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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
26/82

心構え

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 あれから、レティのことを話し、何故無事だったのかを説明した。

 全員が驚きつつも、理由が判って安堵していたけど。

 結界に関しても私が以前に渡されたと教えていた影によるものだと判って納得はしてもらえたよ。


「影の使い方次第でそんなことができるとはな……実に不思議な能力だ」


 研究者でもあるらしい『騰蛇(とうだ)』である五郎(ごろう)さんが興味深げに私の影を見ていたので、動かせば、益々興味が惹かれたようで、暫く無言で見ていた。

 他の十二天将が一切気にした様子もないので、私もじっと見ている五郎さんを放置する形になったけどさ……。

 どうやら、研究者ということもあって、個人的に気になることがあるといつもこうなんだろう。でなければ『ああ、また集中してる』みたいな反応はしない。

 十二天将の中では古参に入る一人らしい五郎さんは基本的にどの人とも付き合いが長いからなのか、全員が慣れたものです。私とレティが付き合いが短いだけ。


「……ということで、私が一時的に保護していたわ」

「そうか……申し訳ない。まさか結界の設定を変質させることが可能な特殊体質の者がいるとは思わなかった」

「こればっかりは仕方がないんじゃない? 私だってそんな奴が居るなんて初めて知ったもの」


 結構長生きしているレティの言葉に目を見開けば、レティが不満そうな顔で「私だって全てを知っているわけじゃないもの」と返してきた。まあ、確かに長生きしている者が揃って全知だったらそれはそれで凄いか。

 レティの言葉に真っ当だと思った私は頷きつつも、少しだけ訝しくは感じた。


「レティ」

「何?」

「レティって結構長生きしているけど、その中で一度も同類の特殊体質を持った人と会わなかったの?」


 私の質問に予想外だったようで、レティが目を見開いた後におかしいことに気づいたみたい。

 そう、レティはこの中で一番の長生きをしている人物な上に、様々な時代に行っている。なのに一度も似たような特殊体質持ちに会ったことがないって不思議だ。

 いくら特殊体質自体が珍しいとはいえ、霊力とか魔力などを持っているのも特殊体質に分類されるんだから、一人ぐらいは似た事例に出くわしていてもおかしくはないはず。

 一切ない、なんてありえることなんだろうか?


「……確かに、月夜の言うとおりね。そんな特殊過ぎる特殊体質を持っている奴が居たら絶対に覚えているはずだし、何かしらの方法で次代に引き継がれているはず」

「そうなの?」

「特別な体質は後世に受け継げるようにするのが昔は普通だったのよ。今の霊力保持者を増やそうという動きと一緒ね」

「なるほど」


 判りやすい説明に納得しつつも、なおさら不思議に思った。

 この感じだと、あの特殊体質は本当に後世に受け継がれていても不思議はないものらしい。確かに守りの要とも言える結界を変質させて、侵入できるようにするって結構なチートだもんね。

 他にも重要人物の守り方があるとはいえ、結界が意味を成さないというだけで守り手は苦戦を強いられることを予想する。

 悪いことにも良いことにも有効な手段として受け継がれていて本当に不思議じゃない体質だ。

 改めて考えてみると、やはり受け継がれていない可能性が高いあの特殊体質が不思議で仕方がなかった。潰すには惜しいと誰かしらが思いそうなものなのに。


「ということは……」

「『突然変異』によるものか、はたまた妾達が知らぬだけで受け継がれておったか……じゃな」


 溜息を吐きながら紗良(さら)ちゃんが言ったことで、全員が難しい顔になった。……五郎さんはいつの間にか会話を静かに聞いていたらしい。一体いつから聞いていたんだろう。

 だが、今いくら考えても答えなんて見つかりっこないので、私達は考えるのを止めた。考えていたって答えが判らないなら、調べて真実を知った方が早い。

 とはいえ、その手掛かりすらもない状態だけど。唯一の手掛かりが『信仰会』の人間だ、ということぐらいかなぁ? それだって確実性がないんだよなぁ。

 拉致担当ならば、『信仰会』はかなり慎重に隠しているだろう。そこもまた厄介と言われる所以なんだっけ? 未だに拉致を担当している者達の詳細が一切手に入らない状態だからね。

