初めての勘による占
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
――月夜視点――
沙織とスイーツについての話をしつつ、その日は終わった。
完全にお互いにスイーツに対する認識の違いをぶつけ合う状態になってたけど。
幸いにも沙織の家は神楽家からは近い……というか、外を出て正面が沙織の家なので、夕方まで話すことが可能なんだけど、今日は桜桃軍の仕事が入っているとのことで、早めに切り上げた。
最近は本当に穢れの行動が活発になってきているらしく、沙織は連日で出ている。それは蓮兄さん達もそうだけど。
なので、夜は必然的に一人になってしまうことが多く、何もすることがないので、早々に寝ていたんだけど、今日は何となくお爺さんから貰った盤が気になって、夜ではあったけど、使ってみることにした。
私が盤を動かす音しか聞こえない自室で何度もすることで昨日のうちに何も見なくとも使うことはできるようになっていたのもあって、余計に静かだった。
ただまあ、まだ意味までは理解できないので、終わったところで本を出した。
「……」
出た結果に私は思わず眉を寄せた。それが良くない結果だったからだ。
……いや、良くないどころではない。最悪とも言えるだろう。
少しずつ直感を使うことが増えてきているとはいえ、まさかこんな結果が出るとは思わなかった。
これは知らせ……いや、でも今は仕事中だから繋がるか……。
内心焦りながらも必死に確実に占によって出た結果を伝える方法を考える。
「式……いやそれだと仕事中だった時に穢れに気づかれるから危ないし……」
そこまで考えて動きを止めた。
携帯では仕事中は私的用の物は桜桃軍が預かっているし、もしも持っていたとしても電源を切っているので、連絡が繋がらない。
だけど、桜桃軍として用の携帯は緊急時の連絡にも使えるようになっている。
生憎と私はそっちの方の連絡先は知らないけど、桜桃軍に式を飛ばすことはできる。
何より常駐している十二天将達がいるのだ。その人達にさえ伝えられれば……。
信じてもらえるかどうかは賭けでしかないけれど、伝えずに終わるよりはずっといい。
そう判断して急いで文を書き、終わると式を送るために紙を折った。
式を送る際の手順として絶対に鳥などの空を飛ぶ生き物などの形を模さなければいけないとなっているので、ここに一番時間が掛かるが、それでも慌てて折れば上手く飛ばないので慎重に折る。
まあ、どうしても不器用で上手く行かない人は紙飛行機にするらしいけど、それだと速度が早過ぎて受け取る側が危険なのだと聞いたことがある。
実際朱里姉さんがそれで飛ばしているけど、全員が「怖いからいい加減、別のを折れるようになってくれ」と毎度言っていた。
一番良いのが鳥なのは言うまでもない。鳥として考えた場合、ありえない速度で飛んでいくけど、着く時はゆっくりと降りてくれるし、危険はないんだよね。
そう思いながらも鳥を作り、窓を開ける。
流石に元が紙なので、物体をすり抜けることは不可能であり、それゆえに桜桃軍は一部屋で絶対に一箇所は窓を開けるという決まりがあったりするのを私は蓮兄さん達から聞いていた。
緊急で何かあった時に式が来れない状況下は望ましくないもんね……。
「本拠にいる十二天将の所まで行って!」
簡潔に、けれど確実に届くように指示を出してから式を放れば、リアルな鳥の形になり、一度鳴いてから物凄い速度で飛んでいった。
内容的に十二天将の人達以外が読むのは避けるべきと思い、そう指示を出した。
これでどうにかなれば良いんだけど……と思いつつも窓を開けたまま私は闇の空を見上げた。
――――――――――
――『貴人』視点――
「あらぁ?」
一つだけ開けていた窓から勢いよく入ってきた式が私の目の前に降り立ち驚いた。
霊力的に月夜お嬢さんだって判るんだけど……。
あの子が式をわざわざ送ってくるなんて何かあったのかしらぁ?
