宴前(月夜視点)
暇潰しに呼んでいただけると嬉しいです。
千ユニーク達成しました。読んでくださった多くの方、読んでくださりありがとうございます。
記憶の殆どを思い出してから、私の生活の場は学校と神社になった。
神楽家と桜桃軍本部に置いていた私物も全て神社に移り、柊と式以外の配下達もすでに私の傍に居る。
しかし現在、その元住処と言ってもいい、桜桃軍本部に呼ばれて、支度中です。
あれからも様々なことを占ったり、作った札を渡すなどの関係性は保たれていたし、神々に掛け合い、彼らが自由に出入りすることができるようにはなっていたので、それほど久しぶり感はない。
沙織など、毎日のように学校帰りに一緒に来ては、少しの時間話してから本部に向かうし、そもそもがほぼ毎日、学校で顔を合わせている。今は冬休みなので、学校はないけど。
神楽家の人達も様子を見に来るために、よく来ているしね。十二天将の皆さんも言わずもがな。
「梅、楓」
「こちらでどうでしょう? 我が君」
「こちらはこれで宜しいのでは? 姫様」
神社に戻ってきてから呼び戻した者達の中でも支度の準備を手伝える女性達に声をかければ、すぐさま反応が返ってきた。ただし、その差し出される服装はあれだけど。
巫女服が基本となるから、彼女達が差し出す服が巫女服なのは変わりないけども。
「それは出かけるのに向かないのでは? 歩くのですから、布を引き摺って歩くわけにもいかないでしょう?」
「それもそうでしたわね。申し訳ございません、すぐさま別の服を」
「お願いします」
梅の持って来た服が明らかに外出向きではないことを指摘すれば、すぐに別の出かけやすい服装が出てきた。
それに着替えさせてもらいつつ、私は今回の呼び出しに少し微妙な顔になった。
別に何か問題事があった、とかではない。単純に桜桃軍では度々ある宴に参加しないか? というものだ。日々が殺伐としているから、と時々そういったことをしているらしい。
私が神社に戻ってから穢れの数も激減したこともある。私の役目はそれでもあるので、ある意味、正常に戻ったとも言う。
穢れが現世に現れることを阻止する。それが代々受け継がれてきた役目なので、現状はあるべき姿と言える。
だからって、私にも穢れ達が発生する理由なんてわからないけど。
「終わりましたわ、姫様」
色々と考えていると楓の声が耳に聞こえ、私は現実に戻って来た。全身が見える鏡には、外出しやすい服に華美ではない髪飾りがあった。
季節的にも冬ということもあって、厚手の上着にできる羽織を更に上から着ているが、変な格好ではない。
全体を確認して問題はないと判断した私は二人に振り返り礼を告げた。
「ありがとうございます、二人とも。式、行きましょうか」
「いってらっしゃいませ、姫様」
「楽しんできてくださいね、我が君」
「はい」
それぞれに見送りの言葉を口にした二人に頷き、私はずっと無言で待機していた式と共に外に出た。その途端、室内では感じなかった冷たい空気が私を襲ってきて、少しだけ身を震わせた。
神々の力が宿る神社であるためか、室内は年中を通して過ごしやすいのだ。割と壁が少ない場所も多いにも拘わらず、普通に人間でも暮らすことができるのは、そういう理由からだった。
でなければもう少し壁を増やされている。さすがに人間の身に堪えるような状況は勘弁願いたい。
もはや慣れた行き先である桜桃軍の本部はすぐに着いた。そもそもが神社と本部が結構近いので、それほど時間がかからないんだけども。
でなければ迎えが来ている。式も私も戦闘技術がないわけではないんだけどね……。
本部に入るための鳥居を通れば、視界には本部の建物が見えた。
本部内に入れば近くに居た所属者さん達が手を振ってくれたので、私も手を振り返しておく。式も含めて、割と受け入れられているので、私としては来やすい場所ではある。
「運営の所に行けばいいのでしたか?」
「ああ。場所は……何度も来ているからわかるな」
案内をしようとした式が、直後に私も場所の把握ができていることを思い出し、前に出ることを止めた。そうなるぐらいにはここに何度も足を運んでいるので私も苦笑で返しておいた。
本来であれば神社から一切出ない生活であるべき私がこんな生活をしているのも不思議な話だ。
式と二人で色々と話しながら歩き、運営の者達が集まっている場所の中でもトップが居る場所へと向かえば、丁度紗良ちゃんに出会った。
「おお、月夜ではないか。息災であったか? ……と聞くのが普通のかもしれんのじゃが、最近にもあったので、必要ないのぅ」
「そうですね、紗良ちゃん。美奈子さんは……」
「室内に居るよ。今回は宴じゃったな。とはいえ、大人組には交ざれんが……」
大人組はお酒を飲む宴に後半はなる、とは聞いていたけど……本当にそうらしい。
前半はお酒なしの宴らしいので、時間はそれなりに長いのかも?
