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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
37/82

水の術

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――月夜視点――


『攻撃の術を教えることにした』


 そう、五郎さんから言われた時、凄く緊張した。どうして教えられていなかったのか知っていたからだ。

 私が部外者、というのもあるけど、それ以上に精神面での不安定さが目立っていた。霊力は特に精神状態に左右されると言われているから、教えるべきとなっていても教えられなかったんだって。

 確かに、最近は誰かに狙われたり、新しいことを知ったりと予想外の出来事の連続だったもんね……そりゃ、部外者という建前を取っ払ってでも教えようとするよね、と納得してしまったぐらい。

 倒れてから、精神状態が安定し、教えても問題はないだろうと判断されて教えてもらうこととなった。

 万が一でも暴走しても即座に反応できるように五郎さんが教師役として傍に居た状態での訓練だったけど。

 こうして突然始まった訓練は早くも一週間が経過していた。

 最初は誰もが初級の術を一週間程度繰り返し練習するらしく、そこから難易度を上げていくのだそう。

 最終的には本人の想像力が試されるようになるんだと、五郎さんは言った。


「詠唱による術の行使は時間が掛かるからな。上の階級に居る者ほど、詠唱を省略して、想像力で補う、ということをする傾向にある」

「そうなのですか?」

「ああ。ただまあ、この方法は完全に、とまでは行かないが、本人の想像力が試される部分が大きくてな……どれほど省略できるかどうかは本人次第なんだ」


 と言われたけど、それはまだ私が訓練をする範囲ではないので、一旦置いておくようにと言われた。まあ、いきなり「やれ」と言われてもできない気しかしないからしないけど。

 威力が強い術になればなるほど、要求される詠唱の長さもそれ相応になるらしくって、実際に聞いたけど、確かに戦闘中にはまず無理な長さだな、という印象が強かった。

 省略方法があるのも納得の長さでした。覚えるのも大変だな……。


「強い術ほど制御面が重要になるからな。制御に関する内容が多く盛り込まれがちなのだ」

「そういうことですか……」


 実に納得できる説明に頷いていると、早速五郎さんから教えられた詠唱の訓練をすることになった。体で覚えろ、という側面も多くあるのが当たり前だから、回数が重要なんだそう。

 今回、教えられたのは、相手を吹き飛ばすことが可能な程度の水圧をぶつけることができる水の術。火などの術は制御が更に大変になるらしいので、比較的安全な部類に該当するものを選んだとか。


「『水よ、我が身に近付く者をその水流によって吹き飛ばせ』」


 大きく息を吐いてから、詠唱をすれば、即座に五郎さんが用意した的が吹き飛ばされた。……壁に当たった瞬間、粉々に破裂するように壊れたけど。

 え、五郎さんの説明的にこんな威力じゃないはず……。

 自身が想像しているよりも強く発動した術に目を丸くしていると、その様子を見ていた五郎さんが溜息を吐いていた。あまり驚いていないようなので、想像していたことの一つだったみたい。


「やはりか……」

「えっと……?」

「月夜。お前さんの霊力は桁外れに多い。そうなると、必然的にああいった『何割かの霊力を消費して』という風にされている術は強く発動するだろう」


 五郎さん曰く、霊力保有者の霊力量によって威力が変わってしまうのが初級の方の術らしく、基本的に殺傷性は低いとはいえ、危険なので、霊力量が多い者は慎重に術を教えられる……とのこと。

 それを先に説明してほしかった……間違えて人体に向かっていったらどうするつもりだったのだろう?


「心配せんでも、お前さんが人を殺すことを『想像できない』ことから、人に向けては弱く発動するだろうさ。今回は対象が人ではなかったから強く発動しただけだ」

「それなら大丈夫……なのですか?」

「恐らくはな。ただまあ、守りとしては少々不安に感じる認識だが。こういったものは本人の潜在認識が大きく影響してしまうからなぁ……」


 困った顔で言っている五郎さんに納得する。攻撃の術とはいえ、本人の潜在認識が影響して人に襲われた際に思った以上に威力が出ない、という状況が予想できると言いたいんだろう。

『信仰会』という人の集まりである宗教団体に狙われている現状なら不安視して当然だ。殺さない程度に手加減、というのはわかるが、まだ習いたての私では必要以上に手加減をしてしまう可能性が高い。

 こう言われて、黙り込むしかなかった。自衛としては十分、とはいえ、周囲を取り巻く状況がその程度では不十分だとされているのだから、黙るしかないよね。

 一朝一夕で潜在認識が変わるなら、誰も苦労しない。とはいえ、訓練を続けることが一番の近道であることに違いはないわけで……。


「もう一度、発動させてみよ。感覚さえ完全に掴んでいれば、無意識に手加減したとしても問題ないだけの威力はお前さんの霊力量なら出るだろうからな」

「は、はい!」


 訓練再開と告げられて、私は頷き、もう一度発動させた。霊力を意図して使い、術を発動させる、ということを初めてした初日に比べて、扱いは上手くなっていると思う。

 初日はその時は問題なかったんだけど、その後、謎の眩暈が襲ってきたり、疲労感を強く感じたりしたんだよねぇ……初めて意図して霊力を使った者は全員がそうなるとのことで、私はまだマシな方だったらしい。私でマシって、他の人はどんな症状が出たんだろうか、と怖くなったものだ。

