過去の教え
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
あれから式達が動きを止めたというのは本当みたいで、干渉されているような感じはなくなった。それでも少しだけであっても無理矢理干渉された影響というのは出てき始めているけど。
徐々にではあるけど、記憶の方がまた戻ってくるようになったのだ。私の方にそれを止める術がないのでこれは非常にまずい状況だったりする。
こんな場所で暴走なんてすれば、ほぼ確実に死傷者が出る。柊が言うには、結構な人数がここに居るらしいので、被害はどれほどになるか想像もつかない。
その柊は私の命令を聞いてからすぐに動いてくれたようだけど、やはりそう簡単には場所の特定まではできないようで、未だ現状は変わっていない。
私の方も焦った様子とか見せないためにいつも通りに過ごしている状態です。
「とは言っても、ずっとこのままも危険なんだよね……」
思わず声が漏れるが、今は誰もいないし、声を聞く機械とかもないらしいので、大丈夫。もしも聞かれたところで困らない発言ではあるだろうけど。
いやだって、私からすれば誘拐ですからね、これ。傍から聞いたらただ逃げる算段を考えているようにしか聞こえません。
……なんて一人で考えていても埒が明かないんだけどさ。
とりあえずは一歩。緊張感を持ってはいけないって結構な無理難題だと思うけど、今はそれどころではない。
そう考えて私は『信仰会』の人達でも察知できない影の能力を使うことにした。
まだ操作に不慣れということもあって、今まで積極的に使ってきたことはなかったけど、ここでこういう弊害が出るなら訓練しておけば良かったなと後悔。
慣れるのにはかなり時間がかかるということもあって、早急な自衛手段が必要とされていた当時は後回しにされてしまったのだ。攻撃はできるけど、まずは操作に慣れないと予想外の結果を発揮してしまう場合が殆どだと言われてしまうとね……。
そういうわけで、私は影を操作することはしても、本格的な訓練はしていなかった。お蔭で現状でも干渉が限界なんだけど。
だらだらと考えているだけでは何にもならないから、やることにしたけど、上手く行くのかな……。
溜息を吐きつつも、頭を振って雑念を消し、手を合わせてから目を閉じた。
その瞬間、『信仰会』の敷地内に見えない『影』が広がり、情報を私に伝えてきた。
影から伝わってくる情報から考えるにここはかなりの広さみたい。個人での逃亡はまず無理だろうと判断できる程度には人も多く、その人数から暴走した際の被害は相当なものになるとわかった。
そうなってくると、逃亡は諦めた方が良いかもしれない。下手に個人で逃亡しようとして連れ戻された場合は本当に形振り構わずになる可能性が高い。
私に食事を運んでくる女性は何か思うところが出てき始めたのか、時折私と会話をしてくるようになってきた。私との会話で何か感じるものがあるのかもしれない。
別に困る会話をしているわけではないから、私も応じてはいるけども、会話を重ねるごとに彼女は正気? になっているようだった。
あと、女性から何か言われたのか、そういう人が結構な人数集まるようになってきた。そういう姿を見て、彼らが術によって洗脳か何かをされているのではないかと思うようになっていったが。
でなければそう簡単に自身が信じていることを変えられたりはしないだろう。おそらくは記憶を操作してた人物も倒れているんだろうなぁ。
水速さんって本人を見ている限り、優しそうな研究大好きな人みたいな感じだったんだけど、やっていることはえげつない。遠隔で敵の数を減らすとかどういう技術力をしているんだか。
内心、改めて水速さんのやっていることの恐ろしさを実感しつつ、敷地内を探っていると、幾つか引っ掛かりを感じる場所が出てきた。
等間隔にそれが配置されているのを確認したところで、それがここをわからなくさせている術の要なのだろうと思った。
そういうことができるであろう人物が全員倒れている現状でも術として効果を持続させていた理由がこれでわかった。確かに媒介があるなら人が居なくても大丈夫だよね……。
でも、これって結構な難易度の技じゃなかったっけ? できる人がいるって凄いな……。
他者の霊力を敏感に感じ取ることができる私でさえ、感じ取れるのが柊だけなので、本当にこの場所にはそういった者達が居ないのだろう。
となると、ここに居る人達は全員が洗脳かそれに近いことをされている者達なのかもしれない。要するに捨て駒にすることをすでに決められているという感じだ。
あっさりと捨て駒にする『信仰会』に嫌悪感が湧いてくるが、今はそれどころではない。一番の問題は私がその術を解除したとして、すぐには式達も来ることができないという点です。
どうしたものか……。
『どの術にも綻びというのは生じてくる場合があるのよ』
突如頭の中で響いた声に肩を震わせる。それが母親の声だとわかった状態でもいきなりだったために驚いたのだ。
こうして記憶が戻ってくることは出てきていたけど、こんなピンポイントで思い出すってどういうことだ。精神的に追い詰められているからか?
