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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
53/82

【誕生日特別編】サプライズ

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。


今回は主人公の誕生日特別編です。

時系列がかなり先を行っていますが、ネタバレはないはず、です。

  ――蓮視点――

 始まりは楽しいのが好きな朱里からだった。


「そういえば、月夜の誕生日はいつなの?」


 去年は来たばかり、ということや、当人が覚えていない、ということから、誕生日を祝うことができなかったからなのか、朱里が式に聞いている。まあ、知っている可能性はあるからな。

 ちょうど、月夜も居ないし。


「ん? ……ああ、十二月二十九日だ」

『……え゛』


 普通のことのように言われたが、その日は今から三日後に来る。

 揃って絶句すれば、式は不思議そうに首を傾げている。彼女からすれば、「それがどうかしたのか?」くらいのものなのだろう。

 神楽家では、誕生日が来ると祝うのが当たり前となっている。それぞれが事情持ち、というのもあるんだがな。

 勿論ながら月夜とて祝おうと思っていたが、今年も何かとあった上に、当人が覚えていないので、祝おうにも祝えないな、となっていたのだ。

 だが、最近になって、戦闘の知識や技術以外はある程度しか知らない式という存在が現れたことで、知っている可能性はあった。本当に知っているとは思ってなかったが。


「え、それ、三日後じゃん!」

「あ、ああ、そうだが……それがどうかしたのか?」

「誕生日は祝う、と決まっているんだよ」


 湊がそう言えば、式は即座にどうして朱里が絶叫したのか悟ったようで、少々申し訳なさそうな顔になった。そういったことに思い至れなかったからだろうな。

 しかし、知らなかったならばまだしも、俺達は知ってしまった。三日しかないが、それでも準備をする必要性がある。

 知った後にやらない、というのはちょっとな……。


「よし。朱里、菓子作りが得意な奴が知り合いに居たよな? そいつにケーキをお願いしたい」

「買ったのじゃ駄目なの?」

「予約してなかったら意味ないだろ」

「あ、そっか。三日じゃ受けてくれるとこなさそう」

「年末年始に近いから、余計に無理だと思うぞ」


 クリスマスも過ぎ、ケーキ屋は基本的に休みとなっているであろうことは予想に難くなく、春樹も難しい顔でそう言ってきた。

 凛と湊も同意見のようで、朱里に視線を向けている。


「わかった。聞いてみる! あ、月夜には内緒?」

「自分の誕生日を知らないでしょうからね。サプライズでも良いと思うわ」

「おっけ~! じゃ、行ってくる!」

「待て。お前だけじゃ不安過ぎる。俺も行く」

「お願いね、春樹」

「頼んだよ、春樹」

「頼んだ、春樹」

「なんで私には言ってくれないの!?」


 大声を出した朱里だが、誰も彼女がやらかさない、とは思っていないようで、庇う者はいない。

 そこに、呆れた声で式が止めを刺した。


「札を不注意とはいえ破いたのは誰だ」

「……私です……」

「不注意で月夜に言ったら、サプライズの意味がないんじゃないか?」

「……」


 実際に彼女が目にしたやらかしを出されては何も言い返せなかったようで、朱里は大人しく春樹と一緒に部屋を出ていった。

 確かにあれは盛大に怒られた『やらかし』だからなぁ……。凜とかが口酸っぱく言ってたのにやらかした以上、叱られるのは当然なんだが。

 珍しくも割かし温厚な方の『白虎』が叱る側に回っていたほどである。札の効力がどれほどのものなのか実際に使い始めたことで実感があるだけにな。

 月夜は知らないが、札が支給されるようになった段階で、戦闘時に使えるようにと訓練が全員されている。まだ拙いとはいえ、かなりの効果を発揮していたりする。

 使用しながらの戦闘に慣れることの怖さもないわけではないが、下の階級の者達は札頼りになった方が戦闘ができる、ということで、結構多めに支給されている。

 実際、訓練後に本格的に使用し始めてから、死亡率は格段に減少している。

 霊力の使い方や工夫次第でどうとでもなるとはいえ、やはり霊力量の差は顕著に現れがちだったからなぁ……。


「あとは……飾り付けだけど、そっちはどうしようか」

「それは『勾陳』と『太陰』に手伝ってもらったらどうだ? そういうのが得意だろ」

「じゃあ、私の方から言うわ。こういうのは女性の方が良いでしょうし」

「少なくとも俺は飾り付けなんて勝手がわからねぇよ」


 馬鹿正直に言えば、凜が苦笑し立ち上がった。早速言いに行ってくれるようだ。

 これで飾りとケーキは問題ないだろうとして後は何が必要だ? プレゼントだけか?


