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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
45/82

隠れ者

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。


『今までの隠れ者達が隠してきた中で一番、邪な者達に見付かるとまずい場所よ』


 そうレティに言われた私も五郎さん達も言葉が発せなくなっていた。

 いつの間にか来ていた紗良ちゃんと三吾さんも話を聞いていたようで、黙り込んでいる。


「見つかると……まずいって……どういう……」

「あそこは特に神力……神の力が宿る場所。おそらくだけれども、月夜の家系は神に関することを得意としてきた家なのでしょうね。あの場所の主が貴女になっているらしいし」

「え?」

「貴女以外は誰も出入りできなかったの。貴女と一緒じゃないと中に入れないのよ。出入りできないどころかその場に行っても見つけられなかったわ」


 実際にその場に行って確かめてくれたようで、レティの報告に私はじっとレティを見た。彼女が言っていることが正しいのならば、私が敵意を向ける者は入ることができないのでは? と思ったからだ。

 表情にもそれが出ていたようで、レティが頷いた。


「『信仰会』の者と思われる者達があそこ周辺に居たわ。でも……揃って山の麓に戻されていたの」

「麓に?」

「ええ。山に入った瞬間にね。私達は入ることはできたけど、あの神社は視認することもできなかった」

「じゃあ、本当に私だけが許されている……という感じなの?」

「そうね」


 頷かれて私は思わず黙って考え込んだ。何だか、何かと似ているような……。

 そこまで考えてどこと似ているのか気付いた。


「桜桃軍本部と一緒だ」

「ん?」

「ここも正式な手順とか認められているとかじゃないと来ることができないんでしょう? 一緒だなと思って」


 侵入の可能性があるのは確実に本部の方だろう。あの神社は私以外の侵入は基本的に許可していないようなので。

 敵対者と思われる人物は今のところ山に入ることさえ拒絶されるだけで留まっているようだけど……それだけとは思えない。

 もっと進んだ場合、排除の決断を下した場合はどうなるのだろうか。そこら辺が私には全くわからないので、少々怖い。


「ああ……確かに似ているわね。でもまあ……神聖さで言ったら向こうの方が上だと思うわよ? 気の乱れを嫌っているとも受け取れるもの」

「確かに。結界を張ったのが人間とも限らんしのぅ」

「月夜は感じなかったようだけど、同行した全員がかなりの威圧感を感じたところからして、神気で満たされているのでしょうね」

「なるほど」


 普通に会話をしている紗良ちゃん、三吾さん、レティを眺めながら、私はもう一度思考の海に浸かる。もっと他に思い出せることはないか、と。


『私達は隠れ者、と呼ばれる存在なんだ。他にも逃れ者がいるが』

『かくれもの?』

『隠れ者は国にとって重要な場所を守るために隠れた者達のことを指すんだよ。逃れ者の方は国から血を守るために逃げた者達のことだ』

『血を……』

『我々隠れ者は血だけではなく、土地もまた守らねばならなかったから、逃れ者にはなれなかった。そちらの方が遥かに安全だとわかっていても』


 優しげな男性の声と幼い……お母様から術を学んでいる時に聞こえた声と全く同じ声が頭の中で響いた。思わず瞠目する。

 あれ以来思い出せなかったというのに、また一部記憶が戻ってきたらしいと思う。


『だが……隠れ者はその特性上、子をなしていかなければならない。それも永遠には続かないことをわかっていても、だ』

『そうして……いつか滅ぶ。だが、ここだけは絶対に守らなければならない。他の場所とて重要ではあるが、ここは特に重要な場所なんだ』

