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穢れ狩り  作者: 氷見田卑弥呼
狐面の穢れ狩り
12/82

報告会

暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。

  ――報告会・会場(湊視点)――


 会場に入れば、僕達以外の十二天将達が揃っていた。

 席順は年始にされる順位戦による順位順だから、一番上座にいるのは当然桜桃軍最強の十二天将の『騰蛇(とうだ)』だよ。

 その『騰蛇』の隣に『勾陳(こうちん)』が座り、僕達もいつもの場所に座れば、すぐさま報告会が始まった。と言っても本当に軽い報告会だから、短時間で終わったけど。

 元々、詳しい報告自体はすでに報告書に書いて提出しているから、あんまり詳しく話す必要性がないんだよね。それぞれに他の十二天将達の報告書の内容は来るからさ。


「そういえば……集まって何か話していたみたいだけど、何を話していたのかしらぁ?」


 桜桃軍の運営をしている『貴人(きじん)』の間延びした口調で僕達は聞かれて顔を見合わせた。面子的に話す内容が月夜に関することだとは予想されているだろうけど。

 わざわざ聞いたということは他の十二天将達にも聞かせるため、か。


「何、大して重要な話ではない。近々月夜に会う予定での」

「俺も行く予定やで」


 普通に『勾陳』と『天空』が答えれば、『貴人』の目の色が変わった。ああ……そういえば、この人も月夜のことを殊更気に入っている人だったなぁ……。

 その気に入りようは、自分の娘にと養子縁組まで考えるほど。『勾陳』に「お前さんは妾と大して変わらん年齢じゃろうが。あの子を困らせるでない」と切り捨てられていたよ。

 ま、まあ、それぐらいに気に入られるというのも珍しい話ではあるんだけどね?


「まあ! 私は何もまた聞かされていなかったのねぇ? 教えてくださってもいいんじゃなぁい?」

「すまぬのぅ……すっかり忘れておった。良ければ同行するかの? 構わぬよな? 『朱雀(すざく)』達よ」

「月夜には誰が来るとか言ってねぇから構わねぇよ」


 蓮が普通に答えれば、『貴人』は嬉しそうに小躍りし始めた。……お茶目な人なんだよ『貴人』って。自由人とも言うけど。

 彼女の補佐で同じく桜桃軍の運営をしている『太裳(たいじょう)』が頭を抱えつつもスケジュールを確認しているね。あれは本人もちゃっかり来る気だ。じゃなかったら『貴人』を止めているだろうし。

 基本的に真面目で常識人枠の人なんだけど、長年『貴人』に振り回されているせいで本人もちゃっかり楽しむようになってしまった人だったりする。

『太裳』と友人関係にある『太陰』が言うには「昔はもっと真面目で四角四面だったわ」とのことだそう。今の姿からは少々考えられないけれど。


「……一週間後にちょうど私と『貴人』の休みが入っています」

「うむ。ならばその日にしようかの。月夜も休みの日じゃし」

「休みの日にこんな色の濃いの相手にしやなあかん月夜ちゃんが可哀相やな」

「「あ? 何か言ったか?」」


 揃って凄んだ『貴人』と『勾陳』に『天空』が顔を青褪めさせて冷や汗を掻いて視線を泳がせながら皆に助けを求めるも、全員が目を逸らして見なかったことにしている。

 それを見て『天空』が絶望の表情を浮かべるも、僕達は無視した。いつものことだし。

 真面目な『青龍(せいりゅう)』と『太裳』が揃って僕達と同じ反応をしている時点で諦めてほしいかな。


「う……裏切り者ー!!」

「ちょぉっと、少しお話しましょぉ?」

「大丈夫じゃ、痛みは一瞬じゃよ」

「ぎゃー!」


『天空』の絶叫……というか悲鳴を全員が聞いていないフリをする。それが正解だよ。

 惜しい人を亡くしたね……まあ、きっとまた復活して要らないことを言うだろうから大丈夫だろう。


「ところで……その遊びに行く予定とやらは私も言って良いだろうか?」

「む? 『騰蛇』が自ら会うなどどういう心境の変化だ」


 珍しがる『青龍』の言葉に『騰蛇』は目を眇めた。ただし口元は笑みを浮かべている。

 どことなく恨みがましげな眼差しを向けられてこちらも驚く。


「なぁに。そろそろ私の霊力を受けても大丈夫ではなかろうかと思ってな。私も気になっておったのに、そちらといったら『精神が不安定だから』という理由で私を遠ざけたではないか」


