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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
54/82

情報収集開始

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。


あけましておめでとうございます。


  ――『天空』視点――


 コツコツ、と足音を鳴らしながらとある場所に向かって歩いとると、途中で見知った顔を見つけて、俺は咄嗟に呆れ顔になったわ。

 そないに気になるなら、直接見に行けばいいだけやろうに、何を気ぃ遣っとるんやろか?


「『勾陳』」

「おお、帰ってきたの、『天空』。変わらずであったか?」


 相変わらず過ぎる質問をしてきよる『勾陳』に無言で頷くことで肯定する。それだけで静かにしとった他の十二天将達も安堵した顔をしよるんやから、あの子の人望の厚さは凄い思うわ。

 俺かて、あの子と出会う前はそうでもなかったのに、今じゃ、あの子限定ではあるけど、色々と気にしとる。今までのことを考えたら恐ろしい限りやね。


「何の問題もありやせんかったよ。恐ろしいぐらいに」

「やはり、楽観視はしない方がいいかもしれないな」

「そやろうねぇ」


 難しい顔で呟いた『騰蛇』に同意する。誰かて、月夜ちゃんが本当に危険やった時を覚えとるんやから、不安になって当然や。あそこまで狙われた人物なんてこれまで居らんかったんやから。

 そう考えると、あの子は狙われて当然の状況なんやけどな。

 血筋は確実に排除されるのを回避した一族の者の出。しかも、何や、物すっごい重要そうな場所で暮らしとったみたいやし。

 ただまあ……気になるんは、桜桃軍本部に近い場所にあったことやな。どう考えてもここと関係あったやろ、としか思えん。

 もしかしたら、本部を作り出した一族なんかもしれん。でなきゃ、あの子が記憶喪失の状態で本部で倒れていた理由が見つからんわ。

 あの当時は本当に大騒ぎやったからなぁ。それまで一度も部外者が入れたことなんてなかった上に、侵入者を知らせる空間の揺らぎさえなかった。

 あん時はそんなん気にしてられへん状況やったけど、今やったら不思議に思う。あの子はここへ入るための許可を得ている、ってことなんやから。

 俺らかて、どうやって許されているのか、全くわかっとらん。わかっとることがあるとすれば、内通者が不可能やってことだけや。

 それも最近わかったことなんやけども。


『この本部は内通者や敵対者は入れない。そういう風に自動的に判断されている。 この空間を作り出した存在は、あそこと同じで人間ではないのかもしれない』


 こう、逃れ者と自身を呼んだ水速さんが言うとったんやから、ほぼ確実に無理なんやろ。

 今の時代を生きる俺らよりも多くのことを知っとる彼らは、過去の出来事を伝え聞いたり、知っているために、今を生きる者には技術や知識を教えようとはしてくれん。

 そりゃそうやよな。排除に向かってきた者達の子孫に教える気にもなれんし、何より、俺らに教えて、俺らが排除される羽目になったら笑えへん。

 水速さんや夜の貴族さんとかが言うには、逃れ者は基本的に力が偏っているものの、一定の実力を有する者が多いんらしいわ。他にも守る場所がない、とかもそうらしいけど。

 逆に隠れ者は全ての面で高水準を維持している場合が殆どやそう。そして、守らねばならない場所もある者達。水速さんが言うには、下手をすれば、隠れ者は月夜ちゃん以外全滅していても不思議はないそうやで。

 そう言わしめる理由が、『信仰会』の奴らの態度。あいつらやったら、血眼になって隠れている者達を探すくらいはするやろ。して、見つからんかったから、月夜ちゃんに執着しとる……そういう風にも見えるんや。

 もしくは、月夜ちゃんが記憶を失う前に一度襲撃されたか。その割に、月夜ちゃんの実家と思しき場所は襲撃された形跡が一切なかったらしい。何やったら、『信仰会』の奴らは山の麓でさえ近寄れない様子やったそう。

 どう考えてもおかしいやろ。だとすれば、や。

 月夜ちゃんのご両親が隠れ者やったけど、外で別の立場を使って生きとった、という可能性やな。それやったら十分に可能性は考えられるわ。

 それは他の奴らも考えたみたいやけど。


「……早急に家が襲撃された、などの情報を集めた方がいいかもしれないわね。月夜お嬢さんが襲撃されたであろう時期らへんで、だけど」

「『貴人』、元の口調に戻っとるで~」

「……煩いわよ、『天空』」


 律儀に言ってあげたのに、酷ないか? ホンマ、俺に対する当たりが揃って強いわ~。

 などと嘯いて言えば、『貴人』が溜息を吐いてから、前髪を掻き上げた。よほど苛立っとるみたいや。ここまで切羽詰まった様子を見せる『貴人』も珍しい。

 まあ、『勾陳』と『騰蛇』でさえ、普段の様子を保てとらんのやし、仕方ないわな。

 月夜ちゃんは知らんようやけど、『貴人』は普段の穏やかでのんびり屋にも見える様子とは打って変わって、本来はかなり苛烈な一面を持ち合わせとる。でなければ、昔からの伝統にばかり縛られる『桜桃軍』を変えるなんて、できへん。

