神の介入
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――湊視点――
桜桃軍の行方不明者がどこに居るか占ってほしい。
そう頼んだ僕と凜に頷き、一度確認してから占を行ない始めた月夜を無言で見続けた。
彼女だけにしか見えない盤は彼女曰くかなり不思議な文字が書かれたりしているらしい。おそらくはそれらが彼女だけにしか見えない原因となっているんだろうとは思う。
技術も知識も上の昔の代物を扱う彼女はそれだけでも重要人物になるんだけど、更に当たるとなれば、よりいっそう重要になってくるに決まっている。
だから徐々に結界をどうするか『貴人』達と話し合っている最中なんだよね。
月夜には特殊な一族の血が流れている可能性が高いと桜桃軍内ではなっているのも、これのせいだ。
何かしらの理由がなければここまで昔の者達が接触するなどしない。ただ霊力が規格外に多い、程度で扱える代物でもないんじゃないかな、あれって。
「……え?」
占の結果が出たのか、月夜の驚くような声が耳に届き、凛と思わず顔を見合わせた。
結果を見て驚くなど何があったというのか。
「月夜? どうしたの?」
「い、異空間じゃなくって……神域に匿われているって……」
「「は!?」」
月夜の口から飛び出した結果に揃って声が出た。しかも『匿われている』と言ったということは何かから助けてくれたということだ。……神が。
予想外の結果に驚くしかない僕達に月夜は占で出た結果をより詳細に教えてくれた。
月夜が言うには神域に匿われている者達は生存しているのは確実で、本人達はおそらく気を失ったままであるだろうということ。
近々桜桃軍の本部に移されるので、このままでも問題はないが、戻ってきたらきちんと本部の方でお礼として酒などを捧げた方が良いということ。
どんな神が匿ってくれたかまでは彼女には判らないし、特定もこれ以上は不可能(神と人では差があり過ぎるから当然だ)なので、場所特定はできないし、人数も特定できないが、本部で酒や食べ物を捧げれば問題はないこと。
その際の注意点として、食べ物の方は特にないが、酒類は日本酒に限った方がよいことまで言われた。
というか、直接神々から教えられたに近いらしく、次々に結果が変わって困った顔をしていた。
勝手に結果が変わることが終わってから教えてくれたようだけど。
「とりあえず、行方不明者は大丈夫なのね?」
「みたい。穢れに強く当たり過ぎたから、少しの間、匿った程度みたいだから、もうすぐ帰ってくるとは思う。戻ってからでいいから礼はきちんとした方が良いって感じかな」
「勿論よ……思わぬ存在が関与していたわね……」
「だね……これはすぐに本部に伝えるよ」
僕が言えば、凜も頷き、月夜も判っているので頷いていた。さすがに報告なしとはいかないだろう、これは。何せ滅多なことでは現世に関わらない神々が手を出してきたのだから。
何があった、としか言いようのない結果に頭が混乱している感覚がしているけど、今はそれどころではないと思い直し、無理矢理頭を働かせ、情報を整頓してから手紙を書き、式を飛ばした。
ああ、これは絶対に夜に呼び出されるやつだな……と頭の中で思ったことは許して欲しい。こればっかりは月夜のせいではないので、責めるつもりもないけど。
その日の夜。案の定、僕と凜が本部に呼び出されるのだった。
――――――――――
「それで、この結果が出た後すぐに戻ってきた、と」
「ええ、そうよぉ。月夜お嬢さんの占に干渉して教えてくるなんて……月夜お嬢さんは禊をしていたわけじゃないのよねぇ?」
確認してくる『貴人』に僕も凜も頷いた。緊急の十二天将での会議が行なわれたほどの衝撃が桜桃軍には現在走っているらしい。
本当に月夜の言ったとおりになったからね……こればっかりは仕方がない。
それにしても……普通、神々というのは現世の穢れを嫌がってかなり禊をした者でもない限りは降りてこないはずなんだけど……。
「月夜お嬢さんの血筋が禊を必要としない一族のものなのかしらぁ?」
「可能性はあるのぅ。しかし……それがもしも本当ならば、よりいっそう厳重な警戒が必要じゃ」
『貴人』の言葉に『勾陳』は同意しつつも、同時に問題点を挙げてきた。確かに現状の守りでは危険かもしれないね。
一応、月夜本人には術を掛けて、何かあれば僕達に伝わるようにはされている。
沙織ちゃんも桜桃軍では実力者の部類に入るとはいえ、今はまだ『中将』。それに月夜には不可思議な点が幾つかある以上、彼女だけでは身に余る可能性だってあるので、そうされていた。
月夜本人も結界と治癒はできるように教え込んであるけど、それだけで攻撃面は全くと言ってもいいほど教えていない。
