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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
50/82

大量生産

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 春樹兄さんによる、朱里姉さんに対する説教が終わり、私もちょうど札を作成するための紙が尽きたところで、途中で来て事情を詳しく知らない紗良ちゃん達に事情説明をしていた。


「……ほう、それで。確かに春樹が怒るのも納得だ」

「私は一枚ぐらいなら構わないと思ってしまうのですが……」


 五郎さんが納得顔で頷く。よく見れば途中で来て事情説明をされている紗良ちゃん、海斗さん、竜馬さんも納得顔をしているので、これは別に研究者特有の感覚ではない模様。

 おずおずと五郎さんに対し言えば、目を瞬いて苦笑された。


「お前さんはそう思うのだろうが、我々にとっては、『霊力を借りて、危険から遠ざけてもらっている』という認識になる。『大公爵』でさえも一撃は守れるほどの威力が普通に作り出してできるなど、あり得んことなのだ」

「それは前にも聞きましたが、それほど凄いことなのですか?」


 戦闘をしないため、いまいち凄さがわからない私が首を傾げて聞くと、全員が納得顔になった。非戦闘員である以上、そりゃ戦場の様子なんて本当の意味じゃわからんわ。

 お互いにそもそもの状況が違うのだとわかったからなのか、詳しくどれほど有り難いことなのか教えてくれた。


「穢れとの戦闘は常に緊張感があるものであることは知っておるな?」

「はい」

「ゆえに、結界や治癒などの術は重要視されるのじゃが、一般所属者のみならず、妾達も戦闘中に回復や結界を張るための詠唱をわざわざ口にせねばならん余裕がない場合が殆どじゃ」

「だから、その時間を短縮できる上に、一般所属者の下の方なんかは、自分達で回復させた場合よりも強い効力を持つ。これで使わないわけがないだろうよ。俺達から見ても十分過ぎるほどの威力なんだからよ」


 紗良ちゃんと竜馬さんの説明に納得する。確かにずっと戦闘をしているなら、そんな余裕はないか……。

 戦闘中に札を出すという行為も結構手間だと思うんだけど、詠唱するよりかはずっとマシだという答えが返ってきた。そういえば、治癒も結界もそこそこ呪文が長かったっけ?

 それなら、戦闘中に取り出して霊力を少し流すだけで効力を発揮する札の方が良いか。

 二人の説明に納得する私に、竜馬さんが苦笑しながら机の上を見た。


「……渡された初日に全部使ったんだな」

「え? あ、はい。読書や刺繍などしか暇潰しがありませんでしたから……」

「なるほど。あ、『貴人』から、今は結界の札だけ作成をお願いしているが、治癒の札もいずれお願いしたい、とのことだ。まあ、今の感じを見ているに、明日からお願いされそうだがな」


 出来上がった札を見ながら言われ、微妙な顔になる。た、確かに、初日でこれまで作っちゃったらお願いされそうだ。どっちも重要なのだとつい先ほど教わったから余計にそう思う。

 今日渡された分の枚数を聞いたら、普通に千枚以上という答えが返ってきた。あちらも枚数を把握しきれていないらしい。それで大丈夫なのか? と思ったら、毎日最低でも千枚は渡すことで決まっているとも言われた。

 まだ日が暮れる前の時間なので、今から渡せる者は渡して、効力を見るとのこと。それを試すことができる者達に渡すので、下の階級の人達には後日となるそうだけど。


「しかし、籠もっている霊力からしても、何の問題もなく使われるようになるだろう。これらは我々が持って行こう」

「あ、すみません」

「構わん、構わん。妾達にとって重要な物であるからのぅ」


 即座に謝罪をすれば、紗良ちゃんがそう言ってきた。死亡率がずっと高いことを最大の課題としていることは知っているので、彼女の言葉にも納得できる要素はある。

 これで少しでも減ってくれたらいいんだけど……こればかりは初めてのことで、使い慣れていないこともあって、最初はあまり上手くいかないだろう。

 それは紗良ちゃん達もわかっていると思うけど、それで使えない認定することもできないんだろうなぁ。

 それほどに深刻だ、というのは蓮兄さん達から聞いている。実際にどれほどの人数が亡くなっているのか、私は部外者である上に、記憶喪失にどのような影響を受けるかわからない、という理由で隠されているが。