 立っているのも辛い、とまではギリギリ行かないまでも、なるべく座ったり横になりたいと感じるほどに異常なまでに疲労感を感じる上に、常に頭が揺らされているような感覚になった。

 しかし、酷い人だと、嘔吐まで行くのはざらにあるらしい。沙織も聞いてみたら、「一週間は立てなかったわ」と返ってきたので、本当に私は軽かったようだ。

 少なくとも翌日には普通になっていたしね。おかげで全員に心配されたけど。本当に何ともなさそうだというのがわかった瞬間、全員が脱力したのは言うまでもない。


『お前の霊力量が規格外過ぎるからって、本人の適応力まで規格外なのか……?』

『前々から慣れていた、というのもあるかもしれんがのぅ。とはいえ、久々であったことに違いはないのじゃ。脅威の適応力じゃな』


 なんてことを言われたほどである。以前の治癒の術の時にこうならなかったのは、私が無意識に使ったからならなかっただけの話、だとか。意図して使うかどうかで、無意識に掛かる本人に対する負荷は大きく変わるのだと、五郎さんが教えてくれた。

 何が原因なのか、誰もわからないので、そこまでしか教えられないと言われたけども。

 意識次第で負荷が変わるなんて、不思議でしかないか……と私も納得したよ。


「……ふむ。月夜、霊力に減りは感じるか?」

「え? いえ、特には……」


 十数回連続で術を発動させていた私に五郎さんはそう聞いてきたけど、首を横に振る。いくら自身の霊力には気づけない体質持ちとはいえ、何となくの感覚でそれは感じることができるのだと知っているので、即座に返事ができたんだよ。

 軽い疲労感や集中力の乱れ、などがそれに該当する。他のことを考えているのは別に集中力の乱れには該当せず、詠唱をしても術が発動しないのが集中力の乱れとされる。

 霊力や魔力を扱う者は、全員が無意識下で術を行使するための頭の機能を使う、という性質が備わっており、その無意識に使われている機能が極度の疲労を訴えると、自動的に術が発動しなくなるんだって。まだ私は実際に見たことがないので知らないけど。


「集中力も規格外、か……。術を習って一週間程度の術者は基本的に持っても十回程度が限界なのだ」


 ああ、そりゃ聞かれるわ。納得できる説明をされて頷いている私に五郎さんは頭を撫でてきた。


「心配せずとも、問題はない。集中力が早くに切れるのは問題だが、なかなか切れないのは、将来的に術者としてかなりの実力を持つ、という意味になるんだ」

「へぇ……」

「お前さんはまだ『桜桃軍』所属ではないが、将来が楽しみだなぁ……いつか私も抜かされていそうだ」

「それはちょっと……」

「はっはっはっ!! 嫌か」


 いや、笑い事じゃなくない? 嫌というよりも、想像ができない、が正解なんだけどさ……。

 と正直に言ったところ、より笑われた。何がツボに入ったのかわからないけど、ちょっと気さくすぎる人だよなぁ、五郎さんって。

 世間ではお爺ちゃん、に分類されるかもしれない年齢ではあるものの、見た目は四十代……いや、三十代前半に見えなくもない程度。まだまだ現役扱いなのも納得の見た目だ。

 そんなことを言い出したら、紗良ちゃんなんて、見た目は十歳、ぐらいかなぁ? という見た目をしているから、霊力が多い者は老化が遅い、というのも納得の見た目だ。

 紗良ちゃんは単純に童顔のせいだ、と言っていたけど……絶対に身長も災いしていると思う。


「おっと、訓練を中断してしまったな。少しでも体調に変化を感じたら即座に私に言うように。私の方も少しでも変化したと思ったら止めるからな」

「わかりました」


 再三言われた言葉をまた言われ、私は訓練に戻った。無茶はして良いものではない、と最初に物凄く懇切丁寧に説明されたので、わかっておりますとも。さすがに私も怒られたくはない。

 紗良ちゃんと五郎さんは怒らせると怖い、と所属者さん達に対する鬼訓練を見て知っているのだ。私はあんな訓練は受けたいと思わない。きっとあの訓練を受けた所属者さん達も同じ思いだろうけど。

 とはいえ、あれは所属者さん達から願ったことらしいので、最初から覚悟の上だったことだろう。……聞いた時、失礼にも思わず、『Мなのかな……』と思ってしまったことは申し訳ない。

 そういえば、沙織が「あの二人、将来有望な人材ほど鬼教官になるのよ……頑張って」と、五郎さんに教えてもらうことを伝えた時に言ってきたっけ? あれってどういう意味なんだろ。

 私は別にそこまで優秀、という感覚はないし……何かと五郎さんは褒めたり呆れたりしてくるけど。

 ま、いつかわかるか。今は目の前のことをきちんとこなすことにしようっと。

 そう考えて私は再び、本気で術を発動させ、思った以上に強く発動して、的が粉々になるのだった。……ずっと粉々になってるけどね!


最後までお読みいただきありがとうございます。

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