札作成続き
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
あれから、『結』とか『癒』だけで術として効力を発揮するということを報告したところ、向こうもそこまで把握していなかったらしく、すぐさま五郎さんが反応し、威力が変わらないことが確認された。
結果、一枚一枚にかかる時間を考慮されて、そっちで主に書いて構わない、となった。効力が同じなら問題ないとなるよね……。
札作成ができるらしい水速さんに聞いてみたところ、その方法でできるのはよほど霊力が高い者だけらしい。かなりの力業による省略だそうだ。
「……昨日よりも出来上がる枚数が増えているな」
「そうだねぇ……一文字だけで済む有難さを感じる……」
「まあ、正確性が求められていたからな……」
それまでの様子を知っている式の言葉に頷く。陣というのは、難儀なもので、線を一本引くだけでも結構神経を使うことになる。
何せ、少しでもその線が乱れているだけで、結界も乱れたものになるからだ。それを五郎さんから聞かされた時から真剣に一枚一枚書いていたんだけど、さすがに疲れてしまった……。
まだ円だったら良かったんだけどねぇ……。
とにかく、文字ならば乱れなんて何の支障も出ないから、物凄く楽だ。単純作業……というわけではないけども、昨日とかより断然早くなっている。
まあ、それまでも十分早いと言われていたけども。集中力が人一倍あるから出来た芸当なのかもしれないな、と言われております。
一応、報告した翌日なんだけどさ。すでに、治癒と結界両方とも千枚を達成しているらしい。……つい先ほど、苦笑しながら紗良ちゃんが教えてくれた。
式も私も枚数までは数えていないので、驚いたけどね。さすがに遣り過ぎた……? と思ったけど、供給が追いついていないので、枚数が多い分には構わないという回答が返ってきた。
ならば、と思い、何の遠慮もすることなくほぼ一日中札作成に費やしていたり。
「にしても、やはり霊力が尽きる様子がないな……主の霊力は膨大だと思っていたが、ここまで来ると無尽蔵のように感じられる」
「私からすると本当に微々たる消費量なんだけどね……水速さんはドン引きしてたけど」
実際にあったことを口にすれば、式も思い出したのか、遠い目をしている。水速さんは霊力も高いわけではないらしいからねぇ……。基準がよくわからないので、首を傾げる羽目になったけど。
ちなみに、札作成のための紙に関しては人が切っているのではなく、機械で切って作っているらしく、どう頑張っても消費が上回ることはない、とのことだ。
じゃないと所属者さん全員に行き渡らせるほどの紙を用意するのが大変になるか……と納得できてしまった。本当に私一人で作り上げていくしかないので、供給が追いついてないんですよねぇ……。
ぼやいていてもどうしようもないから、黙々と作り続けているけどさ。
おかげで、訓練以外では自室から動かない状態に……。重要性もわかっているので、誰も何も言わないけどね。
「邪魔するで~」
「えっと……邪魔するならお帰りください?」
「あははっ、ありがとう、月夜ちゃん」
前に教えられたことを言ったら、何が面白かったのか、笑った後に、何故かお礼を言われた。え、なんでだ?
意味がわからず、式と顔を見合わせて困惑していると、新ちゃんが教えてくれた。
「他の奴らは言ってもやってくれへんのや。ほんま、酷い奴らやろ?」
「新ちゃんのノリに付いて行けないだけでは?」
「酷いな、月夜ちゃん! 俺かて、軽く接してるんやで!?」
「その関西弁の時点でなかなか受け入れるのが難しいのでは?」
正直に言ったら、新ちゃんが嘘泣きし始めた。こういうところも苦手意識を持たれている部分だと思うんだけどなぁ……わざとらしい泣き真似なわけだし。
紗良ちゃんと仲がいいというのも、そういうのが関係していると思う。若干ノリが似ているから、お互いに話せるんじゃなかろうか。
軽い調子でポンポン話が進んでいくのが付いていけない、という人も一定数居ると思う。こればかりは慣れないと付いて行くのは至難の業だ。
それが可能なのが五郎さんと紗良ちゃんなんだろう。三吾さんと竜馬さんも若干あのノリは苦手だ、と以前に言っていたし。
長い年月を経験しているからこそのノリの良さなのか、元々から有するものなのか、私にはわからないけど、絶対にどっちかだと思う。
「……それで、何か用でしたか?」
「あ、そうやったわ。すまんすまん、つい、忘れてしもうとった。最近、何か違和感みたいなのは感じとらんか?」
新ちゃんの確認に首を傾げつつも、特別何か引っ掛かるようなことはないため、頭を横に振った。最近は至って普通の生活を送れているつもりだが……何か不自然な点でもあったのだろうか?