「プレゼントの他に何が必要だ?」

「場所は月夜が過ごす部屋で問題ないでしょうけど……来る人の確認はしておいた方がいいかも」

「じゃあ、それは俺と湊が聞きに行くわ。プレゼントに関しては各自で問題ないだろ」

「そうね」

「だけど、月夜の自室にするなら、当日の月夜には部屋から遠ざけないといけないんじゃないかな」


 湊の言葉に俺も凜も困った顔をする。確かにそうだな。そうでなくとも最近は自室で過ごす時間が増えているし。

 だが、その問題は予想外のところから解決した。


「ああ、それならば問題ない。その日は沙織、私、月夜に美奈子さんと里見さんで出かける予定だ」

「へ? なんでだ?」

「月夜はあの通り、見た目に気を使ったりはしないだろう? そして、最近は自力でお金を得ている状態だ。だから、ちょうどいいとばかりに服などを買いに行く予定だ」


 あー……そういえば、月夜はあんまりオシャレとか好きじゃなかったな……露出の高い服も苦手としているし。

 納得顔で頷いた俺達に式も頷いた。


「私には『祝う』というのがなかったので、あれだったが、先に三人には私の方から言っておこう。恐らくは驚かれるのだろうが」

「まあ、そこはな。じゃあ、式達には協力してもらうことになるな。なるべく長く外に居て欲しい」

「わかった。そう伝えておこう」


 今後の予定が決まったことで、全員が立ち上がり、部屋を出ると別れて歩き出した。

 それぞれに目的が違うんだから当然だがな。

 にしても勢いで参加者を聞く、と言ってしまったが、思った以上に参加者が多くなって場所を用意しないといけない事態になったりはしないよな……?


「聞くのは十二天将ぐらいまでにしとこうか」


 同じことを考えていたらしい湊の言葉に俺も頷く。それでも多いが、月夜が過ごす部屋は結構な広さがあるので問題ないだろ。

 ほぼ一日をそこで過ごすことになることもあって、他者が大勢来ても大丈夫な部屋を用意してくれているんだ。じゃなきゃ窮屈になりやすいからな。

 穢れという規格外の生き物? と戦う奴らの集まりだから、大柄な奴が多いんだよ。


「月夜殿の誕生日? いつだ」

「三日後の二十九日」

「ふむ……ああ、ちょうど空いておる。参加できそうだ」

「俺も大丈夫そうだな。会場の準備って力仕事はあるか? あるんだったら手伝うぞ」

「俺も大丈夫そうや。是非とも参加させてもらうわ」


 十二天将が過ごす部屋に行けば、タイミングよく『青龍』、『白虎』、『天空』が居たので、参加するかどうかを聞けば、やはり三人とも大丈夫だと頷いてきた。

 しかも『白虎』は手伝う気満々だ。有り難いのでお願いしといたが。

 ちなみに三人が揃って居るのは、三人の年齢が近いからだ。確か『青龍』が二十八で、『天空』が二十六、『白虎』は二十七だったはずだ。

 結構仲がいいみたいで、三人揃って居る姿をよく見かける。『天空』が絡んでいるだけ、とも言われたりはするが。

 女性の十二天将の方は凛と式が聞いてくれる、とのことだったので、あとは海斗と『騰蛇』だけだが……『騰蛇』はともかく、海斗は春樹から聞けば問題ないと思われる。

 となると後は『騰蛇』か……。


「あそこに行くの俺、何気に嫌なんだよなぁ」

「静か過ぎるからという理由だろう?」

「まあな。聞きに行かないわけにもいかないから、行くけどよ」


 月夜は何とも思ってないみたいだが、研究棟は本当に静かだ。実験が地下でしか行われない上に、地下に続く場所は完全に防音されているから、静かなのは当然っちゃ当然だがな。

