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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
25/82

影の行使

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――月夜視点――


 バキリ、という明らかに結界が破壊された音と少し遅れて開かれたドアを最後に私は見知った場所に来ていた。

 早く鼓動を打っている心臓が痛く感じるほどに恐怖で一杯になっている私に少女のような人が顔を覗き込んで心配そうに見てきた。


「月夜? あの者達はここには来られないから安心していいわよ?」

「レ、ティ……」

「貴女の時代であんなにも強固な結界をあっさり壊せるなんて……一体どういうことかしら」


 恐怖のあまり小さく震えている私の頭を撫でながら呟くレティに先ほどまで目の前に見えていたドアを思い出す。

 一瞬だけ見えた目は酷く(おぞ)ましい色合いを含んだ眼差しだった。あれを思い出すだけで恐怖で体の震えが止まらなくなるほどに。

 レティが異空間に引きずり込んでくれなければ確実に連れ去られていた。勘とかそんなのなかったとしても確信を持って言えるぐらいには早過ぎた。

 どれほど守る術を教えられていても、実戦経験のない者に碌な抵抗ができるわけがない。ましてや私は人間相手に術を行使することなんて一度もしたことがない。

 穢れですらないのに、人間にはあったらそれはそれで大問題だ。本来はそんな使われ方をされる代物ではないのだから。

 震えが治まらず、抑え込むように体を更に小さくすれば、レティがこちらを向いた。


「本当に危険な状態に遭ったことなんてないわよね……そうならないための結界なのだし」

「あの、人達……」

「『信仰会』と呼ばれている者達ね。どうやら拉致を担当する者達のようだけど」


 手馴れ過ぎだ、と言うレティに頷く。確かにあまりにも迷いがなかったし、事前の情報収集も完璧と言えるほどにされているような会話が聞こえていた。

 でなければ部屋の位置まで把握できているわけがない。蓮兄さん達は部屋の場所まで特定されないようにわざと部屋ごとに張られている結界に差異を設けていないし、どこが誰の部屋かを話さないようにしているもの。

 少しだけ震えが治まってきて、ある程度は冷静に考えられるようになって漸く確証はないまでも部屋の位置を把握していた彼らに疑問を持った。

 どうして彼らはああも迷いなく来ることができたんだろう? それに十二天将でさえ侵入を躊躇うほどの結界ばかりが張られているのに、あっさりと破壊して来ることが可能だった理由も謎だ。

 いくら強力な武器を持っていて、人が一人通ることができる程度の広さで良いと言っても、まず皹を入れるのでさえ辛いはず。

 あんなにも簡単に壊せるような代物ではないから、家の中で限り、私以外は誰も居ない状態でも問題なしとされているのだ。じゃなかったら誰か一人は絶対に残っている。

 少なくとも夜に全員が任務に出るという行為はできない。私も普通に見送るなんてことはできない。


「今は……」

「直前で貴女が消えたこともあって、作戦が失敗したと思ったんでしょうね。転移の術を使って去ったみたいよ。でもまだ誰も到着してないから出るのは止めておいた方が良いわ」

「もしかして妨害されてる……?」


 確認のように聞けば、さすがにそこまでは判らないと首を横に振られた。ちょくちょく会う内にレティの異空間に関して色々と教えてもらったけど、確かその中に彼女が干渉した場所以外は覗くことができないという制限があると言っていた。