 それでも現状、私が狙われるようになったという事実が手に入ってしまった以上は調べる必要性が出てくる。これで拉致されようものならば、見つけるのでさえ時間が掛かってしまうから。

 何とか見つけ出された現人神役をさせられていた人達は十年も行方不明扱いだった人だって居る。早い人でも三年。普通に中学に入学して卒業しているぐらいの年数は経つわけです。

 これより早く見つけられる確証があるのかって言われると……難しい。どうも国の調査が厳しくなったことに気づき、もう降ろせないだろうと判断されたことで全ての現人神を捨てたみたいだし。

 見つけられなかったら危なかった。とはいえ本拠地が移ったことには変わりはなく、調査は振り出しに戻ったとまで言われている。

 海外にまで手を伸ばし始めている、なんて話もあるぐらいだから、組織の大きさは国内でトップなんじゃないかな、とは思う。

 完全に犯罪組織扱いだけど、実際していることはそのとおりなので、宗教団体とは誰も思ってない。ニュースでは宗教団体扱いされるけど。

 こればかりは本人達がそれを謳っている以上はそういう扱いをせざるおえないのだろう。それでもその扱いはまともな宗教団体に失礼だ、と言う人も結構居る。

 元々、『信仰会』もまともな宗教団体だったんだけどねぇ……。


「んー……じゃあ、月夜。今度から貴女も自由に私の異空間に来ることができるようにするわ」

「え?」

「もう一度がある可能性がある以上は安全策はいくらあっても足りない。人に対し術を使ったことがない以上は、まともに対抗なんてできないんだから、守りは何個もあるべき」


 正論を言ってくるレティに私も「対抗できる」とは言わず、素直に頷いた。これは虚勢なんて言っていい問題じゃないから。

 言って何とかなるなら、言っているけど、言ってもどうにもならないことに「大丈夫」と言ったところで周囲は心配でしかない。実際、今回はレティが居なかったら終わってた。

 あの恐怖は今も覚えているし、正直に言って、あの恐怖の中でまともに対抗できるとは思えない。

 自身の中でそう冷静に分析し判断を下した私はレティの申し出に納得することにした。


「……判った」

「本当に貴女って聞き分けの良い子よね。普通は自分でできるって言わない?」


 私なんて貴女ぐらいの年齢の時は周囲の言葉に反感を抱いて、自分でできるって思ってたのに……と言うレティに微妙な顔をする。

 自分から提案してきて、反抗されると思っていたなんて何と言うか……いやまあ、それでも守ろうとしてくれていることは嬉しいけども。

 怖がりというのもあるけどね、私の場合。


「ただ怖がりなだけだよ。自分の身を自分で守ることができる自信があるなら、突っ撥ねてる」

「そうやって冷静に分析できるところが中学生にできるとは思えないって言ってるのよ」


 そう言われて、思わず十二天将と一緒に来た沙織を見れば、沙織は苦笑した。

 まあ、沙織は自力である程度は対処できる実力があるもんね。私とは少々状況が違うか。

 内心そう思いつつも沙織が言い出すのを待っていると、沙織が口を開いた。


「私は自力である程度対処できる自信があるから、素直に従えないかもしれないわ。最初から無力だと思っているという点も考え方に違いが出ている理由じゃないかしら」

「なるほど。確かに周囲に守られているという自覚があるなら、最初から従うわね」


 私も確かにと頷きつつも同時に『自力で対抗できるようにした方が良いのだろうか』とも思った。

 さすがにずっと守られているだけではいつか大変な目に遭うことになってしまうかもしれないので、少しでも抵抗できるようになった方が良いような気もする。

 でも、精神の不安定さから術を習うことを積極的にしてこなかったし、今から急いで学んだところでまともに術を放つことは不可能だろう。

 そういう判断だけは冷静にできるんだよね……守られることに申し訳なさを感じているくせに。

 影だって、今は何かに干渉したりとか守りに利用したりするぐらいで、攻撃の方では全く活用されていないということから、実際に使えるかの保障がない。

 穢れと戦うことすらしてない以上、実戦での恐怖感を私は全く知りません。実戦経験が乏しいってこういう時に困る。

 いやまあ、実際に穢れの前に出されたりなんかしたら恐怖で身が竦んで何もできなくなるだろうけど。それはそれで迷惑だな、おい。

 頭の中で穢れの前に出されて怯えて何もできず、周囲に迷惑を掛ける様を想像し、少しだけ顔が引き攣りそうになった。誰だって初めては怖いとはいえ、私の穢れに対する怯えようはそんなものではない以上、無理を通して経験すべきではない。

