報告会後
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――報告会・会場外(春樹視点)――
一瞬だけ感じた殺気に思わず十二天将が集まっている方を見た。
明らかに今のは中から感じたからだ。
「今の……」
同じく気づいたらしい朱里に無言で頷く。
すぐに収まったこともあって、気づいたのは少ないようだ。俺と朱里は自分達以外の身近の穢れ狩りが十二天将だからこそ、その実力が群を抜いていることもあって気づけた。
『大将』ですら気付いていない者ばかりの現状に内心何とも言えない気持ちになりつつも視線を会場がある方に向けた。
どれだけ見たところであるのは会場に入るための扉だけで、中の様子は一切見えない。
基本的にお互いに親しい十二天将同士が殺気を出すような事態になるなんて滅多にないはずなんだが……。
少しだけ構えてしまうのは、何があったかが判らない上にすぐに殺気が収まったからだ。
朱里と一緒に扉前の守りを任されたとはいえ、中に入るには十二天将達の許可がいる。こういう時はそれが億劫に感じてしまった。
などと色々と考えていると報告会が終わったのか、扉が開き十二天将達が出てきた。
「春樹」
「海斗」
霊力が高い者は総じて瞳と髪の色が奇抜になる中で、黒髪黒目のままという珍しい体質の持ち主である『玄武』にして俺の友人である雨霧海斗に声を掛けられて、こちらも普通に応じる。
俺と海斗が友人関係であることは知られているので、他の十二天将達も特に気にした様子もない。
「さっき、殺気を感じたんだが……何かあったのか?」
「ああ、それは私が悪いのだ。月夜ならば、という主旨で話をしたら怒らせてしまってな」
即座に『騰蛇』が会話に入ってきて、そう言ったことで、何となく察した。
彼のお眼鏡の適ってしまったらしい、月夜は。
朱里は意味合いを理解できなかったようだが、特に問題はなかったと判って安堵していた。
……お前、本当に十二天将に向かない脳筋具合だよな。実力だけなら『朱雀』になれると言われるだけのものを持っているのに、残念過ぎるだろ。
仮にも一つ年上の姉に対して思うことではないんだろうけど、本人の性格とかから姉とは一生呼ばない気がする。だって、俺が世話をしていることが多いし。
「というわけで、特別何かがあったわけではなんだ。……驚かせたようでごめんな」
「いや、気づいたのは俺と朱里だけだったみたいだから問題ない。それより何かあったか?」
基本的には何かなければ報告会のすぐ後に話し掛けてくるというのはないだけに、不思議に思い聞いてみれば、苦笑された。
自分でもいつもがどうなのかを判っているから、それを指摘されて苦笑するしかなかったようだ。
「一週間後、月夜君に十二天将が会いに行くという話だったから、俺も良いかなと思って」
「あ? おい、蓮兄、俺は聞いてないぞ」
「私も聞いてない!」
驚く俺と朱里に蓮兄は「そういや、言ってなかったか?」という感じで軽く返してきた。
湊兄と凛姉の方に視線を向ければ、二人とも苦笑して頷いていたので、この二人も話を聞いていなかったらしい。
完全に蓮兄の中で完結してたな。そう思って肩を落とす俺に海斗が同情するように肩を叩いてきた。
頭は悪くないんだ……蓮兄は。ただ、自由人であることは変わらないし、朱里としょっちゅう一緒になって暴走するので、最終的に少年のような人となっているだけで。
もっと……もっと、早くに言えよ! 十二天将が来るとか、一般人(という枠に入れてはいけないとは思うが)である俺には緊張しかしない状況なんだが!?
家族以外での例外が海斗ぐらいだぞ!? 出会った時は十二天将じゃなかったが。
「十二天将が来るとか大事だろ……」
「うん。俺もそう思うから聞いてなかったことに同情する」
「本当にもうちょい早くに言う癖を付けて欲しい……!」
「とりあえず、俺も行っても良いか?」
再び確認してくる海斗に頷く。月夜も海斗にはよく会ってるしな。
他の十二天将はよくは来ないから、少しだけ緊張してしまうだろうが、海斗相手ならばそうでもないだろうとは思う。兄の友人という認識の方が勝ってそうだし。
そういや、一体誰が家に来るんだ?