 人の呼吸すら聞こえない気さえしてくるあの場所は俺としては苦手である。賑やかな場所の方が好きだからそう思うんだろうけど。

 そんなことを考えている内に研究棟に着き、二人で中に入った。いつ通りの静けさの中、歩こうとした瞬間、声をかけられたが。


「む? お前さんらがここに来るのは珍しいな。何かあったか?」

「あ、『騰蛇』。意外にも早く見つかったな」

「だね」

「ん? 私に何か用だったか?」


 まだ話を聞いていないので、意味がわかっていない『騰蛇』の問いに頭を縦に振る。そうすれば益々不思議そうに見られたけどな。


「三日後に月夜の誕生日が来るので、誕生日会を開こうと思っているんです」

「なるほど。その日ならば問題ない。参加しよう」

「わかりました」


 事情を説明すれば納得顔で即座に参加で返答が来た。予定も見ずに大丈夫なのか? と思いはしたが、まあ、大丈夫なんだろうな。

 今のところ、十二天将は全員が参加する、という方向で良さそうだ。やっぱり年末年始に近いこともあって、任務以外は休みにしているんだろう。

 その任務も年末年始は多くないが。

 どうも穢れ達は神の力が強まる時期は弱るようで、出てきたとしても、かなりの雑魚なんだ。どういう原理なのかはわかんないけどな。


「海斗君は春樹が聞けばいいから、これで終わりだね」

「おう。意外にも早く終わったな」

「この時期だからね」


 苦笑しながら言う湊に同意する。出現しにくくなる時期は世間一般でも知られているが、それでも夜は危ないということで、外出禁止は継続だ。

 だからこそ予定がない場合が多くなるんだが。



 そんなこんなで凛と式が戻ってきて、女性の十二天将も全員が参加すると言っていたと伝えられ、海斗も参加すると決まった。

 十二天将が勢揃いすることになるんだが、こればかりは諦めるしかない。傍から見たら過剰戦力だったとしても、だ。

 やることも誕生日会だしな。

 で、当日になって、月夜と式は揃って出かけた。予定通り、沙織、『太裳』、『貴人』と一緒に遊びに行くことになっている。

 正直に言うと、まだ襲われる可能性も少しだがあるので、ちょっと悩んだそうだが、この時期は出かける者も多いということもあり、下手に襲撃もできないだろうと判断された。

 目撃者が多くなることをあいつらは嫌うそうだ。まあ、攫う瞬間を大勢に見られたら、誰かしらが助けようと動きかねないしな。

 自分達のやっていることが正当ではない、という自覚があるなら止めればいいだろうに……とは思うが、そう簡単に片づく話じゃないか。


「よし。準備に取り掛かるぞ」


 出かけて少し経ってから、準備をしてくれる者達が集まったところで、準備開始の合図を出せば、全員がそれぞれに動き出した。

 事前に決めていたから、それぞれが問題なく準備を行なえているようだ。あ、朱里は勿論だが、俺の近くに居るぞ。


「私だって手伝う」

「さっき飾りを壊しかけたのは誰だ?」

「うっ」


 早速やらかした朱里にそう言えば、やらかした自覚のある朱里が言葉を詰まらせ黙った。さすがに準備の邪魔をするような行動を取った自覚はあったらしい。

 どうしてこんなにやらかすのかマジで謎だな……そういう体質か何かなのか?

