勘と占
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
――沙織視点――
月夜はよく騒動に巻き込まれる。それはまあ、本人の出自が関係しているのでしょう。
生まればかりは本人の意思で変えることなんてできるわけがないから、仕方ないと思っている。確実に血筋が特殊だって判る出来事が多いからね。
でも……最近は特にそういうことが増えた。あまりにも増えすぎて心配になってくる。
今だって『騰蛇』様の依頼で陣を刺繍しているし。すでに数回行われて、その全て術として申し分ないほどの威力で発動しているらしいから、本当にどうなっているのかが聞きたくなる。
「刺繍をしている間に体調が変化するとかはないの?」
「うーん……特にこれといってないかなぁ」
「益々不思議ね……」
「そうだね。でもそこらへんは私は詳しくないし、どうして美香さんは駄目だったのかを調べるのは五郎さん達の仕事だって言われたしね、美奈子さんに」
なら、今は調べている途中、かぁ……私達に伝わるのはもう少し後になってからかな。きっと春樹さんも加わっているんだろうけど無茶はしないでほしい。
そうでなくとも最近は穢れの動きが不自然ということで、研究するようになっていて忙しいという話は聞こえてきていたから。
月夜に言ったら確実に気にするので言わないけど。周囲に気を配るのは構わないけど、月夜は自身のことには本当に無頓着なんだもん。
本人の性格が原因なのでもしかしたら一生変わらないのかもしれないけどさ。
「にしても……本当に刺繍が好きよね。『太陰』様が中学生じゃなかったら売れるって言ってるのも納得できるわ」
「今は何となく四神を刺繍しているけどね」
「……その、時たま発揮される一般人とは違う着眼点さえなければ、だけど」
「え?」
私の言葉に首を傾げる月夜に溜息を吐く。普段は模様が多いのに、時々こうして「なんでそれを縫おうと思った?」と言いたくなるようなものを刺繍しているのよね……。
普通の人はまず刺繍をするのでさえ嫌だと感じるかもしれないが、そこに更に今言っていたみたいに四神を縫おう、とは思わない。
お陰でいつも心の中で突っ込むことになるんだけど。前は確か……綺麗だったからって空の刺繍をしようとしてたっけ? 月夜の中では刺繍は絵画と同じ扱いなのかもしれないわ。
でも本人が楽しそうにしているから何も言えなくなってしまう。初めて出会った頃に比べれば今の方がずっと良いもの。
最近まで異常なまでに精神が不安定だったし、そんなことを思えば趣味を楽しそうにしている姿は良いことだと言える。
にしてもあの不安定さは一体どういうことだったのかしら。明らかに異常だったわよね……。
毎日のことだったから私達は「ああ、いつものか」と思っていた。でもそれでも異常だと言わざる負えないほどにおかしかった。
過ぎてしまえばどうということはないことではあっても気にはなる。だからといって今更判るか、と言われて……判りそうにはない。
困ったものねぇ……。
「あ」
突然、そんな声が聞こえて、私は咄嗟に顔を上げた。何か月夜の身に起きたんじゃないかって思ってしまったのよ。
本部でそんなわけがないとは思っていても警戒してしまうほどの現状に今はいるもの、仕方がないじゃない。
まあ、そんなことなかったけど。
月夜は何かに惹かれたように占をするための盤に向かっていたわ。どうやら勘が働いたみたい。
盤を動かす音は少しすれば止まり、月夜は目を瞬きながら結果を見ていた。
「何かあったの?」
「ほら、以前お爺さんから水晶の珠を貰ったでしょ? あれに霊力を籠めるのに最適な場所を今なら判りそうだなって思って。前は山としか出てこなかったから」
「なるほど」
悪いことではなかったようね。でも……今かぁ。
もしも外だとしたら、月夜はかなり出るのに時間が掛かるだろう。今はそれぐらい警戒されているもの。まあ、言ったら意味合いは理解できるだろうから最終的には許してもらえるでしょうけど。
「それで? どこだったの?」
「それがね……ここなの」
空中に地図を映し出し、指差した月夜に私も目を瞬いた。思いの外近場だった、というのもある。
でもそれ以上に……。
「ここってただの山よね? 霊山じゃなくて良いのかしら」
「みたい。なんでここなんだろ」
揃って首を傾げているけど、本当にそれぐらい何もない普通の山を場所として提示されたのよ。
もしかしたら、月夜の血筋に関係のある場所なんだろうか?
「でも出たなら一度は行くべきよね……すぐに許可が出るかしら……」
「出ないと出られないもんね」
「そうなのよねぇ……」
連日のことで月夜を危険からなるべく遠ざけようとなっているこの状況でこれはちょっと困る。
でも月夜の勘が働いたのならタイミングは今、なんだろう。後では許されないと私の勘も告げているし。
だからって護衛をどうするかでとてつもなく揉めるだろうし……申請を出して一ヶ月で許可が出れば良い方じゃなかろうか?
