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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
35/82

片鱗

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――沙織視点――

『騰蛇』様と『勾陳』様の申し出で、二人を護衛として月夜は久しぶりに外に出ることができいた。

 場所的に近場であったことから、朝早くから行動、とはならずに済みそうではあるけど、夕方になる前には戻りたいので、それなりに早い時間ではあった。

 まず、桜桃軍本部があるのも山の近くだもんね……歩いて行ける距離ってどういうことよ。

 そう月夜の占で出た場所は桜桃軍本部がある場所から歩きで十五分程度の距離にある山だった。私と月夜が通っている学校もいざという時は本部に急行できるように近くにあるから、そっちから行ってもさほどの距離はないわね。

 月夜の勘を頼りにする感じで着いた山の中を歩いているんだけど、何故か月夜は特に迷う素振りを見せなかった。本人曰く、「呼ばれている感覚がする」とのこと。

 やっぱりここは月夜に縁のある場所なんでしょうね。呼ばれている、なんて形容するぐらいだし。


「む……」

「ほう……」


 そうして辿り着いた場所は寂れた、とはまた違う雰囲気を放つ神社だった。

 上から見てもここを認識できないことから認められた者以外は辿り着けないようにされている場所だろうと『騰蛇』様と『勾陳』様が言っていたわ。

 神社の中心に位置する所に大きく厳かな雰囲気を持った木が存在し、月夜は真っ直ぐその木に向かって歩き、木に触れた。

 ただそれだけで、ただ感覚的にこの場所が喜んでいるのが伝わってきて、月夜を注意深く見た。何かあったら即座に反応できるように。

 しかしそんな警戒心など不必要だとばかりに月夜は持って来た水晶を全て出して木の前に設置されている台座のような物に置いて手を合わせた。

 それと同時に月夜の周囲を凄まじい力が集っていき、気付いた時には水晶に次々に籠められていたわ。

 何だか……月夜と一瞬、誰かが被って視えた気がしたんだけど、気のせいかしら?

 そう思って、『騰蛇』様と『勾陳』様を見れば、意味合いを理解した二人が無言で頷いた。


「何かが被ったの。それが何なのかは判らんが」

「我々は神事を行なう者たちの出ではないからな」


 何かが月夜に干渉した、と思われるのは確実だが、それが何かは判らない、と返されて私も頷いた。というか、神事を行なう者なんて今じゃ珍しいどころの話じゃないしね。

 珍しいどころか、そうのだと知られただけで崇められる、なんてこともあるぐらいだ。それほどに現在のそちら方面の知識や技術は失われている以上、知っている者が居るだけでも奇跡と言える。

 そりゃあ、昔の人もかなり抵抗したでしょうけどねぇ……数の暴力には勝てないわよね。

 少数精鋭も悪いわけじゃない。当時があまりにも極端な思考をしていた、というだけの話。

 未だに謎なのよね。当時の国がどうしてそう考えるに至ったのか。それまでは信じる、信じないを抜きにしても普通に受け入れていたというのに。

 月夜がまだ手を合わせていることもあって、思考の海に浸かっていた私は、そこまで考えて考えるのを止めた。当時の国の考えも現在では判らないのだから考えたところで意味が無い。

 そう考えるに至った原因が妖などの方面にあるのならば消えていて当然とも言える。いくら探しても見つかるわけがないのよね。


「……すみません。お待たせしました」

「構わぬよ。どうじゃ?」

「恐らくは大丈夫です」

「……うむ。内に秘められているのか妾達には判らぬが、月夜がそう言うのであれば大丈夫じゃろう」

「はい」


 終わったらしい月夜が声をかけてきて、私たちは月夜に視線を向けた。月夜の掌の上にある水晶玉は親指の爪程度の大きさで、月夜はそれに糸を通してブレスレットにしてある。

 改めて見ても以前どおりに見える水晶の一つを渡されて私は特に警戒することもなく着けた。

 何かしらの力を感じるわけではないけど、技術も知識も失われている私たちがそんな勝手で決められるようなことでもないしね。

 残りは蓮さん達に渡すということで、私たちは再び来た道を帰ろうとした。

 その前に月夜が神社を振り返り、また大木に両手と額を付けて目を瞑った。

 私たちからしたら威圧感も感じるほどに厳かな雰囲気を持つ場所だけど、月夜にとっては安心できる場所なのかもしれないわね。

 なんて考えていると、月夜の側に半透明の綺麗な女性が現れ、月夜を抱き締めてから消えた。

 ……やっぱり月夜はそっち方面の出なのでしょうね。あれは明らかに人でも妖でもなかったもの。

 もしかしたら神とかそういう存在なのかもしれないけど。


 こんなことがありつつも、何事もなく私たちは帰路に着くことができたわ。

 道中、問題もなく、普通に本部に帰ってくることができた私たちを『貴人』様達は安堵した顔で見てきた。最近色々とあり過ぎて心配していたのだろう。

 その気持ちはよく判るので、全員が何も言わなかったけど。

 ただまあ、月夜自身に聞きたいことは少しだけあったから、私は聞いてみた。


「女性?」

「そう。月夜が帰る直前に大木に両手と額を付けたでしょう? あの時に現れたのよ。半透明の綺麗な女性が」

「はへぇ……目を瞑っていてよく判らなかったけど、途中でとても暖かくて安心できる誰かに抱き締められたような気がしたんだけど……それかな?」

「恐らくはそうでしょうね。月夜が安心できた、というのなら問題はない存在なのかもしれないわね」

「多分? 沙織たちに比べて知らないことも多いしね……そこは確証を持って頷けないけど、そうかも」


 あの女性、やはり普通じゃないわね。月夜が安心できた、と言ったから問題はないと判断しようとは思うけど、もしも本当に神だった場合……月夜は益々狙われることになるもの。