「蓮兄、誰が家に来る予定だ」
「『貴人』『太裳』『勾陳』『天空』『騰蛇』か?」
「そうだな! 俺や『青龍』は他用があるから、申し訳ないが今回は遠慮させてもらう」
「ああ……そう簡単に道場は空けられないよな」
「うむ。大変申し訳ないがな。近々試合も近いゆえ、気合いが入っておるのだ」
本当に申し訳なさそうな『青龍』と逆に笑顔のままである『白虎』の辞退を聞きつつも顔を引き攣らせる。
今、さらっと言われたけど、『騰蛇』も来るって言わなかったか? え、十二天将最強が家に? 危険な穢れが現れる可能性があるとか言われた方が納得できるんだが。
まだ、『勾陳』と『天空』が来るのは判る。しょっちゅうと言うほどではないにしても、月夜の誕生日には必ず毎年来ているし、月夜関連の祝い事には絶対に駆けつけるから。
『貴人』と『太裳』も何だかんだで月夜を気にかけているから、年に一回は必ず来るので、大丈夫と言えるだろう。……でも、『騰蛇』は一度も来たことがなかったよな?
なんで普通にしていられるんだよ、あんたら。
「『騰蛇』も来るの? 珍しいね!」
正直なことを言った朱里に内心グッジョブする。馬鹿で良かった! 俺には絶対に聞けない質問だ、それは。
俺の心の声が判ったのか、海斗も苦笑しながら頷いていた。思わず二人して頷いてしまった。
「今まで霊力の波動の関係で会うのを禁止されていたが、最近は精神も安定してきたと言うではないか。ならばもう会っても問題はなかろう?」
「様子見ぐらいすれば良いじゃろうにのぅ」
「それでは一体何時会えるか判らん。お前達が過保護過ぎて、一生出会うことなく死ぬかと思うたぞ」
普通に会話を始める『騰蛇』と『勾陳』だけど、その内容に納得する。そういえば、『騰蛇』は攻撃的過ぎる霊力の波動を持っていたな。
月夜の霊力量は『騰蛇』以上だから、会っても問題はなかったのかもしれないが、万が一のことがあってもらっては困るという『貴人』と『太裳』の決定で、禁止令が出されていたはずだ。
それが最近の様子で解除されたらしい。どうやら『騰蛇』も他の者達から聞く月夜に気になっていたようだ。じゃなかったらこんな早くに会おうとはならないだろ。
俺的には是非とも暫くの間、来るということを控えて欲しかった。こんないきなり来るなんて心の準備ができるはずがないだろ。もうちょい普通の穢れ狩りである俺達のことも考えてくれ。
どうせ月夜は出会った時から十二天将が近くに居るのが当たり前だったこともあって、普通に対応しちゃうだろう。普通の一般人はまず十二天将に会うなんてありえない事態なんだが……。
「その気持ち判るぞ、春樹」
「口に出してたか?」
「いや、口には出てないが、顔には出てる」
「普通に考えて、俺の反応が普通だと思うんだけどな……」
「月夜君にそれが通用するか? あの子は親しい者達は殆ど十二天将という状態じゃないか」
海斗の正論に項垂れる。確かに月夜はその特殊性から、親しくできる者が限られている。
記憶喪失、十二天将以上の霊力量、両親不明……これだけでも十分過ぎるほどにどうなっているんだと言われるだけの状態なのに、更に戸籍がなかったとか、霊力の増え方が異常とかあるからな。
前例がない状態に桜桃軍もどうするのが正解なのか判らない、となっている。監視の意味も俺達があるのがそれらのせいだ。家族だと思っていても、こればかりは不明な部分が多過ぎる。
どうしようもないんだ。下手をしたら暴走を引き起こす可能性もあるしな。
月夜が暴走したら……なんて考えただけでゾッとする。被害が如何ほどになるかも判らない上に、月夜の身も危険になってしまうからな。
そう思えば精神面が落ち着いたというのは喜ばしいことか。前は不安定過ぎて常に警戒一色になるしかなかったからな、こっちも。
「まあ……仕方のないこととはいえ、月夜も随分と自由がないよな」
「こればかりはな……俺とお前が水で良かったとは思っているさ」
「確かにな。精神を落ち着かせるのが得意な水で良かったとは言えるかもな」
