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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
32/82

後手

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――月夜視点――


 あれから目覚めた私は事前に聞いていた刻印を刻み、生活の場を神楽家から桜桃軍本部に移すこととなった。

 夢にまで『信仰会』の者達が干渉していたという事実により一層警備の強化の必要性があると考えられた結果らしい。

 今後は新たに刻んだ刻印が干渉を拒むだろうとは言われたものの、それでも完全に安全とは言い切れないためこうなった、と説明はされた。

 海斗さんと美香さんを助けてから私の記憶は相変わらず失われたままではあるが、思い出した治癒? の術があまりにも強力過ぎたことから、狙われる確率は高まったと判断されたとも言われた。

 それを聞いて妙に納得してしまったけど。

 今までも十分過ぎるほどに狙われていたとはいえ、今回の術は明らかに普通ではない。

 昔から続く家の出だと言われても納得できるほどに私の使った術は現代から考えれば変わっていたのだから、狙う確率が高くなってもおかしいとは思えない。

 だからって何の対抗もなく行けるか、と言われると話は別だ。さすがに私でもあの人達の言う通りに動く気にはなれないよね。

 一瞬だけ見えたあの眼差しは未だに覚えているし、あの眼差しを常に向けられると思うと恐怖で身が竦みそうになる。

 悍ましいという言葉がぴったりなほどに狂気と欲望が渦巻いているかのような眼差し。本人達にその気があったのかどうかは知らないが、どう考えても普通じゃない。

 何があの人達をそこまで動かしているのかは知らないが、元現人神となっている人達が怯えるのも無理はないとは思った。

 まともな自衛方法もなければ私もあの人達と同じようにあっさり捕まっていたのかと思うと現状は幸運としか言いようがない。

 現人神だった人達が居て、その人達から情報を聞くことができるだけでも十分自衛に繋がるからね。

 とはいえ、私にできることは少なく、守られるしかないんだけど。


「というわけで、私も基本的に本部に居ることになったわ」

「ごめんね、任務があるのに」

「気にしなくて良いわよ? 貴女に責任はないのだし」


 沙織から今現在の状況などを聞き、ついでに彼女も本部に詰めることが決まったと聞いて申し訳ない顔をして謝れば、頭を撫でながらそう返された。

 随分と前から沙織は通常任務から外され、私の護衛として傍に居てくれているので、申し訳なさしかないのだが、本人的には全く気にしていないみたい。

 それはそれでどうなんだ、とは思ったものの、元々占ができるようになった段階で穢れからも狙われているような雰囲気が漂っていたらしい。

 確かにそれなら随分と前からそうだった以上、今更気にされても……となるか。

 何より以前よりは格段に安全になっていることもあって、沙織的にはこちらの方が気が楽なのかもしれない。神楽家では常に警戒しているわけではないだろうけど、突破できることが判ってしまっているから、安全とは思いきれないだろうし。

 こればかりは異空間にあると言っても過言ではない本部と、そうではない神楽家で前提条件が違うのだから仕方がない。

 ちなみに桜桃軍本部はどうやって作られたのか判っていないものの、神々の介入があったであろうとは言われているという謎の建造物? だそう。

 そこで代々運営をしているというのも不思議だし、凄いことではあるんだけども。


「それより体調は大丈夫? 最近は何かと騒ぎが起こって大変だもの、疲労が蓄積されていてもおかしくはないわ」

「医療班によると多少の疲労は蓄積していると思われるとけど概ね大丈夫だそうだよ」

「そう……」


 私の言葉に安堵した様子を見せつつも、それでも心配にはなるのか首元に触れたりして熱を確認したりしている沙織に私も大人しくしていた。

 心配されても仕方のない状況下にずっと置かれていることに違いはないので、沙織の反応は至極真っ当であると言える。

 ただまあ、会う人全員がそんな感じなので、非常に反応に困ってしまうんだけど。誰かに会う度にこうなっているからねぇ……。

 いい加減慣れたら良いんだろうけど、それでも心配され過ぎだ。いやまあ、やったことがやったことなので、心配されて当然なのかもしれない。

 何せ、医療班ですら不可能と言われるような状態から回復された上に倒れたのだ。これに関しては突然霊力を大きく使ったことが原因だというのが判っているが。

 しかし他の人はそんなことを説明されて納得はできても心配になるもの。大人しくしていた方が安心できるわな。


「『太陰』と『玄武』の二人は今もまだ復帰できないし、鍛錬も禁止されているから、暇そうだったけどね」

「事務仕事も駄目だって言われたんだっけ?」

「うん。だからって毎日月夜の所に居たら他の人が会いに行きづらくなるからって読書したりしているみたいだけど……」

「高校は夏休み中で、お店は今回の件で休み中だもんね……」

「だから余計に暇そう。『太陰』はひたすらに刺繍をしているし」


 どうやら海斗さんの方は春樹兄さんが居ることもあって、それなりには暇を潰せているみたい。ただまあ、美香さんの方はお店もしちゃいけないとなった関係で相当暇みたいだけど。

