楽しい予定
暇潰しに読んでいただけると嬉しいです。
――月夜視点――
凛姉さんに言われて湊兄さんの所に来たんだけど……。
相変わらずの状況になってました。朱里姉さんが倒れてるんだけど。
「ああ、月夜。よく来たね」
「う、うん……。相変わらずだね、湊兄さん」
「そうかな?」
不思議そうにしながら、すでにできている料理達を見ている。その量に私は顔を引き攣らせた。大食いの朱里姉さんでさえギブアップさせるって……。
優しく誰に対しても親しみやすさを感じさせる人なんだけど、ちょっと困った人でもあるんだよね。
それが大の料理好きで、当番ではない時に作る料理の数が半端ないということ。
蓮兄さんと張り合うほど食べる朱里姉さんでさえ食べきれない量を作る時点でおかしい。普通に五十人前分ぐらいは食べる人なのに。
というか……我が家のどこにそこまでの贖罪があったんだろうか? 凛姉さんが怒ってなかったということは湊兄さんの個人的なお金ということであって……。
「……湊兄さんって十二天将だった、よね?」
「うん、そうだよ? どうしたんだい、月夜。疲れが溜まっているのかい?」
どうしよう……湊兄さんって基本的に無駄遣いしないからどれだけの料理が出てくるのか想像できない……!
「お? ……また随分と作ったな、湊」
「作りたい料理が多くってね。まだまだ作っている途中なんだ」
「ちょっと朱里がギブアップしてるじゃない。……って春樹も捕まってたのね……」
「え!? 春樹兄さん、朱里姉さん、大丈夫なの!?」
慌てて倒れている二人に駆け寄る。ほ、本当に春樹兄さんもいた……。
ちなみに春樹兄さんは心配になるくらいの小食……ということはなく。
寧ろとんでもない大食いです。本人曰く「一応戦闘もするから」とのこと。確かに研究ばかりしている人じゃなかったね……。
我が家で大食いじゃないのは私と凛姉さんぐらい。湊兄さんも食べる量が多い。
そんな感じなのに、大食い二人がすでにギブアップしている。
湊兄さんの困るところは、作りたいのが溜まって一気に作るとなった時に一つの料理の量が物凄く増えることだ。数も多ければ量も多いので、必然的に大食い大会と化す。
普段の当番の時は普通なのに……。
「とりあえず、湊。それ以上作るの禁止な」
「なんでだい? まだまだ作りたいのがあるのに……月夜にも手伝ってもらうつもりだったし」
「アホか? これ以上作って誰が食べ切れるんだよ」
「僕かな」
当たり前のことのように返した湊兄さんに蓮兄さんが顔を引き攣らせた。嘘じゃないところが恐ろしいよね。本当に食べ切れるわけだし。
何気に判りやすく大食いな朱里姉さんと蓮兄さんよりも食べる湊兄さん。
気付いたら常に何か食べているような人だったりする。見た目が優しいお兄さんだから、雰囲気に騙されているだけです。
「……月夜がドン引きしているからそこまでにしなさい」
「おや……それは仕方ないね。今日はここまでにするよ」
強い敵キャラが言うような台詞を言って作る手を止めて食べ始めた。
どんどん消えていく料理に相変わらずだと思いつつ遠い目をする。
……どうしよう。今日の夕食担当、私だ。
軽めの方が良いかな? それともどう見ても無理そうな朱里姉さんと春樹兄さんの分は作らない……とか?
どれを選ぶべき? いっそ聞く? 聞いちゃう?
……大人しく聞こう。じゃないと駄目な気がする……!
