質問した。


「遠野さん、待っていたというのは? 何か異変でも起きたのですか」

「ああ……悪い知らせだ、師匠が疲労で倒れちまった。静まってた魔物どもが動き出すぜ……!」

「冥道さんが……ですか」


 真央は驚きこそしたが表情筋は動かなかった。

 すでに年齢を理由に引退した人だ。無理が祟ったのだろう。

 ともあれ一大事には違いない。遠野がくいっと黒塗りの車を指差す。


「二人とも車に乗ってくれ。今から師匠のところまで行こう」


 今日の部活はサボりだ。真央と泉水は遠野の車の後部座席に座る。

 車で冥道邸に到着すると遠野はかご盛りのフルーツを片手に家へ入る。

 寝室で休んでいた冥道は閉じていた瞼をうっすら開け、眉を寄せた。


「遠野、やはり君は不肖の弟子だ。お見舞いに果物なんて月並みすぎるとは思わなかったのかね」

「いきなり手厳しいですね。別にいいじゃないですかこれで……」

「私は心の底から落胆した……実に残念だ。またイチから修行をつけてあげようかと思ったほどだよ」


 お見舞いの品が果物であることを冥道は不服そうにしている。

 泉水は冥道が期待したのはエクレールのケーキではないだろうかと推測する。

 まだ何か言おうとしていたようだが、遠野は降参のポーズをとった。


「勘弁してくださいよ。師匠の修行は厳しいですからね」

「……今回は見逃そう。しかし……この歳で魔物なんて召喚するものじゃないね。時間差で疲労がきた。しばらくは遠見の水晶で監視するのも難しいよ」


 遠見の水晶とは何だろうか、と泉水は疑問符を浮かべる。

 綾瀬も魔導具という不思議な道具を使っていたが、それと同じなのだろうか。


「泉水くん、遠見の水晶ってのは魔導具のことだ。感じたことないか? この人何でも知ってるなーみたいな」

「それは……あります。はじめて会った時も僕の名前を知っていて驚きました」

「遠見の水晶は監視カメラみたいなもので、好きな場所を覗けるんだ」


 遠野が語ったのはいわば種明かしだった。冥道の何でも知っている態度の正体。

 遠見の水晶を用いて大鳳市全体を監視していたから、全てお見通しだったのだ。

 この魔物が現れなかった数日間も、泉水の周囲に魔物が現れていないか見守ってくれていたのだろう。


「というわけで私は泉水くんを守れない。真央、遠野。君達が後任だ。頼んだよ」

「了解です。さつきちゃんの敵討ちだ、俺がとっちめてやりますよ」

「神薙家の名にかけて、必ず守り抜きます」


 意気込む真央と遠野を前にして泉水も決心を固めた。

 自分が臆病なだけの一般人だというのは理解している。

 それでも、もう見ているだけなのは嫌だった。


「僕にも……何かできることはありませんか? 何か手伝えることは……?」


 三人の視線が一気に集まるのを泉水は感じた。

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