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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
49/82

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 式と一緒に図書館で借りる本を選び、自室に戻ったところで、タイミングよく、美奈子さんが来た。

 いつも運営担当の人達がいる部屋に居る人なので、不思議に思っていると、図書館に行く時に思い出していた例の札の件を出された。

 五郎さん達の手により、本格的に有用な代物だと判断されたそうだ。


「……というわけで、今後は月夜お嬢さんに札を作ることも日課にしてもらいたいのよぉ」

「それって枚数や大きさはどうすれば良いのですか?」

「大きさの方は私達の方で先に決められた大きさにされている物を準備しているから、それを渡すわぁ。枚数に関しては毎日できれば百枚以上は書いてほしいけれど、制限はないわねぇ」


 結構自由度の高い依頼に目を瞬く。しかも、札を作りにあたり、私に対して仕事として依頼することにしたらしく、ちゃんとお金も出るそう。

 枚数に応じて金額は変わるらしいけど、百枚で二万は結構な額だと思う。

 しかし、これでもかなり安く設定した額らしく、本当は十万ぐらいは払うべきという感じだったとか。


「でも、月夜お嬢さんは中学生でしょう? 中学生に対して払える賃金の制限があるのは知っているわよねぇ?」

「そういえば、そんな法律がありましたね」

「形骸化してしまっているけどねぇ。それに桜桃軍内での仕事だから、法律なんてあってないようなものだけどもぉ」


 美奈子さんの言葉に視線を静かに逸らした。た、確かに桜桃軍自体が隠れた組織なので、法律が及ばない部分が多々ある。そもそも、武器所持も普通ならば認められないはずだしね。

 危険な仕事だから、破格の賃金らしいけど、一般的には法律違反を結構してるらしい。……公共物破壊とか起きちゃう仕事だもんね。

 でも、穢れが一般的な認識となっているので、突然家が破壊とかになっても、誰も疑問に思わないのだとか。ちゃんと国からの対応もあるからだろうけど。

 そもそも、外出が禁止されている夜中に出ている時点でアウトだ。警察でさえ外には出られないので、捕まってないだけで、バレたら普通にヤバイ。

 ただまあ、国としても穢れによる被害を軽減してくれる存在は有難いため、お互いに問題なく関係を築けているそうだ。他に穢れに対抗できる存在がまともにいないせい、とも言う。

 ちなみに、中学生がアルバイトをするのも普通になっている。夜中に出歩けない上に、法律で上限が決められているから、というのが主な理由だ。

 上限が決まっている、とは言ってもそれは一応の上限であり、実質ないと言っても過言ではない。

 時間制で給料が決まっているのですよ。しかも五時間以上入っていた場合は上限が消える。……休日ならば何の問題もなく入れますわな。

 これは、別に中学生とかに限った話ではなく、全ての人に当て嵌まる。おかげで五時間以上入ると急に給料が格段に増すという店が多かったりする。


「でも、月夜お嬢さんの仕事に時間制なんてことはないでしょう? だから物凄くみんなで悩んだのよぉ。あんまり大金を渡されても貴女が困るでしょうしぃ」

「それは、まあ……確かに」

「いきなり、十万は怖いでしょう?」

「そうですね」


 確かに、百枚書くのも大変ではあるが、それで十万は恐ろし過ぎる。それでも二万も高過ぎると思うけど。

 そう内心で思っていると考えていることがわかったのか、美奈子さんが苦笑した。


「他者の霊力を借りて危険から遠ざけてもらっているようなものだものぉ。戦闘時に大いに活躍することが予想される以上、安くし過ぎることもできないわぁ」

「なるほど」

「まあ、今後は徐々に額を増やしていく予定だけどぉ」


 ……さらっと問題発言されたな、今。

 え、今後増やしていくの? まさかと思うけど枚数変えずに? 何それ恐ろしい。

 問題発言をされて、沈黙するしかない私に美奈子さんが微笑んだ。その微笑みが若干恐ろしく感じたのは私だけではなかったようで、式が微妙な顔で美奈子さんを見ていた。


「も、ち、ろ、ん。いずれは百枚十万にするつもりよぉ」

「ひえ……」


 未来の決定事項を話され、顔を引き攣らせる。式もそういった基準はよくわかっていないみたいだけど、それでもどう考えても中学生に出す金額ではないというのはわかるようで、同じく顔を引き攣らせている。

 最近では式と私が『双子』と呼ばれるようになっているけど、確かに式の表情が豊かになってきたような感じはする。

 って、現実逃避をしている場合じゃない。


「え、えっと、私が中学生なのは……考慮してくれたのですよね……?」

「ええ。勿論よぉ? でも、所属者の死亡率が減るなら、出し惜しみはできないわよねぇ?」

「あ、はい。そうですね」

「だからぁ、諦めてちょうだいねぇ?」


 有無を言わさない美奈子さんの迫力ある笑顔と言葉に私と式は無言で頷くしかなかった。ええ、誰も逆らえませんとも。怖過ぎたんだよ!