『できた時は綻びがなくとも、時が経つごとに出てくるの。常にかけ直してもいない限りはいずれは綻びが大きくなり術として保っていられずに崩れるように消えてしまうわ』
『私達がしている祈りもそれに近いの。だから気を付けてするようにね?』
頭の中で響く母親の声が遠退き、私は目を開けた。母親の声が響いたのと同時に記憶を失う前の私がしていたであろう『祈り』とやらも思い出したけど、申し訳ないが今はそれよりも優先することがある。
ここが認知されないようにしている術に干渉しないように、ここの位置を教えるということはギリギリ私でも可能な範囲だ。
幸いにも式を作る方法も記憶に干渉されたことで思い出しているしね……。
問題は紙があるかどうかだけど、そこも無事にクリアしている。
影の能力を利用して紙とかも持っているからね。道具とかを入れておくことができる代物は全て取られたけど、影はどう頑張っても無理だから持っていられたわけです。
影を通って脱出することも考えたけど、それは終点が決まっていないと無理なわけでして。当然ながらどこか場所を登録するようなこともしていなかったから、これも断念するしかなかったんだよね。
登録の仕方は知っていたけど、あの部屋からまず動くことがなかったから登録する必要性を感じてなかった。油断したのが問題だったわ。
今後は常に居るのだとしても登録しておこうと思います。いや、絶対にする。
さて、ここまで考えておいてなんだけど、早急に綻びを見つけなければ。時間がないので、柊にも来たら伝えておかなくちゃいけない。
人の意識を逸らす術もそう長期間持たないと最初に言われてしまっていたから、早めに行動しておくべきだ。式は一度放てば、私に何かあったとしても最初に命じられた命令を遂行してくれるので、どうにかしてレティ達に向けて放っておきたい。
そう考え、私は再度目を閉じる。影による干渉をすることになるので、術を張った人には伝わってしまうんだけど……水速さんの影響により、そういった人も倒れていると思われるので大丈夫だろう。
というか本当に時間がないので、今はそういうのを考えていられる暇がない。もしも起きていたら速攻で干渉されているのが伝わってしまうけど、相手まではわからないから、外からの干渉だと思われて終わるだろう。まさか内側からの干渉だとは思うまい。
そもそも、ああいった術は内側のものを隠したりする意図があるために、内側からの干渉には甘い場合が殆どらしい。五郎さんに教えてもらった知識がここで役に立つとは思わなかったな。
なので、干渉されているのを感じ取ったとしても、影だと霊力で干渉しているわけではないので、余計にわからないのだとか。結界を張った紗良ちゃんとかからの情報だけど。
色々と彼らから教えてもらった知識を思い出すけれど、順調に結界に干渉していっている。
残念ながら改変は無理そう。改変しようとした瞬間から改変した要素が元に戻されるのが伝わってきたので、対策済みだったようだ。
ただまあ、綻びはあった。そこから影で広げるとなってくるとさすがに綻びを治されそうなので止めておき、私は一度戻ってきた。
柊が来たら事情を話し、式を放つためだ。
何とかなりそうだと思いつつ、私は過去の出来事の重要さを改めて噛み締めるのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




