『玄武』と研究馬鹿
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
すみません、23時ピッタリの投稿です。間違えました。
来週からこの時間での投稿になります。
変な男性の手によって『信仰会』の集会と思しき場所に参加させられてから数日が経過するけど、あれから一度もあの男性と夢で出会うことはない。
彼に関して知っているのは、女性に「柊」と呼ばれていたことぐらいだ。きっと女性のお気に入りとかなんだろうけどさ。
何となく誰にも言わない方が良い気がして、私は言っていない。まだ敵か味方かもわかっていないし、言ったら不味い気がするし。
こういう時の直感は疑わない方が良いことはこの短い期間で学びました。嫌な予感がした瞬間、逃げた方が良いこともね。
今のところ、あの神社にも訪れてはいないこともあり、私は危険を感じることはなかった。あの夢も特に危険を感じず、寧ろ恐怖は感じても、何かあっても大丈夫だとも思えていた。
誰かが傍に居たわけでもないはずだというのにね……。
「主、そろそろ休んではどうだ?」
かなりの時間札作成をしていたようで、式がそう声をかけてきた。疲労が体に溜まっているとわかってから、定期的な休憩を取ることを義務付けられた。
一人で何百枚って作り続けなければならないからこそ、休める時に休め、と言われてしまったのだ。私は別に疲れなんて感じていなかったから困った顔をしたんだけども。
そうしたら、式に定期的に休ませるように、と皆が言い聞かせていた。私が無自覚であることを悟り、常に傍に居る式にお願いしたみたい。それが正しいと私も思うので何も言いませんでしたとも。
式に言われて顔を上げて時間を確認すれば、思ったよりも時間が経っていて、私は机から離れて式から渡された飲み物を飲んだ。
首を動かせばバキバキと音が鳴り、長時間動かしていなかったのがよくわかる。こんなことをせずとも時間でわかるけども。
占もやっているけど、これといったものは出てこなくなって結構経っている。それでも日課として行なうことが習慣化してしまっているのでやっているが。
体を動かすためにストレッチをして、だらしなく畳の上で寝転がった。
「寝るか?」
「ううん。そこまで眠気は感じてないから寝ない」
「そうか……それにしても最近は本当に強い穢れが出なくなったらしいな」
寝る気はないと伝えると式は頷き、雑談として最近聞いた話を出してきた。それは私も聞いた話なので、頷く。
大公爵が出てきたことで、十二天将の皆さんは揃って警戒し続ける日々を続けていたんだけど、予想に反してあれから強い穢れは現れていない。
逆に弱い穢ればかりが出てくるので、札の使用頻度は下がっているんだけどさ。
それでも現状に何か理由があるんじゃないかと警戒は続けているみたい。
「穢れの発生条件や王や大公などはどこで過ごしているかなどはさっぱりなんだったか?」
「そう。一応は人の翳が形を成したものじゃないかって、言われているけど、実際はどうなのかは未だにわかってないよ。まあ、そもそもが穢れが形を成すことが異常なんだけど」
「ああ……妖や霊といった名称ならば不思議はないが、穢れ、という名称がどこから来ているのかもわかっていないんだったな」
「そうなんだよねぇ。本人達も自分達のことを『穢れ』と名乗っているけど、誰が最初に言い出したのかもさっぱり。現在桜桃軍が使っている術に関しても謎が多いし」
改めて考えると謎が多過ぎると思う。神々の戦争なのかもしれない、何て言う仮説も聞くけど、あながち間違いでない気さえしてしまうのは、この異常さのせいだろう。
誰が考えたのかも、どうして使っているのかも、全くわかっていないのに、私達は使っているからね。普通は疑いまくって使わない。
そうも言っていられない時代だから使っているのかもしれないが……それにしたって不審さは多い。
術は一応、隠れていた人達がこっそり教えてくれた説が有力視されているけどね。それだったら名前も何も残さなかったのも頷けるし。
過去が過去なので、過剰なほどに警戒されたとしても文句は言えません。教えてくれたことに感謝すべきだろう。
基礎って感じだから、上位者達は自分でオリジナルの術を作る場合が殆どみたいだけど。
「せめて過ごしている場所がわかればいいんだがな」
「わかったところで手を出せないと思うよ? 王や大公なんかが勢揃いしてたんじゃ、いくら桜桃軍でも祓いきるのは無理だと思う」
「それもそうか……外の国でもそうらしいからな。数が居ればあるいは可能かもしれんが」
「どうだろうねぇ。海外には海外の遣り方があるせいで、私達の遣り方では海外の穢れは祓いづらいらしいから、逆も一緒だと思うよ」
「むむぅ……」
難しい顔をする式に苦笑する。これは誰でも考えることらしいけど、海外の穢れと日本の穢れを比べた時に違う存在だと思うほどに違うので、協力関係を築くのは難しいと判断するしかないのだそうだ。
別称も向こうは悪魔が基本だけど、日本の穢れは妖とかだしね。怨霊とも言われることがあるけど。
