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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
55/82

九十九先生

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 ――式視点――


 まただ、と内心思う。

 それは主の寝ている姿を見て思うことなのだが。

 主は寝ている間、ずっと譫言(うわごと)を続けているのだ。ただ眠っている時のことは覚えていないようで、一度聞いたものの、不思議そうに見られるだけで終わった。

 どんな夢を見ているのか……『信仰会』の者達の干渉ではないことはわかっているのだがな……。

 私に夢を見ることができる術の知識があれば良かったのだが、生憎と完全に戦闘面に偏っている。他に相談をしたにはしたが、夢を見る術など知るわけもなく、また変わった様子を見せたならば報告して欲しい、という言葉で終了した。

 今のところ、悪い感じはしないので、今も続いている、という報告しかしていないが……あまりにも続き過ぎだ。記憶が戻ってきているというわけでもないというのに、一体どういうことか。

 言い知れぬ焦燥感が襲う私とは裏腹に、主はいつも通りの時間に起床した。学校に通っていた頃と同じ生活を現在でもしているので、時間を持て余している様子が最初は見られたのだがな。

 今ではその大半の時間が札作成に費やされている。勉強に関しても予習をよく学校の先生だという人物からされているが、それも軽い。どうやら、主は学校の授業よりも先に進み過ぎてしまっているらしい。

 学校、とやらが気にならないわけではないが、私と主が一緒に行くことになれば、かなりの騒動になることが予想されるので、言ったことはない。行ったところで、何もすることがないしな。


「おはよう、式。本当に眠らなくて大丈夫なの?」

「ああ。睡眠というものが必要ないからな」


 いつもの質問をされて、答えれば不思議そうに見られた。やはり記憶がないためにそういったことが不思議に思えてしまうのだろう。

 記憶を失っていても主に変わりがないので、何とも思わないが、普通はそこらへんで悲しく思うのだそうだ。五郎さんや紗良ちゃん曰くだが。

 人と関わる機会というのを省いてきたため、私には人の心というのはよくわからないものと成り果てているのを自覚している。人と同じように見た目がなっているだけで、本質が違うのだから当然なのかもしれないがな。

 それにしても、主と再会して実に驚いたな……。記憶を失う前の主がずっと欲しがっていた存在がいることに。

 言ってはいないが、主はあの場所から殆ど動いていなかった。動いていたのは主の両親で、主はあの場所から基本的に動くことを禁じられていた。

 ゆえに、主が襲撃されたのは一度。その一度で主は心に傷を負ったのだ。

 詳しいことは私にもわからない。だが、記憶を失う前の主は何を感じ取ったのか、襲撃される前に私を作り出し、記憶を一部私に移した後に襲撃された。

 主が記憶喪失になったことも感じ取ったからこそ私は外に出たのだが……そこで異様さは感じた。

 戦闘の技術も知識もない主ではどうも対処ができなかったはずなので、何もできずに仕舞いだったはず。なのにも拘わらず、主は記憶を失った状態で本部に倒れていたそうだ。

 ……どう考えても最初から避難場所として本部を設定し、襲撃された場合は記憶を封じるという設定をしていたとしか思えなかった。

 何を思って主がそこまでしたのか真意はわからない。わからないが……わからなくとも良いような気はした。

 今の主は実に充実した日々を過ごせているし、念願だった友人もできていた。主はその立場から外の者達と会うことができずに居たからな。

 何を願っているのかわかった、神々が特別に、と叶えてくれたことであったようだが……本当に時期を間違えてしまった、という感じはする。記憶を取り戻せばまた戻されるのだろうな。

 というか、自分で戻りそうだ。幸いにも『桜桃軍』の者達は出入りを禁じられてはいないので、会うことは可能だろうが、あそこに好き好んで行きたいとは思わないだろう。

 主の式である私にさえも刺々しい雰囲気を向けてくるような存在だ。本当に主以外は基本的にあの場所で過ごすことなど許してはいないはずだ。

 束縛が凄まじいとは思うが……人のあれそれが通じないのが神々だそうからな。こればかりは諦めるしかないのかもしれない。


「はぁい、九十九先生が来たわよ~、月夜さん、式さん」


 ノックもせずに入ってきた人物に呆れた目を向ける。いつも通りの時間だから何も言わないが、それでもせめてノックぐらいはして欲しいものだ。咄嗟とはいえ動きそうになる。

 会ってさほど時が経っていないはずなのに、もうすっかり私の存在を受け入れているようで、普通に私に対しても色々と教えてこようとする。

 別に構わないのだが……相手は式なのでできれば止めていただきたいとも思ってしまう。どうも主の姉妹のような扱いを彼女からはされているような感じがするのだが……気のせいだろうか?