 今回なら、私の部屋に干渉して、私を引き摺り込んだから、私の部屋以外は見られない状態。外の様子などが一切判らないから、出ても良いという判断がしかねるんだと思う。

 転移で去ったと見せかけて、近くで待機されている可能性だって切り捨てられないから、慎重になっている。

 レティの生成する異空間は彼女が許した人物以外の侵入はできないから、必然的に彼らはここには来られない。

 現状、どうなっているのかも判らないから、レティの言葉を信じるしかないんだけど……。

 なかなか蓮兄さん達が来たと言われないことに一抹の不安が襲ってきた。

 いくら昔に比べて知識も技術も下とはいえ、現代では最高クラスの実力を持っている人達がこうも遅れるなんて普通ではないからだ。


「何故、来ないのかしら……」

「何故?」

「そろそろ十分ぐらい経つのに一向に現れる様子を見せないの。明らかにおかしいわ」

「レ、レティ」

「何かしら」


 訝しんだ様子で外を見るような姿を見せるレティの裾を引っ張れば、すぐさま視線がこちらに向いた。本当に現状に変化がないらしい。

 急に呼んだ私に不思議そうな視線を向けてきたレティに対して口を開く。


「向こうからは干渉されないけど、こっちからは干渉できる程度の穴って作ることができる?」

「できるけれど……かなり小さい穴だから、人は通れないわよ?」

「ううん。私は通れなくって良いの」


 そう言えば、意味不明だったようで、レティが訝しげな顔をした。『何を言っているのだ』と言わんばかりの表情を浮かべている彼女に微笑む。

 初めてのことだから上手く行くかは判らないけれど、あの人は想像次第だと言っていた。

 私の視線が影に向かったのを見て、何をする気なのか判ったレティは目を瞬いた後に一つ頷いてくれた。


「判ったわ。でも本当に干渉して良いのは(それ)だけよ」

「大丈夫。それ以上の干渉なんてしない」


 念を押してくるレティに頷けば、納得してくれたようで頷いた後に少しだけ干渉できるようにしてくれた。感覚でしか判らなかったけど、できるようになったと判断できた。

 そこから影を潜ませるようにして私の部屋に向かわせ、続いてどんどん範囲を広げて何が起こっているのか把握する。

 蜘蛛が糸を張って縄張りを作るように静かに。けれど確実に広がっていく。

 範囲が自室から家、家周辺と広がっていくごとに何が起きているのかが理解できた。


「結界が変質してる……」

「何ですって?」

「蓮兄さん達は変質して侵入を拒まれている結界に四苦八苦しているみたい」

「それでこんなに遅いのね……ということはあいつらの中に特殊体質でも居たのかしら」

「かも。大きく変質していて、変質させた本人が許可しないと入られない状態になっているから強行突破になってる」


 影で把握できた事情をレティに伝えれば、「厄介な……」と舌打ちしたげだった。

 あれだけ強力な結界が一瞬で設定を書き換えられるなんて、滅多なことではありえない。それこそ特殊体質で変えられる、とかでないと無理。

 簡単に結界を壊して進むことができたのもその人が結界に干渉していたか、もしくは結界に干渉して設定を変える際にああいった音が鳴るのか。

 今はそんなことは一切判らないけれど、とにかく結界が変質しているのは事実だった。

 そういえば、影って攻撃と防御両方に秀でている能力だけど、一番得意なのは干渉だと愛香さんは言っていたっけ?

 だったら結界に干渉して壊すのも可能なのかな……。


「近くに誰か居るとかは?」

「居ないみたい」

「そう……」


 安堵するレティに結界に干渉して壊したい旨を伝えれば、驚きつつも「確かにあの子はしていなかったけれど、できるかもしれないわね」と言って、頷いていた。

 想像力でどうにでもなると言われていたから、否定はできなかったみたい。

 でも今はそれで良いのだ。全ては私ができると思うことが大事なのだから。

 頷き合ってから、私は状況を把握するために広げていた影の影響力と支配力を結界に向けた。

 網のように張られた糸を切って無理矢理解く感じにはなるけれど、どうやらその想像で行けたみたい。

 全ての結界が壊れる感覚と同時に驚いた蓮兄さん達が慌てた様子で私の部屋に来るのが伝わってきた。

 レティにそれを言えば、すぐさま自室に戻してくれた。まあ、さすがに居なかったら動揺が凄いことになりそうだもんね……。

 一緒に自室に戻ったレティを驚いた様子で見れば、「さすがに説明をしないとこれで無事だった理由が判らないでしょ」と返されて納得した。

 部屋が結構荒らされているから、確かにどう頑張っても言い訳はできないよね。

 納得するしかない私の耳に慌ただしい足音が聞こえ、開いたままのドアの方を見れば、蓮兄さん達が立っていた。

 無傷な様子で立っている私を見て、揃って安堵したように崩れ落ちたのは言うまでもない。なんか、凄く心配させたみたいで申し訳ないな……。

 とりあえず、どうして無事だったのかとレティのことを説明するところから始めないといけないかな?


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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