意識回復(月夜視点)
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
――月夜視点――
深い海から浮上するかのように意識が戻っていくのを他人事のように感じながら、私は目を開けた。
視界に入ったのは、以前に見た桜桃軍の医務室。ただ、違う点は、以前の複数人は入ることができる場所ではなく、一つのベッドしかない部屋だった。
まあ、霊力の暴走を引き起こした以上、他の人と一緒はかなりまずいだろうしね……。
生憎と、私は霊力の暴走事態は感じ取ることができていなかったけれど。ずっと暗い深海を思わせる黒い世界の中で漂っていた感覚しかない。
こう、意識はないはずなのに、あるという言葉にするのが難しい状態だったんだよねぇ……。
ただ意識が戻って、自身の中にある記憶が以前よりも増えているのはわかる。幸いなのは完全に戻っている様子ではない、ということ、かな。
本格的に戻っていたら、暴走状態はもっと酷かっただろうし。できれば意識を失っているだけであってほしいけど、そこはわからないので、誰か来たら聞こう。
勝手に動いて怒られたくないから動かない。そういうの医療担当の人達、厳しいからさ……。
以前、訓練中に負傷したと思われる所属者さんが勝手に動いて激怒されているところを見たことがある。大型犬が子犬のようになっていたので、私はできれば怒られたくない。
後方支援が基本、というのが信じられないほどに怖かったんだよね。普段は穏やかで優しい人達ばかりなのに、あの時は鬼神を背後に携えていたもん。
そう思いながら起き上がれば、結構な時間を寝ていたのか、ズキズキと頭が鈍痛を訴えてきた。肉体的には寝過ぎていたようだ。
これでも人が来る様子がないので、もしかしたら、まだ問題が完全には終わっていないのだろう、と思っていると、ドアが開き、人が入ってきた。
「……主?」
「式、柊」
よく知っている人物が揃って顔を見せたことで、私は目を瞬きつつも名前を呼ぶ。柊の方は本名では呼ばないけれど。
揃って信じられないものを見たかのような顔をしていた二人は、私が起きているという事実を受け入れられたのか、脱力したように崩れ落ちた。
さすがに思っていなかった反応だったので、目を丸くして驚く私に、二人は寝ている間の状況を私が一切知らないことを思い出したのか、体を起こして近づいてきた。
「お久しぶりにございます、姫。三日も目を覚まされないとは思いませんでした」
「久しぶりだ、主。私も同意見だな。やはり無理矢理中に戻すという行為は負担が大きかったか」
二人の言葉に彼らが安堵した理由が判り、私は納得しつつ情報を聞き出す方に切り替えた。
私が聞けば、二人はすんなりと現状彼らが知り得ている情報を話してくれた。
意識を失っている間、予想通り暴走状態に陥っていたみたいだけど、最後の意識がそうさせたのか、私がいた陣は書き換えられており、私の霊力を最大限閉じ込めるものへと変貌していたらしい。
それでも大量に漏れてしまうほどには放出されていたみたいだけど、それ以上の状況にならないよう、レティと柊が漏れないように更に結界を張り、式が私の中に放出された私の霊力を私の中に無理矢理戻したそう。
暴走状態ということもあり、放出の方に体が切り替わっている私の中に戻すのはかなり時間がかかったようで、五時間の格闘の末に何とか全ての霊力を私の中に戻し終え、急いで本部に戻った。
で、暴走状態が完全に治まっているのを確認後、個人部屋に入れられた、という流れだそうだ。
完全に治まっているのが確認されているとはいえ、無理矢理だったのは事実。私が目覚めるまでは油断できないという状態だったとのこと。これに関しては私も納得できるので頷いておいた。
結局のところ、自分で抑え込んでもらうのが一番安心できる方法だからね……。
「そして、十二天将達は現在、洗脳されていた元信者達への対処や自らの意志で所属していた者達への尋問を行なっています。これは他の所属者も同じくですね」
「とはいえ、尋問以外は殆ど終わっている。尋問の方もあまりに吐かない者には自白剤を服用させて無理矢理にでも吐かせている」
「結構物騒な感じになっているのですね。まあ、状況を考えればわかりますが」
記憶の大半が戻ってきたことで、口調が本来のものに変わっている私の言葉に二人も頷きつつ、状況説明を終えたこともあり、二人は他の者を呼びに行った。
