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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
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唐突な状況変化

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 その日は一日普通に過ごすことができ、いつも通りの時間に就寝した。

 ただいつもと違ったのは、やたらと現実味のある夢を見た、ということだけ。

 それも今まであった、あの男性によるものとは違っていた。

 そうして気づいた時には、私は見知らぬ場所に居た。

 目覚めた瞬間、自身が誘拐されたのだと理解できたのは、以前から感じていた嫌な予感のお蔭だと思う。それでも受け入れるには時間がかかったけど。


「どうして……」


 知らない場所だと理解した瞬間、跳ね起き、周囲を見回すも、周囲に人はいない。

 しかもどうやって自分が来たのか、よくわからない。正確には夢を見ていたのだけは覚えているというだけで、連れて来られるまでの記憶が霞がかかったように思い出せない。

 他に情報は、と思い調べようと立ち上がりかけて、私は尻餅をついた。やたらと体に力が入らないことに驚き、また、自分の足首に鎖で繋がった錠がされていることに気づいて蒼褪めた。

 完全な逃亡阻止の錠だ。繋がっている鎖もそう簡単には壊せないと思うほど太いものが使われている。

 あまりに急に変化した状況に上手く理解できていないまま、呆然としていると、扉が開く音が聞こえ、私は咄嗟に怯えるように肩を震わせた。


「……あら。現人神様。お目覚めだったのでしたら、言ってくださいませ」

「……」


 そう少しだけ嬉しそうな声音で言ってきた達磨のお面を付けた女性に警戒の眼差しを向けるものの、相手はまったく気にした様子もなく跪いてきた。

 彼女が味方か敵かなんてわからないし、今は全員を敵と思った方が良いような気がする。そもそも、どうやって連れて来たのか。


「……どうやって、ここに」

「それはお答えできませんわ、現人神様。ああ、貴女様が来られて二日も目を覚まされておりませんから、お食事をお持ち致します」


 さらりと告げられた日数に動揺した。まさか二日も眠っているとは思わなかった。

 でも、この女性の落ち着きようからして、凛姉さん達は来ていないのだろう。もしくは誘拐される時に甚大な被害が出てしまっているか。

 頭の中でぐるぐる考えていると、先ほどの女性が食事を持って帰ってきたので、一旦思考を止めて、女性を見た。

 警戒されているのはわかっているのか、毒などは入っていないという証明とばかりに、食事を取り、食べている。毒見のためとはいえ、一口に該当するほどの量を食べるとは意外だ。

 一応、何も入っているわけではなさそうだ、と思いつつも、手を伸ばすことはしない。服も着替えさせられているので、何も食糧となれるものは持っていないけど、だからって食べる気にはなれない。

 私が食べるかどうかを確認することなく、女性が毒見を終えて早々に退室していったけど、それでも食べようとはならなかった。

 何も入っていないとしても、誘拐した組織の食事を食べたいとはとてもじゃないけど、思えなかった。

 二日も食事を取っていないというのはちょっと不安だし、毎日食事を取っている日々を送っているから、お腹が空いているのはわかっているけど、無理だ。

 とはいえ、足に力が入らないことからしても、もう暫くは動けない生活になるだろうことは予想できる。逃亡は……無理そうか。

 周囲を見回してみてわかったことだけど、窓は普通にある。良い場所と言える程度には日の入りが良いんだけど、窓がある、という部分が逆に気がかりだった。

 普通ならば逃亡を警戒して窓のない部屋を選ぶ。だというのに、窓のある部屋に入れている理由は……。


「外に沢山監視がいるから……かな」


 思わず口に出すも、小声だったからか、誰も来ることはない。聞こえたところで困る内容でもないので構わないんだけども。

 ただ、監視や警備の者が大量に居るならば、窓から逃げるのは悪手と言える。だからって扉から逃げるのも難しい気がする。というか、まだ目覚めたばかりなので、扉の先がどうなっているのか私にはわからない。

 わかったところで、どうせ警備の者達が配備されていると思われるので、無理だろう。現在自分が何階にいるのかはわからないけど、おそらくは一階ではない。

 となると、窓か、扉か。……階数によっては屋根上という選択肢も出てくるだろうか?

 空を飛ぶのは難しいかもしれないけど、不可能な話でもないはず。問題があるとすれば、どちらにせよ気づかれるのが早い、ということかな。

 窓を開けただけで、気づかれる可能性すらある。今も窓際のベッドに座って外を眺めているだけのように見えているから、動きがないだけだろう。


 それにしても……凛姉さんやレティ、式などの多くの戦闘ができる人達が集まった状態で誘拐を成功させたって、どういうこと?

 今までを考えると式とレティが揃って姿を見せている時は特に『信仰会』は接触を避けてきた。だというのに、今回は来たということは、以前から行けたということじゃないの?

 考えれば考えるほど、以前の『信仰会』の対応に疑問を抱く。先ほどの女性が答えられないとはっきり言ったということは、今までは無理だった、ということなのだろうか?

