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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
24/82

神降ろしと危険

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――沙織視点――


 月夜が占を介して神から事情説明してもらった、という話を聞いて思わず絶句してしまった。

 確かにあの盤は、傍から見ていても感じてしまうほどに神聖と判る代物ではあったけど……当時、禊を全く行なっていなかった状態で神を降ろすに近いことをしたという話だから、余計におかしい。

 普通に考えて禊を一回行なったとしても、神を降ろすなんて困難と言われているし、本気で一般人が降ろすことを考えた場合、禊を数え切れないほどした上で、穢れを取り込まないようにしなければならないわけで……。

 当たり前だけど、そんなの無理。現在は昔の神職と言われていた者達も居ないから、穢れを完全に追い出すというのも現代では難し過ぎるのよ。

 それを、一切せず成功させた、なんて……。

 十二天将が揃って『信仰会』を警戒するのも当然と言えた。確実にそんな話を聞いた彼らが狙う。

 有力な現人神が現状居ないのならば、必然的に彼女に期待するでしょう。

 期待するだけの結果を出しているもの。彼女だけに見える盤も含めて魅力的な存在じゃないかしら。


「沙織?」

「……どうかした?」

「いや、さっきからだんまりだから……今日は食べる速度もそんなに早くないし」


 月夜に指摘されて、手元にあるスイーツがあまり減っていないのを見て、自分が熟考していたことに気づき、少し気恥ずかしさを覚えて、目を逸らした。

 指摘した側は不思議そうに私を見てきたけど。

 寧ろ、体調が悪いのかと心配げだ。大丈夫よ、月夜。少なくとも考えていただけで食欲はいつもどおりあるわ。


「『信仰会』のことを考えていたのよ……申し訳ないけど、私一人じゃ月夜の守りとしては弱いし」

「思わぬところからの手出しが警戒されるって確かに蓮兄さん達も言っていたけど……」


 さすがに有名な宗教団体が出てきたからなのか、月夜は困ったように眉を寄せていた。そりゃそうよね。自分の偶々の産物でさえ狙う理由になるなんて普通は思わないわ。

 でも、向こうは一回でもできたのならば、次の機会もあると考えるタイプなのよ。

 自分達の言動によって神が降りないだけじゃないのかって、よく言われているけど。

 ただまあ……桜桃軍が探していても、神々が一切言おうとしなかったのに、月夜が占った途端、教えるなんて、明らかに月夜を優遇していると思うわよねぇ……。

 確かに神って気に入った存在には見返りなしで尽くす、なんて言われているけど……それで攫って、本当に降ろせた時に報復されないかしら?

 余程のお気に入りだった場合、下手をすれば降ろした瞬間に報復に出る、なんて行動を起こす神が居るかもしれないじゃない。結構危険よ?

 まだ月夜がそうって決まったわけじゃないとしても危険すぎると思うんだけども……そういうのを考えられないほど欲に溺れているのかもしれないわね。


「ああいう人達って最初は本当に純粋に信仰してたんだろうな」

「でしょうね。でも途中で欲の強い者達が混じって改変されてしまった。……純粋に信仰していた側としてはたまったものではないわ」


 月夜の乗っ取られた者達への言葉に頷きつつも、内心本当に同意していた。

 彼女の言うとおり、悪名で有名になってしまっている『信仰会』は元々は本当に純粋な宗教団体で、国からも「危険のない宗教団体」と真っ先に名前が挙げられるほどの宗教団体だった。

 それが、ある時期から大きく変わり、即座に国は「最も危険な宗教団体」に認定したのよ。

 あまりの変わりように、乗っ取られた、と言われたほどだもの。実際、そうだったみたいだけど。

 どうも欲に溺れた者達が『信仰会』の掲げる最終目標を利用しようと考えたみたい。で、案の定純粋に信仰していた者達に抵抗され、武力によって乗っ取り、元々の信者達は半数が出ていった。

