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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
40/82

無自覚

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

「ほんま、手加減というものを覚えてほしいんやけど」

「ならば妾の気分を害する物言いはやめよ。癇に障る」


 十分ほどして終わった新ちゃんに対する紗良ちゃんの教育(という名の躾)とやらが終わり、言い合いだけをしながら、席に着いて食事をしていた。

 私も蓮兄さんが持って来た食事を途中から食べ始めていたので、適当に話を流し聞いてるだけになってたけども。


「せや、月夜ちゃん。『勾陳』の訓練はどうやった?」

「百周走るように言われて、最終的に二百周走りました」

「ちょい待ち」


 事実だけを言ったはずなのに、何故か止められて私は首を傾げた。また初っ端からする内容ではなかったのだろうか?

 首を傾げた私に対し、新ちゃんは疲れた顔で私を見た後に紗良ちゃんを見た。

 ふと蓮兄さんの方を見れば、同じように批難めいた視線を紗良ちゃんに向けている。周囲に居た人達も同様にだ。


「『勾陳』……なんで、初っ端から百周なん? しかも二百周って……この子の規格外さも凄まじいんやけど、『勾陳』の要求の高さもおかしいで」

「この子の霊力量から見ても不可能ではないと思っただけじゃ。実際、二百周でも少し息が乱れた程度じゃしの」

「恐ろしっ」


 ……もしや、また私は一般的ではない基準で訓練を受けていたのだろうか。五郎さんの時も後で本当の初期で習う術を教えてもらったけど、基本的には大体の人がそこ止まりなんだとも説明された。

 確かに詠唱省略や破棄もできるにはできるそうだけど、殆どの人が不可能。十二天将の皆さんでも無理なんだそうで、できた時点で私は確実にそういう系の血筋の出だと確信するに至る要素なんだとか。

 中級以降の術にもなってくると、長いので戦闘中に使いどころがなく、あまり使われないのだそう。そういえば、蓮兄さん達も訓練時には武器に炎を纏ったりする程度で終わってたな……。

 穢れの方が手振りなどで術を発動させるのだから、こちらもその速度に対応する必要があるわけで、現在ではもっぱら武器や体に纏わせて威力を出すとか、完全にイメージ頼りの術でもない何かを発動させて倒すのが一般的なんだって。

 よくぞ、それで戦えるな、と私は思ったけど、きっと慣れ、なんだろうな。それに詠唱で術を発動させるのだとしても、イメージしなければいけないことに違いはない。

 なので、最初は術で補助をしながら術発動の感覚を掴み、その後から徐々に独自に開発する、というのが普通の流れとなるわけです。

 伝えられてきた詠唱は祭祀や防衛など限定的な使い方しかされていなかった可能性が高いと言われているぐらい、覚えている人も研究者しかいないんじゃなかろうか、というレベルらしい。

 というか、要求される霊力量が増えるために戦闘ではまず使えないとのこと。私は規格外過ぎる霊力量により普段使いでも可能なだけだったようだ。

 消費量が増える理由としては、イメージの補助をしてくれる上に明確に術として発動するためにその分が要求されているのではなかろうか、とのことだ。

 訓練、という名の、実験だろ、と春樹兄さんが五郎さんに対し突っ込んでいた。同じ研究者として信じられない行為だったみたいで、かなり怒ってた。


「えっと……変、なんですか……?」


 恐る恐る、聞いてみると、蓮兄さんと新ちゃんだけではなく、周囲で話を聞いていた人達も頷いた。


「本来なら、五十走ることができたらいい方だな。それが一般的な霊力量だ」

「実は十二天将も霊力量は桁違いに違う、ということはないねんで~。『騰蛇』が特別そういったことも要求される、というだけで、後は霊力の質と実力で判断されるんや」

「とはいえ、他の者達に比べたら多いけどな~」


 軽い調子で説明されて、普段よく話す人達のことを思い出し、納得する。確かに明確に差はあれど、桁違い、と言えるほどではなかった。

 自身の体質を知ってから、軽くとはいえ感知の訓練をした成果は出ていたみたい。気づいていなかったので、そこは駄目だろうけど。

 とはいえ、実力差は桁違いなので、やっぱり『大将』と十二天将の間には明確な違いが出てしまうのだとか。そもそもが十二天将になるには一定の基準を満たさないとなれないらしいしね。

 有名なのが『騰蛇』というだけで、他の十二天将にも少なからず存在すると言われて驚いた。


「霊力の質もそうなんやけど、それよりも優先されるのが実力やな。過去には『騰蛇』やのに水の質を持っていた、という人もおったぐらいや」

「『騰蛇』に関しては厳しい基準が存在するんだが、他の十二天将も同じように実力や本人の持つ特殊体質とかも見られる。そう考えると今の『騰蛇』と『玄武』は凄いんだぜ」

「双方、偏っておるからのぉ……幾分か『玄武』はマシなようで、一応は攻撃もできるがの」


 三人からそれぞれに説明を受けて納得する。その時の強い人がなるんじゃなくて、基準を満たした強者が十二天将を襲名することができるようになっているんだね……。

 そう考えると神楽家に三人も十二天将がいるというのがかなり不思議な状況だったんだなと改めて感じる。当たり前のように受け入れていたけど、色々と基準があるっぽい十二天将になってみせた人物が三人も同じ場にいること自体が他の人は恐ろしい光景だったわけだ。

