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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
76/82

神社(月夜視点)

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。


今回で第一章が終わります。

 目覚めてから一週間、ようやく医務室の方から自由に出歩いても大丈夫、という許可が下り、私は紗良ちゃんと五郎さん、沙織、式、柊という面子で再び生家でもある神社へと来ていた。

 以前に来たのとまったく変わらない風景に記憶の大部分を取り戻したからこそ感じる微妙な気持ちを抑えて、私はずっと咲いている桜の木を通り過ぎ、真っ直ぐ進む。

 あれから、洗脳されていた人達の住み場所は確保され、自身の意思で所属していた者達は捕まった。その際にまだまだ残っているという情報も得て、美奈子さん達からは、未だに警戒すべきという判断が出ていた。

 とは言っても、記憶を取り戻したのに戻らないのは、神々の機嫌を損ねかねないということで、過剰戦力とも言える状態での訪問となった。

 桜桃軍の最強と二番手が揃って同行など、普通はありえないことだというのはわかっているんだけど……何度もあり過ぎたせいで、すっかり慣れてしまっている。

 ちなみに、髪が異常なほど長い理由も記憶を取り戻したことでわかった。仕来たりとして伸ばさなければならなかったのだと。

 髪は神に通ずる、という言葉もあるように、髪には不思議な力が宿りやすい。というわけで、小さな神になったばかりの存在達が私の髪の中で休むのだ。

 場所によっては精霊などと呼ばれる類だけど、神々が髪の中で休んでいることを思い出した時は何とも言えない気持ちになった。


「……今まで中には入ったことがなかったが、こうなっていたのか……」

「あの桜の木がご神木の本体のようなものではありますから、本来、祈りを捧げるのはあそこが良いのですけれど……それでは雨の時などは困りますし、長時間の祈りになる場合も多いので、室内に用意されているのですよ」

「なるほど」


 神社の建物の中に、再び桜の木が植えられているのを見て、驚く五郎さんに説明をすれば、納得してもらえた。さすがにただの人間……とも言いがたいけど、人間であることに変わりはないので、野外での祈りが体に堪えるのは必然です。

 若いからといって、無事なわけがない。毎日の祈りが必要である以上、天候や季節というものは大事です。とっても。

 式に手伝ってもらいながら正装に着替えると、祈りを捧げられるようにされている場所へと向かう。

 二本目の桜の木には、周囲に限界まで近づけるようにされた渡り廊下よりは室内のようになっている通路が存在している。

 その一角に最も近寄れる場所があり、そこに祭壇があるため、私だけがそこに近づく。

 他の人達は桜の木の周辺の渡り廊下で拒まれてしまうので、待機してもらった。ここだったら何の危険もないので、なるべく近くに居つつも、彼らは控えてくれている。

 祭壇に近づき、一枚の畳の上に座布団が置かれている場所に正座する形で座ると、私は手を合わせて目を閉じた。

 傍から見れば、それに応じて、桜の木が枝を揺らしている音として聞こえていると思うが、私には、はっきりと声として聞こえていた。

 私が帰ってきたことを喜ぶ声、体調を気遣うような心配した声など、本当に様々な声が聞こえてきた。勿論ながら、その声が神々の声である。

 他の人にはこの声が聞こえないらしいけれど、私は祈りを捧げていなくとも聞こえる日常的な声だったため、それを記憶を失っている間は聞こえていなかったというのも、不思議な感覚だ。

 神々に報告をしていく中で、記憶に関しては大半が戻っているが、一部はない、と伝え、続いて学校などについてお伺いをしてみた。

 すでに桜桃軍に所属するのは難しいのではないか、という話は出ているものの、神々の対応がわからないため、こちらも明確な何かが決まることもなく、宙ぶらりんのままだった。

 私のお伺いに神々は静かになったものの、すぐに一柱の神が答えをくれた。


『学校は許しましょう。桜桃軍の所属は残念ながら、貴女の役目を考えると許可を出せません』


 悲しむような、そんな声音で紡がれた内容は、私の役目を考えれば、かなり寛容なものだった。それでも学校だけが許されただけではあるが。

 ただ、神の言葉がそれだけでは終わらなかった。


『ですが、桜桃軍の応えに応じて行動することは許しましょう。それもまた、貴女の役目の一部に該当すると考えられるのですから』


 所属は認められないが、助力ならば許す。そう告げた神々に感謝を告げて、私は祈りを止めた。桜の木も先ほどまでの揺れようが嘘のようにピタリと止まっていた。

 この場所は神域とも聖域とも言える場所。神聖な場所だからこそ、そういった不思議なことは日常的に起こる場所だ。今更驚きはない。

 神々からの回答を得たところで私は立ち上がり、沙織達が待っている場所まで下がれば、すぐさまどう言われたか聞かれた。


「学校は今までどおり通えますが、桜桃軍の所属は私の役目が役目なので、許可は出ませんでした」

「そうじゃろうなぁ……神々との仲介役とこの場所の守りこそ、月夜にとって最も重要視すべきものなんじゃ。寧ろ、学校に通い続けることが許されたことがおかしい」

「はい。ですが、桜桃軍が私に何かを依頼した場合、その依頼に応えることは許してくださいました。それもまた役目の一部に該当すると考えられるから、と」


 思ったよりも寛容な決定に驚いた様子を見せた彼らだったけど、すぐに頷き受け入れていた。彼らとしても過去の知識や技術を有する私は助力を求める存在としては最適には見える。

 時には、何か力になれることはあるだろう。式と柊などに関しても回答は得ているし。


「そして、式」

「はい、何でしょう、主」

「貴女は私の攻撃方面での技術と知識を共有している者。桜桃軍には貴女が所属することで、私との連絡役及び普段の戦力として参加してください」

「わかりました、主。主の記憶の一部を有するだけの存在ではありますが、精一杯主の期待に応えます」


 主従を明確とするような言葉遣いをしてきた式に頷きつつも、紗良ちゃんと五郎さんの方を向く。二人も妥当と考えたのか、頷くことで承諾してきた。

 私に助力を求める際、どうしても連絡役が必要になるんだけど、ここは許可がなければ基本的には私に同行しないと出入りできない場所。

 式文でも連絡が取れないことはすでにわかっているので、必然的に連絡役が桜桃軍側に必要になる。

 そこで白羽の矢が立ったのが式。私と直接連絡が取れるため、非常に有効な存在だと言える。これもあって、記憶の大半が戻ったにも拘わらず、式が壊されることはなかった。

 私としても容易に潰したいわけではないけれど……役目を果たした存在を残し続けるのも良くないと言われているため、他の役目がなければ潰すしかない。

 それが回避されたというだけでも、私としては安堵できた。記憶を失っている間のことも覚えているからこそ、余計に潰したくないと思っていたし。

 理由があって作ったとはいえ、潰すのも主の勝手では、ちょっと思うところが出る。そう考えることこそ、間違っているのだとわかっていても。

 本当ならば、彼女が意思を持つことだって避けなければならないのに、与えたからね……。


「じゃあ、月夜はこれから普段の生活はここになるの?」

「そうなりますね……。祈りを捧げるためだけにここに来るのもあれですし」

「だよね。んじゃ、まあ……まずは荷物運びからだね!」

「そうですね」


 学校で以外では容易に会えるかわからない状態になるとはいえ、まったく会わなくなるわけではないことは確かなので、沙織もすっかり受け入れて、次の行動を考えている。

 そのことに内心感謝しつつも、私は荷物を取りに戻るため、神社を後にしたのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


次回からは第二章が始まります。

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