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寄宿学校の獣人

「おや? その人は……」


レスリーの存在に気付いたリアンは呟き、更にその頬を見て不思議そうに耳を揺らした。


「ちょっとあったのよ」

「ふぅん」


怪訝な顔をしたリアンを無視してレスリーがそこへ割り込む。


「貴方も客?」

「ええ、そうです」


邪魔が入ったと忌々しそうに溜息をつくレスリーに対しリアンは何処か超然としている。二人で会う時と比べて余裕のある態度に、これが本来の彼女の姿かも知れないと思った。


「あがらせて頂いても?」

「いいよ」


窓から家にあがる際、リアンは片足ずつ棧を跨ぎ、床へ降り立った後も態々しゃがんで靴を脱いだ。随所から顔を覗かせる気品に又もレスリーが呆気にとられた表情をする。


「最後に会えたね、クロ」

「うん」


悟ったような微笑を浮かべてリアンはベッドの端に腰掛けた。軋む音と共に布団が引っ張られ、三人分の気配が部屋に去来する。


「で、どうするの?」


余韻をぶった斬るようにレスリーが問いを投げかけた。


「これからしっぽりって時に」

「でも、来てくれたし……」

「知らないわよ!」


頭を抱えてレスリーは怒りの声をあげた。


「こいつもどうせ変態なんでしょ? イヤよ私、そんな変態と一緒にするのなんて!」

「なっ……」


聞き捨てならないとリアンも立ち上がる。静謐な雰囲気が忽ち崩れた。


「そう言う貴方もでしょう?」

「他人に言われる筋合いは無い。今更お淑やかを気取っても遅いの。本性を現しなさい、このど変態女!」

「何ですって!」


外套も脱がずにベッドへ飛びついたリアンはレスリーと絡れ合いながら布団の海に溺れていく。だが日頃冒険者をしているレスリーに膂力で勝負を挑むのは無理があるようだ。


「今夜は私の番よ」

「嫌ですっ」

「嫌ですじゃ、ない!」


力で押さえ込もうとするレスリーにリアンも負けじと髪の毛を引っ張って対抗する。突如として始まった大人同士の喧嘩にどうするべきか分からずにおろつく。


「リアン、禿げになっちゃうよ」

「この人が離さないのが悪いんです!」

「レスリーも痛いでしょ?」

「別に……!」


双方ともこんなに子供っぽかっただろうか。果ての見えない(いさか)いに呆れ果てた俺は二人に背を向けてベッドの壁側に寝転がった。


「もういいよ」


蚊帳の外に置かれて不貞腐れた振りをする。これなら喧嘩を辞めてくれるかもしれない。密かに期待しながら壁と睨めっこをしていると、いきなり天地がひっくり返った。


「元は貴方が原因でしょうがっ」

「うわぁっ」


レスリーに両足首を掴まれ宙吊りにされた。めくれが上がったスカートの裾を必死に抑え必死に足をばたつかせる。


「お仕置きね」


言うなりレスリーは俺をベッドに下ろし、うつ伏せにして前に回り込んだ。


「ほらやって」

「え……何を?」

「はぁ? 決まってるじゃない」


指差した先にあるのはめくれたままのスカートと丸出しの下着。意図を察した俺は悲鳴を上げ、リアンは困惑の表情を浮かべた。


「いやぁっ」

「そういう事ですか?」

「そうよ、他人事(ひとごと)みたいにしてたこの子が悪いんだから」

「やった事ないです」

「子供の頃はあったでしょ?」

「やられた事も無いんです」

「うそ」


唖然とした声でレスリーは呟いた。

気付けば喧嘩が終わっている。


「貴方がどうぞ。勝手が分からないので」

「私は駄目よ」


レスリーは肉付きの良い自分の二の腕を見下ろした。確かにあれで張られたらただでは済まない気がする。


「お願い。リアンがやって」

「えぇっ?」

「簡単よ、出来ない筈ないでしょう?」

「そうですか?」


