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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
30/82

増した危険

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

全てのサブタイトルと現段階で気づいた誤字の編集を行ないました。

  ――『騰蛇(とうだ)』視点――


 カーテンで仕切られた医務室のベッドで月夜が眠ったのを気配で感じ取り、内心月夜に関することを思い出した。

 彼女を目にしたのは保護された時の一瞬だけ。一方的に見ただけであるため、向こうは全く気づいていなかったようだが、その時の衝撃は凄まじかったものだ。

 遠目からでも判るほどの絶大過ぎる霊力量。どう考えてもただの一般家庭から生まれるとは思えない霊力量で、この時から注視はしていたのだが……。

 どうやら本格的に普通でない血筋のようだ。でなければあんな詠唱は使われないだろう。

 今の穢れ狩り達が使う術は実に短く、大体が「散れ」や「燃えろ」ぐらいの短さで術が展開されるのだが、月夜が使った術は一言では終わっていなかった。

 密かに伝えられていた術を月夜は継承しているということだ。その数がどれほどになるかは判らないが……知られればどうなることか。

 月夜のことを厄介だと思っているわけではないし、注視している間に愛着のようなものもできた。

 次代の『騰蛇』に、と言ったことを後悔はしていない。今でも月夜が最も相応しいと感じている上に、完全に記憶を取り戻せば私などすぐに抜かされるだろうと予想できている。

 しかし、その記憶が厄介であることも事実であった。


「一体、どうしたものか……」

「何がじゃ?」


 思わず口に出せば、すぐ傍に居た『勾陳(こうちん)』が聞き返してきた。この者も月夜を随分と気に入っておる。改めて考えてみても変人だらけの十二天将が揃って気に入っているなど凄いことだ。

