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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
19/82

間のない訪問

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

 不思議なお爺さんに会った翌日、早速、お爺さんから渡された物を使ってみることにした。

 一緒に貰った本を見ながらしていったんだけど……意外と難しいんだよね。

 なんで早速渡された物を使っているのかというと、お爺さんが去り際に小声で言ってきたから。


『お嬢ちゃん、もしも神聖な場所が絞れぬというのならば、渡した物で占ってみなさい』

『え?』

『自ずと自分の理想の場所を指してくれるじゃろうからな』


 それだけ言うと、お爺さんはさっさと店の奥に戻ってしまった。

 あれからさすがに報告しないわけにはいかないから、報告したんだけど、やはりお爺さんが言ったとおり一向に見つけることができないんだって。

 私達も今日、もう一回行ったけど、その場所は不自然なほどにぽっかりと何もない空間となっていて、周囲の店の人にも聞いたけど、言われて漸く、そこが空いていることに気づくほどだった。

 恐らくはあそこは『繋がりやすい』んだと思う。だから無意識に皆が避ける。

 いくら知識が失われたからっていって、感覚まで失われることは滅多にないという辛うじて残っていた昔の人の言葉が思わぬ形で立証されたような形だ。

 どれほど調べたところで、今の技術では突き止めることは不可能だろうという結論になり、桜桃軍(おうとうぐん)は調べるのを止めたらしい。まあ、無駄なことに労力を割いていられるほどの人手がいないもんね。

 桜桃軍の最優先は『穢れを完全に滅すること』。今回のことはかなりのイレギュラーだし、私が接触したから調べられただけの話。

 ただまあ、お爺さんの言葉からまた似た状況に誘われる可能性があるということで、その時は直感に従うようにと蓮兄さん達に言われた。

 何の意味もなく呼ばれるなどないだろうから、と言って。


 などと考えていると、気づいたら結果が出ていたようで、無意識に占を行なっていたことに驚きつつも、結果を見た。


「……山?」


 かなり曖昧な結果が出ていて、私は困惑した。山なんて近くにあるわけではないけど、それでも珍しくはない。霊山ってことなのかな……?

 だとしてもどこの霊山なんだろ? さすがにやたらと遠い場所だと困るんだけど……。

 ここも自分の直感を信じろと言われているのだろうか。最近、そういうことが多過ぎて困っているのにまたかと思わず思ってしまう。

 ちなみにこの占を行なっている盤。蓮兄さん達は触れることすらできなかった。本当に私だけしか無理だったんだよね。

 とにかく山か……どこが思い浮かぶだろ……。


「何か出たの?」

「え?」


 背後から突然声が聞こえて、しかもそれが聞き覚えのない声だっただけに慌てて後ろを振り返れば、不思議そうに盤を覗き込んでいる少女がいた。

 いつの間にか何者かによって異空間に引き込まれていたらしい。蓮兄さん達が気づいていない可能性が高いな、これ。


「えっと……」

「私はレティシア! 気軽にレティって呼んでね? 貴女は?」

「わ、私は月夜です……」


 名前が海外の人のものなのに、流暢に日本語を話されて驚く。もしや見た目と年齢が一致していないのだろうか。知り合いにいるからそこも疑ってしまうな……。


「ふふ、私はこれでも百歳の婆よ。でも貴女は特別にため口を許してあげるわ!」

「え、あ、ありがとう?」

「昨日、私の友人と会ったんでしょう?」


 少女にしか見えないお婆さんの言葉に驚きつつも頷く。え、まさか早速新しい人登場?

 驚く私にレティは嬉しそうに微笑んだ。


「私達は大昔から繋いできた技術を根絶やしにしようとする政府から逃げている者達なの。だけど、昨日、嬉しそうにあいつったらとっても嬉しそうに貴女のことを話してきたから、私も興味を持っちゃって」


