トラウマ製造機
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
――レティシア視点――
「ええい、鬱陶しい!」
そんな声を上げて破壊していく様は正しく破壊神だったわ。
あれから位置がずらされているということが早々にわかり、私達は片っ端から潰していくことにした。何を考えたのか、あちらは自分達の隠れていた場所を設定していたのよ。
おかげで何の問題もなく全てを破壊で行けてしまっているのだけど。もしかして、相手はあまり頭の良い者は残っていないのかしら。
破壊していくものの、抵抗する者どころか、人が一人もいないので、相手にもこれは気付かれていない可能性が非常に高いわ。
だからって手加減する必要性は感じないけども。
「……む」
「どうかしたの」
一緒に行動していた一人である式が声を上げたのを即座に私が反応すれば、式が肩を竦めて話してくれた。
「いや、主の側に居る者から連絡が来たのだ。主は今のところ平穏に過ごせており、意識を逸らす術で主の記憶が戻るのを阻止しているとのことだ」
「あら、そっちにも協力者が居たの?」
思わぬところからの無事を伝える報告に私達は一度足を止めて式を見た。でも、『信仰会』の中に協力者が居るなんて思わなかったわね……。
そう思ったら式が微妙な顔で首を横に振った。
「確かにあの者は主の配下ではあるが、協力者ではない。そもそも、あの者が主以外の言うことを聞くならばもっと早い段階で姿を見せている」
「ああ……貴女と違って主を明確化してるのね……」
「私も主が最優先ではあるが、周囲の声を聞かないわけではない。……が、あの者はそうではない。本当に主の声しか聞かない上に、それ以外はどうでも良いとばかりの対応をするからな」
ああ、それは確かに言えないわね。確実に報告してくれるのが主である月夜に対してだけ、なのだから。今回、式に報告したのも、主の平穏を伝えるだけ、という感じなのでしょう。
何と言うか……心酔具合が凄いわね。
「あの者からすれば私は主の記憶の一部を有した代理人のような感覚だ。どうせ、主にはこちらの動きを全て話していることだろう。主が覚えてなかろうが、あの者は気にしないだろうしな」
「戻そうとは思わないの?」
戻す気がない、とばかりの言葉に驚く。そこまで心酔した主の記憶を取り戻させようとしないだなんて……余程でしょうに。
でも、式は相手の判断を当たり前としているみたい。
「主の霊力量は確かに桁外れだが、そもそもが、主の記憶は主にしか取り戻せないと言える。時間経過で勝手に解除されるはずの術が私が危険視した段階で解除を止めたのは、そういうことだろう。あの者もそう判断し、取り戻すことに消極的だ」
「止まったの?」
「ああ。正確には私が言う前ではあるが」
思ったよりも複雑な構造をしているらしい、月夜の記憶に掛けられた術に驚く。本当に記憶を有していた頃の月夜は相当な術者だったのでしょうね。
たった十代前半の中学生が有しているとは思えない技術だけど。
でも、意識を逸らす術を行使しているからといって、完全に安全とは言わないわよね。つかの間の平穏とも言えるわ。
そう思えば、心の内が伝わったのか、式も頷いた。
「もしも主が望まぬことをされるのであれば、あの者も抵抗するだろうが……正直に言って、あの者は攻撃向きの術は不得意としている。だからこそ潜入の形を取っているんだが」
「なるほどねぇ」
主の側で守りをするのではなく、潜入をしていたのは、そういうことらしい。まあ、戦闘能力が低いと思っているならば、そっちに行くという手段もあるわよね。
式の話を聞いていた周囲も現状がわかったことで少しだけ安堵した様子を見せつつも、すぐさま行動を開始した。
「その潜入している者に場所を教えてもらうことはできぬのか?」
「できない。元々から厳重に隠されているようで、彼自身も場所の把握は完全にはできていないそうだ」
「なるほど」
おそらくは、人避けなどの術の影響でしょうね。自分の目から見えている景色が正解とは言い難い状況にその場所はあるのでしょう。でなければ、伝えてきているでしょうし。
ただまあ、破壊されていくごとに近づいてきているみたいで、全て破壊できれば確実にあちらに辿り着けるとのこと。とはいえ、術は大量に仕掛けられているので、それを突破しないといけないみたいだけど。
それでも確実に近付けているのだけがわかっただけでも僥倖でしょう。紗良も俄然やる気になっているし。……その勢いで何人か死にそうなほどに。
五郎が溜息を吐きながら近づき過ぎないように言っているので、今の彼女は本当に戦闘狂状態らしい。何とも『勾陳』の名に恥じない様ね……。
性根が似ている者が就くとは聞いていたけども、彼女に関しては何か違う気がするのだけど。別に戦いを好むことがイコールで戦闘狂という感じにはならないのだし。
いえまあ、実力的には申し分ないのはわかるのだけど。十二天将の中で最強のはずの五郎でさえ距離を置くその戦闘狂具合は見直した方が良いんじゃないの?