 ああ……そういえば『騰蛇』だけはその特殊な霊力の波動から月夜に会うのを全員から止められた上に禁止令まで出されていたっけ? さすがに禁止令まで出されると『騰蛇』は無理矢理会えるはずもないから、大人しく今まで時期を見計らっていたらしい。

 本人の立場を考えれば無理矢理会うというのも不可能ではないのに律儀に守っていたあたり、『騰蛇』らしいとは言えるか。ちゃんと筋は通す人だし。

 彼は桜桃軍最強の十二天将なんだけど、攻撃的過ぎる霊力の波動により、防御が一切できないんだ。

 そんな極端な人は滅多に居ないんだけど、明らかに偏っていると言われる程度の特化型タイプの霊力の波動を持っている人は一定数存在する。

 ちなみに『霊力の波動』とは人それぞれに違う性質のことで、人間に喩えると性格、に値するかな? 『霊力の質』はあくまでもその人が使える術を決めるだけのものだからさ。こちらは才能、と言った方が良いのかな? そんな感じで考えてもらえると有り難い。

 で、一定数存在すると言ったんだけど、十二天将の中でそれに該当するのは『騰蛇』以外だと『玄武(げんぶ)』がそれだ。ただ『騰蛇』と違って防御の方に特化している。

 防御は十二天将内で一番と言われるほどの『玄武』だけど、逆に攻撃は下手をすれば『大将』に負けるぐらいに弱い。本人はそれを気にしているけど、十二天将に選ばれるのは総合的な強さだから、なれているだけで一線を画す存在なんだよ。


 とにかく、『騰蛇』はその攻撃的過ぎる霊力の波動を持つ。それだけなら問題はないだろと思うかもしれないけど、霊力の波動というのは無意識に出ている霊力のことを指すんだ。

 霊力を持つ者は大なり小なり出る量に差があるけど、一切ないというのはありえない。

 無意識に出ている霊力によって、『騰蛇』は精神面で不安定な者や弱い者に対して大きな影響を与えてしまうんだよ。

 簡単に言ってしまうと、人によって程度は違うけど、怯えるや最悪失神とか精神面に大きな負荷がかかって病院行きとかある。

 このことから、最近まで精神面が不安定だった月夜に会えなかった。

 月夜の霊力量的に影響が出るのか判らなかったけど、万が一があっても嫌だから、一応ってことで。

 最近になって漸く精神面が安定してきたから、そのまま報告していたんだけど、それで会おうと思ったみたいだ。前々から気にかけているような言動もあったし。


「それも致し方なしと受け入れておったように我は思っておったが?」

「まぁな。それでも気にはなっていた。……あの子ならば私の後継にもなれそうだ」


 期待するような笑みを浮かべて言う『騰蛇』に驚く。

 年齢としてはまだ六十二歳で、まだ引退するような年齢でもないし、身体的にも問題はない様子だったからだ。

 何か問題でもあったんだろうか、と思ってしまうのも仕方がなかった。


「あの子がか」

「ああ。そちらの話を聞いていたが、簡単な術しか教えられていない状態で上手く使って対応してみせるその実力。……私の後継に相応しかろう?」

「しかし、あの子は穢れとの戦いを怖がっている。何かしらのトラウマがあると見るべきならば、『騰蛇』の立場が務まるか謎だが?」


『青龍』の正論に僕達も『騰蛇』に視線を向ける。もしも無理にトラウマを克服させるというのならば……僕達だって黙っていられない。勝てるとは思えなくとも。

 思わず視線が鋭くなってしまう僕達に『騰蛇』は……声を上げて笑った。


「はははっ! 心配するな。私とて彼女の速度でなって欲しいと思っているだけだ。『騰蛇』の立場は酷く重責が伴う。それを受け入れる覚悟を持てるかどうかが一番の鍵となるからな」