締まりのない会話に警戒心を緩めていた所へ降って湧いた折檻への秒読み。慌てて身を固くした俺の後ろでは、リアンが精一杯の虚勢を張って腕を高く振り上げている。


「力には自信がないんです」


何だか嫌な予感がする。やられた経験は無いと言っていたが、それで手加減など出来るものだろうか。


「行きます!」


小気味よく響いた音は張り手と言うより破裂に近かった。真っ赤になっているであろう臀部を想像し、目に勝手に涙が溜まっていく。


「……ぅ」

「あれ、強かったですか?」

「やり過ぎよ」


本当にエルフって常識が通じないんだから、とレスリーは嘆き、リアンは慌てて俺を抱え上げた。


「ごめんなさい、そこまでと思わなくて!」


リアンは足の間にぺたんと尻を着けて座った状態で俺を懐に抱え、胸に顔を埋めさせて自分が張った臀部を撫でた。


「まだ痛い、大丈夫?」

「うん」

「ごめんね」


抱き竦められながら背後を振り返ると、レスリーが苦々しげに此方を見ていた。その意味を今更尋ねる気にはならない。


「はぁ、折角こんな物まで用意したのに」


あからさまに態度を変えると、レスリーは床に投げ捨てられた外套からコルクの蓋付きの小さな瓶を取り出した。


「何それ」

「"エルフの妙薬"って奴よ」

「な、それはっ」


リアンは即座に食いついた。


「エルフでも何でもない、人間の作った疑似妊娠薬じゃないですか」

「やっぱり知ってたか」

「ぎじ妊娠?」

「実際には妊娠していないのに妊娠しているような症状を人為的に起こさせる薬です」


そんな恐ろしい物を使われるつもりだったと知って戦慄する。しかしレスリーは微塵も悪びれる様子を見せなかった。


「だって仕方ないじゃない。絶交の手紙が来ると思ったら腕づくでも引き留めようとするわよ」

「やり方ってもんがあるでしょう! ましてや子供相手に!」

「煩いわね。それを言える立場かしら?」


手厳しい切り返しにリアンが言葉を失う。


「この子を買った貴方も、あわよくば妊娠したと信じ込ませて引き留めようとした私と同類よ」


レスリーはしょげ返るリアンの正面からゆっくりと近づいて行き、そのまま彼女を抱き締めた。


「だから毒を食らわば皿まで。これから私は一方的に別れを告げてきた生意気な雌餓鬼(メスガキ)を懲らしめるために最後の夜を満喫するつもりよ。貴方も手伝いなさい」

「なっ」


口にするのが早いかレスリーは俺の服を脱がせにかかった。抵抗した俺はリアンにしがみつき、リアンはリアンで離すまいと締め付けを強くする。


邪魔しようとレスリーがリアンを擽り、堪え切れなくなったリアンが俺を手放す。俺は部屋中を逃げ回って、最後にはレスリーに捕まって擽られた。それを見て二人とも笑った。


◇◇◇


「ねえクロ」

「なに」


下からレスリーの寝息が聞こえる。はしゃぎ回った後、彼女は自分が一番慣れているからと言って床に上着を敷いて眠った。


「何故この仕事を始めたの?」


核心に迫る問いにリアンの目を覗き見る。

ベッドに二人で横になっていると姉妹みたいだと思った。


「楽しかったね」

「え?」

「さっきの」


話題を避けた俺にリアンが困惑する。

何故か酷く傷ついた顔をしていた。


「友達みたいだった」

「そうかな」


今世の俺には友人と呼べる相手がいない。ずっと今のような生活を続けてきたからだ。もうそれがどんな物かさえ朧げだった。


「本当はこんなものじゃないよ」

「そうなの?」

「ねえクロ」


不意にリアンは深呼吸をした。

何かを察して身構える。


「もうすぐ、結婚するんだ」

「そう」

「相手は知らない男の人。短い間だったけど君を知る事が出来て良かった。君はいろいろ考える機会を与えてくれた。だからありがとうと言いたい」