そうは思っても言わないでおくけど。ただまあ、時間を追うごとに凶暴さが増している気がするのは私だけなのかしら……?
「はぁ……あの馬鹿、ついに本気で戦闘狂になったな。……皆の者よ、あの者から距離を置け。下手に近づくと応戦になるぞ」
「うへぇ……だから、『勾陳』の戦闘時、嫌なんだよなぁ。距離感を保ってないと本気で攻撃されるし。何だったら戦闘が終わった後も『妾の獲物じゃったのに』とかグチグチ言われるし」
「戦闘狂に何を言っても意味がない。大人しく勝てるならば場を譲るのが正解だ」
蓮の言葉に五郎もフォローする気はないみたいで、そんなことを言っている。そう言われてしまうほどに酷い時があったのでしょうね……。
思わず呆れた顔をしていると、紗良の様子が更に変化した。どうやら、五郎の言う、『本気の戦闘狂状態』になったようね。
「くっくっ……くはははは! 妾の邪魔をする者など、皆殺しよ!」
「……とんでもない発言をしているけども」
「あれが『勾陳』の本性だ。仲間意識はあれど、戦闘の前には捨てられる。言葉で止められるのは月夜ぐらいだ。……再会したら、止めてもらうといい」
「その言い方的に月夜にその状態で会ったことがあると言われた気がするんだけど」
「あるな。月夜が困った顔で『お帰りなさい』と言っただけでいつも通りに戻ったぞ」
「月夜の言霊が影響を与えているのかしらね……」
緊迫感が通常ならば漂うはずの状況下でこの会話。非常に脱力したくなる会話だわ……。
ずっと笑いながら破壊活動を続けている紗良に全員がドン引きした顔をしているし、五郎は遠い目になっているし……結構な被害になっているような気がするのだけど。
武器が鞭だと聞いた時は、耳を疑ったけども、まさか、一回振っただけで周辺も含めて吹っ飛ぶほどの威力だとは思わなかったわ……人間がまともに受け止めたら死ぬわよ、あれ。
呆れるを通り越して顔を引き攣らせるしかない私に五郎が無言で肩に手を置いて首を横に振った。
「止めたところで止まらんし、こっちの消耗が増えるだけだ。暴れたいなら暴れさせておけ。少々機嫌も悪いようだからな」
「主を少し目を離した隙に奪われたのが気に食わないのだろう」
式と五郎の言葉に納得する。ああ、確かにそんな感じはしたわね、と。
だからって、見慣れていない者達が多い中であれは良いのかしら……結構、十二天将に幻想めいたものを抱く者だっていると聞いたのだけども。
とは思ったが、そちらも問題なかったらしい。
「この場には十二天将が殆どだ。違う者も、見慣れている者だけなので問題はない。見慣れていてもドン引きする光景だとは思うが」
「周囲の抱く感想よりも紗良の鬱憤晴らしの方が優先が高いのね」
「当たり前だ。下手に残された時の方が訓練が悲惨なものになるぞ」
意外と訓練が厳しいと言われている者達の中で一番優しい五郎の言葉に頷く。鬱憤が溜まれば溜まるほど、味方に被害が行くのならば、ここで発散しておけと彼は言いたいのでしょう。
良かったわね、ここに一般所属者が大勢居なくって。ただ、今の五郎の発言を聞いていた春樹とかが蒼褪めて引き攣った顔をしているのだけど。
もしかして、相当恐ろしい訓練になったと聞いた時の原因を知ってしまったがゆえの表情だったり……しないわよね?
「主に変なことを教えないでくれないか……。記憶を持っていても、持っていなくても、箱入りだったせいか、純粋過ぎる部分がかなりあるので、染められると簡単に染まってしまうんだが……」
さすがに黙っていられなくなった式の言葉に、全員が思わず鞭を持ち、笑顔で周囲を破壊しまわっている月夜を想像してしまい、沙織が泣きそうな顔をし、十二天将も顔を引き攣らせつつも、すぐにあり得ないと否定できなかったことに絶望した顔をした。
結構な被害になっているようだけど、これ、着くまでに紗良の状態や周囲の精神状態とか何とかできるのでしょうね……?
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可愛い子に鞭を持たせて暴れさせたかった。