 何気に美香さんって仕事人間だもんね……仕事をするなって言われたら途端にやることが思いつかないっていうのもどうかとは思うが。

 それにしても刺繍をしているなら私もしたいなぁ……。

 いやだってさ……沙織とか来る人が居ないと本当に読書以外にできることがないんだもん。

 彼らも暇かもしれないが、私も暇なのだ。自由に出歩いても構わないとは言われているものの、誰かを伴ってじゃなかったら絶対に迷う。

 それぐらいに桜桃軍の本部は広いんだよ。案内なしじゃ出歩けないわ。

 と、紗良ちゃん達に言ったら、「確かに……」と言われてしまった。やはり全員が一度は思うことなのかもしれない。

 どう考えても大き過ぎるんだって。一応で本部の見取り図は貰ったんだけど、その見取り図からも判る広さに顔を引き攣らせたものだ。


「刺繍かぁ……私もしたいなぁ」

「ああ……月夜も趣味だったわね。まだ部屋の物も全部は移動できてないんだったっけ?」

「うん。特にあの盤がね……レティのおかげで運べたんだけど……」


 私が生活するために整えられた部屋の片隅にある盤を見ながら言うと、沙織もどれだけ大変だったのかを聞いたのか、遠い目をしていた。

 あの盤を動かすだけで……と普通ならば言えるのだが、あれは何かしらの存在が憑いているのは確実で、私以外にはとことん対応は酷いのだ。

 それこそ力自慢が五人揃ってもピクリとも動かないほどに。

 私の場合は一人でも持ち運びが可能なぐらいの重さしか感じないし、実際のその場を見ていたわけではないので詳しいことは判らないのだが、蓮兄さんや新ちゃんが本気で溜息を吐いていた。


『頑固者過ぎやわ、あの盤』

『判る』


 なんて会話もあったほどだ。どれほど抵抗されたかが判るだろう。最終的にレティの「月夜に嫌われても知らないわよ」の一言で動いてくれたらしい。

 ……何故にそれで動く。私が嫌うことがそんなに嫌か。

 ただまあ、その盤さえ動いてしまえば、後は楽なもので、次々に運び込まれている最中だ。

 先に服などの日々の生活に重要と思われるものから運ばれているので、刺繍などの趣味に関するものは後回しになっている状況だけど。

 だから暇なんだけどさ……盤や占に関する書物は代物が代物なので真っ先に運び出された、というだけである。盗めるかどうかはさておき、だが。

 最近はようやく本などが揃ってきたばかりなので、刺繍に関するものはもう暫く後かもしれない。


「相当な抵抗をされたみたいよ? ……本当にあの盤、何なの」

「判んない……」


 改めて二人で盤を見るものの、相変わらず盤がそこにあるだけである。……喋るとは思いたくはないが、可能そうで怖い。

 今のところ、付喪神なのではないか、とは言われているものの、それにしたって色々と不可解過ぎる代物だ。レティでさえ、この盤を扱うことはできないと言っていたほどだし。

 何でも本気で認めた相手以外には格上だろうと一切触れさせないらしい。運ぼうとした時も私の知り合いだというのは判っていたから、攻撃しなかっただけだとか。

 盤が攻撃ってどういうこと? と聞いていて思った。術でも発動するのだろうか?

 本気で敵には触ることもできない代物のようで、安心? はしたものの、別の心配は増えた気がする。

 これに関しては沙織も同意見だったらしく、思わず口に出た私の言葉に無言で頷いていた。


「とりあえず、現状は様子見かぁ……桜桃軍って穢れを狩ることを最優先にしてきたから後手に回りやすいのよねぇ」

「できた経緯を考えれば当然とも言える状況だと思うけど……」

「まあね」


 穢れに家族などを奪われた者達が集まって作られたのが桜桃軍だと言われているので、そちらが優先されていても不思議はない。

 だからってそちらにばかり気を向けていたのでは足元を掬われる、と美奈子さんは言っていたけど。

 確かにそうかもしれない。結果として今があるのだから、彼らの後悔はどれほどのものなのだろうか。

 私の両親のことでさえ、今の状況を考えれば思うようにはできない、と言われたほどだ。

 そのことを恨むことはない。記憶喪失の状態でも保護してくれたのは彼らなのだし。

 とにかく現状は全員が周囲を警戒するしかないですね。私が警戒して意味があるのかはさておき。

 何もなければいいなと、思いつつも、そうはいかないのが今の状況で。だからって今に絶望感を抱いている余裕もないって、何気に酷いような気もしなくはない。

 精神的余裕がない、というだけなんだけどさ……。


「今はなるべく自分でも警戒するしかない、か……」

「そうねぇ……」


 明確な対策など取れない状態だというのがよく判る発言をした私に沙織も否定しないどころか肯定をした。

 それこそが桜桃軍がどれほど後手に回っているのかが判る発言で、私は無言で目を伏せたのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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