暴走状態(式視点)
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――式視点――
室内はかなりの霊力で満たされており、主の霊力で作られている私でさえ、長時間の滞在は難しいと感じるほどであった。
とはいえ、何も動かないわけにもいかず、人外に属する方だというレティも加えて、私達は一度顔を見合わせてから室内に入り、行動を開始した。
私以上に室内での行動ができないであろう紗良ちゃんと五郎には霊力酔いによって気絶している幹部二名を運び出してもらい、そのまま監視役になってもらうことにした。
いくら低いとはいえ、術を使うことができる程度の霊力量はある二人だから、ただの一般人である信者達の監視だけでは不安だったからな。
桜桃軍の上位二名が見張っていれば、ろくな行動は取れないだろうという判断だ。
「人ではない、という感じである私でさえ辛いなんて、時々思っていたけれど、本当に月夜は人間なの?」
室内に満たされている霊力の量に圧巻されている様子のレティの言葉に、私も何とも言えない顔になった。
それは私にもわからない部分であるがゆえに、答えようがなかったのだ。
「現状は人だ。まあ、今後もそうかは私にもわからないが」
「よねぇ。神々に愛されているという点がどう作用するのか、私も知らないけれど、度が過ぎれば薬も毒となるということを理解できる者達なの?」
「さぁな。主は一言も私達にはそういった話をしなかった。本人にさえどうなるかわかっていなかった可能性は十分にあり得る」
「なるほど。それは確かにあり得そうね」
無駄口を叩きつつも、お互いに霊力の中心部に向かって歩いていけば、結界のようなものが張られた陣の中に主と柊の姿が見えた。
柊の方は……どうやら、意識が戻ったらしい。私に連絡を取るよりも主の意識を取り戻す方が優先されたか。相変わらずだ。
内心そう思いつつも、いつものことなので何かを言うつもりはない。
ただまあ、レティは柊を見て、眉を寄せていたが。
人間には辛いどころの話ではないこの霊力の満たされようの中で普通に意識を保ったまま、主を抱き抱え必死に抑え込もうとしているのがわかったのだろう。
五郎以上の霊力だったとしても、肉体が人間である以上は人外達よりも下になる。とっくに人体に影響が出ていても不思議はないだけの時間が経っていて平然としているのは異様な光景だ。
「……彼、人間?」
「百年は人間をしていると言っていた」
「それ、人間じゃないでしょ」
「本人がそう言っているのだ。ならば、人間扱いが正しい」
「……」
微妙な顔で見てくるレティに同意しつつも、本人の自己申告であることに変わりがない上に、主もまた彼を人間扱いしていたので、私はそれ以上何も言わなかった。
レティの方も何となく事情は察したのか、何も言うことはせず、気持ちを切り替えて主と柊の方を見ていた。ここで聞いても意味のないことだからな。
今は主の暴走を止めるのが最優先。優先順位を間違うことはしないあたり、長生きしているというのは本当の話なんだろう。
「柊、主のご様子は」
「見ての通り。暴走を止めようとする最後の意識が保たれているようで、現状これで収まっていますが、時間の問題でしょう。そちらは?」
「幹部も含め、お前と主以外は全員が避難している。避難できていない者を探していた者達がいたが……その者達も避難済みだ」
一度視線をレティに向ければ、意味合いを理解したレティが一つ頷きを返してきたので、柊に返答する。
逃げ遅れた者や、逃げようとしない者を避難させるために、レティは美奈子達に同行していたので、そちらのことは彼女が知っているのだ。
まあ、殆どの者がわかりやすく固まっていたこともあって、すぐに終わり、私達が室内に入る前に来たのだが。
私の返答に対し、柊は主が悲しむ状況は回避されたことがわかったからなのか、安堵した様子を見せた。彼にとっては主以上に優先すべき存在はいないとはいえ、主が悲しむのだけは遠慮したかったのだろう。本当に主至上主義の男だ。
「式、どこまで耐えられますか?」
「生憎と私でもこれ以上は難しいかもしれない。主の霊力量が以前にも増して増えている」
「やはりですか……」
記憶を失う前の主を知っている柊も同じことを感じていたのか、溜息を吐きたげな顔をしつつも、少しだけ焦った様子を見せた。
主の暴走が起こっても大丈夫な位置まで避難は完了しているとはいえ、暴走でここらへんが焦土に変わる前に止めておきたいのも事実。
だが、暴走を止める方法が確立などされていないのもまた本当なので、非常に困った事態に現状はなっている。
「月夜自身が抑え込め続けられるのはどれほどなの?」
「わからん。主の意思の強さ次第だな」
「それだと私達がひとたまりもないのだけれど……」
「私と柊は構わんが……主が気にするか。仕方がない、主の霊力でなるべく主の中に戻すようにすれば何とかなるだろう」
一番可能性がありそうな方法を提示すれば、柊とレティも同意見だったようで、頷き、私の方を見てきた。この中でそんな芸当ができるのは私だけだからな。
他者の霊力を集めて中に戻すなど、そう簡単にできることではない。普通は霊力同士でぶつかり合い、中に入れるなんてことは無理だ。
私ができるのは単純に主の霊力で作られた存在であるがゆえ。でなければ私でも無理だ。攻撃方面の知識や技術しか有していないんだからな。
「済まないが、結界を張っておいてくれないか? 失敗すれば大惨事になりかねん」
「了解よ」
「わかっています」
すぐさま双方から了承を得られ、私は陣の中に入った。すっかり陣は主の力により書き換えられてしまっているようで、主の霊力を最大限抑え込む結界へと変貌していた。
そこに主の霊力しかない私が入れるのはそういう結界へと変わっているからだ。でなければ弾かれている。
柊が陣の中で留まっている理由もそれだ。一度出れば、絶対に中には入れないからな。
などと考えつつも時間が少ないこともわかっているので、早々に私は主の胸の位置に手を置き、周囲に満ちる主の霊力を集め固めるイメージで収縮させ、一気に主の中に押し込んだ。
それでもやはり抵抗はされ、押し戻されそうになりつつも、何とか中に戻すことで、徐々にではあるが、室内の霊力が薄れてき始めた。
まあ、それでも人間が居れば霊力酔いを起こしていると思うが……。
何もできないレティと柊も結界を張ることに専念しているのか、徐々に主の中に戻していくことで暴走を抑え込もうとしている私に何も言ってこない。
私しかできないというのもわかっているし、主の抵抗が思った以上に強いというのも理由の一つだが。
彼らとて特殊な力を持つ者。主の抵抗がどれほどのものなのか、わかる。思った以上の抵抗具合に寧ろ、焦った様子を見せているぐらいだ。
できるだけ更に外に霊力が放出されるのを防ぎつつも、行なうが、それでもかなりの量が外に漏れている。霊力を放出することで、周囲に警告を行なっていると言っても過言ではないので仕方がない。
暴走状態の人物は本格的な暴走に入る前に霊力の放出が起きる。これは単純に霊力量が増大するというのもあるが、それ以上に体からの警告を意味する。
本人の意志に限らず、肉体は基本的に暴走を阻止する方向で動く。そもそもが肉体がある時点で限界を設定しているようなものなので、その制御から外れようとしているがための警告だ。
なので、自らの意思で暴走しようとも、肉体から霊力は放出される。こういったことを知っているとわかることである。
改めて主の霊力の規格外さに舌を巻きつつ、徐々にであっても霊力を戻していくと、暴走状態が落ち着いたのか、急に入れやすくなった。
そのことを実感しつつも、まだ抵抗は残っているため、私は戻す作業を続けるのであった。
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