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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
31/82

少しの間の安堵

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――『騰蛇』視点――


 三人で揃って溜息を吐いた我々だが、それでも今は警戒することしかできないと月夜の方を見た。

 その視線を受けて、というわけではないだろうが、タイミングよく、月夜が目を覚ました。


「ん……」

「随分と早い起床やね、月夜ちゃん」

「あの人達は……誰……?」

「月夜?」


 様子がおかしいことに気づいた『勾陳』が声を掛けると、初めて月夜は視線を私達に向けた。

 夢でも見ていたのか、どうなのか判らないが、ぼんやりとした表情をしていた状態から突然頭を痛そうに抱え始めた。

 あまりにも異常な光景に揃って慌てたがな。


「月夜ちゃん?」

「っ……」


 バチッ、という何かを弾く音と共に火花が散り、漸く月夜は顔を上げたが、その表情に疲労が蓄積されているのを見て、私達は理解した。

 どうやら、何かしらに干渉されたらしい。それを自身の霊力で弾いたか。

 ……転移などでの誘拐を行なわなかったのではなく、できなかったが正解だったようだ。

 彼女は無自覚なのかもしれないが、恐らくは敵と思った相手の術は殆どが自動的に排除されるようにされているのだろう。記憶を失う前の月夜が行なったのか、彼女の親が行なったのかは判らないが。

 ただ、自前での排除になるので本人は辛い、というだけであって。

 まだ術拒否の刻印を刻んでいないのだからこれは自前と言っていいはずだ。


「大丈夫か、月夜」

「は、い……」


 疲労が溜まっている顔をしつつも何とか頷いた月夜に一応は安堵したものの、同時に彼女がこの状況に遭遇するのは一度や二度のことではないことも窺えて苦い気持ちになった。

 こんなことが何度もあったのでは、本人の警戒心は募るばかりで、どこに居ても安心などできん。

 寝ている間も無意識に警戒していたのは夢を経由して干渉してきていたせいだったようだな。

『勾陳』と『天空』も彼女の様子でそれが判ったようで苦い顔をしている。

 ただ、確かに当人が寝ている間は無防備になってしまうことを考えれば妥当と言える対処なのかもしれない。それでも感心することはできないが。


「監視以外の術が掛けられてなかったん、規格外の霊力のおかげやったんやな……」

「……いつも夢で達磨(だるま)のお面を付けた人達が立っているんです。ただそれだけなんですが……」

「それでも干渉できている証拠に成り得るな」


 私がそう言えば、月夜もそれは判っているようで、無言で頷いていた。まあ、干渉されている当人ならばなおさら判るか。

 こればかりは他は言われない限り気付けないだろう。夢に干渉するタイプの術は他者に悟られにくいのだから。

 早急な対応は必要だな。


「でも、その後に何か仕掛けようとしているんだとは思うんですが……いつも狐面の子と恐らくはお母様? が出てきて排除しているのです」

「……何?」


 狐面、だと? それはまさかと思うが、狐面の穢れ狩りのことを指すのではないか?

 だとすればどうしてこの子の夢に出てくる。万が一同一人物だったのだとしても二重人格であれば、主人格が眠っていれば他の人格も眠るはずだろう。

 それは今までの研究で判っていることで、もしも夢の中だろうと主人格と別人格は同じ場所には居られない。別人格は主人格に主導権を常に握られている状態であることもあり、主人格が起きている間しか活動できないとなっている。

 あくまでも主を主体としているのだ。起きている間に記憶が一部抜けている、ということはあれど、寝ている間に……というのはあまり聞かない。

 まあ、現時点で判っている限りの、なのだがな。寝ている間に活動する二重人格者だって居るかもしれないので、そこは判断のしようがないが……。

 そういえば、月夜は常に監視が居る。にも拘わらずどうして月夜と同一人物であろう狐面の穢れ狩りは出てくることができているのだ? 幻覚を使っていたとしても限界があるだろうに。

 もしかすると、我々の知らない術を行使して体を分けてでもいるのか?


「それは狐面の穢れ狩りのことちゃうん?」

「なのかもしれませんが……いつもあの子は私に去り際に『安心して思い出して』と言うんですよ」


 困った顔で肯定しつつも、不思議な言葉を言った。まるで向こうは彼女が記憶を失っていることを知っているような発言である上に、絶対に月夜が暴走するような記憶は思い出さないと確信を持っているとしか思えない。

 やはり一般的な二重人格とは違うのだろうか? それともこちらがそう思っているだけで、実際は違うのだろうか?