「どう致しまして」


こんな事を言われるのは初めてではない。寝物語に自らの抱える事情を語り聞かせる人は割と沢山いた。けれどリアンの告白は今までの誰より胸を打つ。


「ここへ来たのは抵抗のつもりだった。幾ら一緒になる気はないと言い張っても、両親にとって向こうの家からの援助は喉から手が出るほどに欲しかったんだ。貴族と言ってもピンキリだからね」


リアンは夜空を眺めるように天井を見上げた。音の死んだ空間に現実感を見失う。


「作家を続けたくても稼ぎなんてたかが知れてる。両親を説得する材料にはなり得ないと分かってた。だから最後に女の子を抱いてみたかった。ずっと興味があったの」

「そう」

「どうしてもと拒めば妹が嫁に出される。あの子はまだ十三なんだ。君と大して変わらない歳の子を行かせるのは余りに(こく)すぎる」

「リアンはいいの?」

「うん。私はあの子を愛しているんだ。体現する為にも犠牲になってあげないと」


自身に言い聞かせるように言った後、リアンは目の上に片腕を被せた。何も言わないのは俺の番だと言う意味なのか。


「昔店に来た人がいて」

「うん」

「好きだって」

「うん」

「お金をくれた」

「うん、それで?」


問いの意図がわからず首を傾げる。


「いやだって、もっと何かあるだろう」

「別にないよ」

「そんな……そんな安易な動機で!?」


大きな声を出したリアンはレスリーが起きてしまわないか心配になったのか、床をちらりと見下ろした。けれど此方に背を向けて横たわる身体はピクリとも動かない。


「だって」


むきになって俺は言った。


「全員クロのこと好きって言ってくれたよ」


リアンは一瞬目を伏せた後、横になりながら俺を抱き締めた。


「やっぱり君は新しい所へ行くべきだ。そうすれば今の言葉だって変わるから」

「うん」

「ありがとうクロ。きっと駄目な人間ばかりだったね。私も君も、みんな一人ぼっちだ。でもこれから君は変わる。私の言った事なんか忘れて」

「性欲?」

「そうね。けど思っていたより大分(だいぶ)入れあげていたみたい」


言葉を贈る位には、とリアンは囁いた。真意はよく分からない。


「思い出さえ残れば良いわ」

「ふぅん」

「ねえ、最後にお願いがあるの」


リアンは左手を前に差し出した。


「意味、分かる?」


彼女の本で読んだ事がある。

正解はこうだった。


「うん」


半ば口を開けて薬指に噛みつく。思いのほか力が強かったのか、離した後の付け根には血が滲む程の赤い痕がついていた。リアンは泣きそうな目でそれを見つめた。


「ありがとう」

「どう致しまして」

「もう、寝なさい」

「まだ眠くないよ?」

「寝なさい」


とんとんと背中を叩かれると意識が遠のいて本当に眠くなってきた。闇に包まれる直前、二人が話しているのを見た気がしたが、現実だったのか定かではない。答えは次に会う日まで取っておこう。


◇◇◇


花弁の舞う季節。春風に散ったそれらは人々の間を擦り抜け、ゆっくりと地面に落ちる。


「おそーじでーす」


右往左往する事務員を生徒達は物珍しそうに見つめた。好奇心旺盛な彼女らを律する為、教師達は必死に声を張り上げる。


「静粛に」


中でも如何にもと言った風貌の女性が生徒に向かって号令をかけた。髪を結いて眼鏡をかけた、繁華街ではなかなか目にしないタイプの人間だ。


「これから式を執り行う」


四角い待機列は二つに分かれている。

百は下らないだろう人数の右から八分目までは一様の制服を身に纏った人間の少女たち。


だが左端に追いやられた残り二割は違った。毛の生えた耳を頭に乗せ、柔らかそうな尻尾をスカートから垂らした獣人たちだ。縦横に並んでユーモラスに揺れる尻尾の動きがどうしても気になり、俺は立ち止まってその光景を眺めた。


