作業
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
私対紙製作班の対決のように最終的になった札製作は結局、眠る時間になって一旦終わりとなった。
半日だけとはいえ、全く尽きる様子が私の霊力も紙もありませんでしたとも。
後から聞いてみると、やはり紙は事前に結構用意されていたらしい。そしてその時に治癒の術の札作成も頼まれました。
昨日、早速使った者達が問題なく使えたらしく、下の階級の所属者さん達にも順次渡していっているらしい。なので、結界と治癒、それぞれを増やしていく必要があるとのこと。
いくら所属者が二百名程度しか居ないとはいえ、常時使おうと思ったら個人個人でそこそこの枚数は欲しいらしいからね……。
美奈子さんの依頼に快く応じ、私は今日も結界と治癒の札を作成しております。
札作成から昨日と今日の二日しか経っていないけど、授業の進みもあって、一時授業が止まっていることもあり、本当に暇だったので、丁度良かった。
あんまり出歩かない上に、訓練こそ継続して行なわれているものの、あまりに十二天将の皆さんの教え方が超人的なあれそれだったため、今は基礎体力を上げるというのと、霊力の扱いに慣れるというのを行なっているだけです。
最初に教えられた術は全部教わらなかった、という処理になったよね。
なので、あれから一度も使っておりません。本当に基礎体力向上と霊力の扱いだけに絞って行なわれております。というか、それが普通なんだって。
一般所属者の皆さんから聞いて肯定してもらったので、信頼できる『普通』である。……信頼できる普通っていう言葉もよくわからないけども。
「……それにしてもこれほど多い札の枚数をどうやって数えているのだ? 私には見当もつかないんだが」
「ああ、それは書類などの枚数を数える必要がある時に使われる機械を使って数えているらしいよ。大きさ的にもそれでいけるんだって」
「なるほど……手作業で数えているのならば、それだけ仕事が増えるから、大変だ、と思ったのだが、そういうことならば納得だ」
至極当然の疑問を抱いた式に答えを言えば、納得顔で頷いていた。……本当に最近は表情が豊かとは言い難いものの、見慣れた者ならばわかる程度に変わるようになったよね……。
保存及び成長がプログラムされているから変えられるらしい。今までは碌に人と接する機会が上手く取れなかったこともあって、人の表情を見て覚えるということができなかったため、無表情だったそう。
「だが、主もその無尽蔵な霊力が尽きないせいで、一日中作製ができてしまうとはな……他の者達は信じられんことなのではないか?」
「うん。色んな人に心配されることが増えた。ちょっと前までは刺繍をしていたわけだし、それも仕方がないと言えるんだけど」
「霊力も普通ではないが、主の集中力も普通ではないからな……」
……確かに一日中同じ作業をし続けてまったく飽きるとかないもんね。集中力もおかしかったか。
式に言われて初めて自覚した私は無言で視線を泳がせた。言われるまでそこまで集中している感覚はなかったせいです。
「多分、普段から刺繍とかで集中して作業をする時間が長かったせいかも。作業系が元々から向いてるのかもね」
「ああ……そんな感じはする」
同じ作業が続いても何とも思わない原因と思われるものを言えば、納得できたようで何度も頷いている。今のところ飽きたという感じはしないんだけどね。
いやまあ、飽きたところで、辞められる仕事でもないけど。毎日何枚でも良いから、とにかく製作して欲しいというのが美奈子さんから言われた依頼だしねぇ。
昨日から続いてすでに百枚以上は書いているので、たった二日だけというのに結界と治癒の陣を書くのが非常に早くなっている気がする。
ただまあ、それでも戦闘中に書くと考えたらやっぱり時間が足りないかな、と思う。咄嗟に使う必要が多いだろうし。
「ところで……『信仰会』についてはどうなったのだ?」
「え? あー……今のところ、動きはない、ということだそうよ。ただまあ、向こうは結界を改変できる者が居ることがすでに判明しているから、かなり警戒し続けてくれているみたい」
「ふむ……それはまた珍しい体質の持ち主だな」
「その体質で私の部屋まで来たことがあったからね……」
「なるほど。確かにそれならば警戒する理由もわかる」
難しい顔で考え込んでいる式に私は式を見た。式は戦闘に関することしか記憶を預けられておらず、それ以外は何となくでしか把握していないらしいけど……。
どうも式も『信仰会』の者達については詳しく知らないらしい。ただ何となく穢れを狩っていただけで、それも行動理由が殆どなかったそうだし。
記憶を失う前の私はとにかく謎行動を起こしている。どうも人格というか、記憶を有する別の自分をもう一人中に作り出している感じがするのだ。
それは、本部で過ごすことになった切っ掛けの日に倒れた後に見た記憶が原因だったりする。あの夢の中で登場したのは実母と思しき人と、狐面の少女。