 はっきりとそう言った『騰蛇』に僕達も頷く。正直に言うと、他の十二天将と違い、『騰蛇』だけは最強であることを常に求められる。だから桜桃軍には『騰蛇』が存在しなかった時期もある。

 常に最強を求められる重圧は凄まじく、先代『騰蛇』が認めた者以外でなれないとまで思われているほどなんだ。十二天将の最終兵器とも言うべき存在は軽くないということだ。

 それが判っているから、『騰蛇』は早めに言ったんだとは思う。月夜にその話をする気はないけど、僕達には話しておき、いずれの時に備えさせるために。

 とりあえずは無理矢理という事態はないようで安心したよ……『騰蛇』と争うなんて考えたくもない事態だからね……。

 思わず安心する僕達に『青龍』も無言でいつでも抜けるようにされていた刀から手を離した。

 彼もまた月夜の状態を憂い心配している人だから、無理矢理というのは許容できなかったようだ。いつの間にか、『勾陳』と『貴人』も構えていたのを止めている。


「がははっ。いきなり後継話をぶっ込むとは、『騰蛇』も性格が悪いんじゃないか?」

「かもしれんな。しかし『白虎(びゃっこ)』。お前さん、無言で霊力を練り上げていたあたり、割と本気で戦闘をする気だったな?」

「……俺もあの子は穏やかに過ごして欲しいと願っている者の一人なんでな」


 朗らかな笑顔を消して獰猛な獣を思わせる眼差しと笑みで言う『白虎』に『騰蛇』も呆れた顔で肩を竦めた。本当に敵対する気だったんだ……。

 緩くなった空気に『玄武』がホッと息を吐き出していた。まあ、彼はまだ高校生だし、防御が得意というのもあって、戦闘になればすぐさま周囲に被害が行かないようにしないといけないからね。

 何事もなかったように楽しげに会話をする十二天将達に『青龍』と『太裳』に『玄武』が何とも言えない顔をしてから溜息を吐いていた。基本的に自由人が多い十二天将内では苦労人だよね、三人とも。

 上手く立ち回れば良いのに、と思ってしまうのは、僕も自他共に認める『腹黒い自由人』だからだろう。

 凛からは「優しい微笑みの裏で黒い策略を廻らせる裏方」という評価を貰ったけど、その評価が恥ずかしいとは思わなかった。寧ろ僕が目指したのがそこだから、嬉しいぐらいだ。

 朱里なんて「確かに! 王子様みたいな笑みを浮かべたまま人を貶しそうだもんね!」なんて実に正直なことを言ってくれたけど。後で盛大にあの子の嫌いな食べ物を入れた料理を作って出したよ。

 月夜が実際にその場を見たことがないので、唯一不思議そうに首を傾げていたから、適当に誤魔化したよ。あの子にはまだ知られたくない。

 いやだってねぇ……純粋な子に知られて混乱されるのって可哀相じゃないか。その程度の気遣いぐらいは僕だってできるつもりだ。

 とにかく、周囲から『腹黒』と言われるのは褒め言葉ってことだよ。僕の中では。

 人によってはそれが考えられないと言うけどね。在り方なんて人それぞれで、自由にしたって良いじゃないか。僕は少なくとも元々から束縛が嫌いな人間だ。

 自由を好みそのためならば手段を選ばない。それが僕という人間であり、多くの者が勘違いしている部分であったりする。ああ、さすがに十二天将や家族達は悟っているよ?

 付き合いが長いからね。僕も隠すということをしないし。その必要性も感じないからさ。

 そんなことを考えつつも、僕は今もなお楽しく談笑している十二天将達の輪に加わり、同じく楽しそうな微笑みを浮かべたのだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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