井戸の枯れた集落にペットボトルの水を届ける男の話。
小説『男女少年少女父親母親祖父祖母兵隊』
作・梶原悠希
登場人物
男
女
少年
少女
父親
母親
祖父
祖母
兵隊
暑苦しい日光が当たる中を一人乗りの飛行機が煙を上げながら、砂漠に向かってゆっくりと墜落する。
墜落した飛行機から降りた男は、機内にあった段ボールから水の入ったペットボトルを取り出して、リュックサックに詰め込んでいく。ペットボトルでパンパンになったリュックサックを背負い、男は砂漠を真直ぐに歩いていく。
夜になって、男がリュックサックからペットボトルを取り出すと、女が背後から現れる。男は物音に気が付いて、女に向かって振り返る。
女「お願いします。お水をください……」
男は女に向かって、ペットボトルを手渡す。女の手は砂になる。ペットボトルはその手をすり抜けて砂漠の砂の上に落ちる。
女「あ」
男「……」
女「(男の背負ったリュックサックを見て、)お水、誰かに届けるの?」
男「村の子供に届ける」
女「何で?」
男「ビルの周りの集落で、断水が起きてるらしい」
女「だから届けるの?」
男「これ全部(リュックサックを指さして)。届けるよ」
男はスマートフォンを取り出し、子供とのやりとりを女に見せる。
砂漠の中に超高層ビルが建っている。その周りの集落(村)で、井戸の水がなくなる事件が勃発。男を呼んだ六人家族は蒸し暑くなった家の中で、大きなドラム缶のお湯で茹でたトマト缶を一人一缶ずつ開けてすすっている。
少年と少女は喉が渇いており、不安で泣きそうだ。大人たちは黙って、子供たちを見ている。
少年と少女、トマト缶を最後まで食べ終わる。
少年・少女「ごちそうさま」
父親・母親「ごちそうさま(二人とも俯く)」
祖父と祖母もトマト缶を食べ終えて、寝室に入り、二人横になる。
祖父「どうしたら良いんだ」
祖母「お水配りに持ってきてくれる人がいるらしいけど、問題があるよね。あのビルの人たちも……」
祖父「あのビルもそうだけど、何もしないこの村もおかしい」
祖母「あのビルの人たちも、おかしいって言ってる」
祖父「ビルの奴らがおかしいって言ったって」
祖母「部屋で大人しくしてるしかない」
部屋の明かりが消えて、窓から外の景色が見える。
門に囲まれている高層ビル。門の入り口前に兵士が見張りで立っている。
兵士、スマートフォンを取り出して、上司に電話する。その後
兵士「(恋人に電話)」
翌朝、男と女が二人で村の入り口にやってくる。
男「着いた」
女「はい、着きました」
男「腹減ったから、何か買って食べたい」
女「うん」
男「水渡して、さっさと帰りたい」
女「分かった」
村の中に入ると、女は砂になって、風に乗って砂漠の砂に戻っていく。
男は女が消えていく姿を見た後、意識を失って倒れる。