式は眠ることがないし、夢の中に入るなどという技術は戦闘に関係ないこともあり、覚えていないとのことで、違うというのがわかったけど、だとすれば、私の別人格なのか……と言うとそれも違う感じがする。
夢の中であれば、主人格と別人格が同居することは可能である可能性があるとは五郎さんが言っていたけど、同時に記憶を失う前の私はかなりの技術を有していた可能性が高く、術で記憶を有する者と有しない自身を作り出した可能性も捨てきれない。
分けた理由が記憶にあるならば、本格的に思い出すことは難しい……のかもしれない。
ちなみに、初めて会った時の式の発言は別に夢の中の出来事を知っていたわけではなく、本当に『信仰会』の行動を見て言っただけだったそう。
それまでは記憶を取り戻しても問題ないだろう、ということだけはわかっていたらしいので、静観をしているつもりだったんだって。
妙に夢の中の似た人物の発言と被る部分があったので、勘違いしてしまったけど。
「人格を分ける術、なんてあるのかな……」
「さあ? ただ確実に言えることは、主は記憶を分ける技術は有していた。もしかしたら、人格を分けるのではなく、切り離した、と言う方が正解なのかもしれん」
式の言葉に難しい顔になった。確かに式の言っている通り、記憶を失う前の私が特に思い出すと拙い部分を切り離し、自身の中に残し、それ以外は封じるという対応を取ったかもしれない。
だとすれば、相当の実力を持っていたことにならないか? と思ったんだけど、そこは式にあっさりと頷かれた。
「ああ。主は本当に優秀だった。その片鱗は現在でも出ているようだがな」
「へ?」
間抜けな声を上げた私に何かを返すことなく、式はちらりと札を見た。
そこで私も札に視線を向け、墨で紙が駄目になっていることにようやく気づいた。
「あ、やばい」
「主」
「ありがとう」
昔のやり方らしい、小筆と墨で紙に陣を書いていたんだけど、すっかり墨が垂れることを忘れてたな……幸いにも一枚だけで済んだけども……。
今日は治癒の陣が書かれた札を特に書くという予定だっただけに、垂れた墨を拭き取り、時間を確認して少しだけ焦った。
式とちょっとだけ話すつもりが、結構話していたようで、思ったよりも時計の針が進んでいました。
慌てて、再び集中して札作成に取りかかった私に、式は無言で出来上がった札を乾かすという作業に戻ってくれた。墨で書いているから、乾かす時間も必要なのですよ……じゃないとくっついちゃうし。
そうして、一時間で五百枚ぐらい治癒の札を作ったよね……。
「これでも足りないのか?」
「うん……まだ治癒の札は六百枚ぐらいだから、一人あたり数枚しか持てないことになる」
「それはかなり問題だな。治癒は特に消費が激しそうだというのに」
「だよねぇ……」
所属者のざっとの人数は教えられている式が目を丸くして、私にそう言ってくる。やはり彼女から見ても少ないと感じるようだ。
今日から持つわけではないが、それでもなるべく早めから支給できる段階にまで行くにはもっと枚数を作らなければならない。
美奈子さんからも「なるべく枚数は多めで作ってほしいわぁ」と言われているので、なおさらだ。
結界の方は昨日結構作成したので、今日の分は大丈夫そうではあるみたいだけど、それでも十分の数が本部にストックされているわけではないため、早急に枚数が欲しいところだったりする。
札は僅かに残っている書物の記述によれば、きちんと効力を持っている物ならば十年は効力を変わらず発揮することができるそうなので、大量にあって困るということはまず起こらない。
私のがどれほど持つかは判らないが、陰陽師亜種を自称する水速さんが言うには、記述通り十年は持つだろう、とのことなので、ストックも大丈夫そう。
問題点があるとすれば、札作成が私しかできないので消費量に対し、供給量が追いついていないということです。水速さんもできるらしいけど、私と比べたらかなり見劣りする上に本当に細やかな補佐、程度の効力しか発揮しないんだって。
完全に言霊の力に才能が偏っているとレティは言っていた。
「こう、結界の『結』だけで効力を発揮しないかな」
「陣を書くのも大変だからな……一回試せばいいんじゃないか?」
一枚あたりにかかる時間を知っている式がそう言ってくれたので、試しに結界の『結』と治癒の『癒』を書いてみた。
……見事に術として発揮しちゃったんだけど。え、今までの苦労はどこへ? というか、これだけで良いの!?
「え、ど、どうしよう。本当に出来ちゃった」
「……とりあえず、報告、かな」
「ですよねぇ……」
当たり前のことを言った式に肩を落としつつ、私は若干泣きそうになりながらも美奈子さん達がいるであろう運営の部屋に向かうことになったのだった。
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