護衛
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
占によって、今までの平穏が崩れるとわかった翌日。早速、護衛役という形で傍に沙織達が居ます。
まだ十月になっていないとはいえ、十月に近い以上、守りが緩くなっていても不思議はない、とのこと。実際、毎年十月付近になると本部の近くにも穢れが出現していた傾向にあるらしいので、それが守りが弱くなっている証ではないだろうかだってさ。
今まで気にされていなかったのは、本部には対抗できる人しか居ないからだったりする。余程の階級の穢れでもない限り、危険に晒されることもないので、そりゃあ、あんまり気にしないわな。
それでも今回のことでその可能性が出てきたとして、研究班の人達はそちらの研究もする方向になっているらしい。今まで対策なしでも行けたからといって、今回のように対策なしでは無理だと思われることがあってからじゃ遅いと重々理解させられた結果だそうだ。
今のところ、過去の周辺の状況や本部内での状況を纏めている段階らしいが、それでも明らかに十月付近になると本部に何かしらが起こっていたらしい。
……で、ここで一つ、私関連で本部内で起こったこととして明らかに守りが弱くなっている証があった。
それが私が記憶喪失の状態で本部内で倒れていた時期。ピッタリ十月なんだよね、それがあったの。
全員が聞いた時に「そういえばそうだったな」となるぐらい気にされていなかったが、外部で本部内に入る許可がないはずの私が本部内に入れていること自体が普通じゃない。
よって、何かしらの方法を使えば、本部内に入ることが可能になってしまうことが証明されたとも言う。『信仰会』の人達が神降ろしの仕方を知らない様子だという今までの元現人神達の証言からして、体質での強行突破になるんじゃないかとは言われているが。
私は明らかに何かしらの術を使って侵入しているけども、現代でそんな技術を持っている存在なんてそんな簡単に見つからないし、居ない。
それに私が覚えていないだけで、本部に入る許可をその時にはすでに得ていた可能性もあるらしいしね。安全な場所として神々が介入した可能性もなくはないのだとか。
「とりあえず、警戒し続けなければいけないわけだけど……それが大変なのよね」
「いつ来るかわからないものね……」
護衛初日ではあるものの、いつまで続くのかわからない警戒の日々を憂えてすでに凛姉さんと沙織がそう言った。彼女達が傍に居てもなお無理矢理にでも来る可能性が高いともなれば、こうもなる。
人間である以上、多少なりとも警戒を解いてしまう瞬間というのは存在するから、それが容易にできない状況がずっと続くとなればいくら休んでも精神的な疲れは癒せないと思う。
何せ、結界の性質を変えるかのような体質を持っている者が居ることは確定しているわけだしねぇ。
人間が張った結界が意味を成すのかさえ不安があるなんて、最悪と言えるんじゃないか?
「ごめんね……」
「月夜は気にしなくって大丈夫よ。十月に神様達が居なくなるということを忘れていたのは私達だし」
「言われないと私達も気付けなかったもの。まあ、馴染みがないせい、とも言うけど」
沙織と凛姉さんの言葉に頷く。確かに馴染みはない。私も占で出てようやく、という感じだったので、人のことは言えません。
式も私に言われるまではすっかり忘れていたらしいしね。戦闘面の技術と知識しかないから、彼女も神降ろしの仕方なんかは知らないという答えが返ってきているし。
そういえば、『桜桃軍』は『信仰会』について、どこまで情報が得られているんだろう?