 何せ、『勾陳』、『騰蛇』でさえ変えるべきだと声を上げても反発されたり、難色を示されたりしとったくらいらしいからな。王による甚大な被害を経験していた、というのに。

 今後も起こり得ることが予想できとるのに、せんかったのが先代十二天将に多かったそう。立ち止まることを選んでええことはないってわかっとったやろうにな。


「とりあえず。『天空』、貴方に指示を出すわ」

「ほいほい。なんですかいな?」

「軽いわね……早急に情報収集を。内容はわかっているでしょう?」


 挑戦的な視線を向けてくる『貴人』に嫌な笑みを浮かべる。その笑みを見て、全員が呆れた目を向けてくるのもいつものことや。

 俺は人を笑わすのが最も好きや。でもそれの次に人を欺くことが好きなんやよ。

 そりゃあ、情報収集に向いた人材になるわなって感じやわ。


「月夜ちゃんが本部に来た時期あたりを調べるんやろ? 久しぶりに緊張する仕事が入りましたなぁ~。楽しみや」

「その舌なめずりしそうな笑みは止めてくれない? 完全に詐欺師でも漫才師でもない、悪人になっているわよ」

「嫌やわ。俺が十二天将の誰になっとると思っとるん? 十二天将は、『そういう奴ら』の集まりやろ?」


 嫌な笑みを浮かべたまま、言えば、十二天将の選ばれ方を知っている『貴人』が目を眇めた後に溜息を吐いた。俺が『天空』になったんは『選ばれたから』やって知っとるくせに、都合よく忘れんでほしいわ。

 まあ、いつもの様子を見てたら、忘れてしまうんもわかるんやけどな。


「はぁ……いいえ。それでこそ『天空』に選ばれし者、ということよね。お願いできるかしら」

「了解やでぇ。情報班の本気を見したるわ」


 そう言うて、踵を返そうとする。『桜桃軍』に隠れた班。それの一つが情報班。他にもあるにはあるんやけど、ここが一番の隠れた班やね。

 十二天将は全員がどこかの班に属しとる。ゆえに、知られてない班に属しとる場合もある。


「ふふ、久しぶりの正式な仕事の指示ですね」

「……『六合』の場合はその腹黒さをどうにかしてほしいわ。それ、『六合』の性質じゃないでしょう」

「でも隠し事はそれらしい。違いますか?」

「……それもそうね」


 同じ情報班所属の『六合』の楽しそうな声に、『貴人』が呆れた眼差しを『六合』にも向けたんやけど、一切意に介しとらん……ある意味凄いわ。

 一番怒らしたら怖い可能性もある、なんて言われとるくらいやしな。……心を読むなんて噂もあったはずや。本人は誠実そうな好青年のつもりらしいけど。

 絶対にそんな風には自分のこと思っとらんやろうなぁ。何せ、今もどう考えても何か企んどる奴の顔をしとるし。ホンマにこいつが『六合』なんか謎やわ。

 誰がどう見ても今のこいつは『六合』なんかには見えへんやろ。どう考えても別の十二天将が合ってそうな感じがすんで。

 他の奴らに「性質が土だったら確実に『天空』になってただろ」と言わしめるほどやし。俺かてそう思うわ。


「ほらほら、『六合』行くで。時間はそうあらへんやろうから、さっさと集めて情報の精査をせんと」

「それもそうですね。それでは、僕達はこれで」


 あっさりと頭を下げて『六合』は踵を返した。元からこいつは身内相手でも結構淡泊やからなぁ。俺もそう言われとったけど、こればっかりは情報班特有なんかもしれんわ。

 はてさて、どんな情報が眠っとるやろうか。それを発掘できることはとっても楽しみやけど、同時に俺らが危険と隣り合わせになる。こんなん知ったら、月夜ちゃんは青褪めるやろうねぇ。

 あの子はそういったところは見慣れとらんやろ。あの場所を守るための知識や技術を詰め込まれとったんやったら余計に。

 最優先になるのは排除されずに残った過去の技術や知識を後世に残す役割を果たすこと。それは場所の守護も同じやったやろう。

 人間関係のあれそれなんて二の次になって当然と言える立場に居るであろうことは何となく全員が悟っとる。自然とそう予想する程度には規格外の存在が月夜ちゃんの側に来たからや。

 他でもない式。通常、式と呼ばれるのは、連絡用の式紙くらいで、あんな人型でしかも人間となんら変わりない生活を送ることができる存在なんて今の時代に誰も作り出せへん。

 しかも、そんな式を普通に作り上げただけでなく、記憶の分離まで行なったんやで? どれだけ記憶を失う前の月夜ちゃんが規格外やったかが判るやろ。

 式が自慢げに言う度に、全員が内心顔を引き攣らせていることも知らず、月夜ちゃんは普通に聞いとるし……いやまあ、普通を知らんのやから仕方ないんやけども。

 挙句の果てには、自身の中で更に分離させて記憶を封じている可能性まで出てきたんやで? どないしたらそうなるんか、謎やわ……。

 何より……どうしてそこまで厳重に記憶を封じる必要性があったんかが謎。これは式もわかってないらしく、聞いても答えはなかった。

 ホンマにあの子は規格外が服を着て歩いているみたいな子やわ。まあ、そこがおもろいから見とるんやけど。そうじゃなかったら、俺は周囲から驚かれるとわかった上で親しくしたりはせん。

 自分のやってることがどれほど今までと違うんかくらい自覚しとるんやで?


 とりあえず、今後も楽しいことと同じくらい、月夜ちゃんにとって辛いことが襲い掛かってくるやろうから……それを少しでも和らげることはしてやりたいわな。

 そんなことを俺は思いながら、『六合』と笑いながら情報収集の方法について話しながら歩いていったのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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