 だとすれば、今まで誘拐できなかった理由に説明は付くのかもしれないけど……私は記憶を失ってから一年以上過ごしている。それまでに介入しなかったのは何故?

 そこまで考えてふと、私はあることに気づいた。

 初めて神降ろしを成功させた時、『信仰会』の反応は早過ぎた。あれは私のことを常に見ていたからじゃないかと、今更ながらに思い出したのだ。

 記憶を失ったことで、私が神降ろしをできるのかどうかがわからなかったという可能性はある。というか、神降ろしをするための儀式を行なう必要性があった場合、私の記憶頼りになる。

 となれば、記憶を失っていてもできるかどうかを見られていたかもしれないんだよね……。

 そうなると神降ろしをする前は、見られているかどうかなんて、全員が気づいてすらいなかった。式やレティなどが居なかったとはいえ、周囲は十二天将が三人、桜桃軍内でも上位の実力者が二人も居たというのに。

 なのに、神降ろしをした後は見られているのが私にもわかるほど気配が隠せていなかった。

 隠す必要性がなかったから、隠さなかったとも取れるけど……そんなことをすれば、こちらが益々警戒して手出しが容易にできない場所に連れて行くことは予想できたはず。

 神降ろしをした後の気配を隠そうとしない眼差しはどうして?

 それに、あの時と違い、今は使える人材も多いわけではないはずなのに、あの女性は焦ったりしていない。部屋の様子からしても、過剰なほどの警戒心を感じない。

 不自然なほどに早い対応と、今までは無理という判断を下していた上に、駒が減ったのに行動に移せた理由。

 どう考えても普通ではない。普通ではないけども……今は情報が少なく過ぎてどれほど考えてもわからない。

 もしかしたら、まだ夢なのかと思ったけど、それにしては現実味があり過ぎる。

 とすると……知らない間に私に術が掛けられていたということになるが、それはまた無理だと即座に否定した。そういったのを退ける刻印がされている以上、無理だ、と。


「……あら」


 先ほどの女性の声がして、そちらに視線を向ければ、困った様子でこちらを見ていた。食事をしていないことが一発でわかったのだろう。

 一見するとこの人は普通そうに見える。勘も危険だと警鐘は鳴らしていないので、『今は』まだ安全なのだと思われる。


「現人神様、どうか、お食事を取ってくださいませ。貴女様が亡くなられれば、我々の願いは潰えてしまいます」

「……貴女達の願い、とは?」


 自分達のために死ぬなと言われ、警戒を隠しもせず、問えば、女性が仮面越しに微笑んだような気がした。


「勿論、この世の安寧ですわ。現人神様も見てきたでしょう? この世が穢れや人によって次々に破壊されていく様を」

「それは、私達の死を望む、ということですか?」

「いいえ。そうではなく、穢れが消え、人がこの世を破壊せぬ存在になるのですわ」


 ……無理だろう、それは。

 口には出さなかったけど、女性の言葉にそう思った。だって、彼女の言っていることは、要するに、人間は植物になれ、と言っているも同然じゃないか。

 一度でも贅沢を覚えた者は戻れない、なんて言葉もあるぐらいだ。人間の欲が時として世界に影響を及ぼすことがあるのは知っているけど、何もかもが悪いわけでもないと私は思っている。

 何事も過ぎれば毒であると言う。ならば、程々であれば薬なのだろう。その程々が難しいというだけで。

 その程々を探ることを止めろと言うのならば、それこそ、人は何もできない状態になり、程々の、この世界にとって最も薬となる姿を維持できる状態にしてもらわなければならなくなる。

 可能か不可能か、ではない。そういう風に世界を作り返ろと言っている自覚はないんだろうか。破壊したのは人間なのに、戻すのは人ならざる者に任せるなど、それこそ傲慢というものだ。

 彼女はそれをわかっていて言っているんだろうか。それとも、わかっていないのだろうか。


「……壊したのは人間なのに、戻すのは人ならざる者に頼むだけなのですか?」


 そういう風に考えているとつい、思ったことが口から出た。その言葉に女性は目を見開き、何故か黙り込んでしまった。

 訝しげな顔で女性を見るも、女性の方は自身の言っている内容におかしい、と思ったらしく、ブツブツと何かを言い続けている。

 さすがに声が小さすぎて何を言っているのか、私にはわからなかったけど、これ以上の話をするつもりはなかった。


「食事は取るつもりはありません。貴方達は私から見れば誘拐犯でしかないのですから」

「そ、それは……。……いえ、そう、ですわよね……。で、でしたら、次からは果物などのそのまま食べられる物をお運びしますわ」


 かなり動揺しながらも、こちらが妥協できそうな提案をしてきたので、頷く。確かに料理はちょっと食べるのが怖いけど、果物とかそのままで食べられる物ならそれほど警戒しなくても大丈夫そう。

 他にも部屋に何があるのかを女性は教えてくれて、そそくさと去っていったけど。


最後までお読みいただきありがとうございます。


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