「『信仰会』のことってどこまでわかっているの?」
気になったので早速二人に聞いてみれば、凛姉さんが答えてくれた。十二天将である凛姉さんの方が情報を持っているのは当然と言えば当然なので、沙織も凛姉さんの方に視線を向けているが。
「今のところ、幹部以外の所属者の数は把握できている状況ね。でもどんな体質持ちが所属しているのかなどはまだわかっていないから、殆ど情報がわからない状態と言ってもいいわ」
「向こうの本部の位置もわからないんですか?」
「それはわかっているわ。でもそこが本部なのかわからないのよね……。『信仰会』は場所を突き止められるとすぐに場所を移せるようにされているみたいだから……」
凛姉さんの曖昧な答えに沙織も納得している。やっていることがやっていることなので、向こうもすぐに本部を移すことができるようにしているのだろう。もしかしたら、本当の本部と言える場所があるのかもしれないけどさ。
現状でわかっているのはそこまでだ、と凛姉さんが申し訳なさそうに言ってきたけど、今まで幹部以外の所属者の人数さえわかってなかったらしいので、これは結構調べられた方なんじゃないだろうか。
そしてこういう話を聞くと益々思うんだけどさ……。
記憶を失う前の私、絶対に彼らに狙われていたよね。
どう考えても遣り過ぎなぐらいに記憶を封じているのだ。しかも、一回に思い出せるようにではなく、確実に数回に分けて思い出すようにされている。
要するに重要な記憶ほど何重にも封じているわけですよ。普通に考えてこれは遣り過ぎだと思う。
覚えていた方が色々とできることが多いだろうに、寧ろそれが問題なのだとばかりに封じていたら、そりゃあ、不自然にも思う。紗良ちゃん達も同じ疑問を抱いていたし。
となると考えられるのは、『信仰会』に見つかって攫われかけた、という可能性。本部内で倒れていたのだって、そういう状況だったならば納得できる。
元現人神である人達が揃って、「あいつら粘着質だからなぁ」「一度狙った獲物は逃がさないから、本当に怖い」と言っていた。彼らも過去のこととできないのはわかっているので、教えてくれたのだが……全員が顔を引き攣らせて言っていたので、相当怖かったみたい。
現在進行形で私が狙われている上に、私が攫われたらそれこそ大問題に発展しかねないという状態だそうだ。レティと水速さんも否定しなかったし。
おかげで、日本の穢れには対応が難しいと言っていたレティも傍に居る。水速さんは笑顔で「私も神降ろしができないわけではないからレティシアの異空間に籠もっているよ」と言っていたんだけど……笑顔だった部分が非常に怖い。何をする気だ、あの人。
しかもレティも何故か綺麗な笑みを浮かべてそれを推奨しているという……より怖さを感じたのは私だけだろうか、と式と沙織に視線を向けたのは言うまでもない。
二人も私の視線の意味が理解できたようで、無言で頷いていた。やはり二人も水速さんが静かに籠もっているだけとは思えなかった模様。
水速さんは見た目や雰囲気、言葉遣いなんかは優しいんだけど、そのまんまの雰囲気や口調でエグイ攻撃を繰り出すことが多々ある。
何度か『桜桃軍』の訓練に参加しているところを見たことがあるんだけど、普段通りのまま、倒れた所属者さんを踏んで、他の逃げ惑う所属者さん達を攻撃していた。
しかも、終わった後に一人一人に改善点を言ったそうなんだけど……かなり毒を吐かれたみたいで、泣く所属者さんが多かったそうだ。何を言われたのだろう。
そんな人が笑顔でレティの異空間に籠もっている。……絶対に何かあったら出て来る気ですね、わかります。しかも確実に対抗手段を用意して出てくるに違いない。
水速さんの笑顔が怖いと思ったのは、あれが初めてだ。今後もないことを願いたい。
「日本の穢れ相手だったら困ったけども、相手が人間なら私も十分に力を発揮できるわ。安心なさい、月夜。全力で守るわ」
「……殺さないよね?」
「勿論よ」
即答で頷いてくれたのに不安を覚えるのは私だけなんだろうか。今の発言も何か含まれていたように感じるんですが……。
とはいえ、聞ける雰囲気でもないので、それ以上は聞かなかったけど。聞いたら駄目な気がする。
ちょっと不安に感じる部分があるとすれば、水速さんを現実に戻してくる時のことを知っているせいで、あの威力で人を殴るんじゃないか、という点だ。
向こうも鍛えていると思うけど、あの威力で殴られて無事なんだろうか。敵なので心配するのはおかしいのかもしれないけどさ。
こう、見た目少女という人は力自慢なのかな。紗良ちゃんも結構力が強かったはずだし。
ちなみに、紗良ちゃんとレティ、知らない間にむっちゃ仲良しになっていた。傍目からは可愛い十代前半の少女が揃って話しているように見えるけど、実年齢は高齢な二人の会話は聞きたがる人がいない。
あの輪に入ることが許される奴は多くない、とか言われているらしいし。私は普通に混ざらせてもらえていたんだけど、周囲の『凄ぇ……』と言わんばかりの眼差しからして、普通じゃなかったみたい。
二人がどれだけ強いのか、実際に見たこともないから余計に二人が強いと言われても実感が湧かないんだよね。私からしたら優しいお姉ちゃんみたいな感じだから。
いや、向こうは孫を可愛がるような感覚なのかもしれないな。確かに二人の実年齢を考えれば納得の対応だけども、見た目的に私が年上と思われそうなんだよね……。
あの二人と歩いていると「あそこの姉妹可愛い……」とか聞こえてくるし。二人も悪ふざけなのかわからないけど、「お姉ちゃん」って私を呼んでくるし。
「……何もないと良いわね」
私と似たことでも考えていたのか、凛姉さんの一言に、レティ以外の全員が頷いた。レティと紗良ちゃんが嬉々として協力し合って戦闘を行なっている様なんか、私見たくないです……。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
誤字がありましたらお手数ですがご報告していただけますと嬉しいです。