これは過去にあったそっち系の文化が原因だと言われている。レティもそれが主な原因だと頷いていたので、本当にそうなのだろう。
文化の違いが無意識に区別を作ってしまっているのかもしれないとは言っていたが……どっちにしろ、現状を受け入れるしかないというのが実情だ。
まあ、日本は対処できる人が多い方だけど。酷いと数十人規模の国もあるらしいしね。
なんか国によって生まれやすいとかはないはずなのに、力には差が出るんだって。これは力が溜まりやすい場所とそうではない場所があるせいだろうと言われている。
日本にも地域差によって生まれこそするが、力は強くないという人がはっきり出ているぐらいだし。
先祖返りのような感じで強く力が出る人もいるが。その一人が沙織だったりする。
彼女の両親は代々力が弱い家系だったらしく、彼らが強い方だそうだ。一度他の人と会ったことがあるけど、一族の殆どが後方支援を行なう者になっているというのも納得の霊力の低さだった。
実際、その人も医療班所属だ。現在私の体を診てくれている人が、沙織の従姉妹なんだよね。
などと考えていると部屋の扉がノックされ、許可を出せば春樹兄さんと海斗さんが入ってきた。
二人は友人なので、よく一緒に居るらしいけど、揃って私の部屋に来るのは初めてのことで驚いたし、不思議そうに見てしまった。二人とも初めてであることはわかっているので苦笑していた。
「突然ごめんな。ちょっと実際に札を作っているところが見たくって」
「だから俺も一緒に来た。休憩中だったんならもう暫く休んでてくれて大丈夫だ」
「そういう……」
理由に納得すると同時にそんなに気になるのだろうか? と思ってしまった。正直、文字を書いているだけのように普通の人は見えるだろうしね。
勿論、海斗さんが十二天将『玄武』であることはわかっている。普通の人扱いは間違えていることもわかっているけど、どうしてもそう思ってしまった。
霊力の動きを読むのが苦手な朱里姉さんとかは馬鹿正直に「見てるだけなら私にもできそう」とか言っていて、無言で春樹兄さんに叩かれていた。凛姉さんとかもそれを咎めなかったし。
他の人も試したことがあるんだけど、どうしてもできなかった事実があるので、朱里姉さんの発言は研究班に所属している人なら激怒すると思う。
春樹兄さんが真面目にキレてたから、それは間違いない。正直、あそこに五郎さんが居なくて良かったと思った。
「ちょうど休憩中だった。あと十分ほどは休憩させたいが、構わないか?」
「ああ、大丈夫」
「大丈夫だ」
式が予定を言えば、二人とも頷いたので、私は寝転がった姿から起き上がり、式から貰ったお茶を飲んだ。さすがに客人が居る前で寝転がるというのは失礼過ぎて出来ないよ。
二人とも義兄と義兄の友人なので、気にしないかもしれないけどさ。
私が気にするので、これで良いのだ。そういうことにしようじゃないか。
……そういえば、海斗さんは防衛系が得意なんだっけ? 十二天将に入っていることからして攻撃も凄いんだろうけど。
何かの折に聞いた気がするので、確認を取れば頷かれた。
「確かに十二天将の中で一番防衛や支援が得意だと言われている。経験は圧倒的に『朱雀』とかにも負けているから、評価がしづらい部分はあるが」
「それは誰だって最初はそうだろ。『騰蛇』だって、就任時は納得できない馬鹿どもに絡まれたそうだしな。自殺行為だと思うが」
「まあ……体でわからせる系の人だからな、あの人……」
それは私が聞いても大丈夫な話なんだろうか。次から五郎さんに対しどう接するべきだろう。あの人のことを気さくな人扱いしてるんだけど。
本人もその認識で構わないと言っているから、それでいいのか、な?
内心色々と思うところがあるものの、私は海斗さんが肯定したことで、だから気になったのだろうと思った。防御系の強い人なら作っているところが気になる人はいるだろうし。
海斗さんは気になった人なのだろう。春樹兄さんが同行したのは……単純に新しい技術をまた間近で見たいから、とかじゃなかろうか。
ありえそう。物凄くありえそう。春樹兄さんは研究馬鹿とまで言われるほど、研究が大好きだし。
「主、そろそろ十分が経つが戻るか?」
「ああ、うん。紙の用意をお願い」
「わかった」
時間をずっと確認してくれていたらしい式が声をかけてきたことで私はそれまでの思考を中断し、札作成に取りかかった。
私の認識的には紙に文字を書いているだけなのだが、それだけでかなり力の籠もった札になっている。どういう原理なのか私にもわからないんだけどね。
そもそも、墨と紙だけで効果を発揮すること自体が不思議だと思う。そこらへんが他の人はできない理由なのかも? もしくは体質の問題なんだろうか?
もしかしたら、過去の人と今の人では何かしら違う部分があるのかもしれないしねぇ。そこは春樹兄さん達が得意だろうから丸投げした方がいいかもしれない。その方が喜ぶし。
そう思いながらも私はその製作速度に驚く海斗さんと目を輝かせて見ている春樹兄さんを置いてけぼりにして札作成を続けるのだった。
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