「今日の夕食……私が当番なんだけど……どうする?」
意を決して聞けば、全員の動きが止まった。
あれほど止まることなく食べ続けていた湊兄さんも停止状態だ。
「食べたい……でも絶対に入らない……!」
「僕はいつもどおりの量で作ってくれるかな」
「ちょっ、湊兄! 自分が原因なのに何さらっと月夜に言ってるの!?」
「誰が当番か忘れていたのが悪いんじゃないかな」
「湊兄だって忘れてたじゃん! 酷い酷い!」
「朱里、煩い。今から運動すれば行けるかもしれない」
「止めなさい、吐く気?」
思いの外冷静じゃなかったらしい春樹兄さんの言葉に朱里姉さんも何故か覚悟を決めた顔をして立ち上がったので凛姉さんと蓮兄さんが止めていた。
こういう時の湊兄さんの性格は宜しくなくなる。本性は腹黒だと蓮兄さんは言っていたけど、私はちょっと性格が悪い程度しか見たことがない。
一体いつそんな姿を見せているのやら……。
「湊、今回はお前が原因なんだ。もれなくお前も夕飯抜きに決まってるだろ」
「これだけで足りるわけないんだから良いじゃないか。月夜の料理ならなおさら」
「だから抜きだって言ってんだろうが。今度からもうちょっと配慮してやれ」
「……はぁ。仕方ないから今回は受け入れるよ。納得いかないけれど」
「納得しろ、元凶」
べしっ! と頭を叩いた蓮兄さんに湊兄さんはそれ以上何も言わず、ただ頭を痛そうに摩っていた。きっとフリなんだろうなぁ。
どうやら今日は凛姉さんと蓮兄さんの分だけでいいらしい。まあ、明らかに朱里姉さんと春樹兄さんは無理そうだもんね。
湊兄さんに関しては……自分で料理を作ることができるし、何より自室に簡易のとはいえキッチンがあるから大丈夫だろう。
簡易と言っても、時には凝った料理も作りたがるのが湊兄さんなので、一般的にはかなり本格的に見えると思う。
単純に一階にあるキッチンがおかしいぐらいに設備があるというわけで。初めて見た時はお店か何かだと思った。今も思ってるけど。
沙織も私の意見に同意していたので、それだけ神楽家のキッチンはおかしい。沙織の家は一般家庭だし。
我が家は……十二天将が三人もいる時点でおかしいのでノーコメントで。絶対に一般家庭とは違うって判るし。
まず残る二人も『大将』と『少将』だからね。完全に戦力過多状態です。
ここに攻め込むとか嫌過ぎると沙織も言っていたしねぇ……。
同じ穢れ狩りからすれば確かにここは攻め込むなんて考えられない場所か。
……とりあえず、こんなことを考えてないで希望を聞くとしますか。今日は二人だけだし、そこまで意見は分かれないと思うけど。
「凛姉さん、蓮兄さん、夕食は何が良い?」
「あ? あー……。オムライス」
「私はサラダで。野菜も摂りなさいよ、蓮」
「どうせ凜の方が野菜を頼むだろうが」
凛姉さんの軽いお説教に気にした様子もなく蓮兄さんが返したことで凛姉さんは溜息を吐いてそれ以上は言わなかった。
いつも野菜を頼んでくるのが凛姉さんだから皆もあえて野菜系は外すもんね……。
配慮と言っていいのかは判らないけど、これが神楽家の日常です。
にしても今日はオムライスとサラダか……随分と軽めできたけどもしかして二人とも現状目の前に広がる料理で食べる気失せてる?
私も見ているだけでお腹が一杯になったように感じているので、同じでも不思議じゃない。蓮兄さんですら若干げんなりしてるし。
食べられる量としては断トツで食べるのが湊兄さんで、次に蓮兄さんと朱里姉さん、次が春樹兄さんになって、凛姉さんと私は一般的な食事量。
沙織が湊兄さんのことを「胃がブラックホール」と称していたことからも、どれだけかが判ると思う。永遠に食べ続けるとか多いし。
目を離していると常に何か食べているという状態になるので、高校時代はよく先生が「授業中も食べるんじゃない!」と怒っていたとか。
私の担任の先生が言っていたし間違いじゃないんだろう。
見た目は爽やかな王子様と言われる感じなのに……。大学も高校もよくモテるから毎年チョコが凄いことになってるんだけど、実際に作るってなったら大変だからなかなか結婚できなさそう。
ああ、そうそう、バレンタインのチョコで思い出したけど何故か兄さん達が貰う時に同時に私の分も渡されるんだけど……。
……兄さん達はいつも私の話でもしてるの?