 また『信仰会』の奴らが見ていたら、なんて不安まで過ぎってしまう。月夜の身に何かあれば大変なことになると私の勘が告げていたのよ。

 朱里さんも最近、そう勘が告げてくるようになった、と言っていたから、相当危険な状況なんでしょうね。

 ……そういや、月夜はあの場所がどんな風に見えていたのかしら。


「月夜はあの場所、どう思ったの? 私は厳かすぎて緊張しかしなかったんだけど……」

「え? うーん……蓮兄さん達が家に居るのと同じ感じ、かな? ずっと一人じゃないって安心できる場所だった」

「そう……」


 月夜の答えに、私は再び考える。大木に触れただけで嬉しそうな雰囲気が伝わってくるほどに好かれていた月夜。その彼女がそう認識していた、という点で何かあると考えて間違いはなさそう。

 ただ……そうなってくると、あの場所には定期的に行った方が良いような気がする。月夜が安心できるできない、ではなく月夜にとって重要となるであろう場所だと思ったからだ。

 それは話を聞いていた他の人も感じたようで、なるべく十二天将が護衛となれるようにしましょう、と『貴人』様が言ってきた。

 申し訳ない気持ちにはなったが、月夜本人の安全を高めるためにもこれは必要なことだと判断し、素直に頷けば、月夜も了承を返した。

 でも、そろそろ月夜も攻撃系の術を覚えてもいい頃合いなのかもしれないわね。次期『騰蛇』に選ばれた以上はいずれは覚えなければいけないのだし。

 強制ではない。けれども誰が聞いても現状は月夜以外に適任者は居ないでしょうね。それほどに規格外の霊力を持っているのだから。

『騰蛇』は桜桃軍の中で最強の座を維持しなければいけない立場。霊力の量だって一番多くなければいけないという不文律が存在する時点で、月夜以外の適任者が出てくるとは思えない。

 そんな重い立場をまだ記憶も戻っていない子どもに背負わせるのか、という意見は多いし、誰もがそう思っているので、本格的な動きになっていないだけ。

 別に月夜を見下しているわけではなく、単純に本人の精神を考えても無理矢理立場を押し付けるようなことをするべきではない、となっているだけなのよ。

 まぁ、今まで『騰蛇』に指名された者は例外なく『騰蛇』になっているという事実を考えれば必然的に月夜もそうだろう、とは思われているけども。

 何と言うか……『騰蛇』様が慎重に事を進めているのも納得できる現状よね。下手に今、大々的に言えば確実に『信仰会』は狙ってくるでしょうし。

 今とて、月夜の霊力量だけを見て、多くの桜桃軍所属者がそう思っているだけで、『騰蛇』様本人の口から言われたのは近しい者だけになっている。

 私だって蓮さん達から教えてもらったから知っているだけで、普通ならば知らないまま予想としているだけだった。

 運命は数奇なものだ、なんて言われることもあるけど、月夜の場合、数奇過ぎない? 少しは休ませてあげてほしいわ。

 現代では存在がかなりあやふやになってしまっている神に物申したいぐらいよ。月夜の体を介してでしか会ってないけども。

 その事実があるから『信仰会』も狙っているんだって判っているんだけど、状況を考えて欲しかった。あんな短期間に二回も介入したらそりゃあ、月夜は狙われるでしょうよ。

 もう少し、人間側の事情も考えて欲しい。神とは自分勝手な存在でもある、と実際に神降ろしを成功させた昔の人が言っていたそうだけど、本当にそうなのかもしれないわね。不敬だけど。

 霊力も神から与えられた力だ、とは言われているものの、確証はないし、霊力の増やし方は現在でも完全には解明されてはいない。

 本当に謎過ぎる力なのである。それを使って穢れを討伐している私が言うべきではないんでしょうけど、本当にどうして持って生まれたのかが判らないわ。

 持って生まれる条件も判んないし、なんで持って生まれるようになったのかも判んないし……いや本当に判らないことだらけ過ぎじゃない? ちょっと頭が痛くなってきたわ……。

 ……まあ、今は現状をどうにかするしかないんだけど。神を呪ったところでどうしようもないのよ。

 でも少しは月夜のことを大事に思っているなら、気遣ってあげて欲しいな、とは思った。私としても月夜は大事な友人だもの。友人を心配するのは当然じゃない。

 祈ったって作法が判らないんだから、伝わらないでしょうけどね~。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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