もれなく二人からは絶対安静を言われてしまったけど。
内心、何とも言えない気持ちになりつつも待っていると、すぐさま医療担当の者が来て、私の状態を確認し、問題ないと判断してくれた。
そう判断されてからようやく面会が許されたようで、沙織達はその二時間後に姿を現した。
式と柊はすぐに許されたのに、この差は何なんだ……? と内心思ったけど、すぐさまその理由はわかった。
「月夜お嬢さぁん~!!」
「月夜っ!」
「ぐえ」
カエルが潰れたような声を出した私は、美奈子さんと朱里お姉様に抱きつかれています。
思ったよりも勢いが良かったこともあり、見事に潰れた私に、すぐさま周囲が美奈子さんと朱里お姉様を引き離してくれた。
良かった、あのままだったら絶対に死んでた。起きて早々窒息死は勘弁願いたい。
「状況を考えよ。月夜は目覚めたばかりなのだぞ。体が弱っているというのに、何をしている」
「「ご、ごめんねさい……」」
三吾さんに叱られた二人は子犬が耳を伏せて小さくなっているようにしか見えなかった。割かし真面目枠に入る三吾さんに叱られては大人しくするしかなかったみたい。
ある意味見慣れた状況に私は微笑んだまま眺めていたけど。
「おはよう、月夜。調子はどう?」
「おはようございます、沙織。調子は……寝過ぎていたので、頭痛がありますね。鈍いものではありますが」
「……月夜の本来の口調それなんだ……」
本来の口調を初めて聞いた沙織達の反応に、私は苦笑していると、式と柊も今更気づいたようで、微妙に視線を逸らした。彼らにとっては今の私の方が聞き慣れている口調だろうしね。
まさか、敬語だとは思わなかったようで、驚いている沙織達には申し訳なかったけれど、彼らが知り得ている情報を聞かせてもらう方が優先だった。
彼らが教えられる情報を知るという意味でも必要なことだしね。
それは向こうもわかっていたようで、紗良ちゃんと五郎さんが代表して説明してくれた。美奈子さんは叱られ続けているからね……。
「洗脳されていた元信者に関しては、住み場所をここにすることで暮らすことに決まった。元よりこの街には知っている者しか暮らせぬしのう。何より急に用意できる場所がここしかなかった」
「人数が人数だ。仕方があるまい」
「そうなんじゃがな……。というわけで、月夜が目覚める以外では、殆ど終わっておる。……大体はこのとおりじゃな」
「生憎と神社の方は我々は近寄れもできなくってな。月夜自身で確かめるしかない」
おそらくは何ともないと思うがな、と言った五郎さんに予想できることだったので、私も何も言わなかった。
確認ができていないならば、私は動くことが許可されてから動いた方がいいだろう。なるべく早くとまでは言わないけれど、役目のことを考えると早い方が良い気がする。
元々の住処はあそこだ。それは記憶の大半を失っていた私もわかっていたことなので、特に何とも思っていなかったけど、よくよく考えてみると、あそこで殆どの時間を過ごすのは現状を思うと難しい気がする。学校だってあるしね。
戸籍がない理由なんかもわかったけど、本当に通い続けないといけないんだよね……。だって義務教育だし。
ただ、役目のことを考えるとあんまり長時間は外に出ない方がいいんだよね……。すでに大半を外で過ごしていたことは抜きにして。
いや、今まで許されていたから、大丈夫なのだろうか? そこらへんも確認しておかないとなぁ。
「では、許可が出次第、行きます。今後のことについても神々とお話をしないといけませんので」
「そうじゃろうなぁ。今までは記憶がないから許されておったが、今後までそうとは限らん。戸籍がある以上、義務教育は修了させておかないといけんが……」
その人間側の常識が通用するかどうかは、まだわからない。
私は神々との対話が控えていることを考えて胃が痛くなるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
主人公の本来の口調が出てきました。
主人公は父親と母親に対して『お母様』『お父様』と呼んでいたので、家族に対して『お姉様』や『お兄様』などを使うのは普通だと思っています。
清楚で優しい敬語キャラって良いですよね。そのキャラが怒った時に怖いのも好きです。




