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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
15/82

過剰戦力襲来

暇潰しに読んでいただけると幸いです。

  ――月夜視点――


 あれから早いもので一週間が経過し、遂に十二天将の皆さんが来る日になった。

 この日は朝から準備に追われる羽目となってしまった。……沙織のリクエストのジャンボパフェのせいで。

 よくよく考えてもみてほしい。パフェというのは元々見た目にも気を使って仕上げないといけないお菓子だ。いやまあ、基本的にどの料理であってもそうだと思うけど。

 でも、皆が想像するパフェというのは揃って生クリームや果物が飾られた姿だろう。

 それを一般家庭で作るって、普通はありえない。作った張本人である私でさえ終わった後に思わずぐったりとするぐらいだ。普通の人に比べれば多少とはいえ鍛えている私が、だ。

 ……生クリームって作るの、大変なんだよ。いくらハンドミキサーだったとしても、量が増えれば辛い。ハンドミキサー自体、それなりの重さがあるしね。

 結構頑張ったと思う。ジャンボパフェ。おかげで前日に十二天将の皆さんにお出しするお菓子(羊羹や練り切りといった和菓子を中心に作った)を作った自分を褒めたほどだ。

 さすがにジャンボパフェの方は前日に作ったとしても保管場所がないから……どうしても当日に作るしかありませんでした。

 湊兄さんは料理が趣味なんだけど、同時にお菓子系統は殆ど触れない人なので、戦力にならないし、他の姉さん、兄さんも軽く食事を作るぐらいは普通にできても、お菓子までは無理。

 だから必然的に一人で作らなきゃいけないことになるんだけどさ。凛姉さんに労われたのは端から見てても重労働にしか見えなかったからなんだろうな。

 今日は凛姉さんが家に一緒に居る。他は春樹兄さんが家にいる予定だよ。まあ、友人が来るならそうなるよね、とは思ったけど。


 そんなことを考えていると時間になったようで、インターホンの音が鳴り、続いて扉の開く音が聞こえてきた。

 予定通り、かな? なんて思っていると、小柄な幼女にしか見えない人が来た。


「月夜よ、久いのぉ」

紗良(さら)ちゃん、お久しぶりです」


『勾陳』の如月(きさらぎ)紗良ちゃんが真っ先に来て、私も挨拶をすれば、嬉しそうに笑っていた。

 ……一応、言っておくけれど、この人は六十歳だからね? 私と大差ない年齢とかないからね?

 なのにちゃん付けが似合う不思議な女性だ。妖艶とはかけ離れているけれど、頼れる存在ではある。

 孫と祖母という関係よりも姉妹の方が似合うそうな距離の近さで挨拶を交わす私達に見知らぬ男性が目を瞬いてこちらを見ていた。

 もしかしてあの人が『騰蛇』の方なのかな?

 そう思って首を傾げてその方を見れば、男性の方が苦笑しながら近づいてきて挨拶をしてくれた。


「すまない。私は『騰蛇』の妖崎五郎(ふざきごろう)という。まさか『勾陳』をちゃん付けで呼ぶ女子(おなご)がいるとはな」

「ああ、それは妾から言ったのじゃ。妾はこの見た目じゃからの、さん付けでは違和感大ありじゃろう?」

「はっはっ、確かに、違いない!」


 なんかまた気さく? な人が増えたらしい。確かに紗良ちゃんと一緒に歩いていると絶対に姉妹に間違われるので、さん付けは違和感大ありか。

 勝手に納得していた私だけど、自己紹介をしていないことに気づいて慌てて頭を下げて自己紹介を『騰蛇』さんにした。


「すみません。私は神楽月夜です。初めまして、『騰蛇』さん」

「五郎で構わん。ああ、ちゃん付けで呼んでいいぞ」

「遠慮しときます……五郎さん」


 違うわ、この人、ノリの良い人だ。しかも結構お茶目。

 この人が桜桃軍最強の人物なのか……とてもそうは見えないなぁ。体格は良いけど。

 確か、普段は研究者をしているという話だったけれど、十二天将に入るだけあって、身体面でもきちんと鍛えているんだろう。春樹兄さんもそこらへんの修練は絶対に怠ってないし。

 どんな感じで仕事をしているのかを私は知らないけれど、危険と隣り合わせだからこそ、常に最善を尽くせるようにと修練を続けるんだ、と春樹兄さんが言っていたのは覚えている。

 この人も同じ感じで鍛えているんだろうなぁ。


「くくっ、『勾陳』のことはちゃん付けで呼ぶのだ。別段困ることでもあるまい」

「いや、やめたりぃや。さすがにその見た目でちゃん付けは聞いた全員がドン引きすんで」


 関西弁で話す『天空』の廿楽新次郎(つづらしんじろう)、通称新ちゃんが会話に入ってきたことで、他にも静かに会話を聞いていた人達が会話に加わってきた。

 ちなみに沙織は紗良ちゃんのところで盛大に顔を引き攣らせて固まってる。まあ、相手が相手だもんね。そりゃ、桜桃軍所属の沙織からすればありえないか。


「月夜ちゃん、お久しゅう~」

「新ちゃん、お久しぶりです」

「新ちゃん……」

「おっ、そっちの別嬪さんは月夜ちゃんの親友の沙織ちゃんか。今後とも宜しゅう頼むわ」

「え、あ、はい」


 突然話しかけられて戸惑いながらも受け答えをする沙織に苦笑しつつも袖を軽く引っ張れば視線をこちらに向けてきたので、本題に入る。


「沙織のジャンボパフェ、あそこにあるから」

「え!? どこどこ!?」


 速攻で食いついた沙織に指差して教えれば、紗良ちゃんの半分くらいの高さはあるんじゃなかろうかという大きなパフェを見つけたらしく、物凄く良い笑顔で向かって行く食べ始めた。