 少しずつ浸食されている感じはしたらしいわ。半数まで染まっていたんだから相当よね。

 現在は出た者達は宗教団体が全てそんな感じであることの虚しさを感じながらも、現存している神社や寺などの建物の維持の方に転身しているわ。

 まあ……信仰している気持ちは薄れていなくとも、世間の評判が悪い宗教団体を再び名乗る気にはまずなれないわよねぇ……それなら現存する神聖な場所を守っている方が良いと思っても仕方がないかもしれないわ。

 それぐらい酷い状態だもの、今の宗教団体はどこも。


「人間って本当に移ろう存在よねぇ……」

「『――それでも我々は愛すことを止められないのだ。こうして愛せる者達が生まれているからこそ』」

「え?」


 明らかに綺麗な大人の女性の声が聞こえて、驚き、声の聞こえた方である月夜の居る場所に目を向ければ、月夜が虚ろな目をしていた。

 まさか、また神を禊なしで降ろしたっていうの!? しかも今回は直接じゃないでしょうね!?

 驚きのあまり何も言えずにいる私に視線を向けた月夜は突然虚ろな目から生気の戻った目になった。

 どうやら、一瞬だけ干渉されたみたい。それでも凄いことなんだけど……。


「月夜、大丈夫?」

「えっと、何が?」


 少しだけ上ずった声で聞けば、月夜は困惑した様子で首を傾げた。この感じを見ていると、自分の身に神が降りたことに全く気づけてなかったみたいだけど……。

 それにしたっておかしい。いや、もしかしたら降りている最中は意識を失っている状態に近いのかしら……?

 訳が判らず、困った顔になっていると、月夜に益々不思議そうな顔をされた。


「どうしたの? 今日は本当に体調が悪いんじゃない?」

「……そうかもしれないわね」


 疲れたように溜息を吐きながら同意すれば、なおさら心配されたわ。

 残念ながら疲れた原因は月夜。本人は自覚していないけどね!

 これ、本部に報告するの……? 次々に起き過ぎて十二天将全員が頭を抱えるんじゃないかしら。

 それはそれで珍しい光景か。……他人事だったら湊さんとか笑ってそうよね。

 性格が悪いというわけではないと思うのだけれど……腹黒な時点で性格が悪かったわね。月夜には一切見せていないところからして、自覚のある腹黒だ。

 未だに月夜の中で湊さんが「優しい兄」であることが信じられない。蓮さんが「活発な兄」で、凜さんが「しっかり者の姉」なのは納得できるのに……。

 面の皮が厚い……じゃない、演技が上手すぎるのが問題なのね、きっと。大学内では優等生の美青年と言われているそうだけど……目が腐っているのかしら。

 どう見ても、周囲を騙し、周囲の反応に笑っている腹黒で問題児よ、あの人。それとも本性を出されているだけなの? 何それ怖い。

 いつか、脅されそうと思っているぐらいなのに……月夜には一切見せないから、結構差に顔が引き攣ったわ。今では慣れたけど。

 月夜の前では優しい兄だけど、裏では敵対者に優しさが皆無どころか、凶悪な罠とか平然と仕掛ける腹黒。……『天空』に「詐欺師に一番向いているのはあいつやろ!?」と言わしめた人物だったりする。