何かあれば確実に彼女は防戦一方になるんだよね……今まではそれだけで十分だったんだ。
「それが知られたりなんかしたら……」
「確実に彼女を狙った宗教団体が出てくるぞ」
「あいつらね……」
忌々しそうに『太陰』が言う姿を見ながら、僕達も同じ顔になった。
昔の技術や知識が消された一方で、残った知識というのもある。
神々の存在が消せなかったことにも理由があるけど、宗教という知識が残ったのも神々が関係している。
だけど中途半端にしか伝わってこなかった結果、宗教団体というのは変質し、基本的に世界から嫌われる集団のことを指すようになってしまっている。
昔はそうではなかったというのがすでに判明していても、昔と今が違い過ぎて別物扱いしかできないんだよ。
自分達の信じるものが正しいと思うのは構わないんだけど、それを他者に押し付け、従わないと判断した段階で殺害しようとする。
これでは嫌われて当然だろう。穢れとは違った方向で関わりたくないと思っている者達が多いのもこれが理由だ。
その中で最も厄介とこの国で言われている宗教団体が存在する。
「『信仰会』という宗教団体は特に欲しがるでしょう。彼らは神々と会話し、この世を変えてくれることを願う宗教団体ですから」
「それだけであれば問題はなかったのだがな」
「全くです」
溜息を吐きながら最も厄介と言われている宗教団体を言った『太裳』に『騰蛇』が会話に入った。
確かに宗教自体は悪いものじゃないんだ。でもそれに至るための過程が問題過ぎるというか、何と言うか……。
「神々と会話できると判断した人物は否応なしに現人神と崇められ、監禁状態になるわけですからね……何とか逃げ出すことができた元現人神曰く、『無理だと判断された時点で殺される』そうですし」
「現人神と崇められている時でも良いものではないようだがな。何せ彼らの欲望を剥き出しで向かってこられるのであろう? 人としての尊厳を踏み躙られているようにしか感じないと言わしめるだけはある」
現在は何とか全ての現人神を保護することに成功したお陰で、居ないようだけど、それもいつまで続くか判らない。
全ての現人神とされていた者達が『助かった』と言うって余程だと思うんだけどな……。
つまり、宗教としての最終目標である『神々と話し、この世を変えてもらえるよう願う』というものはすでに大きく変質してしまい、『神々にそれぞれの欲望を叶えてもらえるようにする』というものになってしまっているんだ。
建前でしかないんだよ、『この世を変えてもらえるように願い』というものが。
何をどうしたらそうなるんだと世間では言われているけど、本人達はどこまでもそれを『真っ当な』活動だと言い張っている。だから国から警戒された。
「月夜さんは……できると思いますか? 神々を実際に降ろすことが」
「判らないです。ですが……可能かもしれませんね。占を介してとはいえわざわざ教えてきたのなら」
凛の言葉に『太裳』も同意見だったようで、額に手を当てていた。いよいよもって大事になってきたのだから当然か。
「とりあえず、妾達も頻繁に神楽家を出入りした方が良いかもしれんのぅ。人は多い方が良かろうて」
「そうねぇ……一応、仕事の一つとして組み込めるよう考えてみましょうか」
「はい。すぐにでも調整します」
『勾陳』の提案に『貴人』と『太裳』も同意し、その場での結論としては『早急な守りの見直しと守りとなれる人数の増加』となったのだった。
沙織ちゃんにも伝えられたけど、事態の重さに絶句していたね。
まあ、気持ちは判る。僕だって少し苦い気持ちになったし。
これから月夜がどんどん様々なことに巻き込まれる前兆のように感じてしまったからだ。
僕の直感がどこまで信用できるかは判らない。朱里のように鋭いわけでも、月夜のように自身の勘が正しいか占で確認することも、僕にはできないのだから。
それでも大昔は勘というのが大事にされたということからなるべく自分の勘を信じることにしている。信じられなくなれば本当に危険な時に作動してくれなくなるかもしれないしね。
もしも僕の勘が合っていたとしても……できれば月夜は無事であってほしいなと思う。
意外と僕って今の家族がとっても大事なんだ。それに手を出す者がいるならば……自身の身を犠牲にしてでも殺すだろうと言い切れるほどに。
こんなこと、凜や蓮にすら言ったことないけど。本心を出すのに憶病なのが僕だからね。
でも、もしも僕の家族に手を出すなら、その時は……十二天将が一人、『六合』の名を戴いているのは伊達じゃないと証明してみせよう。
相手が同じ十二天将だったとしても、決して許しはしない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