唸っていると、月夜も現状を理解しているから難しい顔だ。しかし勘を疑ってはいけないと言われたのを覚えているようで、時期を遅らせるわけにもいかないことは理解しているみたい。
結局は申請を出す、で決まったけどね。申請を出した理由を『貴人』様に聞かれたけど。
「そういうこと……それは確かに自身の勘に従うしかないわねぇ……でも護衛がね……」
月夜が説明をするとすぐさま理解を示してくれたものの、やはり護衛で難色を示された。
はっきり言って私だけでは心許ないのよ。そう言ったら月夜は否定するでしょうけど、実際私の実力では月夜を守り切れないというのは以前の出来事で理解している。
傍に私が居てもお構いなしで向かって来ようとしていたんだもの。何より月夜は気づいて、私は気づけていなかった。それは隠れていた人達も同じく。
にも拘わらず、レティシアさんは気づいていた。力量の差だと言われればそれまでだけど、悔しさは凄かったわ。それはあの時護衛をしていた者達も同じだったけど。
「うーん……」
「何を考え込んでおるのじゃ?」
あ、『勾陳』様が入ってきた。普段のおっとりとしたような口調でも切れ者である『貴人』様が考え込んでいるというのが物凄く気になったみたい。
事情を説明すればすぐに『貴人』様が何に悩んでいるのか理解してくださったけど。
そこに更に『騰蛇』様まで入ってきた。こっちは月夜に用があったけど、自室に居なかったから霊力を探ってここまで来たらしい。
月夜はそんなこともできるのか、という反応をしていて、『騰蛇』様も月夜がそういったことも教えられてはいないことを思い出したようで頷いていたわ。
「ふむ……攻撃系の術を覚えるわけではないのだから、やり方を教えよう。月夜ならばすぐに覚えられるだろうし」
「え、良いんですか」
「大したことでもない。まあ、上級者向けではあるかもしれないが」
「??」
「下の方に居る者達は霊力の量で無理なのだ。自身の周囲しか探れない」
簡単に説明されて、月夜も何故上級者向けと言われたのか判ったみたい。
少将に上がるのには霊力の量も見られるのはこのためだ。少将からそういったことを教えてもらえるようになるからね。そう思えば月夜は特例ではあるんだけども。
現状的には良いのかも。無意識に使えてそうな感じもしたし。
というのも最近になってきて月夜がやたらと周囲に気づくのは本人の体質が理由ではないか、というのが判ってきたのよ。
あの治癒の術を使った時、私達からすれば莫大な霊力でも、月夜は一切判らなかったらしい。とはいえ記憶はその時点で結構曖昧だったらしいが。
それでもあれだけの霊力なら普通なら気づく。
まさか月夜が自身の力を感じられない代わりに他者の霊力などを強く感じることができる特殊体質の持ち主だったとは思わなかったわ。
この体質の持ち主、滅多に現れないのよねぇ……今も月夜だけだし。それは月夜には言っていないので月夜は知らないけど本当に珍しい体質なのよ。
そりゃあ、月夜があんまり実感を持たないわけよ。自分の霊力を感じることができないんだから。
厄介なのはこの体質を持つ者に限って霊力の量が多いという傾向にあるということだった。感じられないからこそ、霊力切れを起こさないための無意識の体の措置ではないだろうかと言われているわ。
それにしたって月夜の霊力量は多過ぎると思うのだけど。
あの治癒の術。桜桃軍で最も霊力が多い『騰蛇』様でさえ一度発動したら無理と言わしめるほど霊力を消費するのよ? なのに月夜が保持する霊力量から考えれば虫に突かれたぐらいの感覚以下でしかないとのこと。
詳しく調べられたのですって。保護されたばかりの時に簡易に調べはしたけど、あれは基準を満たせば桜桃軍に入られる、というものだもの。
結果、月夜の霊力量が異常だということが判明したわけだけど。そりゃ、『騰蛇』様が次の『騰蛇』に、と考えるわけよ。将来性があり過ぎる。
今はかなり慎重に事を進めているみたいだけど、『騰蛇』様は月夜以外を『騰蛇』にしたいとは思っていない。ほぼ確実に次代の『騰蛇』は月夜でしょうね。
でなければさり気なく攻撃系の術を教えられたりはしていない。月夜は何となく違和感を感じているかもしれないけど、今のところは特に気にすることもなく、「精神が安定したからかな?」ぐらいの認識でいるかもしれないわ。
いやまあ、実際そのとおりでもあるんだけど。こればかりはねぇ……霊力ほど精神に依存する力はないとまで言われているし、仕方がない。
自然に近いほど精神に依存するとは言われているから、慎重になって当然。特に月夜は霊力量的に暴走したら洒落にならないもの。
「して、何をそんなに考えているのだ? 『貴人』」
「それがね……」
ようやく『騰蛇』様も事情を聞き、目を瞬いた。勘を大事にしているのは桜桃軍の誰もがそうだから簡単には退けられないわよね。
「ならば、私と『勾陳』が護衛になればいいだろう。それにこの子にはあの夜の貴族も居る」
「うむ。それならば問題はないのぅ」
「え、良いのですか?」
思わず口を挟めば、二人とも頷いた。何でも緊急時に即座に反応できるように、本部に基本的に待機を指示されていたみたいで、『貴人』様も悩みつつも二人が居るなら、と許可をくれたわ。
だからってすぐに出られるわけがないから、相談して明日に決まったけど。
勘が告げている間に早く行った方が良いだろう、と二人とも言ってそうなったのよ。
その気遣いを訓練時にも見せてあげてほしい、とは思ったかな。二人とも訓練となると途端に厳しくなり過ぎる二人だから……。
どうせ今後も変わらないでしょうけどね!
最後まで読んでいただきありがとうございます。




