式
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式が来て数日が経過し、すっかり桜桃軍では式の存在が受け入れられてしまっている。それはもう皆さん普通に「よう、式。おはよう」と言って挨拶をするぐらいに。
桜桃軍では当たり前の存在ではないはずなのに、凄くあっさりと受け入れられています。受け入れられ過ぎてむしろちょっと怖いぐらいだ。
ただまあ、やっぱり時々、式か本人か確認が入るけど。一緒になって読書とかしていると、どっちも表情が変わらないから、確認しないとわからないのだそう。
紗良ちゃんとかは「鍛錬が足りてないのぅ」と言って周囲を震え上がらせていた。……できれば程々でお願いします。偶に死にかけなんじゃ? と思しき人が倒れこんでたりするから。
あれはあれで怖いのだ。誰だって廊下を歩いていたら死屍累々とばかりに鍛錬後と思われる人達が多数倒れていたら、「襲撃か何かあった!?」と思う。
それぐらいにボロボロなのだ。何だったら鼻血が出ている人とか、普通に骨折してそうな人とかいるし。式も初めて見て、驚いていたもん。
残念ながら、私も式も紗良ちゃん達の本気の鍛錬を受けたことがない。未だに私は基礎的なことを教えてもらっている段階だし、式は軽く見られたけど、問題なしの太鼓判を押されていた。
一応、鍛錬後は自力で医療担当達がいる棟に向かうように、となってるので、私達も助けたことはありません。倒れている本人達も私に助けを求めたことないしね。
「今日も多いね、主」
「うん……毎回ながら凄いと思うよ。……紗良ちゃん達が」
「確かに」
図書館に行くために訓練場の近くを通ったんだけど、案の定、いつもどおり多くの人が倒れていた。本当にここだけ異様な光景になるよね……。
式も私の言いたいことがわかるのか、無表情のまま頷いている。表情は今のところ一切変わっているところを見たことがございません。そもそも、変わらないらしいし。
ただ、声には感情が籠もっているので、喋ればどういう感情を抱いているのかがわかる。とってもわかりやすいほどに声は感情豊かなのだ。
「おぅ……式と、月夜じゃねぇか……久しぶり……だな……」
「三谷さん、その言い方だと死んでいく人の感じがして嫌です」
「すまん……でも、これ以上、無理だわ……」
「今日は特に人が多いですね。何かあったんですか?」
知り合いであり、会うと大抵何かお菓子をくれる人である三谷さんに聞けば、のろのろと上体を起こしながら説明してくれた。私と式は揃ってしゃがんでいます。
ここは鍛錬後の所属者さん達が大勢倒れていることが多々あるので、あまり人の従来が盛んではない。その代わり、戦闘員が多数いる場所でもあるので、私はよくここを通っています。
私の所在や向かった先を多くの人が見ていた方が安心できるということなので、そうしているんだけども。
「『勾陳』様、『騰蛇』様、『青龍』様が揃ったんだ……。それでこの結果だ」
ある程度は回復したようで、三谷さんは先ほどよりはマシになった感じで話してくれた。結構聞き取りやすいので、私達も一安心だ。
「三人が?」
ただ、私は三人が揃った時の訓練の厳しさを知らない。式も知らないので、揃って首を傾げております。三谷さんもそれはわかっているようで、私と式の反応を何も言わない。
何となく厳しいということしか聞いたことがないし、私はそれぞれの訓練を一応受けたことがあるものの、別に苦だと思ったことはない。周囲は絶句していたけど。
「まあ、お前なら特別苦にも思わないんだろうな。ただまあ、俺達がこうなっているのは最後に行なわれる十二天将の攻撃を避け続けろ、というやつのせいだ」
「なんでそんなことを?」
「穢れの攻撃を避けたりしないといけないし、動体視力をよくするためにもやるんだよ」
十二天将とその下の所属者達はかなり戦力差があると以前に聞いていたので、疑問に思い、聞けばすぐに答えてくれた。それが必要な訓練だとわかっているようで、三谷さんからは理不尽と思う様子はなかった。
その納得している様子に首を傾げかけるも、すぐに彼らが穢れと相対する時は生きるか死ぬかの状態だということを思い出した。
現在でも数が少ないということもあり、生存率を上げる意味でやっているのだろう、と思ったのだ。
「お前、表情に出やすいのな。そのとおりだ。ただまあ、納得はしているんだが、あの人達容赦がないんんだよなぁ……おかげで絶対に十発ぐらい攻撃を受けるんだよ」
「痛そうですね……」
「実際、物凄く痛い。しかも一度当たったら、気絶するぐらいの威力なのに、もう一発確実に受けることになるから、気絶もできねぇし」
段々、文句を言う感じになってきた三谷さんに何も言わないでおく。実際に私は受けたことがないので、何も言えません。ええ、言えませんとも。
……これ、いずれは私も受けることになりそう、と思ったけどさ。
いつかこの人達と一緒に倒れている姿が目撃されることになるんだろうなぁ……。鍛錬の時の紗良ちゃん達はどうやら手加減一切ないみたいだし。
いや、誰も死んでないので、手加減はされているの……かな?
