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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
73/82

救出(式視点)

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――式視点――


 主の悲鳴のようなものが聞こえた気がした直後、自身の中に流れる主の霊力が爆発的に高まっていくのを感じて蒼褪めた。

 その状況は何が起こっているのか、私にはわかったからだ。


「まずい! 主が暴走状態に入ったかもしれん」


 私が声を上げれば、全員の表情に更に緊張感が籠もった。

 中に流れ込んでくる霊力は明らかに主のものだが、霊力と共に流れてくる主の身に起きたことに関する主の記憶は今までなかったこと。

 今までになかったということはつまり、記憶を取り戻しつつあるということだ。

 知らなければできないことなのだから当然ではあるのだが、現状を考えると非常にまずい。主が居る場所にはそれなりに人が居て、霊力に当てられている可能性が高いからだ。


「やはり、柊は幹部の足りない霊力を補う存在として居たようだ。とはいえ、本気でする気はなかっただろうが……暴行を受けて気絶している状態では抵抗などできまい」

「その柊、という男は近接戦闘ができないんか?」


 不思議そうに新ちゃんが聞いてきたので頷いておく。正確にはできないわけではないが、現在は力の大部分を封じられていると思われるため、碌な抵抗ができないのだが。

 そこまで話して良い物なのかがわからないので、黙ったまま頷くと、話せない部分もあると察したのか、それ以上新ちゃんが聞いてくることはなかった。

 彼らとて、黙っていることというのは存在するだろうから、踏み込もうと思えなかったのだろう。


「現状、主の意識はないものと思われる。ただ、近くにいる私達が主の霊力を暴走しても感じられていないということは、無意識に抑え込もうとしている可能性もある」


 私の中で今までにない龍の如く暴れる霊力は、外に出ていればいくら結界を隔てていると言っても、私達にも感じ取れるはずである。

 なのに感じ取れないということは、抑え込もうとしてできなかった部分を私に流しているとも考えられる。

 記憶を失う前に作り出された私は戦闘を行なえることを想定されているので、強度は結構ある。主の霊力全ては難しくとも、それなりは流されても普通に過ごせる。

 そういう判断が無意識であってもできるということは、記憶を取り戻しかけているということだが。


「……確かに。どれほど探っても霊力が感じ取れん。必要以上に抑え込むことで周囲に被害が行かないようにしているのかもしれんな」

「規格外ねぇ……」

「霊力を有している時点で、妾達も規格外じゃろう。あの子は昔の知識と技術を有する子じゃ。昔から密かに受け継がれてきた知識や技術があの子の味方をしているのかもしれぬぞ」


 美奈子の発言に尤もなことを言った紗良ちゃんは、それでも視線を結界に向けたままだった。

 いくら抑え込んでいようとも、ずっとそれが続くとは思えないから、早急な退避が求められる。


「ただ、いくら抑え込んでいようとも、近くにいると思われる幹部二人と柊はかなりの霊力に当てられているはずだ。おそらくは霊力酔いを起こしていると思う」

「霊力酔いって……高濃度の霊力の満ちる場所に行って、人間に車酔いのような現象が出ることよね? それほどに月夜の霊力って高いの?」

「主は普段はかなり抑え込んでいるからな。記憶喪失の間も維持されるようにされていたから、あまり感じないのだろうが……主が極一部を表に放出しただけで、周辺の霊力持ちにとって回復場所になるぞ」


 事実を言えば、目を見開いて驚く凜だが、本当に事実だ。柊でさえ『規格外』と言うほどの霊力量は伊達ではない。

 予想でしかないが、主は部屋から出ない程度の抑え込みしかできていないだろう。何だったら本人に意識はない。それでもかなり抑え込まれていると考える方が妥当だ。

 本人の意識がないと、部屋に入るのは相当苦労することになるんだが……どうしたものか。

 私は主の霊力に作られた式であり、内側が主の霊力で完全に染まっているので、さほどと思われるが、他の者達はそうではない。

 まあ、柊は無事な可能性も零ではないが。あいつも霊力はかなり高いからな。


「とりあえず、霊力酔いをしていない、もしくは軽い者から早急に退避させるべきだ」

「この結界を考えるとできそうにないが……やってみよう」


 難しい顔をしながらも了承した五郎が結界に触れ、一気に霊力を一点に集中して流した。

 しかし、思ったよりも修復速度が速く、すぐに治ってしまった。


「こういう継続型は私には不向きだな……」

「……時間が惜しい。力業で行かせてもらおう」

「何か策があるのか?」


 不思議そうに言う五郎に私は結界に触れ、内側で激しく暴れている主の霊力を放出した。

 それを敢えて結界に沿うように展開し、一気に結界を押し潰した。

 軋んだ音を立てた結界に皹が入る音が鳴った後、結界は意味を失くしたように消え去った。


「入れるようになった。早く行くぞ」

「いや、月夜ちゃんの霊力量えげつないな……」


 一瞬で壊してみせた主の霊力量に顔を引き攣らせる新ちゃんに更なる事実を投下しておこう。


「主ならば視界に入った瞬間に解除できる。主は結界などの構造を瞬時に視て把握できるからな」

「え゛」


 後ろで更にドン引きするような声音を新ちゃんが発したのがわかったが、今は構っている時間が惜しい。主の悲しむ顔など見たくもないので、早急に『信仰会』に所属している者達を避難させなければ。

 他の者達も衝撃の事実に固まっていたが、今はそれどころではないということを思い出したのか、すぐさま行動に移していた。

 主の影響により洗脳が解かれていた者達は何か異様な感じがするからなのか、比較的結界の近くに居て、避難するように言えば、全員が頷いて冷静に逃げ出していた。

 ただ、洗脳ではなく、自らの意思で所属していた者達は、私達の言葉に耳を貸さず、部屋に入ろうとして霊力酔いを起こし気絶していたが。

 本当に助ける意味などないのだが、彼らから搾り取れる情報もあるだろうと考えて、レティが異空間に彼らを入れ、彼女が移動することで避難を完了させていた。

 本人が動けば異空間の出口も変わるので、こういう時は楽だな。

 そうして部屋の外に居た者達の避難が完了し、自らの意思で所属していると思われる者達は厳重に拘束された上で洗脳されていた者達が見張っていると言ってくれたので預ける。

 暴力は死なない程度で振るっても良いことにした。さすがに彼らは術による抵抗はできるほど霊力がないようなので、そうしないと逃げ出す可能性があったんでな。

 まあ、幹部がかなり低いようなので、彼らも碌に術を使えない可能性の方が高いが。一応霊力が感じ取れるほどにはあったのでな。


「私達は他にも避難していない者が居ないか見てくるわぁ」

「わかった。妾と『騰蛇』は式と一緒に部屋の中に入ろう。霊力量から考えると妾と『騰蛇』しか少しの間とはいえ動けそうな者が居ない」


 紗良ちゃんの言葉に頷きつつも、美奈子達が去り、気配を感じ取れなくなったところで無駄に装飾が凝られていて逆に悪くなっていそうなほど豪華な扉を開ける。

 やはり部屋の中は主の霊力で充満しており、紗良ちゃんと五郎が辛そうな顔をするほどだ。

 桜桃軍の中でも群を抜くという霊力量を誇る彼らが、だ。

 主の霊力量の規格外さに今更ながらに内心舌を巻きつつ私達は部屋の中に一歩踏み出したのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


もうそろそろ第一章が終わります。

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