「月夜君が周囲の霊力の質に大きく影響される体質の持ち主じゃなかったのも良かったのかもな」
しみじみと言う海斗に俺も同意すれば、嫌な可能性も言われた。
月夜の精神面が不安定過ぎた時に疑惑としてあったんだ。周囲の霊力の質に大きく影響されて精神が不安定になっているんじゃないかって。
そういう体質の奴も存在するんだよ。と言っても、通常は霊力の低い者達がそういった体質を持っているから、そうではないんじゃないかとは思われていたんだが。
霊力が高い者は自分の質を強く持っているから、影響されにくい。だが、霊力の低い者は持っていても弱いせいで、凄く影響を受けてしまうんだ。霊力を感じることは素人でもできるからな。
霊力の高い者でもなるのかは判らないにしても、あの当時は可能性は否定しきれなかったというわけだ。今じゃ考えられないけど。
まだ完全に気を緩めることはできないが……まあ、一応は一つの壁は突破したんだろう。それが記憶を取り戻す準備のようにも見えてしまったのは俺だけではないだろうが。
何もないのに十二天将が来るというのは、そこらへんも関係しているのかもしれない。月夜の暴走に対応できるのは実質十二天将だけだろうからな。悔しいが。
どれだけ鍛えていても、十二天将と並ぶことは殆どない。朱里でさえ威力では勝っているのに、いざ模擬戦を、となると絶対に負けるんだよ。
実力という面で勝てないんだ。だからって諦めるつもりは俺にも朱里にもないが。誰だってただ見ているだけというのは悔しいだけで、何も良いことがないから。
「まあ、というわけで、妾達は一週間後の休日にお邪魔させてもらうので、理解してもらいたい」
「判りました。そういや、朱里は一週間後は空いてるのか?」
「空いてるよ~。これ、美味しいね!」
いつの間にか、『天空』からお菓子を貰っていたらしい朱里が美味しそうに食べている。……なあ、見た目がどう見てもダークマターなんだが?
なんで平然と食べてんだ!? お前の目にはどう映ってんだよ!
唖然とする俺に同じく視線を向けた全員が唖然としていた。そうだよな、どう見ても食べ物には見えないもんな。というか普通に食べている朱里が怖い。
「せやろ? 俺も最初は『なんや、このヤバそうな食いもん』と思ったんやけど、いざ食べてみたら、これがまたえらく美味いねん。驚きやろ~?」
「うん!」
「……それは売り物だったのか?」
唖然としたまま聞く『騰蛇』に『天空』が頷いた。なんで売ろうと思ったんだろう……それを。
ゲテモノ扱いを免れないだろうに……いや、『天空』のような人がいるから売ろうと思ったのかな。
さすが、自称漫才師の本職詐欺師。普通の人には考えられない思考回路をしているらしい。
「……春樹君や、今、俺のことを『本職詐欺師』とか思わんかったか?」
「な、何のことでしょう」
「なんじゃ、事実じゃなかろうて。どう言い繕うても隠せぬぞ?」
「や・か・ら! 俺は詐欺師ちゃう! ほんまに漫才師で食べとるわ! この見た目が悪いんか!?」
金髪金眼に黄色のスーツに赤いネクタイという黄色が好きなのか、そうじゃないのか聞きたくなるような恰好をしている『天空』に全員が目を逸らした。
た、確かに見た目だけなら詐欺師とも漫才師とも取れる格好だろう。……詐欺師にしては目立ち過ぎだろうけど。
でもそれ以上に本人の言動が詐欺師にしか見えないという理由があるのは……桜桃軍全員が隠す理由だ。絶対に本人が気にするから。
……絶対に言えるわけがないだろう。本人がどれだけ漫才師であることを誇りに思っているのか知っているだけに。そこはきちんと理解しているとも。
「まあ、奇抜過ぎる見た目ではあるよね~」
軽い感じで言った朱里に『天空』は項垂れ、その場の雰囲気が回復したので、朱里には特別に好物であるプリンアラモードを献上しようと思う。
ささやかな感謝の気持ちだ。本人は無自覚だろうと。
次の日、朱里の下には好物のプリンアラモードが十五個、並んでいたのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