「まるで暴走しないことを知っているかのような口ぶりじゃのぅ」

「それ以上はいつも言ってもらえないんですけどね」

「まあ……向こうも言えん可能性はあるからの」

「はい」


 あまり思い詰めた様子もなく苦笑しながら同意している月夜に私達も今は問題視しないことにした。

 元より狐面の穢れ狩りに非はないのだ。寧ろよく救われていることもあって桜桃軍の方に敵意は一切ないと言っても良い。

 それでも探すのは向こうがあまりにも穢れについて色々と知り過ぎているからだ。

 あの穢れ狩りはいつも予見していたかのような正確さで現れる。穢れの生態について知らなければそんなことは不可能なはずだと言われているから探しているだけの話。

 感謝することはあれど恨み言を言うなどということはない。

 実は『太陰』や『玄武』、月夜には言っていないが、あの二人を救ったのは他でもない狐面の穢れ狩りなのだ。しかもわざわざ他の十二天将が来るまで待っていた。

 丁度、月夜と沙織の二名が神楽家に居る時間だったこともあり、同一人物と思っていた我々は混乱したのだが……普通の二重人格ではないのならば説明はつくかもしれないな。

 ただ……その時に狐面の穢れ狩りは妙なことを言っていた。


『月夜が何者か、というのは私にも判らない。ゆえに聞かれても答えられるのは、私は月夜を大事に思っている、ただそれだけだ』


 そう言って去ったのだ。それは月夜が悲しむから助けているに過ぎない、とばかりの発言ではあった。まあ、助けられていることに違いはないので文句はないが。

 しかし、別人格と思われるあの穢れ狩りでも月夜の正体が判らないとはどういうことだ?

 あまりにも特殊過ぎる出自でもあるのだろうか? だとすれば我々には判りようもないというのも納得できるのだが……。

 何故、それがあの穢れ狩りにも判らないのかが判らない。普通は判っているべきだろうに。

 ……今は考えるだけ無駄かもしれんな。知っているかもしれない人物まで知らないと返ってきた以上は手掛かりが全く無い状態。また一から探すしかなかろう。


「とにかく今は夢にまで干渉してくるのをどうにかせんといかんのぅ……」

「都合よく記憶を思い出せたら良いのですが……」

「脳に負担が掛かり過ぎるのじゃろう。こればかりは少しずつ思い出していけばよい。焦っても良いことなんぞ何もないからの」


『勾陳』に諭され、月夜も納得したようだ。まあ、六十の経験を多く積む人物に言われては納得しかできんわな。

 ひとまずは月夜の安全確保が最優先だな。このままでは本当に攫われる可能性の方が高いことになってしまう。守ると言った手前、それではあまりにも情けない。

 夜の貴族もこれに関しては手伝ってくれるだろう。事態をかなり重く見ている様子だったからな。

 まだ何かしらの問題があるのだろう。月夜にとっては災難としか言いようがない。

 自身の血筋が原因でとんでもない集団から狙われているなど普通じゃありえん。

 現人神だった者達が彼女の現状に心配しているのもそのせいだ。

 彼らもそう判断されるに至った理由というものがある。その殆どが霊力の多さなどや質だ。

 結果、そのまま桜桃軍に入る、という者が結構多い。我々は一切勧誘などしていないのに揃って入ってくるのだ。

 何かしらの運命でも感じているのか? と入った当人達でさえ首を傾げているからな……。本当に運命という不確かなものは謎で仕方がない。

 解明できるならばしてみたいものだ。私は研究者だから、物凄く気になる。

 神、という存在だけが何故消されなかったのかも含めて解明したいものだな。


「夢に干渉するのを防ぐ術はないのだが……開発するしかなさそうだな」

「春樹君も必死になって研究しそうやね」

「するであろうな。あやつも特異な事情がある」


 そう言えば、『天空』も何を指して言っているのか判ったようで、微妙な顔をしつつも頷いていた。ま、まあ、あの神楽家の中では春樹の事情はあまりにも特殊過ぎると思うのだがな。

 何せ、研究にのめり込むあまり寝食を忘れてそのまま……という人物を両親に持つのだ。

 特殊過ぎる状況に研究者は全員が揃って、「どれほど研究に集中していても寝食だけは忘れないために交代制にしよう」となったほどだ。……その前は一切そんな措置は取られていなかった。

 ある意味、研究者たちの在り方を変えた凄い出来事、ではあるのだが……同時に息子にもその性質が受け継がれているのはどうにかならなかったのだろうかと思わないでもない。

 事例二回目は勘弁願いたいものだ。今は神楽家の者達が無理矢理出したりしているので問題ないようだが……神楽家に行く前は本当に何をされても寝食をしない問題児だった。

 今は月夜が外から声を掛けただけで即座に出てくるらしい。あの時の苦労を返せと言いたくなってくるほどにあっさりと出てくるものだから肩を落としたくなったな。

 預かっていたのは半年ほどではあったが、その半年の間、無理矢理術で眠らせたりしなければいけなかったことを思い出す度に今の変化は溜息を吐きたくなる。

 同時に安堵もしているが。春樹は親が亡くなってから酷くなったのだ。……恐らくは親の死を受け止め切れていなかったのだろう。

 それが改善され、笑い話程度になっているのならば良い。

 警戒の薄れた顔で『勾陳』と『天空』の二人と話している月夜を見ながら、仕方がなくとはいえ将来を見込んで預かった愛弟子を思い出し……感謝した。

 悲しみのあまり問題児になっていた子供が今や常識人枠に入り、友人もできているのだ。その変化は数年の間のこと。つまり月夜と出会ってからのことだ。

 その変化を私ではできなかったと判っているのだから感謝するのは当然のこと。

 ただまあ、私の行動を呆れた表情で見てくるのは気に食わないがな。お前の問題児っぷりに比べれば私はマシだ。寧ろ過去の私に感謝しろと言いたいものである。

 ……そう言えるようになったことも含めて感謝はしているのだが。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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