大量のチョコで顔を引き攣らせるのに、その半分が私宛てってどういうこと!? 色々とおかしいのに誰も疑問に思ってないし!
私の中の常識がおかしいのかなって沙織に相談したら、無言で慰められたよね。
……と、思わず話が脱線してしまった。
とりあえず時間も時間だから夕食の準備を始めないと。
私以外の全員が穢れ狩りで夜は仕事で出ちゃうから我が家ではいつも六時ぐらいには夕食になる。
今日は一応でそれぞれに軽食としておにぎりも作りたいからそろそろ始めないと間に合わない。
動く仕事だから、今は満腹でも途中で空く可能性はあるしね。
などとキッチンに向かい料理をしながら考える。
具があると崩れやすくなるから塩だけにして、一口で食べられる大きさがいいかな?
量がちょっと多くなってしまうけど、手軽に済ませたいだろうし。
荷物自体は亜空間に収納できるアクセサリーがあるので増えても問題ない。
それぞれ十五個のつもりだから、一個は小さくとも集めれば結構な量になった。
更にラップもしてあるしね……。
「あら? 随分とおにぎりを作っているのね」
夕食を食べに戻ってきたらしい凛姉さんに言われて苦笑する。
「朱里姉さん達は食べないし、蓮兄さん達も今日は夕食が軽めだから」
「ああ……なるほど」
納得できる答えだったのか頷く凛姉さんに私も頷く。
出来上がっていた料理を出して三人で食べ始め、早めに食べ終わると私はそれぞれ用に分けて袋に入れた。
時間だから皆、一階に降りてきて私に挨拶をして出て行こうとしたので全員におにぎりを入れた袋を渡したら驚いていた。
それでもすぐに仕舞ってたけど。
「あ、そうそう、月夜」
思い出したように私に声をかけてきた蓮兄さんに小首を傾げて見る。
「どうかした?」
「いつ来るとかまだ決まってないんだが、今度十二天将がこの家に来るんだ」
「え、そうなの? 何か準備していた方がいい?」
「できれば菓子でも作ってやってくれ。気に入ってんだ」
「判った。日が決まったらまた言ってね」
「勿論だ」
頷く蓮兄さんはそのまま私の頭を撫でて出て行った。
いつも通りキッチンに戻り、冷蔵庫の中身を確認してから自室に戻った。
私の部屋は三階の一番奥にある。
入ってすぐに机に向かって今日あったことを日記に書いて就寝するのが日課だ。
兄さん達は帰ってくるのが深夜どころか日付が変わって日が昇らないギリギリの時間ぐらいとかなので先に寝るように言われている。
最初の頃は申し訳ないと言って無理して起きてたんだけどね……。
逆に心配させてしまうと判ってからは先に寝るようにしている。
「今日は担任の先生のこと……ぐらいかな?」
独り言を呟いてから、はた……と気づいて書き足した。
「まだ日にちは決まってないとはいえ来るのは決まってるもんね」
私からすれば色の濃い十二天将達を思い出して笑みが浮かぶ。
以前に会ったのは私が中学入学したことを祝った時だったから一年ほど振りだ。
結構年齢が上の人が多かったから、娘や孫を祝う感じで来てくださったんだよね。
どうすればいいのか判らなかった状態の私に親身になって色々と教えてくださって戸籍とかもあの人達が用意してくれたんだよねぇ。
今にして思えば相当大変だったろう。下の名前しか覚えていない状態だったし。
何を作るかきちんと決めないと、と思いながら日記を閉じ、元の場所に戻してベッドに潜り込んで目を閉じて私は寝たのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