 良かった。月夜は酷く純粋なので、知った日には固まって呆然とするわ。だから隠しているんだと思うけど。

 あとは怖がられたくなかったんでしょうね。何だかんだで月夜には弱いし、湊さん。


「あら」

「本部から連絡?」

「みたい。私は行くけど……」


 少し心配に思って渋るような素振りを見せれば、月夜は苦笑した。ここまで心配されるとさすがに思うところがあるわよね……。

 この家自体、結界が張ってある以上は、余程のことがなければ大丈夫だものね……出ないようにしなければ、だけど。

 月夜が自主的に出るとは思ってないわ。結界の意味合いを聞いているし、一人での外出はできないと言われているから、それを忠実に守っているもの。

 どうにかして出された場合はどうしようもないとも言うけど。


「じゃあ、行くわ。戸締りだけはちゃんとしなさいね」

「うん。沙織も気を付けてね」


 玄関まで行き、見送ってくれた月夜にそう声をかけてから出れば、閉じたドアから鍵がかかる音がした。外に出て見送りも禁止されているのよ。外に出るに該当してしまうから。

 何があるか判らないと保護された当時からあった誘拐騒ぎから判断したことでそう言い含められているわけよね。だから、神楽家では一階はまず窓さえ開けられない。

 そこから入られると困るもの。家を建てる段階で強固な侵入を阻む術が仕込まれているから、完全に一階を閉め切ってしまえば、侵入は不可。

 ……何気に怖い家よね。私も初めて聞いた時は顔を引き攣らせたっけ。

 月夜はおかしいと思ってなかったみたいだけど……他を知らないなら不思議に思わないか。

 そう思いつつも、本部に向かうために私は足を踏み出した。


  ――――――――――


  ――月夜視点――

 何となく視線を感じる気がする。

 そう思ったのは、占で神を降ろすに近いことをした翌日からだった。

 気味悪く感じて、周囲を見回した時に一瞬だけ視界の端に映った残像が酷く怖く感じて、なるべく外に居る時間を減らした。

 じゃないといくらなんでも外に出ている間ずっと感じるなんておかしいんだもん。

 家の中では視線を感じることはなかったけど、それでも言いようのない不安は付き纏った。

 蓮兄さん達や沙織など、誰かしらが家の中に居たから、不安は薄まっていたんだけど……。

 今日は丁度全員が家から出てしまっている日で、だから沙織が居てくれた。でも途中で本部に呼び出しがかかり、居なくなった。


 これはさすがに危険かもしれない。


 そう思ったのは沙織が召集を受けた時だった。

 内心そうは思っても、自分の勘を本気で信じ切ることもできず、また占うのもどうかと思ってしまい、占わなかったんだけど……。

 これ、ちょっと拙いかも。

 一人になり、全ての戸締りが完了した段階で突然、一階から何か堅い物に何かをぶつけるような音が何度もして、異様過ぎて急いで自室に戻った。

 これが映画の中の話とかだったら良かったのにさ……。

 さすがに窓を開けて式を飛ばす気にはなれなくって、音を録音したデータをメールに添付して送った。

 危険だなと感じた場合は本部に直接届けられた方が良いわよね、と教えてくれていたんだよね、占による話があった後。

 幸いにもすぐに気づいてもらえたみたいで、すぐに向かうという旨のメールが来たんだけど……。


 というか、さっきからどんどん音が盛大になっているし、なんだったら壊れかけている音もしている気がするのですが。


 え、怖い。もしかして、何か札でも張られた道具で壊そうとしているの? 結界を? 何それ怖い。

 確か……敷地を境界とした結界五重に、家から五メートルのところの結界五重。更に家に貼り付くように結界が五重で張られていて……更には各部屋にも結界が五十枚張られている。

 ……改めて考えてもちょっとおかしいような? 音が盛大になったのって近づいてるから? ど、どこまで来てるんだろ……。

 たたた、確かに、一人ずつ通るだけならそれほど大きい穴は必要ない。でも修復だって可能なはずなんだけど……何人での犯行なんだろ。

 妙に冷静になって考えた私にいきなり一際大きな音が近くでして涙目になった。


『この部屋か?』

『話だとこの部屋が一番可能性があるらしい。とりあえず、さっさと結界を壊して攫うぞ。新しい現人神だ。丁重にもてなさなければいけない』

『だな』


 ……もしかして、二度目でも起きてました? 神降ろし。もしや沙織のあの疲れたような反応ってそれ?

 というか、もしもそれが本当だった場合、なんでもうすでに知ってるの!?

 などと考えていると後ろに引っ張られ、思わず悲鳴を上げそうになった私の口を塞がれた。

 誰だと思って顔を向けた私は思わず安心してしまったけど。

 私の姿は別の場所に移動し、その直後、私の部屋に張られていた結界が壊れる音が耳に聞こえた……気がした。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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