崩壊
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いつか壊れるだろう、とは思っていた。
薄氷の上にある平穏は簡単に壊れ、一気に私は危険に晒されることだろうと。
それでも……少しぐらいは平穏という温かい海に浸かっていたかった。元々から危険と程遠い生活を規則喪失の間だけかもしれないが送ってきた事実があるのだから。
だが、それはもうすぐ崩れるのだということを私は悟るしかなかった。
春樹兄さんと海斗さんが帰って私は何となく占を行なうべきだと思い、占を行なった。
いつもならば平穏を示してくる占が、いつもと違う結果を示した時点で察しはした。
で、出た結果が……『もうすぐ来る』というもの。これが何を指すかなんて私はわかりきっていた。
ああ、この平穏はしばらく戻ってこないのだな、と占の結果を見た瞬間に直感的に感じ取ってしまい、何となく泣きたくなったけど。
「……主?」
「……ううん。何でもない」
きっと何でもないという顔はしていないのだろうが、先に平穏が崩れるということがわかったことは僥倖と言えると思う。何もできないとはいえ心構えは一応できた……はず。
占の言う『もうすぐ』がいつ頃の話かはわからないけど、きっと一か月後とかの話ではないだろう。となれば……一週間後とかだろうか?
でも疑問もあるんだよね……今まで手出しができていなかったのに、なんで急に手出しができるようになるのかがわからない。何かしらの要因がなければできないはずだと思うけど……。
そういえば、そろそろ十月に入るんだっけ? 俗説じゃないかっていう話もあるけど、確か十月は神様達が出雲に行く月だと、言われて……。
「……式」
「何だ」
「この本部は神様の力で作られた可能性が高いと言われているんだよね」
確認の意味も含めて式に聞けば、不思議そうにしながらも肯定を返してきた。やはり、彼女も説明として聞いていたらしい。だとすれば聞き間違いとかはないよね。
ただ神様と交流があるわけではないし、できないので、本当にそうなるのか確証がない。ないけども……聞いてみる価値はある、かな?
一人悩むように考え込んでいる私に式はさすがに何か占が危険を示しているのだとわかったのか、聞いてきた。
「主、占には何と?」
「『もうすぐ来る』とだけ。で、あと一週間もせずに十月が来る」
「……! 神無月……! ここは……」
「神様が作り出したという説が濃厚な場所。……守りが緩くなる可能性がある」
私が過ごしていたであろうあの神社はわからないが、それでもここは万が一でも本当に神様が居なくなるのならば、影響が出る確率がある。
そのことに式も気付き、蒼褪めている。もしも私の予想が正しいならば、確実にまずいことになる。
式に目配せをすれば、意図がわかった式が一つ頷き私の占と予想を美奈子さん達に伝えるために立ち上がった。
思った以上に余裕がないことに式は舌打ちしたげだけど、事前に知れただけでも良いことだと判断したのか、絶対に部屋から出ないことを約束して出ていった。
でも私が考えていたのは、それだけではない。確かに本部の守りが緩くなるかもしれないことも大問題だけど、それ以上にあの夢とは思えない夢を思い出していた。
あの時、幹部の者と思しき男性と女性に報告する者達の代表者が口にしていた『同じ場所に居るはずなのに自分達には視認できない』というもの。
あれに対し、女性幹部は『どうせ忌々しい神々が隠しているのだ』と言っていた。それも本当なのだとすれば、私に掛けられていると思われる目晦ましの術も完全に解除されるか、弱まるはず。
結界と治癒、それに家事にも使える程度まで威力を抑えられる攻撃の術。これだけで私は攫われて対抗できるとは思えない。
常に式が傍に居たとしても、万全な守りとは言えないわけで……本当にまずいかも。
『信仰会』の人達がどれほど神などの昔の知識を有しているのかわからない。わからないが楽観視は絶対にできない。
後は、神々が一箇所に集まっていることで、私も神降ろしができない可能性がある、ということなんだけど……そちらは攫って十月が過ぎてからでもできてしまう。
今すぐに彼らの願いを叶えろ、とはならないのだろう。十月が過ぎるまで一ヶ月あろうともその程度気にしないはずだ。
だとすれば私が考えなければならないのは、攫われた後のこと。
いや、攫われたくはないんだけど、攫われないように対策をするのは美奈子さん達に任せるしかないんだよね……ええ、私、足手纏いですから。まともに対抗手段ないからね。
……自分で言ってて情けなくなってきたな。
ま、まあ、いったん自分の情けなさは置いておくとして、攫われた後のことも考えておくべきだ。攫われないのが一番とはいえ、絶対と言い切れる守りなどないのは事実。
隔離された場所とも言えるここでさえ、完全とは言い切れないと美奈子さん達は言っていた。『いずれは突破されるかも』とも。