「あ、心配しなくても私は持たないからね、月夜」

「……朱里姉さんはもう少し気を付けた方がいいと思う……」

「違いない」


 正直に言えば、春樹兄さんが即座に同意してきた。札を一枚とはいえ破いた前科がさっき出来たばかりなので、朱里姉さんは無言で顔を背けて冷や汗を掻いております。

 ……どうやら、まだ春樹兄さんからの説教は終わっていなかったようだ。紗良ちゃん達が来たから一時的に中断されただけなのかもしれない。

 自業自得なので、私達は助けないし、朱里姉さんも自分が悪いことをしたという自覚はあるので、助けを求めようとしない。視線では泣きそうな顔で周囲を見ているけど。

 しかし、ここには大半が春樹兄さんが怒る理由を理解出来ている人達しか居ない。


「諦めろ」

「諦めよ」

「諦めるんだな。ああ、後で私も加わりたいぐらいだ」

「『騰蛇』様!?」

「これがどれほど大事な代物なのか、事前に聞かされた上でここに来たのだろう? 自業自得だ」


 スパッと斬り、更には五郎さんに追い打ちされていた。本当に事前に来る前に聞かされていたようで、朱里姉さんは無言で視線を泳がせ、そのまま肩を落としたのだった。

 事前に言われてたというのに、やらかしたというのなら、五郎さんだけが参戦とは行かないだろうなぁ……きっと凛姉さんとかも入る。

 家族である以上、朱里姉さんの性格とか知り尽くしていると言っても過言ではない。絶対に連兄さんからでさえ言われていたはず。

 これに関しては、温厚な海斗さんも助ける気はないらしく、無言で苦笑しつつも止めない。

 温厚とはいえ、怒ったら怖い人でもあるらしいので、もしかしたら怒っているのかも。

 実際、朱里姉さんが海斗さんを見て青褪めているし。春樹兄さんも見た上での反応だが。

 完全に姉さんの中では恐ろしい人物認定をしている反応だ。怒らせる行動を取る方が悪いというのも一応は理解出来ているようなので、問題はない……のかな?


「あ、札用の紙がなくなったので、補充できませんか?」

「『貴人』に聞いておくよ。まあ、すぐさま用意してくれると思うけど」

「それでも無茶はせぬようにな。いくら膨大な霊力量を誇るとはいえ、札作成で霊力は消費するのじゃから」


 海斗さんが了承してくれ、すかさず紗良ちゃんから言い含められた。現状、疲れは感じないんだけど、それでもこんなに大量に作るのは初めてなので、慎重になった方がいいのかもしれない。

 急にぶっ倒れても周囲は大騒ぎになるだろうしね……。式にお願いしておこう。


「了解だ、主。私も主の霊力を使って術を行使する存在だからな。霊力の減り方を見るならば私が最適だろう」

「お願いね、式」

「ああ」


 頭の中で考えていたことを読み、即座に了承を返してきた式にきちんとお願いする。式は私の髪を使っていることもあり、私の霊力を使うことができるだけではなく、思考も自動的に流れるのだそう。

 要するに私が考えていることの全ては彼女に筒抜けというわけだ。それはそれで恥ずかしいな……。

 こればかりは、『髪には神が宿る』という言葉の通りに強い力で彼女が作り出されているから仕方のないことらしいけど。これも式から教わったことだ。

 何とも不思議な関係ではあるが……そこそこに楽しいので現状でも良いか、と思っている自分がいる。誰にも言わないけどさ。


「月夜の霊力が許す限り書いてみるのもいいかもしれないな。限界を知っていれば、無茶はしないだろ?」

「確かに……」

「ならば、際限なく渡し続けることにしよう。確かに最初に限界を知っておくのは大事だ」


 春樹兄さんの言葉に納得すれば、すぐさま五郎さんが応じてくれた。他の人達も春樹兄さんの意見には賛成なようで、誰からも反対意見は出なかった。

 あちらも私の限界を知っておくことは大事だもんね……。

 全員が賛成したことで、すぐさま彼らは動いてくれた。数分後には札用の紙だけを入れられたブレスレットを渡されたさ……。

 ブレスレットに入っている、という言葉も昔の人は訳が判らない言葉だろうなぁ。

 別の現代と昔で大きく科学力が違うというわけではない。ただまあ、空間系の研究は結構進んでいるかもしれない。穢れを封印する、という方向に行った名残らしいが。

 結局はその研究もこれといった成果は残せず、残ったのは、異空間を作り出し、収納場所とする……というものだけだったそう。

 それでも十分過ぎるほどの成果だろうと誰もが思ったとのことだけど、当時は本当に穢れに対する対抗手段がなかっただけに、封印さえも上手く行っていないということが研究中止に繋がったのだとか。

 望まれた研究結果がそれだったから中止になっちゃったらしい。現在は新たな収納として活躍している異空間装身具の改良を目的として研究が行なわれている。

 何とも安直な名前だろうけど、ピアスやブレスレット、ネックレスなど、本当に多種多様なため、自然とそう呼ばれるようになったのだそうだ。

 最初は不思議な代物、程度の認識だったらしいけどねぇ。


「……本当に一向に減る気配がないんだけど」

「数分で用意できる枚数ではないな」

「これは双方干渉型だからね……向こうから永遠に入れら続けているなら、減らないのもわかるんだけども……」

「数分で永遠に補充できるだけの枚数を用意できるわけない。……かなり前から用意されていたんじゃないか?」


 そう言った式に私は……無言で顔を背け、静かに札作成に戻ったのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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