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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
27/82

正体

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 拉致未遂があってから数週間、桜桃軍の方でも私が『信仰会』の標的になったことは伝えられ、沙織は任務という扱いで夜もなるべく神楽家で過ごせるように調整された。

 いきなり初対面の人間が護衛になったところで、私が警戒するだけだと判断したらしい。まあ、どこから『信仰会』の人達が介入してくるか判らない以上、下手に会う人数を増やすべきではないか。

 私が把握していない者達が関わることで、『信仰会』の者達が成りすます可能性だってあると判断したと沙織が言っていた。

 その沙織はというと、最近になって本格的に十二天将達と関わる機会が増えたことで遠い目をしていたり。まあ、一般の所属者は十二天将に会わないもんね。

 でも最近は突っ込みも普通に入れられるようになったらしい。……それ、突っ込まないとやってられない状況ってことなんじゃ? と私は思ったけど。

 ただまあ、黙ってくれた方が良いだろうとは同時に思った。

 なのでお菓子を作って、沙織に十二天将達に渡してくれるように言った。


「これは?」

「十二天将の皆さんが食べるお菓子。疲れた時は甘い物かなと思ってさ」

「ああ……確かに結構疲れた様子を見せるようになったわね」

「蓮兄さん達も疲れた顔をしていたから、他の人もそうだろうなって。沙織が届けてくれない?」


 私は保護された最初以外で桜桃軍の本部に足を踏み入れたことがないので、沙織にお願いすれば、沙織が微妙な顔をした。

 最近は十二天将のノリにも慣れてきたと蓮兄さん達が言っていたんだけど……これはまだ完全に慣れているわけじゃないな。

 表情を見てそう判断をした私に沙織は微妙な顔のまま口を開いた。


「他の人達は?」

「任務で沙織以外は居ないよ。でも私は本部に足を踏み入れて良い許可を貰ってないからさ……」


 桜桃軍の本部は厳重に秘匿されているのだから、一般人扱いにはなる私が入る許可は貰えていない。所属者だけが入ることを許されてる以上、所属者ではない私は入れませんね。

 と、言えば、沙織は「ああ~、そうだった……」と言っていた。

 どれほど親しかろうとも、桜桃軍を知っていようとも、一般人には入る許可がされていないのだから、私が入れるわけがないじゃないか。

 ここらへんは桜桃軍が秘匿された組織であることが原因だけど。一般人は名前すら知らないからね。

 私が桜桃軍所属者が大勢在籍している学園に居るのは、身内が桜桃軍所属者しか居ないからです。

 じゃなかったら入ることさえしていなかっただろう。知らなかった可能性もあるかも?


「ちょっと待って、本部に聞いてみるわ。さすがに月夜を一人にした方が問題だろうし」

「判った」


 一言断ってから携帯を弄った沙織はすぐさま本部に電話を掛けていた。

 すぐさま繋がったのか、手短に事情説明をした沙織は一言二言会話を続けてから電話を切った。


「大丈夫だそうよ。ただまあ、気を付けて来ることは言われたけど」

「まあ、それはね……」


 ある意味当然すぎる言葉に私も微妙な顔をしつつ頷いた。基本的に沙織と私しかいないことになるんだから、こう言われても仕方がないと思う。

 身支度をしてから、作ったお菓子を持って二人で出たんだけど、外は夜ではないにしても夕方であることもあって、少しだけ暗くなり始めている? ぐらいにはなっていた。

 これは早く行った方が良いなと二人で揃って判断した私達は一応手を繋いだ状態で歩き始めた。

 その歩みが自然と速くなるのは仕方がなかったと思う。何が起こるか判らないもん。


「……沙織」

「どうかした?」


 声を掛ければ即座に反応し、周囲を警戒しながら聞いて来た沙織に二度袖を引っ張れば、目を見開かれた。

 出る前に小声で沙織から言われていたとおりにしたのだから、当然か。


『月夜、もしも視線を感じるや勘が警鐘を鳴らしている気がしたら袖を二回引っ張って。とにかく危険と感じたら引っ張っても良いから』


 こう言われていたとはいえ、出てまだ数分程度で引っ張られたら驚くだろう。だが、これは気のせいじゃない。確証はなかったけど。

 だってさっきから視線の感じ方が変わったのだ。まるで少しの隙に掠め取ろうとするかのような視線に。桜桃軍が派遣している隠れた護衛達とはまた違う視線だ。

 あの人達は安心させる意味もあってわざと判るようにしてくれているのだろうが、それが今回役に立った。あの人達とは明らかに違う視線でこちらを見られていると判ったのだから。


「これなら十二天将の誰かでも派遣してもらえば良かったわね……私や他の護衛達でどうにかなるかしら……」

「レティの所に行く?」

「いえ、あそこに行くと本部に行く道が使えないのよ。手順を踏まないと入れないから」


 悔しそうな顔をする沙織に納得する。なるほど、それなら無理だ。それにそう何度も同じ手が使えるとは思えないし。

 だが、二人で対処するにしても私は戦力にはならない。密かに居てくれている護衛達も私達の様子から何か悟ったようで、警戒するような気配が伝わってきた。

 気配を悟ることが難しいはずの私が悟ることができているということは、無意識に霊力が漏れているのだろう。もしくは無意識に影を使っているか。

 どちらにせよ私も周囲を警戒しているのだ。無意識に。

 最近、何故かこういう咄嗟の反応が良くなっている。何かあった、ということはないはずなのになんでなんだろ?