 どうりで沙織も最初は緊張しきってたわけですね。こういうの知ってたら私も恐縮しているところです。

 といった具合に会話をしながら食事をしていた私達だけど、食事も終わり、立ち上がった。

 新ちゃんも蓮兄さんもこの後、ちょうど任務がないらしく同席してくれることが決まったけど。

 ……十二天将三人に訓練を見られるって、恐ろしいことなんじゃなかろうか。周囲に居た所属者さん達が揃って『頑張れ!』とばかりに手を振ってたし。

 どうやら、五郎さんと紗良ちゃんよりは優しいとはいえ、他の十二天将も厳しいみたい。……終わった後に生きてるだろうか、私。


  ――――――――――


 なんて心配をしたけど、一応は優しくしてくれているようで、特別疲れることもなく訓練は終わった。何故か蓮兄さんと新ちゃんは溜息を吐いていたけど。


「月夜ちゃんの規格外さを甘く見とったわ……」

「『騰蛇』の訓練を無茶だと思ってなかった、とは聞いてたけどな……ここまで規格外なら苦にも思わなくて当然だと思うぞ」


 なんて言っていたけど、私からすればどこがおかしいのかわからないので首を傾げるしかない。一般的な訓練風景を見たことがないからね。

 一応はまだ部外者だから、そんな詳しく見せられないんだよね。それでも自由に歩いて構わないって言われているから、恐らくは見せても大丈夫とは思ってもらっているんだろうけど。

 でも積極的に見る気にはあまりなれなくて見ていないし、訓練以外では部屋から出るということもあまりしていない。行動範囲を制限していた方が見たくないものを見ずに済むしね。

 いずれは見ることになるだろうけど、今は穢れに対する恐怖心などから私は徹底的にそういったことから離されている。霊力量から考えても暴走すれば洒落にならないからだ。

 それは説明されて、私も納得した上での対処なので、不満はないし、不便だとも思ったことはない。

 最近になってそれが変わってきたのも、明確に誰かに狙われるようになったからで、それがなければただ霊力の高い一般人程度で終わっていたように思う。

 封じられているという記憶が戻らない限りはそうであり続けたんだろうなぁ。戻ってしまえば、何も知らない子では居られないだろうし。

 だって、思いだした記憶が最初から術に関することだし。あれは切っ掛けが切っ掛けだったせい、とも言えるけど、確実にそっち系の出自を持つとしか考えられない。

 本部に来てからはこれといった危険な状態にはなっていない。それが『信仰会』が特攻してくるのを躊躇っているのか、内部に協力者がいるからなのかはわからないけど。


「一般を知らないからね……私……」

「まあ、訓練場なんて興味を持って見る奴はなかなかいないわな」


 即座に同意してくれる蓮兄さんに紗良ちゃんと新ちゃんも頷いていた。ま、まあ、中学生で戦闘ばかりにしか興味がない子っていうのはあの学園でも居ないもんね……。

『桜桃軍』に所属している子も、所属を希望し訓練を受けている子も、別に戦闘が好きなわけではない。今の中学生は『王』と相対したことはないから、そういうことも含めて怯えている子の方が多い。

 実際に会えば死しか許されないと言われている『王』。『桜桃軍』の最高戦力でさえ苦戦するような相手に普通の所属者では太刀打ちできるはずもない……と考える方が普通ですとも。

 穢れ狩りという存在を知っている以外は一般人と変わらない子達のいるクラスに私がいるというのも怯えている子が多い理由の一つだけど。

 実際に『桜桃軍』に所属して任務をしている子達がいるクラスもあんまり変わらないとは担任の先生は言ってたかな。殆どの子が上位の階級にいるわけではなく、大体が見習いといった感じだからだろう。

 沙織がおかしいんだよ。中学生で『中将』ってどういうことだ、と『桜桃軍』の色んな人と接することで最初に思ったことだったもん。

 会う人が全員大人だった、ということもあるんだろうけど、それにしたって、『中将』って『大将』のすぐ下の階級。そりゃ、天才と言われるわけですな。

 その沙織も最近は忙しそうだけど。やっぱり穢れが活発化しているというのは本当なのだろう。今のところ上位は数回程度で済んでいるけど、それも一体いつまで続くか……。

 穢れの出現理由も解明されていない以上、数が減るまでは耐えるしかないというのが現状。

 占も今のところは何の反応も示さなくなっているしね……勘も働いていないし。

 まあ、何もないことが一番だよね。

 そう考え、私はそのまま他愛ない会話を蓮兄さん達としながら実験室から出たのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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