 そう思いつつも、周囲を見渡せば、順調に準備ができ、思ったよりも早く終わりそうだった。ケーキの出来上がりを考えたら早めに終わった方がいいんだけどよ。

 月夜達が帰ってくるのが、午後三時だったはず。この三日で誕生日プレゼントまでそれぞれ用意するのは大変だったみたいだけど、概ね大丈夫そうだ。

 何とか無事に終わりそうだと思いながら俺は無言で入りたそうにしている朱里の首根っこを掴むのだった。


  ――――――――――


  ――月夜視点――

「これなんてどうかしらぁ」

「こちらも良さそうですが」


 美奈子さんの提案で、服などを買いに来たんだけど、先ほどから永遠に里見さんと美奈子さんがコーディネートを考えている。

 正直に言わせてもらうと私はどんな服装でも構わない。外に出られればいいのだ、出られれば。

 沙織も服を見ているけど、今は完全に里見さんと美奈子さんのコーディネートに意見を出す側になってしまっています。

 式と一緒に無言で見ていることしかできない私は遠い目をするしかない。


「とりあえず、これはキープねぇ」

「そうですね。ですが、こちらも捨てがたい……」

「困りましたね……」


 ……本当にいつ終わるんだろう、これ。

 時間を確認すれば、十時から来ているというのにすでに時間は十一時になっていた。


「……終わるのか? これは」

「さあ……」


 同じことを式も考えていたようで、ぼそり、と呟かれ、困ったように笑いながら曖昧な答えを返す。だって、私にもいつ終わるかわからないんだもん。

 美奈子さんの提案という時点で嫌な予感はしてたけどさ……。

 オシャレに情熱をかける人って凄いんだねぇ……。



 ……三人が揃ってあーでもないこーでもないと言い続けているのを、私が「そろそろ昼食を食べませんか?」と言ってようやく止まったよね。

 どうせこの後も同じ光景が展開されるんだろうけど、一時的に解放されて私と式は安堵の息を吐き出したよね。服だけで一時間も過ごすことになるとは思わなかった。

 早めに昼食を食べよう、ということだったのに、微妙な時間になっちゃったし。

 しかも食事中も「次はアクセサリーかしらぁ」とか「服ももう少し見たいですね……」とか話していました。

 ここまで来るともはやちょっと恐怖を感じる。まだ一時間しか経ってないのに疲れてきたしね……。

 そんな感じで午後三時までずっと服やアクセサリーを見て回りましたとも。

 私と式は最終的にぐったりしてた。できればゆっくり帰りたかったぐらいです。

 でも、途中で寄った本屋は楽しかったかな。あんまりああいう所に行ったことがなかったし。


「さてと……月夜お嬢さん、開けてもらえる?」

「え? あ、はい。わかりました」


 私の自室に到着し、美奈子さんが開けるのかと思ったら、突然振り返って私に開けるよう指示してきた。

 別に手に大きな荷物を持っているとかではないというのに言われて困惑しつつも扉を開けた瞬間だった。


「「「「「「お誕生日おめでとうー!」」」」」」


 そんな声と共にクラッカーの音が響き、私は固まった。


「……え、今日、私の誕生日なの?」

「ああ。主は覚えていなかったようだが、私は知っていたので、教えた」


 記憶喪失であることを知っているので、式が説明してくれた。あ、なるほど。それでみんなが誕生日を知っているのか……。

 まさか自分の誕生日が判明していて、しかも祝われるとは思ってなかったので呆然とする私に全員が苦笑した。全員が想像していた通りの姿を取っているらしい。

 戸籍自体が見つかっていないのだから、それも仕方のないことなんだけどさ。


「驚くのも無理ないと思うけど、とりあえず、中に入ってくれる?」

「レティ、わかった」


 さらりと参加していたレティに促され、素直に中に入った私は何とも言えない顔で周囲を見渡した。

 自分が過ごしている部屋が飾り付けさせているというのも不思議な光景だ。全く予想していなかったので、まだ気持ちの整理がついていない。


「さすがに一気に誕生日プレゼントを贈るってのは月夜が大変だろうと思って、一箇所に集めてあるから後で見て」

「見て見て、ケーキもあるよ!」

「お前が用意したわけじゃないだろうが」

「痛っ」


 テンションがいつも以上に高い朱里姉さんの言葉に春樹兄さんが突っ込み、いつも通り過ぎる姿に全員が苦笑いしている。

 何かを持たせれば何かをやらかすと言われている朱里姉さんに言われると途端に不安になるのは私だけじゃなかったんだろう。蓮兄さんから「あいつはケーキを作れる奴にお願いした以外は何もしてないぞ」と言われました。

 そのいつも通りの姿に私もようやく実感が湧き、笑みが零れた。

 兄さん達の誕生日会は今のところ一度しか経験していない。まだ神楽家に来て一年しか経っていないのだから当然だけど、それと同時に神楽家で過ごせなくなってしまっていたからね。

 でもそっか……私の今日は誕生日なのか……。


「ふふ……ありがとう。嬉しい」


 若干涙を浮かべつつも感謝の言葉を告げれば、全員が微笑んで頷いてくれた。

 祝われる日が来るとは思ってなかったし、自分の誕生日が判明するとも思ってなかったけど、これは確かに嬉しいな。


 そこからはケーキを切り分けて、全員で一緒に食べる、という状態になった。

 何気に十二天将が勢揃いしているということで、沙織とかは「落ち着かない」と言っていたけど、それでも楽しげではあった。

 ちなみに後日談として、十二天将が勢揃いして誕生日会が行なわれたと知った所属者さん達に「まともなパーティーになったか?」と聞かれました。

 どうもあの人達はそういうことが大好きらしく、計画するといつも盛大になるのだとか。自室で留まっていたことが奇跡とまで言われたよ。

 過去にどんなことをしたらそう言われるようになったのか気になったけど、聞かなかった。ただまあ、来年が怖くなったけど。

 それでも、また来年も楽しい思い出として残るんだろうなぁ、と思う。

 できれば自室で留まる程度で抑えてほしいけどね。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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