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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
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思わぬ協力者

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 結界の綻びから式を放ち、更に数日が経過した。

 さすがに柊の術はもう効果を発揮していないけれど、思ったよりもどうにかできる人材が存在しないのか、私はあれからも普通に過ごすことができている。

 とはいえ安心していい理由にはならないので、現在でも警戒中だ。

 結構な日数が経過しているけども、あまりにも危険な目に遭わない私に、式達もなるべく姿を悟られないように動くことにしたと報告が来た。

 あれから、記憶は順調に戻りつつあり、私は、あの神社での役割や神降ろしの技術などを完全に思い出していた。

 しかし、こういったことも予想していたのか、記憶はそれ以上戻ることはせず、現状維持で止まっていた。

 お蔭で暴走状態にも陥る様子がないので、良かったのかもしれない。

 柊が言うには、二人いる幹部は両方ともかなり短気な性格らしいけど、今のところここに来る様子はない。

 少し疑問に感じて柊に聞いてみたら、洗脳が解けた元信者達が結託して、私に近づけないように誘導しているとのこと。

 思わぬ事態に驚く私に柊は苦笑していたので、本当に彼にとっても予想外の事態だったようだ。まあ、そう簡単に洗脳が解けるとは誰も思わないらしいけど。

 解けたのは、私が無意識に言霊を使っていたからではないか、とのことだ。確かにそれならば解けたのも理解できるし、あそこまで大人しく聞いていたのも頷ける。

 普通は、洗脳の力の方が強く、ただの言葉など突っぱねてしまうらしいよ。初めて知ったよね。

 というわけで、幹部二人は非常に苛立っているそうだ。その内、私のところに無理矢理来るかもしれないとまで言われたので、本当に短気な性格みたい。

 何だったら、何か気に食わないことがあるとすぐに暴力を振るうとまで言われたからね……柊が舌打ちしながら言っていたので、相当だと思うよ。

 柊は、どうでもいい存在には認識さえしないタイプらしいけど、あまりに鬱陶しかったり、私を侮辱したりすると、敵認定して表情を取り繕いながら、破滅させるそう。

 式からの情報に柊が否定しなかったのが余計に怖かった。見た目が優しいお兄さんでしかないので、恐ろしさは倍増だ。

 顔を引き攣らせてガン見するしかない私に、ただ微笑みだけを返す柊。第三者が居たら、同じく柊に寒気を感じて身を固くしていたと思う。

 微笑みはいつも通りなのに、寒気を感じさせる笑みに変えられるとか、どういう技術なのだろう。ちょっと私には理解できない技術なので、是非とも二度と見せないでいただきたい。

 ただし、私が無理をしたりとかすると同じ微笑みを浮かべて私を叱っていたらしいので、今後はあの微笑みをよく見る表情となるかもしれない。

 まあ、できるだけ怒らせないようにはしようと思う。思うだけで、何かあったら体が動いてしまうだろうことは予想できるので、きっと無理なのだろうとも悟っているけども。


「と、いうことは、まだしばらくは来ない可能性があるのですか?」

「いえ、いくら元信者達に阻まれていると言っても、幹部はある程度でも術が使えることが必須条件です。なので、いずれは突破されることになるかと」

「だから誘導だけなのですね」

「はい。さすがに明確な対抗姿勢を見せてしまうと、元信者達では太刀打ちできませんからね」


 私が攻撃方面も得意であったならば、まだ良かったのですが……と残念そうに言う柊に首を横に振る。潜入を得意とすることや、攻撃手段が武器以外にはあまりないことは先に教えてもらっていたからね。

 元より、下手な動きを見せれば、柊が一点で狙われることになってしまうので、それは避けさせたい、ということで、拒否したのは私なので、動けないのは当然だ。


「ところで、姫。記憶の方はどれほどお戻りに?」

「今のところ、神社のことや祈りなどは完全に思い出していますね」

「それほどに……いえ、確かにそれらは長く行なわないのは宜しくないので、判断はわかるのですが」


 でもどこか良く思っていないというのがわかる表情をした柊に首を傾げるが、すぐに思い至った。

 式が言うには、彼は本当に私が最優先という感じらしいので、神々のためだけに存在すると言っても過言ではないという扱いの以前の私が本当に嫌そうにしていたという話を他から聞いたそう。

