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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
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新たな情報

暇潰しにお読みいただけると幸いです。

  ――月夜視点――

 三十分という短い時間で優男になってしまった問題の先生を脅していた沙織を大人しくさせ、現在、授業を受けていた。

 授業内容は穢れについて。桜桃軍のことは世間一般では知られていないけど、穢れは視える者が増えた影響で、秘密ではなく、当たり前の常識として教えられるようになった。

 それも百年ほど前からのこと。視える人数が爆発的に増えたのが五百年ほど前という話だから、穢れについても解明されていない部分が多過ぎるのが現状みたい。

 だから授業で教えられることも現状判明している穢れで現在もまだ祓われておらず、危険とされる穢れ達の情報や過去に存在した穢れの情報。穢れに対する対抗するための術。これぐらいしか教えることができていない。

 情報開示している政府としても、もっと詳しい情報は欲しいと思っているんだろうけど、今の状況を見ている限り、政府が抱える研究者も情報員も上手く集めることができずにいるみたいなんだよね。

 現在判明しているのは穢れにも階級というものが存在し、それぞれに王、大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。

 これは別に人間側から呼び始めたのではなく、穢れ側が――人間同様に話すことが可能な穢れが一定数存在する――そう名乗ったから、一般常識としてこちらでも定着したという経緯がある。

 何故彼らが貴族の階級で分かれたのかは一切解明されておらず、一般人にとっては恐怖の存在でしかない。……穢れが最も好むのが『恐怖』という感情だったのだとしても、対抗手段がない者からすれば恐怖を感じるなと言う方が無理。

 しかも人間側の恐怖を煽るように彼らは個々に人間が恐怖を感じる姿を取っている。

 それを相手にする穢れ狩り達でさえ恐怖を感じていないかと言われると残念ながらそうはいかない。

 妖気を穢れ狩りはどうしてもその身に宿す霊力によって一般人よりも感じ取ってしまい、どちらかと言えば一般人よりも恐怖を感じやすい者達の集まりだ。私のような霊力を持ちながらも対抗手段はほぼほぼない者なんかは特に怯える。

 知られている限り人の姿をしていた穢れは『王』や『大公』といった物凄く限られた存在のみ。

 厄介なことに『王』も『大公』も桜桃軍の最高戦力である十二天将でさえ一人では太刀打ちできず、二、三人集まって漸く……といった具合らしい。その二つの階級の穢れが出てきたことがあるのがこの五百年で二度ほどだから、現状はどうかは判らないそうだけど……その二度でさえ、被害は甚大だったという記録が残っている。

 これは兄さん達から聞いた話で一般的には知られてないよ? 桜桃軍に所属している穢れ狩りなら誰でも知っていることらしいから、部外者である私に教えてくれただけ。


「……このように、一度だけ現れた『王』の手によって甚大な被害が出ました」


 歴史の先生の口から語られる内容は決して無視できないものだった。

 一度現れた『王』によって死者は十万を超え、重傷者は五万以上、軽傷者などは一切おらず、大きな都市の幾つかはこれによって壊滅するという被害の大きさに授業を受けていた全員が息を呑んだ。

 自分達がもしも遭遇したらどうなるか……と考えているのが判る表情に私も緊張した面持ちになる。


「『大公』も同じように甚大な被害を齎した穢れです。現状、国として取れることはしていますが、対抗手段があまりにもなさすぎるため、これといった対策はできていません」

「も、もしも遭遇してしまったらどうすれば……」


 先生の言葉にさすがに黙っていられなくなったのか、生徒の一人が質問をするも、先生は無言で頭を振った。


「諦めるしかないでしょう。穢れは恐怖に支配された魂を主な食事としていますから」


 酷くもそれが事実。皆が使える対抗手段が存在しない以上、遭遇してしまえば諦める以外の選択肢はない。

 そう言う先生に生徒側も青褪めた表情で聞いていることしかできない。できないことはできないのだ。

 すでに自分が死ぬ可能性が高いと思った子の中には泣き出す子もいる。それを慰める者は……存在しなかった。

 暗い雰囲気が教室内を包む中、先生が口を開いた。


「厳しい現実ではありますが、現状で判る限りの対策は政府から発表されています。皆さん、毎日政府からの情報を聞き流さないように」


 そう締め括って授業を終えた先生に生徒達も頷くしかなかった。

 どれほど怖くとも現実を教えなければいけないというのが現状だからこそ、中学生という若さで現実を見せることを親達も国も止めることができずにいる。本人達の危機感が薄ければそれだけ被害に遭う確率が増えるから。

 それでも中学生というまだまだ奔放さの多く、多感な年齢である者達の中には軽視して死亡するケースが毎年それなりにあるんだそう。何度も何度も危険性を学校側が教えるのは少しでも数を減らすために……。


  ――――――――――


 その少年にとって何もない夜……になるはずだった。

 夜の外出が法律によって禁止されるようになって三百年以上経つが、その人物は年頃により親に反抗的で、その日もいつも通り、親に反抗して外に出てブラブラと何をするでもなく歩いていた。

 そんな少年の耳に「ズル……ズルル……」という水分を多分に含んだ何かが引き摺る音が聞こえ、聞こえた方に好奇心から向かってしまった。

 この場に他の誰かがいれば即座にその少年を止めただろう。明らかに異様な音だったのだから。

 しかしその場にいたのは少年唯一人のみであり、少年は子供の無鉄砲さと高過ぎる好奇心から音が聞こえた方に向かった。

 少年が音が聞こえた方に向かい、その場所を見た瞬間、少年は見たことを後悔し、同時に恐怖が自身の中を支配したのが分かった。

 一気に体から力が抜け、恐怖のあまり声も出ぬまま、ただただ衝動的に逃げようとして、大きな音を立ててしまった。

 しまった、と思った時には時すでに遅く、少年が目撃してしまった存在――穢れが勢いよく顔を少年の方に向け、その大きな図体からは考えられぬほどの素早さで襲いかかってきた。

「っ……」

 助けを呼ぼうと声を出そうとしたが、恐怖に支配された体は意味のある言葉を吐くことはなく、僅かに漏れた声だけが精一杯の助けの声だった。

 もはや助からないと少年は涙を流しながら心の中で両親に謝る。

 食べられる……と泣きながらも覚悟した直後、少年と穢れを分断するかのように両端に刃がある薙刀が突き刺さった。

「炎術、狂炎」

 少女の声が小さく響き、直後、穢れが燃え、灰となって散った。

 いつの間にか少年の傍に立っていた人物が深く突き刺さった薙刀を簡単に抜き、少年を一瞥してからビルの壁を蹴って上に消えていった。

 我に返った少年が慌てて周囲を見回すが、助けてくれたのであろう人物の姿はすでになく、お礼を言えなかったことを後悔すると同時に改めて助けてくれた人物を思い出す。

 狐の面に闇を溶かし込んだような色合いの羽織にはハナニラが描かれていて、僅かに風で煽られフードから見えた色は……。

「白っぽい銀色……」

 呆けたように呟いた少年は後から現れた者達にそのことを伝える。

 この日、桜桃軍に狐面の穢れ狩りが白っぽい銀をしているという新たな情報が入ることとなった。

 それを境に徐々に謎の穢れ狩りの正体が暴かれていき、思わぬ人物が疑惑を持って見られることとなるのであった。


最後まで読んでいただきありがとうござます。


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