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思わぬ人物

「じゃあ、今一度確認するけれど」


サラの自室、ベッドの上。締め切られたカーテンが秘密めいた遣り取りを演出する。


彼女は俺の対面、一人分の間隔を開けて置かれた椅子に脚を組んで座り、取調室で盗人を尋問する刑事の如く此方を見下ろしている。


「うん」


物々しい雰囲気に気圧された当方は肩を縮こまらせながら先方の問いに答える他ない。一体そこまで彼女を狂わせる物は何なのかと、思案するまでもなく自ずと答えは出ていた。


「クロ、貴方はオリビアさんと何の怪しい関係もなければ、偶に会っているのも偶然か、あくまでも友人としての付き合いに終始していると言う事で良いのね?」

「うん、さっきからそう言ってる」

「例の噂のような事実はないと」

「噂?」


聞き返すと刑事は俄かに頬を赤らめ、何処からか持ってきたクッションを羽交い締めにしてチラチラと伏し目がちに此方を見てきた。


「言っても怒らないから」

「……本当?」


立場が逆転している。

見ていてむず痒くなる彼方の態度に自分の額をつうっと一筋汗が伝うようなありもしない幻像が脳裏に浮かんだ。


「みんな言ってるわ、貴方がオリビアさんの今の一番のお気に入りだって。入学以来周囲と一線を画してきたあの人が、殆ど唯一心を許したのが貴方なのよ、クロ」

「ふぅん。噂ってそれだけ?」

「いや、その……」


露骨に目を逸らしたサラは組んだ脚を解して気まずそうに擦り合わせつつ、口許をクッションで覆い隠す。


「……つまり、貴方とオリビアさんが友達以上のそれなのではないか、と」

「ちょっと飛躍してない?」

「別に、私がそう言った訳じゃないわっ!」


動揺したサラは手元のクッションを押し潰し変形したそれを無言で睨みつける。だが一拍置いて急に頭が冷えたのか、帰っていいわ、と途端に醒めた口調になって言った。


「ごめんなさい。突飛な事をして」

「良いけど……用は済んだの?」

「ええ、元々あってないような物だし」

「そうでもないでしょうに」


突然の声に驚く。割り込んできたのは誰かと訝る俺の眼前でサラは心なしか青褪め、錆びついたブリキの玩具ように首を回して扉のある方向を見遣った。


「写生大会の題材、この子にしたんでしょ。もう書類も提出しちゃったし」

「……いつから見てたの、テス」

「最初から。先輩にお熱なのは分かるけど、子供に当たるのは頂けないわね」


思わず声を上げそうになった。落ち窪んだ眼の下の隈に前髪の垂れた白髪は間違いない。先日図書館で遭遇した、あのお化けだ。


「ああ……」


僅かに開いた唇の隙間から絶望の声を漏らしたサラは、俺の横を通り過ぎると勢い良くベッドに飛び乗り、やがて人魚姫の如く毛布の海に潜って行った。


「何、あれ?」

「恥ずかしいんでしょ」


間抜けな盗人宜しく飛び出た両の足を彼女が指で啄いて弄ぶと、人魚姫はガチョウ宛らに脚をばたつかせて抵抗する。


やがて海底からくぐもった怨嗟の声が響き、それからめっきり音沙汰が無くなった。これは暫く陸に上がって来ないかも。意外にも気さくに肩を竦めて彼女はそんな事を言った。

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