 だって、穢れを前にすると無条件に何もできなくなるのだ。何度か穢れと出くわしてしまった時があるけど、どの時も術を行使するより先に霊力自体が暴走状態に陥っていた。

 正確に言うと、暴走気味と言うべきか。本当の意味での暴走はあの程度では済むわけがないし。

 暴走しかけるなんて、蓮兄さん達からすれば恐怖だ。穢れの方にも警戒を向けなければいけないのに、その対象が増えるなんて嫌過ぎる。

 よって私は積極的に経験を積もうとは思ったことはないし、言い出したこともない。穢れと遭遇した時に暴走気味になった霊力が大放出され、穢れも蓮兄さん達も全員が吹き飛ばされたのだから。

 下手をすれば、壁に激突して死亡していた。あれがまた起きるとなれば私が避けたいと思うのは当然だった。

 何度経験しても無条件で霊力が暴走しかけるのだから、これ以上の経験は現状はするべきじゃない。

 そう判断を下した時から、申し訳なさを感じつつも大人しく周囲の言うことを聞くようになったんだっけ? じゃないと自分以上に周囲が危険に晒されることになっちゃうし。

 過去を思い出して、何故素直に言うことを聞くようになったのかが判り、一人で納得していると、レティがこちらを見た。

 ずっとレティ達は話をしていたんだよね。どうやら私を異空間で匿う際の取り決めをしていたようだ。


「これを貴女に預けておくわ。これを持っていれば、貴女が危険だと勝手に判断されて異空間に行くことが可能になるから」

「勝手に?」

「嫌だけど、寝ている間に拉致、なんてこともありえるじゃない? そうなった時に自己判断だけでは難しいでしょう?」


 レティにそう言われて納得する。確かにそれは無理だ。これは有難く貰っておいた方がいい。

 寝起きで冷静な判断を即座に下せる人なんて、もはやそれはきちんと寝ていない人だ。仮眠をしていたとも言うけど。

 納得した私はレティからブレスレットを受け取って、足首に着けた。手にしていると邪魔になっちゃうので、基本的にこういうのは足首に着けられるなら着けているんだよね。

 効果としては発揮できるので、誰も何も言わないけど。

 料理や洗濯なども私がしているから、というのもあるかな。濡れることが多いと劣化が早まるとどこかで聞いたことがある。

 これが劣化するのかはよく判らないけど、なるべく濡れないようにしておいた方が良いことは事実だろうから、結局は足首行きだ。

 着け終わり、簡単に外れないことを引っ張ったりして確認後、レティを見れば、確認している姿を見て大丈夫だと思ったようで、レティも頷いていた。


「大丈夫そうね。本当はこんな物を付けなくともいいのが正解なんだけど」


 申し訳なさそうな顔をしたレティに首を横に振る。安全策を増やしてくれた以上、言うべきは感謝のみ。恨み言とか言うべきじゃない。

 心配してくれるのは良いことだと私は思っている。誰かが側にいてくれることはとても幸せだ。

 孤独は悲しい。それが記憶を失って、少しの間だけ孤独だった私が抱いた感情だったからなのかもしれない。孤独に慣れてしまえば良かったのかもしれないけど。

 今はそんなものを感じていられるほどの余裕がないぐらいに可愛がってもらっている。

 だから今の私は十分幸せだと言えるだろう。きっと父と母のことを知っても本当の意味で『堕ちる』ことはないと信じられるぐらいには。

 そう考えていた私は少しだけ自身の中で皹が入るような音が響いたことに気づかず、沙織と会話をしていたのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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