「おい」

「……うん」

「聞いてないな。おい、お前!」


肩を叩かれ振り向くと、怒髪天の少女がカールした長髪を逆立てて俺の事を睨んでいた。


「サボるなよ、俺たち二人分の仕事なんだからな」


燻んだ茶髪を(なび)かせて彼女は熱心に掃き掃除を続ける。しかし掃いても掃いても空から降ってくる薄桃色の花弁に、流石にそれは無理があると思った。


「なんて花?」

「そんな事も知らないのか、パルムだよ。有名だろう」


校庭をぐるりと取り囲むように植えられた太い幹のそれらは新入生を祝福するように花弁の雨を降らせる。一体何故こんな掃除が大変な植物を植えてしまったのだろう。単に見た目が綺麗だからか。


「あぁ畜生」


辞めだ辞め、と真面目に続けていた彼女も箒を投げ出して戻って来る。案外愉快そうな性格だ。


「私はクロ」

「犬みたいだな。俺はアルバ、宜しくな」


パルムの花咲く下で俺は風変わりな喋り方の少女と知り合った。当然、仕事をさぼった事は後々先輩からとても怒られた。


◇◇◇


数ヶ月で身の回りの支度を整えた俺はリアンに紹介状を書いて貰い、北の地区より更に先に行った所にある寄宿学校に事務員として雇われた。


卒業生だと言う彼女によると近辺では名の知れた女学校で、毎年多くの才媛を輩出しているそうだ。


ここを卒業すれば嫁入りの際にも箔がつく。そんな風評から、裕福な家の親連中は挙って娘を入学させたがるという。そんな訳で、この学校には自ずと選りすぐりの金持ちが方々から掻き集められて来ることになる。