神楽家よりも強固な守りがあるだけ、と紗良ちゃんとかも言っていた。十二天将の皆さんが揃って苦い顔をしつつも否定しなかったしね。
で、『信仰会』は形振り構わぬ状態。十月の間も神降ろしができるかどうかを確認されるだろう。そこでできる様子がなければ十月が過ぎるまで本格的に求められることはないんだと思う。
とはいえ……私が行なった神降ろしは全部、神側が自ら私に降りてきた結果。私から呼んだことはないし、そもそもが呼び方もわからない。
なら考えられることは、私の記憶を戻させること。記憶を失う前の私ならば恐らくは神を降ろす方法を知っている。それに気付かないような人達でもないだろう。
しかし、今はまだ取り戻さない方が良い、と私は感じているので、恐らくは体が拒絶を示す。
それで退いてくれるほど彼らは優しくないはずだ。神降ろしがほぼ確実にできると判断されているから丁重にはもてなされたりはするんだろうけど。
考えれば考えるほど、『信仰会』の人達の行動がわからないんだよね……神に願いを叶えてもらおうとしている割には、神に対する信仰とか特別感じないしさ。
私の体に神が降りてきたとしても、願いを叶える気がないならさっさと去ってしまうだろう。人間の常識なんて通じないのが神様。まともに会ったことはないけども、そう思っている。
多分この言い方で合っていると思うが、神に仕える身であろう自分が言うのも何だけど、神様が人の常識に合わせて動いてくれる姿が想像できない。大変失礼なことを考えていると思うが。
というか、神に仕える存在が消されているにもかかわらず、何故か神という概念だけは消えなかったことが不思議で仕方がない。そう思う人が多いから、神々による戦争による弊害、とか言われているんだけど。
もしもそれが本当だったなら結構な人数がキレる。でもその怒りを神々はきっと受け止める気はない。神々が愛情深い性格をしているなら、現状に憂い助けようとするだろうし。
いやまあ、そういう神様もいるのかもしれないけどさ。何も知らない状態で何かを語って意味がないこともわかってるけども。
穢れ、という存在があまりにも唐突に出現したとはいえ、だからって同時期に視える人や対抗できる人が生まれて、対抗手段ができていれば、誰だって疑うよ。
あんまりにもタイミングが良過ぎるもの。
などと考えつつも、式が帰ってくるのを待っていると、式と一緒に紗良ちゃん、里見さん、美香さんが来た。三人とも難しい顔をしているので、私が考えた予想を切り捨てることはできなかったようだ。
「話は式さんから聞きました、月夜さん。確かに我々もその可能性は切り捨てられません」
「やっぱりですか……」
部屋に入ってきて早々、里見さんが溜息を吐きつつも私の予想が高いかもしれないと言ってきた。それに苦い顔を継続しながらも紗良ちゃんと美香さんも聞いている。
式から報告を受けた十二天将の皆さんは私の予想に蒼褪めていたらしい。その可能性を誰も思い至っていなかったのだから、蒼褪めて当然かもしれないが。
神無月に対する認識が大抵の人はあるからね……それが影響を与える可能性は確かに高い。
「と、いうわけでじゃ。妾と『太陰』、『天后』が主となって月夜の護衛に就くことにした」
「私と『貴人』は運営の方がありますので、残念ながら護衛にはなれません……」
私が一番危険な状態に陥るとわかっていながら傍に居られないと謝罪してくる里見さんに首を横に振ることで気にするなと伝える。
正直、紗良ちゃん、美香さん、凜姉さんだけでも過剰戦力だと思うし、これ以上増えてもね……。
そうでなくとも四六時中式は側にいるし。
「他にも神楽家に沙織も護衛として就く。月夜が女性である、ということもあり、傍に居るのは女性だけに限るつもりじゃ」
「ありがとうございます」
「何、この程度は何の問題もない。男に着替えなんかも見られながら過ごすのは嫌じゃろう?」
「そうですね……」
四六時中就くと考えたら、確かにお互いに気まずいことこの上ない。子供っぽいとはいえ、中学二年生。さすがに異性に裸を見られて恥ずかしいと思わないわけがない。
蓮兄さんは未だに幼い子供扱いで一緒に風呂に誘ってきたりして無言で湊兄さんと凛姉さんに殴られたりしているけど。結構容赦ないのに痛そうにしないところが怖い。
そのことを報告として受け取っていたらしく、紗良ちゃんがすかさず、「『朱雀』は朱里と共にほぼ常に部屋の外で護衛役じゃ」と言っていた。それでも安心できないと考えたらしく、湊兄さんとか抑え役も一緒らしいけど。
……ドンマイ、蓮兄さん、朱里姉さん。でも日頃の行ないのせいだから諦めてもほしい。さすがに私も義兄弟とはいえ、遠慮なく風呂に入られるとか、着替えを見られるとかは嫌です。
なんてことを内心考えつつも、どういう風に護衛が就くのかを聞いていったのだった。
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