 一瞬でどんどん消えていくジャンボパフェに新ちゃんがドン引きしていたのはご愛嬌としよう。

 あ、紗良ちゃん達用の和菓子はちゃんと出してるよ? ただまあ、十二天将の皆さんはあまりにも予想外な状況に揃って唖然としている。

 そして、沙織が食べ終わると同時に小さく何か音が聞こえて咄嗟に凛姉さんがいるであろう場所の方に目を向けて……顔を引き攣らせた。

 一体いつの間にタイムを計っていたんだろう、凛姉さんは。


「凄いわね。二分以内での完食よ」

「はぁ~、美味しかった! ありがとう、月夜!」

「喜んでもらえたようで何よりです……」


 何とも言えない顔で返答すれば不思議そうに首を傾げられた。先ほどまで十二天将相手にちゃん付けで呼んでいるという事実に顔を引き攣らせていた人物と同一人物とは思えない。

 結構失礼なことを考えていることは判っているけれど、これは誰でも思うことだと思うんだ。


「……ぷっ、あははっ! なんや、月夜ちゃんの親友ちゃんはえらい大食いなんやね」

「お菓子関連のみでの大食いです。湊兄さんとは逆ですね」

「ああ~、あの子の……そりゃ、想像しやすいわ」


 ええ、湊兄さんはお菓子以外であれば何でも大食いだけど、お菓子は人並みしか食べない。完全に沙織とは逆なんだよね。

 ただ二人とも得意分野では一瞬で消えていくことから、揃って『掃除機』という渾名を付けられている。……それぞれに『料理掃除機』と『菓子掃除機』であることは言うまでもない。

 それぐらいの速さで料理やお菓子が消えていくという意味です。いくら用意しても足りないという恐ろしさよ。

 作るのは確かに好きだけど、終わりの見えない蟻地獄みたいな状況は若干トラウマだ。


「あらあらぁ、沙織お嬢さんは面白い子だったのねぇ」

「え? ……あ」


 一時的に十二天将の皆さんを忘れていたらしい沙織が、『貴人』である二条院美奈子(にじょういんみなこ)さんに指摘されて漸く思い出したようで青褪めていた。

 もう手遅れだよ、沙織……この人達は愉快犯でもあるから、頑張れ。

 そうジェスチャーで伝えれば、意味が通じたらしい沙織が更に青褪めた。まあ、慣れてないもんね。

 でも頑張れ。それしか私には言えない。途中で凛姉さんが助けてくれるから大丈夫。

 今後も会う機会があるだろうし、慣れておくことをお勧めするけどね!

 その後、凛姉さんが助けるまで沙織は美奈子さんや新ちゃんに盛大に構われていたことは言うまでもない。助けられた時に物凄く疲れた顔をしていたのも忘れない。


  ――――――――――


「いやぁ、面白い子やんか、沙織ちゃん」

「可愛らしい子ねぇ、沙織お嬢さんは」

「その『お嬢さん』付きはどうにかならないのですか……」

「あら、月夜お嬢さんもそう呼んでいるわよぉ? ねぇ?」

「美奈子さんは基本的に歳下はお嬢さん、お坊ちゃん呼びだよ、沙織」


 美奈子さんに同意するように補足すれば、沙織は微妙な顔をしながら納得していた。普通は一緒に繋げて呼ぶなんてしないもんね、これ。

 微妙に少年の方を更に子供扱いしているような気もしなくはないけれど、きっと気のせいだ。


「そういえば、月夜さん。お倒れになられた、ということですが、あれから特に問題はありませんか?」


 沙織の食べっぷりに話題が行っていると、今まで会話に入らずに眺めているだけだった『太裳』の氷見里美(ひみさとみ)さんがそう言って話し掛けてきた。

 里見さんに言われて、自分が最近倒れたことを思い出した。そういえば、この人達はそれを聞いた後もすぐには会えなかったもんね。

 随分と心配されていた、という話は聞いていたけれど、すっかり忘れていた。


「はい。お陰様でこの通り」

「そうですか……ですが、無茶はいけませんよ? 確かに記憶喪失によって自分が何者なのか判らないという焦りがあるのは判ります。ですが、それで焦っていい理由にはなりません」


 里見さんの言葉に頷く。以前の私だったら『そんなことを言われても……』と心のどこかで思ってしまっていただろうけど、今の私は素直に頷くことができた。

 あの日を境にずっと拭えなかった心の引っ掛かりが軽くなったからだと自覚している。

 焦りは禁物だと以前の私も判っていたけれど、それでも変な焦燥感を感じてたんだよねぇ……。


「以前の私だったら受け止められなかったと思いますけどね」

「それを自覚できるまで回復したということを喜びましょう。小さなことを積み重ねればいずれは必ず思い出せますよ」

「はい」


 慰めではあるだろう言葉を投げてくる里見さんに微笑み頷く。

 少なくともこの人達を私は悲しませたいわけではないから。そう素直に思えるようになったから。私は焦ることを止めたんだとは言わないけれど、きっと彼らはそれに気づいている。

 それでも指摘しない彼らに甘えさせてもらおう。まだ記憶を取り戻すことに恐怖を抱いていないわけではないのだから。

 そんなことを考えつつも、別の話題に移行した会話に私は耳を傾けるのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

漸く十二天将の名前が少し出ました……。

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