 こうして、私の新しい? お仕事が決定したのだった。


  ――――――――――


「これで効果があるの?」

「みたい。一応、過去の陰陽師とかの人達にも聞いたけど、これで十分過ぎるほどの効果はあるらしいよ」


 朱里姉さんが遊びに来て、興味津々で書き上がった札を見ている。あ、春樹兄さんが朱里姉さんを監視している。破かないか心配なんだろう。

 美奈子さんから渡された紙は正方形の紙で、大きさとしては五センチぐらいだ。

 小さすぎないか? と思ったんだけど、戦闘時に出すとなると、あんまり大き過ぎるのも困るとのこと。

 紙に書くのも結界の陣であって、呪文ではないので、余計に正方形で良いか、となったそうだ。確かに呪文を書くなら正方形ではなく、長方形の方が良い。

 呪文でも効果を発揮するのは確認済みなんだけど、今のところ陣で書くようにと言われている。

 呪文は呪文で長すぎるから、必然的に札が大きくなり過ぎちゃうんだよね……。


「……かなりの霊力が籠もっている。確かにこれなら強度のある結界を張ることができない所属者でも張れるな」

「春樹が言うなら確かだね」


 速攻で信用した朱里姉さんに苦笑する。相変わらず朱里姉さんは他者の霊力を感知できない人らしい。勘が鋭いので気づいていない人もいるらしいが。

 さすがは春樹兄さんに「脳筋」と言われている人だ。本能で生きているとも言われがちだけど。


「自分で感知できるようになれ、と何度も言われているのに、覚えない奴が……」

「だって~、覚えられないんだから仕方がないじゃん? それに月夜とかが感知できるんだし! あと、勘で判るしさ~」

「勘に頼り過ぎるなって何度も凛姉達から言われてるだろうが! そうやって生まれ持った特異体質を過信するあまり亡くなった所属者がどれだけいると思ってんだ!?」

「だって、だって~」

「だっても何もない! その内、『勾陳』様達が直々に鍛える……なんてこともあるんだぞ!?」


 怒鳴る春樹兄さんの最後の言葉に朱里姉さんが固まった。最大に効果のある言葉を春樹兄さんが言ったからだ。

 今回も春樹兄さんに軍配が上がったようである。朱里姉さんも否定できなかろう、あの言い分では。


「そ、それだけは嫌だ! だって、暫くご飯が食べられないんだもん!」

「お前はそればっかりだな……」


 嫌な理由を口にした朱里姉さんに春樹兄さんが頭を抱えた。いつもの光景です。頑張れ、春樹兄さん。

 確実に朱里姉さんの成長に春樹兄さんの手腕が掛かっていることだろう。まあ、その前に見かねた十二天将の皆さんが動く可能性もあるかもしれない。

 などと考えながらも私は無言で札を作り続けております。何枚書いたかなんてもう覚えていない。二人が部屋に入ってきた時点で、私は札を作り続けることを勝手に決定していたので。

 再び言い争いが始まった二人だが、それはまた違う騒動に発展するようだ。


 ビリッ


 そんな音が僅かに聞こえ、無言で朱里姉さんの方を見る。……畳に座っている朱里姉さんだけど、春樹兄さんに抗議するためなのか、咄嗟に腕を広げた状態で固まっている。何かを持っていたと思われる手には明らかに紙の欠片があった。

 空気が急激に冷えていき、式が無言で結界を張った。……その気持ちはわかるよ、式。


「……なあ、朱里。俺は確かに言ったはずだよな? 『見るのは構わないが、破くのだけは駄目だからな?』って」

「は、春樹……」

「これ一枚でどれだけの価値があると思ってんだ? なあ?」

「そ、その……」

「『騰蛇』が言うには、これ一枚で『大公爵』の攻撃すら一撃とはいえ守ることができるだけの強度が張れるんだぞ? たった一撃、されど一撃だ。それがどれほど凄いかわかってるんだよな?」

「う……」


 笑顔なのに声も目も全く笑っていないどころか寒気がするほど冷たい春樹兄さんの言葉に朱里姉さんは何も言えなくなっていた。……春樹兄さんが本気で怒っているのだ。

 本気で怒っている時の春樹兄さんはかなりねちっこい。言葉だけとはいえ、その永遠にネチネチと言われるので、朱里姉さんは本気で怒っている春樹兄さんを特に苦手とする。

 なので、必死に本気で怒らせないようにしているんだけど……今回は駄目だったようだ。

 涙目で助けを求める視線を向けられるが無言で首を横に振る。無理なものは無理だって、朱里姉さん。そもそも、今回も貴女が原因です。

 式が無言で結界をずっと展開し続けている時点で察して欲しい。手遅れ、と。

 そこからはまあ、永遠と春樹兄さんの説教という名のネチネチ攻撃は続いた。朱里姉さんも途中から謝り倒していたが、やったことがやったことなので、途中で来た紗良ちゃん達も助けようとはしなかったし、私も無言で札を作成し続けた。


「ごめんなさい~!」


 そんな泣きながらの謝罪を聞きながら、私は無言で札作成を続けるのだった。……誰もそれを止めようとしない程度には全員が見て見ぬ振りをしていたよ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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