いやまあ、一応宴中でも穢れ狩りに出られる状態で留めるらしいけども……紗良ちゃん達の様子を見ていると本当か謎だ。
だって、紗良ちゃんとか五郎さんは泥酔でも戦闘ができそうな雰囲気がある。これは沙織に言って、同意を得た感想なので、誰もが感じることなのかもしれない。
年齢がそうさせるのか、とも思ったけど、見た目はまだまだ若いので、それはないかもしれない。やはり本人達が醸し出す雰囲気が原因かもな。
紗良ちゃんに促されて、美奈子さんの居る部屋に入れば、いつも通り、美奈子さんの側には里見さんが居た。どちらも私の姿を見て、作業を止めたけど。
「あらぁ、月夜お嬢さん、いらっしゃい。よく来たわねぇ」
「月夜さん、ようこそいらっしゃいました。とは言っても、前半の宴にしか参加できませんが」
「ああ……やはり、そういう感じなのですね」
「ええ」
お酒が飲めない組は大人でも前半だけの参加になるらしい。後半は酒豪組と言った方が良かったか……。
中には全く酔わない者も居るらしいので、そういう者達の中には参加しない人もいるとか。
酒を飲んだことがない私にはわからない感覚だけど、酔わないというのも中々に苦痛に感じる人もいるようだ。紗良ちゃんは……ザルだけど、お酒が大好きだと言っていた。
とはいえ、私の方も何も持ってきていないわけではなく、美奈子さん達に言って、取り出した。
「お酒?」
「はい。ああ、買ったのは柊達ですよ」
「そこは疑ってないわぁ。でも、何か違うような気もするわねぇ?」
さすがに、穢れ狩りをしているだけあって、何かが違うのはわかってしまうらしく、私は苦笑しながら美奈子さんの机に置いた。
「お神酒です。神々に捧げてから下げた物でして、神気が僅かながらでも籠もっているのですよ。本当は身の内の妖気を祓う意味で飲まれる代物ですが……」
「……それは凄い物を持ってきましたね」
捧げていた場所が場所なので、余計に神々の力が籠もりやすい。そう考えると宴で気軽に飲む代物ではないのかもしれないけれど、職業的に考えるならば、悪い物でもないだろう。
「私も術の行使に使ったりはしますが、神々の数の多さから、どうしても捧げるお酒の数も多くなってしまい、処理しきれないのですよ。ですので、処分するよりは良いだろうと持ってきました」
「なるほど。それは確かに持ってくるのぅ」
「それにしても、これだけの量をよく仕入れられるわねぇ……」
「配下の中にそういった方面を担当する者がいるのですよ。本人達も商売などが好きなので、それで良いと言っているのですが、日々の食事などを全て彼ら頼りにしているのは申し訳ないですね」
気にするな、と何度も言われたことだけど、性格的に気にしてしまうので、もはや諦めてほしい。彼らも苦笑しながら受け入れているけど。
そんなことを思い出し、すぐさま本題に戻った。
「とはいえ、これでは飲める方にしか配られないだろう、と考えてお清めの塩で焼いた鯛も持ってきました。そちらも神々に捧げた物ですので、効果的には変わりませんよ」
「月夜さんは神前に捧げられた物を食べるのは普通なのですね」
「そうですね。それもまた、役目として考えた場合は必要なことですし」
そう言えば、納得できたのか、三人とも頷き、宴で出せるようにするためにと預かってくれた。私がその場で出しても色々とあれだろうしね。
ほぼ常に穢れと相対している職業なので、効果は絶大そうだけど。
などと考えつつ、私は宴が始まるまで時間を潰すため、沙織が居る場所へと向かったのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