「ノックはしろ」

「固いわね……少しぐらいフランクに接してくれたって良いじゃない」

「今の主の状況を考えれば当然の苦言だ」

「うっ」


 苦言を呈せば、九十九先生は言葉を詰まらせ、肩を落とした。さすがに私の方に分があることはわかってくれていたようで何よりだ。これでわかっていなかったら本気で鳩尾に拳を入れているところである。

 主も苦笑しつつも私の方が正しいことはわかっているので、九十九先生にフォローを入れたりはしない。追い込みもしないが。


「とりあえず、勉強を始めませんか?」

「月夜さん、もう少し私に何か言ってくれても良くない?」

「先生よりも式の方が正しいことはわかっていますので。紗良ちゃん辺りに知られたら本気で怒られるのでは?」

「そうじゃのぅ」


 主の言葉に同意するように九十九先生の後ろから声がし、先生が蒼褪めた顔で後ろを振り返った。……当然だが、後ろに居たのはとてつもなくいい笑顔の紗良ちゃんだ。

 いい笑顔なのに、額には青筋が浮かんでいるという実に器用な怒り方をしている紗良ちゃんに、そっと主を二人から遠ざけ、札作成のために用意された机の所まで運んだ。

 この後の展開を理解している主が無言で札作成のために筆に手を伸ばした直後、紗良ちゃんは強制的に九十九先生を部屋の中に引っ張り、お叱りが開始された。


「月夜の状況を知りながらノックもせずに入るとはどういうことじゃ?」

「いや、その……それは……」

「中に式が居るからこそ、余計に式や月夜に一瞬でも警戒させるようなことはさせるべきではない、とわかっておろう?」

「うっ……はい……」

「特に式は月夜の護衛役。そうでなくとも四六時中警戒せねばならぬ。もう少し気を配るということをするべきではないか?」

「仰る通りです……」


 私達の会話を最初から聞いていたようで、紗良ちゃんは一切止まることなく、説教が続いた。それも一時間も。

 どちらも暇ではないと思うのだが……懇々と諭すように言わないと聞かない、と説教終わりに紗良ちゃんが愚痴ったので、いつも叱る時はああなのだろう。

 ちなみに、一時間も説教された九十九先生は魂が抜けたかのように座り込んでいた。端っこでのの字を書き続けているのがかなり鬱陶しい。

 本人の非があるので、誰も慰めたりしないしな。主もさすがに叱られて当然なことをしたというのはわかっているので、やって来た紗良ちゃんと会話をしているし。


「すまんな、あれが」

「いえ……紗良ちゃんはどうして?」

「あれが粗相をしていないか気になっての。慣れてくると途端にフランクになり過ぎるのがあの者の悪いところなのじゃ」

「なるほど……」

「生徒思いなのは事実じゃが、同時に生徒と一緒に遊びだしてしまう子供心を忘れぬ人物でもあるからのぅ……」


 呆れた様子で端っこで座っている先生を見る紗良ちゃんに私と主も視線を向ける。

 そうか、いつもそうなのか。それはお疲れ様、としか言いようがないのだが。

 何せ、紗良ちゃん達は決して暇なわけではない。所属者に対し訓練をする者達は訓練の時間が決まっているとはいえ、その拘束時間はなかなかのものだ。

 普段の生活もあるので、そこらへんを理解している所属者達は必死に訓練をしているそう。なかなか、十二天将から教えてもらえるなどないそうだからな。

 一応、十二天将以外にも教える者達は居るそうだが、やはり十二天将が教える、と事前にわかると参加者が増えるそうだ。それに比例するように訓練後は倒れている者達が多いとのことだが。


「妾や『騰蛇』と接する時はもっと幼子のような感じになるゆえ、気を付けるのじゃぞ。親しくなるのは良いことじゃが、親しき中にも礼儀あり。あまりに度が過ぎるようであれば容赦なく外に蹴り出して構わぬ」

「え、それはちょっと……」

「わかった。ではその通りにしよう」


 紗良ちゃんの言葉に主が難色を示し、私はあっさりと頷いた。主がぎょっと目を見開いて私を見てきたが、こればかりは仕方がない。

 主は神楽家に居た時に襲撃されている。あの恐怖が完全に消えたわけではないし、ノックをせずに入ってくるのが当然となってしまえば、もしも『信仰会』の者達だった場合、対応に遅れが出る。

 その間に主に何かされてはこちらが困る。ここは是非ともガツンと一度は行っておくべきだ。


 ということを言ったら、主は難しい顔をし、紗良ちゃんは大きく一つ頷いた。その通りだ、と言わんばかりの紗良ちゃんの反応と、難しい顔をしながらも紗良ちゃんや私の言葉を否定しない主の様子に九十九先生は無言で土下座している。漸く自分のやったことの愚かさが理解できたようだ。

 自主的に土下座をしている先生を見て、紗良ちゃんは満足そうに口元を歪めていたが。どうやら、相当彼女を怒らせたようだ。自業自得なので、その後にどうなろうとも私は気にしない。

 どっちにしろ、すでに何かまだされることは確定しているのだ。それはあちらもわかっていることだろうから、私は何かを言うつもりはない。今後、そういったことに配慮してもらえるならばな。


 その後、紗良ちゃん同席で勉強が始まり、馴れ馴れしい様を見せた瞬間、無言で紗良ちゃんが九十九先生を叩くということが繰り返されたのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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