 何かしらの術でも使っているのかと思ったが、本人はその様子はなく、単純に彼女の元来持つ性質に惹かれたのだというのが判った。

 他の桜桃軍所属者が見れば驚くこと間違いなしの状況だな。


「いや、月夜の記憶について少々な」

「ああ……全てを思い出せばどうなることか……『信仰会』は現状でも狙ってきておるしな」

「神を降ろしやすい体質であろうことは予想されているだろうからな。しかも彼女自身に非はないし、寧ろ我々に非があるとも言える状況だ」

「桜桃軍が穢れを狩ることに注力していた弊害が出たの。『貴人』と『太裳』も早急に対応をしてはいるが、『信仰会』の戦力も規模も判らん」


 悔しげに言う『勾陳』に私も同意するように頷く。

 確かに元々は桜桃軍は穢れを倒すための組織ではあるのだが、それでもその在り方に固執し過ぎていた。

 結果、人間の組織である『信仰会』に後れを取るような状態になってしまっている。こちら側に全く奴らの情報がないのだから当然の流れだ。

 月夜が常に警戒をする羽目になっているのがその証拠だろう。護衛対象が常に警戒しなければいけない状況など護衛する側としては失格とも言える。

 今まで怠ってきたツケが回ってきた、と言ったところだろうか? 現状に桜桃軍所属者は全員が苦い顔になっているのだが。


「警戒する対象は何も穢れだけではない、ということだな。元々から狙われやすい組織だと判っていたのだから、少しでも調べておくのが当たり前だった」

「『貴人』の懸念も判る状況の悪さじゃの。昔からの慣例がこうも妾達に牙を剥くとは」

「歳は取りたくないものだな、『勾陳』よ」

「全くじゃ」


 しみじみと頷く『勾陳』に昔からの慣例ばかりは良いことではないと教えたと言っても過言ではない月夜が眠る方を見た。

 眠ったと判った時点で申し訳ないが中に入らせてもらったのだが、中学生らしく幼げな面差しをして眠る姿には疲労と少しの警戒が混じった色があった。

 本人は眠っているので意識はないと思うが、それでも眠った状態で無意識に警戒しているなど、安全と言える場所を提供できていないということになる。

 桜桃軍本部でさえ安全と言い切れないことを我らは知っているのだ。

 実に申し訳ない状況だろう。今回とて護衛達が大量に居たにも拘わらず、狙われそうになったのだから。あの夜の貴族の女性が出てこなければ確実に攫われていた。

 つまりは桜桃軍の護衛は容易く排除できると思われているのだ。護衛達の屈辱は如何ほどになったことか……。

 十二天将や夜の貴族が出てこなければ確実に行けると思われているなど……鍛え直しを申し出てきたのも納得だ。

 彼らとて桜桃軍内では実力者と称されている猛者。そんな者達を相手に勝てると判断できるとは『信仰会』の有する戦力はそれだけ練度が高いということか。

 ……いや、結界の性質を変質させる体質持ちが混ざっていたのだ。特殊な体質の集まりなどでもおかしくはないが、その体質が厄介であればあるほどこちらが不利になる。

 実に嫌な組織と言えよう。拉致などを担当する者達はかなり厳重に隠されているのだから。


「歳は取りたないって……言うて六十と六十二やないか、あんたら」


 呆れた様子で言ってくる『天空』に気配に気づいていた私と『勾陳』は揃って視線を『天空』に向けた。

 本人は普通にカーテンを開けて入ってくると、静かに眠る月夜を見て安堵していたが。

 それにしても……。


「普段の格好から変わると詐欺師感が減るな」

「ここで大声出されへんの判って言っとるやろ、あんた」

「実際、詐欺師のようなことをしている奴は誰だ」

「俺やね」


 普段であれば速攻で「俺は詐欺師じゃない!」と言ってくる『天空』だが、今は全く否定しなかった。

 まあ、それもそのはずだろう。本人のいつものあれはある種のミスリードなのだから。


「全く……『貴人』にさえ教えぬとは徹底の仕方が酷過ぎやしないか、『天空』よ」

「何を言っとるんや? 俺は『天空』の名を冠する者やで? ……他者を欺くのが本業や言うてもおかしないやろ?」

「月夜に変なことを教えるでないぞ?」


 忠告のように言った『勾陳』に『天空』も「そんなん判っとるわ」と返していた。

 月夜に対し、私と『勾陳』が揃って驚いたのは、あの『天空』が明らかに気に入っているからだ。

『天空』はとにかく人を騙すという行為が好きだ。漫才も本当に好きらしいが、それでもそういった性質を持つ関係で、大抵の人間とは仲良くはなるものの、深い親交というのはあまりしない。

 その中で気に入っていることを隠しもせず、色々としているのが月夜。何か少しでも特別なことがあれば贈り物をするなど今までの『天空』からは想像もつかない光景だった。

 朱里などはその純粋さから見た目が変な食べ物などを渡して反応を見るということはしていたが、それは食べてしまえば終わり。後まで残るような代物はまず渡さないのがこの者の流儀であった。

 と考えると、月夜に絡繰り箱などを渡すという行為はおかしいことになる。

 今までとは違う行動に訝しく思い、私と『勾陳』は聞いたのだが……。


『あの子の性質はあまりにも綺麗すぎる。俺や他の奴らが惹かれるのも納得するぐらいにやな』


 そう言ったのだ。しかし、その感覚が我らも判らんでもないものだっただけに、否定はしなかった。

 本人の本質もそうなのだが、霊力も常に澄み切っているのだ。穢れが彼女の霊力を浴びただけで塵になったというのも納得できるぐらいにはな。

 さすがに上位の穢れは浴びただけでは塵にはならないようだが、それでもそれなりには攻撃を受けるらしい。

 規格外もここまで極まっていると恐ろしいものだ。


「ところで、月夜ちゃんに関する話なんやけど、ちょいとええか?」

「構わぬが……何かあったのか?」

「『信仰会』の奴ら、随分と必死になって月夜ちゃんを獲得しようとしとるみたいやねん。まるで本命を見つけたかのような必死振りらしいで」


 ……こやつ、まさかと思うが、あの組織に間者でも忍ばせているのか。それとも本人が混じっているのか、どっちか知らんがどっちにしろとんでもない情報なのだが?

 呆れた顔になる私と『勾陳』に意味合いが理解できたらしい『天空』が目を泳がせた。

 言ってなかったことを少しは申し訳なく思っているようだ。それならもっと早くから言えと言いたい。


「後で詳しく話は聞くとして……どういうことだ?」

「あの組織に所属している拉致などを担当しとる奴らが総動員されとるんやと。更には信者全員が一丸になって動いとるそうやで」

「……随分と必死ではないか?」

「『漸く見つけた』なんて発言もあったらしいから、余程前から探しとったんちゃうか? どういう意図で探しとったかはさておき、何とかせんとあかんで、これは」


『天空』の言葉に同意するしかなかった。現状でもかなり厳重にしているが、それ以上の厳重さが求められる状況に入ってきたというのは何となく伝わったからな。

 溜息を吐くしかない私に気持ちは判るのか、二人も溜息を吐いていた。

 この調子では月夜が奪われる可能性もあり得る話になってしまいかねないのだ。警戒するしかあるまい。


「なぁ、いっそのこと、月夜ちゃんを本部で生活させた方がええんちゃう?」

「駄目じゃ。下手をすれば桜桃軍内部に間者が入っている可能性もある」

「あー……その問題もあったなぁ……そういや」

「だが、他に安全な場所など、あるか?」


 私の指摘に二人も判っているので、沈黙した。現状で最も安全と言われるのがここなのだから、仕方がないわな。

 沈黙した後に難しい顔をしている私達とは対照的に眠っている月夜が視界の端に映った。

 できれば彼女には中学生らしい生活をしてほしいと思っているが状況がそれを許してはくれない。

 あの学校の教師は激怒するであろうな。大体が穢れ狩りであった、や現役である、などなわけだし。

 特に月夜のクラスの担任は凄まじいのではないか? 正体を知っているだけに微妙な顔をせざるおえないのだが。

 ただの半妖ではない、というのも大変だな。


「『貴人』に相談じゃのぅ……できれば夏休み中に終われば良いのじゃが」

「それで終わるのならば苦労はしていないな」

「確かにのぅ」


 困ったように言う『勾陳』の言葉に、私も『天空』も楽観的な意見は述べなかった。現状でも振り回されるような形になっているのにそう簡単に解決するわけがない。

 月夜が無事であれば、と考えるのは皆同じではあるのだがな……。

 などと考えながら、私の勘がこのままでは終わらないと告げていることを自覚しつつも、再び月夜を視界に入れ……密かに溜息を吐いたのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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