あまりない確認に不安げな顔をすれば、意味がわかったらしく、新ちゃんが笑って頭を横に振った。
「そう心配せんでも何も起きとらんよ。……まあ、それが余計に警戒されとるんやけど」
「何も起こらないからこそ?」
「向こうが何を準備しとるかわからん、ということや。今のところ、本部に仕掛けてくることも、月夜ちゃんに仕掛けてくることもない。予兆すら、やね」
そんな指摘に納得する。確かに何故か本部に来た直後は仕掛けてきたというのに、最近は気配こそ感じることはあれど、仕掛けてくることが一切ない。
不自然さを感じて当然と言えば当然だけど……生憎と式と邂逅したあの日から外には全く出なくなってしまっているので、余計にわからない。
もしかしたらすでに仕掛けられた後なのかもしれないけど、そうなったらそうなったで、今度は術が発動するまで私達には対処のしようがないので、困る。
というわけで、新ちゃんが確認してきたらしい。勿論、向こうが思った以上にこちらが警戒しているために仕掛けることができないだけ、という可能性もあるそうだ。
まあ、楽観視はできない、という判断で皆は落ち着いているとのことだから、私と式もできる限り警戒しておいた方がいいのかもしれない。
内部に内通者が居る可能性もあったらしいけど、それも今のところないとのこと。怖いまでに何もない状況ですねぇ。
「月夜ちゃんを本格的に狙っているとしか思えんことをしておきながら、今は何もせず、見とるだけ。怖過ぎやわ」
「そうだね。いくら私が戦闘に関する技術や知識を入れられているとはいえ、隙がないわけではない。この本部とて、完璧、とまではいかないのだろう?」
「お恥ずかしながらそうや。でもここ以外で安全と思える場所なんて、それこそ、月夜ちゃんの実家ぐらいちゃうやろうか。それ以外で俺らが知ってる所なんてないわ」
「あそこも完璧に安全かと言われるとそうでもないかもしれないしね。主が記憶喪失である以上、どこまで指示にあそこが従ってくれるかわからない」
「やっぱりかいな……」
式と新ちゃんの会話を私は無言で聞いていることしかできなかった。自衛手段も殆どないに近い上に、最近になってようやく精神が安定した、ということで特別に術を教えてもらえるようになったばかり。こんな状態ではまず、抵抗できるとは思えない。
結界や治癒は辛うじて以前から教えてもらっていたけども、それだけでどうにかなるほど、向こうは弱くないだろう。
自分で言うと落ち込んでしまうけど、完璧に足手纏いです。しかも、守らなければ危険と明らかにわかる状態。……ちょっと泣きたくなってきたな。
「まあ、何もないんやったら、それが一番や。こっちでも警戒しとるさかい、お二人さんも気ぃつけてや」
そんな言葉と言って、新ちゃんは部屋を出ていった。元々、その確認のためだけに来ただけらしいので、他のことをするために早々に去っていきました。
ちょっと不安になる会話をしてしまったけど、私がしなくてはいけないことは変わらないので、改めて机に向き直す。精神を落ち着かせないと、術もその効力に差が生じる、とのことなので、精神を落ち着かせるために深呼吸をした。
式も精神が乱れるような会話をしたことはわかっていたようで、無言で私の背中を撫でてくれた。
「主は十分過ぎるほどに今も貢献できている。そう気負わずとも良い」
「わかっているけど、それでもね……守られるばかりの状況が長いから申し訳なく思っちゃうの」
「主の気持ちもわかるが、あまり根を詰めていると倒れるぞ?」
そう言われて、私は苦笑した。確かに式の言う通りだ。こうして根を詰めてしまうところが私の短所であり、周囲に心配されるところなのだろう。
とはいえ、頼ってもらえる嬉しさもあるのも本当なので、あんまり根を詰め過ぎないように気をつけながらやっていくのが良いのかもしれない。
そこは式も悟っているようで、あまり強く止める、ということはしてこなかった。
本人曰く、「主は止めても自分が決めたことをそう簡単に曲げるような人じゃないと知っているからな」とのことなので、記憶を失う前からそうだったみたい。非常に恥ずかしいことを聞いてしまった気分になったことは言うまでもない。
記憶を失う前の私を式は少しだけ知っているからか、記憶を失う前の私の言動と似ていたりすると、苦笑しながら見られたりする。その式の反応を見て、全員が「元からだったか……」という顔をしてくるんだけども。あの眼差しが大変、居心地の悪いので、できれば止めて欲しいとは思っている。
はっきり言うと、記憶を失う前と本質は変わっていないのだとわかることは嬉しいんだけど、周囲の眼差しとかを含めると恥ずかしい、が勝ってしまうんです。
まあ、もれなく式には『諦めろ』とジェスチャーされたけどね! それからも微塵も遠慮することなく、教えてくるし。
本当……あの眼差しだけはどうにかならないのかなぁ……。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