 他にも私の配下はいるらしいけど、私の言葉以外ではまず出てこないらしい。柊以上の曲者がまだいると思うと、非常に微妙な気持ちにさせられるんだけど、今は何も言わないでおこうと思います。


「ですが、それですと余計に警戒を怠れませんね。姫にその技術と知識が戻っていることが知られようものならば、確実に無理矢理にでも神降ろしをさせるでしょうから」

「それほどに神々を降ろすことに一体どうして拘るのでしょうか……」


 思わずそう呟けば、柊も理解できないとばかりに肩を竦めた。長くこの組織に居たという柊でさえ理解できぬほどに、彼らの思想は行き過ぎているようだ。

 神々を絶対者と崇めているわけでもなく、ただただ利用できる存在としか認識していないとしか思えないような発言をしたあの二人の幹部。あの二人がここに居るらしいけれど、彼らが無理矢理に降ろさせるように私に強要したところで、神々による報復しか返ってこないというのに、何がしたいのだろうか。


「さて、私には理解できませんね。願いを叶えてもらう側が、上から目線で命令しようとしていることなど、理解できるはずがありません。神と人とでは常識が違うのだということにさえ思い至っていないようですし」

「そう、ですか……」


 嫌っているというのがよくわかる声で言った柊に頷きつつも、私は益々彼らに対する不信感を抱いた。記憶を失う前の私が神々に対しどういった感情を向けていたのかまではわからないけど、幹部の者達とは違っただろうといのだけはわかる。

 でなければあそこまで守ってはくれないだろう。役職が役職だろうとも、嫌悪や憎悪を向けているならば、相手とて向ける感情はそれ相応になるはずだ。

 優しさに優しさが必ずしも返ってくるとは思わないが、神々にだって、そういった感情があると思うのは悪いことなんだろうか?

 彼らの報復はそうでなくとも怖いという話がある。だからこそ余計に対応は慎重に行なわなければならないはずなのに、何故か幹部二人にそんな様子は見られないという。

 一体何を考えているのか、私にはわからない。彼らは本当に神々に自身の願いを叶えてほしいのだろうか? それとも、神々は自分達の駒だと無条件に信じてでもいるのだろうか?

 色々と考えるも、これと言った正解は出てこない。柊の言う通り、何を考えてこんなことをしているのかさっぱりだ。


「ただまあ、彼らは神々の存在を心の底から信じているわけではないようですが。そんなのだから、どれほど願っても彼らの前には現れないのですがね。信じぬ者は現れても気づかないでしょうし」

「それはどういう……」

「妖を視る力を有するのとはまた別の、気持ちの問題というものがあるのです。信じる者は救われる、とは言いませんが、信じる者の前に姿を見せるのは神々にとっては普通のこと。己の存在を認めぬ者と人が関わりたくないと考えるのと同じですね」

「ああ……まあ、そうでしょうね」


 柊の説明に納得し、私も頷く。確かに、何をやっても認めてくれないどころか、見下してくる人に対して、人間だって関わりたくないと考えるのが普通だよね……。そりゃ、神々は違うとは言い切れないよね。

 人間と神って確かに考え方が違う可能性の方が高いけれど、同時に同じ部分もあるんだろうなぁ。

 そう思うと変な親近感が出てくるのだから、不思議なものだ。

 とはいえ、いくら考えたところで答えが出てこないのもまた事実。


「これはなるべく早く来ることができるならば、来てもらった方がよさそうですね。元信者達に被害が出る前に何とかしなければ」

「承知いたしました。式にも報告しておきます」


 桜桃軍の人達も被害は少ない方が良いという考えの人達だから、と考え、指示を出せば、即座に柊が跪き、頷いた。これが彼のいつもの姿だ。

 その姿を見て、私はこれ以上の記憶への刺激が起きないことを願いながら、部屋を去った柊の後姿を眺めたのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


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