「月夜さんからですか?」
「みたいねぇ……何々? ……里美ちゃん、急いで全十二天将に緊急連絡」
月夜お嬢さんから来た文の内容を読んで私は顔を改め、すぐに里見ちゃんに指示を出した。
あまりの急な変化に里美ちゃんは戸惑ったようだけど。
「何があったというのですか」
「月夜お嬢さんから。『直感に従い占を行なった結果、【大公爵】が【朱雀】達の所に行くと出ました』と」
「なっ!?」
「もしも本当だったら問題だわ」
十二天将は『王』と『大公』を一人では撃破できないとされているけれど、『公爵』も一人では撃破が難しい場合もある。つまり、『公爵』とされている者達の中でも更に力によって差があるということ。
一律ではないからこそ、『【大公】に近い【公爵】』というのも存在することになってしまっているのよねぇ。
それを月夜お嬢さんも知っている。部外者とはいえ、桜桃軍にそれなりに関わっている人物だからこそ、知性の高い穢れが彼女を攫う場合とて考えられるから教えたのよ。
だから月夜お嬢さんは『【大】公爵』と書いた。力に差があるから、私達の方で勝手に大中小で区別して読んでいるだけなんだけど。
その中の『【大公】に近い【公爵】』の意味を表す『大』を使った。いえ、占に出てきた。
未だそれがどの程度の精度を誇るのかは判っていないけれど、決して無視はできない内容だった。
私の指示の理由が判り、里見ちゃんも急いで本拠内にいる十二天将を呼んでいたわ。
「何事じゃ」
「如何した」
『勾陳』と『青龍』の二人が即座に来た。二人が来ただけでも心強いわね。
訝しむ二人に私が月夜お嬢ちゃんからの式を渡して読むよう促せば、二人とも顔付きが変わった。
「これは……」
「どうやら、急ぎ対応が必要のようじゃな」
「ええ、お願いしても宜しいかしら?」
普段の間延びした口調ではない私の声に二人は真剣な表情で頷き、すぐさま行動に起こしてくれた。
「私も行った方が……」
「駄目よ。桜桃軍の本拠の守りを疎かにはできないわ」
「ですが、防御に長けた者が現状、『朱雀』達の傍におりません」
里美ちゃんの指摘に私も難しい顔になった。
『大公爵』が出てくるなら、一人ぐらいは防御に優れた者がいた方がいい。でないと両方を気にしないといけない状況になってしまうもの。
これは役割分担をしなければ勝てる相手ではないということに他ならなかった。
「『朱雀』と一緒にいるのは『天后』だったわよね……両方とも攻撃の方が得意なのよね……」
「彼らの近くに『玄武』と『白虎』がいます」
即座に情報を出してくる里見ちゃんに一考してから私は再び指示を出した。
「『玄武』と『白虎』は現状就いている任務を中止し、急ぎ『朱雀』達に合流するよう指示を。代わりに神楽朱里と神楽春樹、藍沢沙織の三名を中止させた任務を任せて」
「判りました」
丁度仕事が終わっている実力者三名を代わりに就かせるように指示を出せば、すぐさま頷き指示出しをしてくれた。
どれだけの戦力で終わらせることができるか判らないからこそ、少しでも多くの戦力を割きたかった。
にしても……これで、万が一でも月夜お嬢さんの占が的中するようなことがあれば……桜桃軍としても今後は無視しきれないものになるわね。
数が増えれば増えるだけ的中率が上がっていくようなら、現状神楽家に張られている結界も見直す必要が出てくるでしょう。
現状は敷地内に穢れなど不審なものが入った瞬間、私達に伝わるようにされているだけだけど、占による先読みなどが可能となれば、戦闘能力とはまた違った方向の戦力として必要になってくる存在になるのだから、必然的に結界も彼女の身が更に安全であるようにするためのものに変える必要がある。
彼女の直感も年々鋭くなっているということだし……朱里お嬢さんの直感と合わせて使った場合の信憑性がなおさら高くなりそうな予感がする。
そんなことを考えていると、突如、携帯が鳴った。
「こちら『太裳』です。……判りました」
「何かあったのかしら」
「月夜さんの占が当たったそうです。『勾陳』、『青龍』、『白虎』、『玄武』の四名はすでに応援に駆け付け、『勾陳』が戦闘をしながら連絡をくださいました」
「そう……」
「月夜さんの言うとおり『大公爵』だそうです」
「ということは何名か負傷する流れになりそうね」
それでも倒すことは可能でしょう。ただ……遂に『公爵』まで出てくるようになった、という事実は変えようがないけれど。
となれば、いよいよもって『王』や『大公』が出てくる可能性を考慮しなくてはいけなくなってきたわね。
五百年ほど前に現れた『王』。その存在によって幾つかの都市が消滅している。当時の桜桃軍にいた十二天将達が駆けつけはしたものの、結果は散々だったと記録には残っているわ。
今のように頻繁に顔を合わせるわけもなく、誰が十二天将なのかも判らないがために連携が取れず、十二天将の半数が死亡したのだとか。
そりゃ、個人で戦うしかほぼないんじゃ負けるわよねぇ。しかも結局は『王』が途中で去ったから残り半数も生き残ることができただけという状態。
でも慣例が変わることは今までなかった。連携が取れるようになるよりも、穢れ側に情報が行くのを阻止したいという気持ちの方が大きかったがゆえに。
それなりに人数も増えて、穢れ側からの情報提供で漸く慣例を潰すまでに至ることができたぐらいには桜桃軍って元々かなりの慎重な戦略をしていたのよ。
私がこういう性格だから大きく改革できたという感じかしらねぇ。
とにかく無駄とかが多いくせに、慣例だの何だのと縛り付けてくる感じだったから苛々しちゃって、運営の代表になった時に大きく変えてやった。
少しは変化を受け入れれば良かったのに、それを怖がったがために桜桃軍はまともな対策もできず大事な戦力を潰す結果になったのだから、その時に変わっておくのが本来は正解だったはず。
にも拘わらず変わろうとしなかったのだから、馬鹿なのかと言いたかったわ。
昔から続くもの全てが良いわけがないんだから、駄目だと思ったら改善すれば良かったでしょうに。
なんて思っても昔に私が生きているわけがないので、これからを変えていくしかないのだけれど。
「なんとか被害が最小限になると良いわね」
「はい。『大公爵』までになってくると五つの心臓を守る殻もできますからね……」
「砕くのにかなりの技量を求められるカッタイ殻があるせいで十二天将以外はまともに相手ができないってなってるのよねぇ……ホント、五つも心臓があって一瞬と言っても良いほどの再生能力持ちってだけでもチートなのに」
「あちらも自己を守りたいのは同じですからね」
「お互いに生きるのに必死、ということね」
まあ、誰だって生まれた瞬間から「死にたい」と思ってる奴は中々いないわよねぇ……。
そして、『大公爵』という予想外の穢れの出現は十二天将の連携によって無事に討伐されたことで幕を閉じた。
負傷者は幸いにもいないという良い結果で終わったわよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
500PVに到達しました。これからも頑張って投稿を続けていきます。