 怒涛(どとう)の勢いで説明をしてくるレティに混乱しながらも納得する。

 どうやら、何かしらの形で互いに接触しているらしい。同じ者同士、意気投合して親しくなったんだろうけど……。


「悔しいけど、あいつが見込んだだけはあるわね。貴女ったら血筋まで完璧じゃない」

「え?」

「ああ、記憶喪失なんでしょ? ちょっと失礼だけど先に過去を見させてもらったのよ」

「じゃ、じゃあ、私の母と父も見たのっ?」


 (うわ)ずった声で問えば、レティは驚きながらも首を横に振った。

 さすがにそこまでの技術はないと言われて私は少し落ち込んだ。

 両親のことが判るだけでも、今はとても大事なんだって判っているから、残念に思ってしまった。


「そこまで落ち込む必要性はないわよ」

「え?」

「自分で記憶を術で封じているだけだもの、貴女のそれは。ならば貴女の精神が成長すれば必然的に術も解けるわよ。そういう風に自分で掛けているんだから」

「私が……」

「記憶を失う前の貴女はきっとこの世界で一番知識と技術を持っていたのでしょうね。そこに力もあったから成功した。初心者にしては上手じゃない」


 変な褒められ方をして、反応に困っていると、苦笑しながら頭を撫でられた。

 記憶を失っていることが私にとって利となっているのだそう。

 精神面がまだまだ育ち切っていない状態で様々な経験をしてしまったことからの無意識下の判断だろうとも。

 それももうすぐ解けるだろう段階まで来ているという話を聞いて、私は安堵した。

 いつまでも蓮兄さん達に迷惑はかけられないし、心配だって掛けたくなかったから、着実に記憶を取り戻す段階を踏めていることに酷く安心したんだよね。


「あんまり様々なことを考え過ぎないようにしなさい。何度も考えて道を選ぶところは貴女の長所でもあるけれど、時としてそれが足を引っ張ることだってある」

「あ……」


 レティの指摘に納得できる部分があり、妙に腑に落ちた。

 そっか、難しく考えているからこうなっているんだ。

 一度納得できてしまうと、心が軽くなったような気がした。

 倒れた後からはかなり心が軽くなったと思っていたんだけど、まだ(わだかま)りはあったらしい。


「一人で悩むのも時としては良いこと。でも時には他者を頼りなさい。貴女の周囲は頼ってくる手を振り払うような人達じゃないでしょ」

「う、うん」


 少女のような無邪気さから妙齢(みょうれい)の女性のような落ち着きようを見せているレティに戸惑いながらも頷く。確かに私は他の人に頼るということが(はな)から選択肢にない場合が多いから。


「ああ、私とは定期的にまた会うでしょうね。私は異空間に誰かを引き込むのが得意だから」

「なるほど」

「……と、そろそろ時間ね。貴女のお友達が来ちゃうみたいだわ」


 残念そうな顔をしながらもレティはそう言うのが聞こえたと同時に気づけば私は自室にいた。

 どっちも一瞬なんですねー……毎回、突然になりそうだ。

 是非とも毎回驚くという状態は避けたい。できれば五回目ぐらいには慣れていたいな……。


「月夜ー」

「沙織、いらっしゃい」


 何事もなかったように挨拶をする私に沙織も気づかなかったようで、普通に挨拶をしてきた。

 きっとあの人との会話は言わない方が良いのだろう。直感的にそう私は判断した。

 まだまだ直感で判断するという意味がよく理解できていないけれど、今の私はその選択を直感的に選び取れたと思う。

 まるで秘密のお友達ができたみたいな嬉しさも感じ、内心苦笑した。

 あの人と私は生きてきた時代も違えば、年齢だって大きく離れている。しかも知り合ったのはついさっきという短さ。

 なのにもうすでに気を許しているかのような感想が自分の中で沸いたのだから、警戒心のなさ具合に私が苦笑してしまうのも仕方がない。

 でもまあ……あの人なら大丈夫なんじゃないかなとも考える。

 何かしらの根拠があるわけでもないけど、きっと大丈夫だ。

 十二天将の皆さんや蓮兄さん達とはまた違う関係でこれからも続いていけるんだろうな。

 とりあえず……。


「でね、ここのお菓子が美味しいらしいの」

「毎日食べているけど、よく太らないね……沙織」


 レティのことを一度忘れて、私は嬉々として話をしている沙織に呆れる。

 昨日も今日もすでに結構な量のスイーツを食べたのに、まだ食べる気らしい。まさかと思うけど本当に毎日食べるんじゃないだろうな? とばかりに聞けば、沙織は無言で頬を膨らませた。


「私はスイーツが主原料なの! ……何その微妙な顔」

「いや、世の女性を敵に回すような発言を繰り返しているなぁ、と」


 本当にその通りだと思うんだよね。女性は基本的に甘いものが好きだけど、それにしたって沙織のは病気を疑われそうなレベルだ。

 ジャンボパフェを食べてなお、まだ何かを食べようとする人物です。これでドン引きしないはずがなかろう。私はドン引きした。

 今だって私が作り置きしていたケーキ五ホールを平然と平らげている。……本当にどういう胃袋をしているのか一度医療機関に調べてもらった方が良いと思う。

 これで、普通の料理になると途端に少食になるんだから、栄養偏り過ぎでしょ?


「甘いものは正義よ、月夜」

「ごめん、その気持ちが判らない」

「なんで!?」

「甘いもの苦手なんだもん……」


 大声を上げて言ってくるけど、本当に私は甘いものが苦手なんだよね……。

 なんで苦手なんだ、って? ……沙織を見ていたら自然と苦手になってたよ。

 食べる度にフラッシュバックして、胃もたれがするんだもん……積極的に食べたいとならないって。

 あれを見て「よく食べるね!」と明るく言える朱里姉さんが信じられなかったし、同じように大量に食べ始めた時は気を失いそうになった。

 フラ……と倒れかけた私に凛姉さんは支えながら「その気持ちよく判るわ」と言っていたけどね。

 やっぱり、あれはどれだけ甘いもの好きの女性でもドン引きするみたい。

 凛姉さんも一般的な女性ぐらいには甘いものが好きだけど、さすがにあれは見ているだけ辛かったらしい。

 スイーツは別腹なんて域を超えていた。あれは料理が別腹なんだよ。

 毎回あれを見ていると知った凛姉さんの哀れみの視線が痛かったな……。


「私はスイーツに生きる女なのよ!」


 未だに訳の判らない主張をしている沙織を無視して、私は無言で立ち上がった。

 だって……いつの間にか事前に用意していたケーキ十ホールが消えているんだもん……!

 ああ、また作らなきゃ……と思いつつも、私は同時にこう思った。


 糖尿病と無縁ですかね、沙織さんは、と。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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