 場違いな疑問を一瞬だけ浮かべた私だけど、即座に自身の横を見ることになった。

 その視線が下を向いたのは見知った存在だったからだ。


「レティ」

「レティシアさん?」

「随分とねちっこい視線を送ってきているな」


 突然現れた幼女とも言える老齢の美少女、レティの言葉に私達は一層警戒心が滲み出た。危険を感じてわざわざ出てきてくれたらしい。

 沙織にしがみつく形になってしまった私を見て、レティは苦笑して頭を撫でてきた。相当強張った顔をしていたみたいだ。

 こんな危険な状況にまず滅多に遭遇しないはずの私がこう頻繁に遭っているという状況自体がおかしいんだけどさ……。


「しかし、夜に私の相手とは可哀相な子達ね」

「え?」


 よく判らないことを言い出したレティは微笑みを浮かべるとその姿が変わった。……大人の女性になったんだけど。え、どういうこと?

 困惑するしかない私と沙織にレティは綺麗な微笑みを深めた。


「私は夜の貴族と呼ばれる存在なの」

「夜の貴族?」

「一般的には吸血鬼と言われたりするわ。昼の貴族は妖精なんかがそれに該当するわ」

「へ、へぇ……」


 血を吸うと言われている吸血鬼です、といきなり言ったレティに目を瞬いて驚くしかない私達にレティは苦笑した。

 何でも、世間的に言われている吸血鬼の特徴の殆どが本来の吸血鬼には当てはまらないらしい。

 普通に太陽が出ていても出歩けるし、十字架やニンニクが苦手ということもなく、銀の食器などは寧ろ逆に好む傾向にあるんだとか。

 血を吸うというのも、一時的に相手の力を増幅させるためにしているだけで、血を好んでいるわけではなく、普通に流水だろうと入ることも可能。

 鏡にも映るらしい。……いや、本当に殆どの説を否定したね?

 瞳が赤いのは吸血鬼としての力を発揮した時のみで、普段は青い瞳をしている場合が殆どだって。

 うん、だから簡単に世間で言われている説を否定しないでほしい。一応昔から伝わっている伝承なのにさ……失礼極まりないような気もしなくはない。

 だがそこは本物さん。


「だって、見当違いにも程があるんだもの。私達は別に何かしらの宗教を心の底から信仰していないし、勝手に悪と決め付けられただけじゃねぇ……」

「そうは言っても昔から伝えられていることでしょ?」

「何かと間違えているのよ。もしくは混ざっている。そんな伝承が本当かどうかなんて判らないものよ。確かに美しい容姿を持っていて、怪力ではあるけど」


 合っている部分もあるみたい。……つまり吸血鬼にとっての弱点は殆どが意味のないものということか。というか、血を吸う行為も相手の力を増大させるという良い方向のものだけしか効果はない。

 赤ワインを好む者達が多いことからそういった伝承が出たのでは? というのが同族の中での見解だそうで、別に血を吸われても吸血鬼になることもないそう。

 双方同意の上でなければ無理なんだって。それもきちんとした儀式でもって可能なのであって、吸血行為には本当にドーピングのような作用があるだけ。

 ……恐ろしさが減ったね、と正直に言った私にレティは「最初からないわよ」と言っていた。

 ただまあ、現状、そんな呑気な会話をしているべきではない状況でして……。


「私も護衛をしてあげるから、さっさと行くわよ。ずっとここに居たんじゃ危険が続くだけだもの」

「あ、はい」


 とんでもない暴露を行なった当人があっさりと本題に戻ったことで、沙織が戸惑いながらも頷いた。信じていた伝承が殆ど嘘ですと言われたら戸惑うよね……。

 ただ、どうもわざとあの暴露を行なったようで、私が感じていた粘質のある視線は怯えの含まれた代物になっていた。思わぬ存在が出てきたことで、実行を諦めたようだ。

 夜の貴族、なんて呼ばれているぐらいだもんね……しかも昼の貴族と呼ばれている存在達とも仲が良いらしい。対立とか元々の数が少ない関係でそんなことをすれば滅亡まっしぐらなこともあってないとか。

 平和だなぁ……お互いの種を大事にしているということなんだろうけど。

 内心、一気に減った恐怖感と妙な脱力感を感じつつも目的地に着いたようで、沙織がレティを見た。


「許可を貰ってないのですが……」

「ああ、良いわ。私はただの護衛として出てきただけだもの。……これからはもっと気を付けることね」


 そう言ってさっさと行けとばかりに手を振ったレティに私達は顔を見合わせてから歩き出した。

 ……本当に吸血鬼って恐ろしい存在じゃなかったんだね……。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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