『次々に滅んでいった。もはやまともに残る隠れ者など殆ど居ないだろう。中には一般人の振りをして生活する者も居たが、それも一時しのぎにしかならなかった』


 悲しそうに呟く男性の姿が脳裏に浮かんだ。直感的に父だと判断し、何故か私はそのまま過去の記憶を黙って見続けていた。

 理由なんてわからない。見たくないと振り払うことだってできるはずなのに、私は魅入ったようにその記憶を思い出し続けた。


『お前が少しでも幸せな人生を歩めることを願っている』

『おとうさま?』

『ほら、もうすぐ夜の食事だ。支度をしなさい。お母様に怒られてしまうよ』

『それは、やだっ!』


 パタパタと慌てて身支度をする子供を最後に過去の記憶は途切れた。どうやら今回はここまでのようだ。結構重要そうな感じだったのに随分とあっさりとしてたな……。


「月夜さん?」

「え、あ……」


 過去の記憶を思い出していると心配そうにレティ達がこちらを見ていた。話しかけてきたのは里見さんだけど。


「どうかしましたか?」

「えっと……今、お父様から隠れ者と逃れ者の説明をされているところを思い出してました」


 正直に言えば、周囲は目を見開いた後に頷いた。切っ掛けがあれば思い出すとわかっていたからか、それ以上は心配げな顔をされることはなかった。

 話を聞いてみると、話しかけたものの、無言で何か考え込んでいるかのようだったらしい。私からは全く声が聞こえていなかったので、一時的に周囲の声をシャットアウトしていたようだ。

 相当心配させたようで、何ごともなくて良かったと安堵する周囲に申し訳なさを感じる。最近は全く思い出す気配がなかったし、呼んでも返事がなかったら心配して当然か。

 誰かに外から干渉でもされたかと思ったに違いない。『信仰会』に狙われている現状を考えれば即座に思いつくのはそちらだろう。


「すみません……」

「構わん。そなたに記憶が戻ることは喜ばしいことなのだからな」

「そうです。ですから気にしないでください」


 三吾さんと里見さんに言われて頷くものの、顔を俯かせてしまう。思い出すタイミングまでは自分では制御できないので、どうしても今後も周囲を心配させてしまうだろう。

 今回は精神が不安定になる記憶を思い出さなかったから良かったけど、今後はそうとも限らない。……あの場所に両親が居なかった時点でおかしいのだから。

 隠れ者である両親ならば、あそこで私の帰りを待ってないとおかしい。誰も何も言わないけど……ほぼ確実にどこかに捕まっているか、殺されていると見た方がいい。

 死んでいる可能性が高まったという点では物凄く悲しい。悲しいが……まだ完全に記憶が戻っていない関係なのか、どうしても『他人』の感覚を抱いてしまい、その悲しさも薄いものだった。

 今はまだ紗良ちゃん達の方が付き合いが深いせいだとは思う。いずれは両親の存在も大きくはなるんだろうけど……父や母代わりを周囲がしてくれてるしねぇ。

 完全に思い出すことが怖くないわけではないが、まだ私の中で受け止め切れていないというのはこれでわかる。父と母でさえこんな認識だからね……。


「話を聞けていなかった月夜のためにもう一度言うわね」

「話?」

「そう。私を一度神社に連れて行ってほしい、という話よ」


 予想外とまでは言わないが、少しだけ驚く言葉を口にしたレティに目を瞬く。彼女は以前、日本の術などには疎い、という話をしていたから、私としてはそう言い出したことが驚きなんだよ。

 隠れ者とかの確認も、日本出身の人から聞いてたほどだし、やはり国ごとに違いがどうしても出てしまう部分は把握し切れていないんだろうな。


「レティが行くの? あまり日本に詳しくないって前に言ってなかった?」

「そこは大丈夫よ。ちゃんとわかる奴も連れて来るわ」


 ぐっと拳を握っているレティ。……無理矢理連れて来るようにしか見えないのは私だけだろうか?

