雑談(月夜視点)
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
実体のない穢れを祓うために町を歩いてから数日が経過した。あれからこれといったこともないまま、平穏な日々が過ごせている。
とは言っても、相変わらず穢れは出てくる。強い穢れが出なくなったとしても、弱い穢れは出てきているので、一般人には危険なままと言える。
いつも通り、祈りを捧げる日常を過ごしていた私に、遊びに来ていた朱里お姉様が一つ質問をしてきた。
「月夜って、どうしてここに居るの?」
根本的な話だけど、誰も聞いてきたことがない質問に、私は目を瞬き、同じく遊びに来ていた人達が私に視線を向けてきた。
何か理由があってここに居るのだとわかっているだろうけど、そこを聞く人は今まで居なかったのは、私の仕事が守秘義務も多大に存在するものだからだろう。
実際、神とはどんな存在なのか、と聞かれた際には私は答えられなかった。知ってはいても、それを他者に、それも神の存在を感じ取ることができない者達に教えるのはご法度と言えたために。
神の存在が身近になるのは良いことと思われがちだが、近付き過ぎると、それはそれで人の身には過ぎる力の塊とも言える神なので、害になってしまう。
だから、あまり話さないのが常識となっていた。
「私も先祖よりここを守ることを繋いできておりますから、そこまできちんとわかっているわけではありませんが……」
一応断りを入れれば、周囲も完璧に伝えていくことの難しさを知っているので、納得している様子だった。
変えようのない事実として、穢れを祓う術が挙げられるだろう。あれも途中で途切れて、現在でも完璧に復活させることはできていないのが現状だ。
「ただ、古い言い伝えによると、この地は穢れが特に出やすい地であったため、穢れが存在する世界と繋がっていると言われていたそうです。ゆえに、神々を降ろせる一族が穢れが来る道を封じるために、この地で守ることを決めた……というのが、我が一族の始まりだとは聞いていますね」
「なるほど……。確かにそれなら守りを任される者達が存在して当然だな」
「ですが、この地以外にも穢れが来る場所は一定数ありますから、各地に封じるための一族は居るはずです。この時代にどれほど残っているかは私にも定かではありませんが……」
この言い伝えも平安時代よりも以前だという話もあるので、本当に私にはまだ存在しているのかはわからない。というか、残っていない可能性の方が高い。
私以外の本職は本当に見つからないらしいし……。
「まあ、実際にこの地が一番穢れが出ますから、言い伝えも嘘ではないのでしょう。と言っても、昔に比べると穢れの強さもかなり落ちたとは神々も仰っていましたが……」
「え、今の状態が昔よりも弱いの」
驚きの声を上げる朱里お姉様に頷くことで肯定を返す。現在しか知らない私達にとっては今が基準になるので、昔はこれ以上だと言われても想像ができない。
本当にそうならば、昔の人達は本当に凄かったということだろう。今よりも強いなんて、まともな力の行使の仕方も知らない私達では簡単にやられてしまいそうだ。
「昔は地を封じるために風水などを行なっていたりもしていたので、それによって強さが増していたそうです。まあ、要するに溜まりやすかったせい、ということですね」
「……出入りができないせいで、逃しようがなかったのね」
「そういうことです。現在ではそれを行なっている地域は殆どありませんから、流れやすく、穢れは溜まりにくい状態になっているため、弱くなっている、というわけですね」
穢れに対する警戒度は同じだったとしても、町に結界を張るようなことはしない。というか、できないため、やらない。
そうするためには、一から町を作り直す必要がある上に、要求される条件が多過ぎて無理だ。
大きな土地に強大な結界を張ろうと思ったら必然的にそうなってしまうからね……。
ここまで来ると、今の状態の方が良いだろう、となる。頑張って結界を張ったら、穢れが溜まりやすくなるなんて、嫌過ぎる。
他の人達もそう思ったようで、それぞれがやりたくなさそうな顔をしている。
「月夜なら町に結界を張ることはできそうだよね」
「できますが、そうなると起点を作らなければなりませんし、下手をすれば人間の出入りも不可能になってしまいかねませんから、難しいかと」
湊お兄様の言葉にそう返せば、『信仰会』の結界を思い出したのか、私がしないことに納得している人が複数いた。
あれも外からの侵入を拒む代わりに、内側からの脱出も拒まれていたから、非常にわかりやすかったんだろう。多大な霊力を持つ五郎さんでさえ壊しきれなかった結界を霊力を持たない人間がどうにかして出るなんて不可能だ。
私としては、結界を張った方が範囲が限定されて、術の行使がしやすいけれど、そのためだけに張るのもどうかと思うから、やっぱりしない方が良いだろう。
実体のない穢れを祓う度に結界を張るのも、ちょっと使う力が多過ぎるし。
「それはちょっとご遠慮願いたいわね……。この町内だけで生活は完結させられないし」
「今の時代じゃ現実的じゃないな」
「昔はそれを前提として作り上げていましたからね……。まあ、昔は穢れの出入りだけを封じていただけで、人間は普通に通ることができたそうですが」
「それ、かなり繊細な術の行使が要求されないか? 昔の技術力がないと無理じゃないか?」
「そうですね。私でも難しいです」
一番昔の技術と知識を有していると言っても過言ではない私ですら、難しいと言えるぐらいには、できないことだ。
それこそ千年前から生きている人なら可能かもしれないけど……レティの異空間で過ごしている者達でも難しいと言っていたから、やっぱり土地も大いに影響したのかもしれない。
というか、千年前から生きている存在というのはレティの異空間に居る人達でも居ない。私の傍に居る者達の一部が居るけど、彼らは人間じゃないしなぁ……。
「その代わり、あまりにも強い穢れは通れてしまえた、とは聞いていますが。それぐらいに昔の方々でも難しかったことを現代でするのは不可能でしょうね」
「だな」
出た結論に、誰もが頷く。失敗したら洒落にならなさそうなので、ほぼ確実に誰もしたがらないと思う。
私がこの地から基本的に動くことが許されない理由もわかったからか、全員の表情がそれほど良いものではない。
完全に縛られているわけではなくとも、行動の制限がかかるほどには動けないのを知っているから、年頃の少女がそれで良いのか……という感じなのだろう。
ここに関しては神々も同じことを考えて、比較的自由に遊びに行かせてもらえているので、気にしなくとも良いんだけど。
そうは言っても、彼らだって同じ年頃を過ごした過去がある。自分達と比べて考えてしまっている部分もあるはずだ。
「姫様」
「楓、どうしましたか?」
それまでここには居なかった楓が声をかけてくるのに反応すれば、昼食の時間だと言われる。時間を確認すれば、確かにそうで、思ったよりも長いこと話していたことに気づき、私達は揃って立ち上がった。この後も昼食を一緒に食べることが事前に決まっていたので、行き先は同じだ。
来た時点で結構遅かったので、予想はしていたけど、本当に昼食の時間まで会話をすることになるとは思わなかったな……。
楓達が微笑ましそうにして私達を見ているので、傍から見ると家族の会話に聞こえたんだろう。幼い頃から知っている者達ばかりだから、非常に居心地が悪い。
私から見て見れば、彼らも兄や姉のような存在だからね……。
そう考えつつも私は表面上は恥ずかしいと思っていることを隠しながら昼食が用意されている部屋に向かった。まあ、気付かれているだろうけどね。
本当、昔からの付き合いって侮れないよねぇ……。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




