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1話 プロローグ

 満月が煌々と夜の街を照らす。

 真夜中でありながら未だ明るい街の表通りを綾瀬は歩いていた。

 路地裏の前で立ち止まると、学生鞄から銀の鎖に繋がれた振り子を取り出す。

 綾瀬はここ数日、魔物の調査をしていた。最近この大鳳(おおとり)市を賑わせている人食い事件。その犯人である魔物の行方を追っている。


「……見つかりそうか?」


 脳に直接声が響く。

 垂らした振り子が揺れ始めて円を描き、やがてその先端は路地裏を指す。

 綾瀬は示された方向に従って暗闇が支配する路地裏へ進んでいく。


「振り子が反応してる。こっちみたいね」


 自分だけに聴こえる声に呟き返して、鞄から新たに四枚ほど札を取り出す。

 札は真っ白な薄い紙で出来ていて、奇妙な紋様が描かれていた。

 人食い事件は決まって満月の夜に発生する。人目のつかない路地裏や高架下などで、はらわたを食いちぎられた死体が発見されることからそう呼ばれている。


 路地裏を進むうち、振り子の反応が強くなる。

 ぴん、と鎖が張って袋小路を指すと、その先に二人の男女を見つけた。

 女性は仰向けに倒れている。怪我はないが気を失っているようだ。一方の男性は倒れている女性を覆うように、手足を地面につけてこちらを見ていた。その姿はまるで獣だった。


「当たりのようだな。その男だ」


 脳に響く声が、目の前の男こそ人食い事件の犯人だと言った。

 男は綾瀬を睨むと低い声で唸る。


「お前……退魔師か。女の退魔師だ」

「その人を離して。ここはあなたの来るところじゃないよ」


 綾瀬の言葉を無視して、男は四足歩行で近寄った。

 ざわざわと男の全身から体毛が伸びていく。

 顔の形も、身体の形も、徐々に狼のように変わっていく。


「満月の夜は腹が減る。ここはもう俺の縄張りだ……邪魔するなら食い殺す」


 男がその正体を現した。男は人間に化けて人を食う狼の魔物、ライカンスロープだったのだ。

 ライカンスロープは低い唸り声を上げて綾瀬へと襲いかかる。

 綾瀬は四枚の札を投げつけた。札は宙を飛んで両側の建物の壁に貼りつく。

 貼られた札を線で結ぶと、ちょうど長方形になるように。


「がうぅぅっ!!?」


 貼られた四枚の札は見えない壁を形成して、ライカンスロープの道を塞いだ。

 その壁にライカンスロープは勢いよく激突して弾き返されてしまう。


「結界か……小癪な真似を……!」


 ライカンスロープは忌々しそうに言葉を吐き捨てる。

 そして鋭い爪で見えない壁を壊そうと腕を振りかぶった。

 爪が壁に激突する音が空気を通じて伝わってくる。とてつもない力だ。

 結界を形成するのに四枚は少なかったかもしれない。後何度かの攻撃で破られてしまうだろう。


「私を呼べ。片付けよう」


 脳に声が響く。声の言う通りに綾瀬は手を地面へとかざした。

 魔力を練って念じると地面に青白く光る魔法陣が浮かび上がる。

 その魔法陣から何かが現れるのと、結界が破られたのはほぼ同時だった。

 綾瀬が呼び出したのは、自身と契約を結んだ魔物。メタリックブルーの鎧を纏いし騎士の魔物だ。


「ペイルライダー、お願い」


 綾瀬の命令に応じて構えると、ペイルライダーの腕から手甲剣が伸びた。

 ライカンスロープが牙を剥き出しにして獰猛に突撃する。

 ペイルライダーはそれにカウンターを合わせて一閃。

 月明かりで鈍く光る白刃は一振りでその身体を真っ二つに切り裂いた。

 地面に崩れ落ちた魔物の肉体が光の粒となり消滅する。

 それを最後まで見守ると、綾瀬は倒れている女性の肩を軽く叩いた。


「大丈夫ですか? 怪我はないみたいですけれど」


 綾瀬の言葉で女性は意識を取り戻したようだが、後ろに立っていた騎士の魔物に驚いたらしい。

 慌てて立ち上がって、表通りへと逃げるように立ち去ってしまった。


「……あら。嫌われてるね、ペイルライダー」

「……いつものことだ。もう戻るぞ」


 ペイルライダーはぶっきらぼうに言うと、綾瀬はくすくす笑って手をかざす。

 念じると青い騎士の足元に魔法陣が浮かんで一瞬にしてその場から消える。

 仕事を終えた綾瀬は壁に貼った四枚の札を回収すると路地裏を後にした。

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