「俺はこっちをやるから、お前は留学生の棟を担当しろ」

「留学生?」

「さっき見ただろう、待機列の左端にいた連中だよ」


彼女達は外国から来た生徒らしい。

アルバは声を潜めて続けた。


「奴らには気を付けろ。下手すると意地悪されるかも知れない」

「何で?」

「人間と獣人は仲が悪いのさ。それに生徒が留学生にちょっかいをかけるからな」


何やら校内にも事情があるらしい。

取り敢えず分かったと言って俺は留学生のいる別棟へ向かった。


◇◇◇


入学式も終わり、寄宿舎に戻るのみとなった校内には居残った生徒達の間に和やかな空気が流れている。顔見知りになって各々意気投合したようだ。


時折耳に入る雑談の意味は理解できるが、抑揚が巷で耳にするそれとは微妙に異なっている。別棟を漂う独特の雰囲気にこれが異国の香りかと新鮮な気分に(ひた)った。


「おそーじでーす」


教室へ入った途端、物珍しげな視線に取り囲まれる。俄かに小さくなったお喋りは直ぐに勢いを取り戻したが、彼女らの意識が此方に向いている事はひしひしと肌で感じられた。


それもその筈。街では多数派でもこの棟の中では異端だ。クラスは人間と別れているし、何よりちんちくりんな外見が目を引く。


「ほら、おいで」


不意に一人の生徒に呼ばれたので近寄ると、何故か飴玉をもらった。本当は教室に持ってきてはいけないのを知っているが周りは誰も咎めようとしない。


「あーん」


箒を持っていたので口を開けて中に放り込んで貰うと、ミルクのような味がして美味しかった。


「ありがとう」

「可愛いっ!」

「私にも触らせて!!」


礼を言うと代わる代わる頭を撫でられた。どうやら気に入られたらしい。俺にとっては彼女達の尻尾の動きが気になるが、彼女達の方も俺の事が多分に気になるらしかった。


獣人と身近で接するのは初めてだったが案外上手くやれるかも知れない。アルバの心配は杞憂に終わるかと思い廊下を歩いていると、手洗場の前で立ち尽くす人影が目に留まる。


「どうしたの?」


別棟の生徒の中でも一際耳が長く、縦に真っ直ぐ伸びたそれは兎のものを思わせる。


俺が声をかけると彼女は弾かれたように振り返り、それから気まずそうに顔を背けた。


「空かないの?」


尋ねても何も答えない彼女の反応を変に思いつつ、俺は手洗場の中へずかずかと足を踏み入れる。


「おそーじでーす」


鎮まり返る部屋の壁に声が反響する。しかし一つだけある個室の扉は内側から鍵が掛かったままだ。


「終わったら出てください」


じっと待っていると中からくすくすと忍び笑いが漏れ出てきた。聞くからに一人の声ではない。成る程そう言う事か。


「あの」


外で待っている彼女が不安そうに声をかけてくる。俺は大丈夫だからと返事をして大きく息を吸い込んだ。


「うんちですか!!!!」


廊下に響き渡るような声で中に呼び掛ける。何度も連呼しているうちに帰り途中の生徒から徐々に奇異の視線が集まり始めた。


途端に扉の鍵が開き、中からわらわらと少女達が出て来た。耳も尻尾もない彼女等は信じられないと言う目で俺の事を見据えた後、人が集まって来る前にその場から足早に去って行った。


「どうぞ」


騒ぎが収まり人が居なくなってから、俺は彼女に入り口の前を明け渡した。


「え?」


キョトンとする彼女の前で悪戯っぽく舌を出して見せると、少し恥ずかしそうにしながら礼を言って部屋の中へと姿を消した。


俺は手洗場を一番後回しにして別棟の掃除をやり終え、事務員用の宿舎に戻った。


その日の業務報告で別棟の様子を尋ねられたとき、俺は特に問題は無かったと掃除婦長に伝えた。すると彼女は何やら思案顔になり、今後は別棟の専任になるよう俺に告げた。そうして俺は留学生の棟の掃除担当になった。


◇◇◇


「オリビアよ!」

「いいえ、断然サラだわ!」


入学式から暫く経ち仕事にも慣れてきた頃、掃除に訪れた教室で生徒が一般棟の生徒達と口論をしていた。好きな生徒の名前でも言い合っているのだろう。


「おい、あまり煩くするな」


喧嘩を諫めたのは長身の生徒だった。サテンのように艶やかな黒髪を短く刈り、前髪を上げ額を露出させている。


目鼻立ちは整っているが、細く凛とした眉に意志の強そうな眼差しは中性的どころか男性的な気風さえ漂わせている。街では見かけない独特の趣だった。


「もういっそ、彼女に決めさせたらどうだ? 一番は誰かってね」


妙な話題について行けずに見守っていると、サラと呼ばれた生徒が群衆の前に踊り出る。


兎のような獣耳の生徒は先日の彼女だった。背こそ高くはないがスラリとした肢体の持ち主で、しゃんとして居れば前者と並んでも遜色はない。


「サラ言ってやって!」

「そうよ、みんな味方よ!」


サラもオリビアと似て周囲の生徒達の支持を得ているようだった。けれど彼女は困った様に輪の中心で静かにじっと佇むばかりだ。


「怖気付いたのかしら?」

「やっぱりオリビアが一番なのよ!」


取り巻きらしい数名が煽り、険悪さが増す。あわや正面衝突かと思われたそのとき、ふとサラは此方に気付いて目をやった。


「彼女です」

「……誰だって?」

「彼女が、一番可愛らしいと言ったんです」


皆の視線が一斉に集まった。対処に困った俺は取り敢えず決まり文句を口にする。


「おそーじでーす」


窓の外を見ればパルムの花弁が散っている。

長閑(のどか)な昼下がり、戦いの火蓋は切って落とされた。

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