 そう思い、周囲に視線を向けると全員が苦笑で返してきた。やはり全員が同じことを考えたらしい。

 ちゃんと同意を得た上で連れて来てほしいものだが……。


「護衛は『騰蛇』、『勾陳』、『青龍』、『太裳』よぉ」

「多いですね」


 いつもならば多くても二人程度なのに、四人も来るという話を聞いて驚く。ただまあ、続いた説明に納得したけど。


「夜の貴族様曰く、かなり『信仰会』の者が周辺をうろついているみたいなのよぉ。外に出る機会がその時にしかないからでしょうけどねぇ」

「ああ……」


 危険な目に遭うことが確定していると言っても過言ではないため、護衛の数を増やしたらしい。私がまともに戦えない以上は、常に側で守る存在が必要だもんね。

 いやまあ、レティもいるから、実質護衛は五人か。レティが連れてくると言っていた人物は……戦闘になったら加勢しそうだな。逃れ者な時点でそれなりの実力はあるだろうし。

 加勢できなかったとしても、援護とかしそうだ。防御とか治癒とかが得意なら可能性はありそう。

 むしろ、そっちの方がありえそうだなぁ。


「守りは『玄武』が一番なのですが……残念ながら彼は授業がありますからね」

「『太裳』も防御は五本の指に入るほどじゃ。安心すると良い」


 申し訳なさそうな顔をした里見さんに続く形で紗良ちゃんがそう言ってきた。別に護衛に文句を言うつもりはないし、むしろこっちが謝りたいぐらいだ。自力で対処できないんだからさ。

 結界や治癒はきちんと習ってできるけど、攻撃の方は少し前から習い始めたばかりなので、制御面で不安が残る。扱う術が攻撃の方なので、味方に当たれば大惨事確定と言ってもいい。

 まあ、ある程度の威力ならば自動的に霊力が弾いてくれるらしいけど。それも霊力の保有量で弾いてくれる威力に差があるみたいだけどね。


「お忙しいのにわざわざすみません……」


 攻撃の術を教えるのだってそうだが、本来ならば彼らはそれぞれに別の仕事が入っているはずであり、それを変更して私に教えてくれている。

 特に里見さんなんて運営の最高責任者である美奈子さんの右腕をしている。美奈子さんと揃って桜桃軍の中でも忙しい部類に入るだろう人だ。

 なので素直に謝罪をすれば、里見さんが首を横に振った。


「月夜さんの身に何かあれば、ほぼ確実にまずい事態になるでしょう。それを回避するためだと思えば大した労力ではありませんよ」


 仕事優先という感じがする里見さんの言葉に納得する。まあ、確かに誘拐とかされたら大問題に発展しそうだもんね、私。

 明らかに血筋が普通じゃない上に、過ごしていたであろう場所も普通ではなかったのだから、『信仰会』に誘拐された場合……確実に桜桃軍挙げての問題解決に乗り出す羽目になる。

 うん。確かにそれを回避できるなら護衛になるわ。


「……里美ちゃん? ちゃんと『誘拐されて怖い思いをさせたくないから護衛をする』って言いましょうねぇ?」

「……煩いです、『貴人』」


 内心そんな風に考えていると呆れたような微笑みで里見さんに対し、美奈子さんがそんなことを言った。うん? 運営をしている者としての意見じゃなかったのだろうか?

 首を傾げながら里見さんを見れば、里見さんが顔を背けていた。ただし、耳が赤い。

 ……どうやら美奈子さんの言ったことが正解だったらしい。この人もこの人で個人の方で心配していたようだ。美奈子さんの微笑ましげな眼差しに里美さんは沈黙している。

 年齢は二十ぐらい離れているらしいので、子供を見ているような感覚なのかも? でも確か里見さんって……見た目こそ、十代後半にも見えなくはないけど、実年齢は三十一だったような……。

 そんなことを言ったら美奈子さんも見た目こそ二十代前半見えるけど、実年齢は五十七歳だ。やっぱり見た目詐欺だらけだよね。

 紗良ちゃんなんて、六十歳なのに、下手をすれば十歳に間違われるほど。……私の妹かと聞かれた際にはそれはもう見事な少女の演技で騙していた。あれでは、中身が私を孫扱いできるほどとは思うまい。

 こんなくだらない? ことを考えている間も美奈子さんが里見さんを揶揄い続けていた。

 あ、里見さんが無言で殴った。結構痛そうなのに、美奈子さん笑って……いやいやいや、血が出てますけど!? 頭から血が出てますよ!? なんで笑ったままなの!?

 ぎょっとする私を見て里見さん弄りを美奈子さんは止めたけど……血は止める様子はなかったし、ずっと笑ったままでした。


最期まで読んでいただきありがとうございます。

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