「でも、そんな攻撃なら武器や霊力で受け流すしかなさそうですね」
「は?」
普通の感じで言ったら、三谷さんが目を丸くして私を見てきた。……どうやら大きな認識違いか何かが起こっているようだ。
お互いに困惑するしかない状況だったものの、三谷さんは気になったようで、私に聞いてきた。
「武器で受け流すはわかるんだが、霊力で受け流すってできるのか……?」
「できると思いますけど……一発当たったら砕ける程度の結界を瞬時に張れば必然的に相手の攻撃は一瞬であっても止まるので、避けられるでしょう?」
「……」
普通のことと思いながら言えば、三谷さんが黙り込んだ。式の方を向けば、私と同じことを思っていたようで、同じく首を傾げている。私の視線を受けて無言で頷いてくれた。
私と式が揃って困惑していると、三谷さんはそれに気が付いたようで、苦笑しながら答えてくれた。
「すまん。俺達は結界っていうのは、完璧に敵に攻撃を守るためのもの、という印象が強くってさ。だからそんな感じで使うという思考がなかったんだ」
「あら、だとしたら駄目でしたかね?」
彼らが気づいていなかったというのならば、訓練の中で気づくべきだったことだろう。訓練中でもないところで教えてしまったようなものなので、駄目だったかも? と私は思った。
当人達が気づかないといけない部分とてきっとあるだろうからね。
「いや、問題ないだろ。むしろ、こうして他者から言われて実力が向上するならあの人達は喜ぶさ」
「そうですか……それは良かったです」
「おう。しかし結界を敢えて強度を落として守る、か……意外な使い方だったな。今度試してみるわ」
「はい」
三谷さんが笑顔を見せながらそう言ったのに、私も微笑み頷く。そろそろ図書館に行かないといけない、と言ってその場は終わったけどね。
きっと今後試しながら行なうのだろう。
にしても……三谷さんは『中将』なのにあの状態だったって何気に恐ろしいよね。
――――――――――
「へぇ、ここが図書館なんだ」
「うん。内部が二棟に分かれていて、あっちが術とかのことに関したことで、こっちが一般的な図書館の分け方になっているらしいよ」
「ふぅん。まあ、術関連の書物はどうしても多くなっちゃうか」
私が持っている本を読むことはあっても、今まで図書館に来ることはなかった式が驚いたような顔になる。確かに結構大きいので、普通に中で迷子になりそうな感じはする。
後で五郎さんが来る予定だが、先に私達が来ています。まあ、初めて来てから何度か出入りしているので、すっかり図書館の人達と親しくなっているんだけど。
「あら、月夜ちゃん。そちらが噂の式さんね?」
「宜しく」
「私は尊山仲子よ。気軽に仲子ちゃんと呼んでほしいわ」
「わかったよ、仲子ちゃん」
即座に対応してみせた式だが、普通は二十代の見た目をしているとはいえ、年上をちゃん付けでは呼ばないと思う……。紗良ちゃんという前例がいなかったら無理だ。
ま、まあ、気さくな人なので良いのだろう。
「仲子ちゃんは半妖だから、実年齢はもっと上だそうよ」
「へぇ……本当に半妖って年を取るのが遅いんだね」
「ちょっともう……恥ずかしいわ」
桜桃軍内でも珍しい半妖だと教えれば、式がまじまじと仲子ちゃんを見た。その視線に恥ずかしげにする様はとてもじゃないが二十代以上には見えない。
実年齢を正確には聞いてないけど、それを教えてくれたのが五郎さんだからなぁ……。
あの人も若い見た目をしているけど、実年齢は六十二歳だったはず。見た目詐欺にも程があると思う。
「あ、これ、借りていた分です」
「もう刺繍し終わったの?」
「はい。訓練、刺繍、読書ぐらいしか時間の潰し方がないので……」
「なるほどぉ。それは確かに早く終わるわよね」
納得したように頷く仲子ちゃんに私も頷く。今日も気になった本を適当に借りていくことになるだろう。最近は、殆どの陣を刺繍してしまったこともあり、そちら方面で本を借りることはなくなってしまった。
五郎さんの方でも研究が進み、私の刺繍は結構威力が凄いのだそう。おそらくは、札に陣を書いて効力を持たせるという昔の技術が流用されている状態なのだろうとのことで、今は刺繍ではなく、札に書くということをしております。
それでも効力がかなりあるそうなので、今後は私に札作成を依頼する日が来るかもしれないと美奈子さんから言われている。
一応、私が作った札は他者でも発動可能であることが実証済みだからね……下の方の階級に属する所属者さんは結界を張ったとしてもそこまでの強度が出せないので、本人の霊力が殆ど必要ない札は身を守る上で重要な役割を担うだろう、とのこと。
そもそも、結界はちょっと複雑なのだ。あれだけは詠唱を少しでもしないと発動できないので、陣を書くか、詠唱するかしか方法がない。
強度のない結界を張る際は必要ないみたいだけど。きちんとしたものになると、得意な人でもない限りは詠唱を省略できないし、結構時間も取られるとのこと。
攻撃系の札も作れることは判っているけど、現状、それは自身で使うだけに留めておくよう言われている。他者のおかげでできているという感覚を失えば危険だから、と。
まあ、自力で対処できない状態になるなど、組織としては困るか。札が尽きたら終わりなんだから。
「はい。これは後で私達が返しておくから、行って大丈夫よ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから、私と式は術などがある棟の方へ向かった。
術などに関することの知識は基本的に図書館にある本から得て欲しいと言われているので、結構な頻度で利用しているんだよね。
じゃなかったら、司書の皆さんと仲良くなれないけどさ。
なんてことを考えながら、私は式と一緒に色々と本を見て回るのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




